電撃オンライン

『ガンダム 鉄血のオルフェンズ ウルズハント -小さな挑戦者の軌跡-』&『幕間の楔』感想。「楽しみだけど短編だしな……」と思って見に行ったら、エンドロールで号泣させられた(ネタバレあり)

文:米澤崇史

公開日時:

 『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ ウルズハント -小さな挑戦者の軌跡-』&10周年記念新作短編『幕間の楔』ネタバレあり感想をお届けします。

※記事内では、『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ ウルズハント -小さな挑戦者の軌跡-』&10周年記念新作短編『幕間の楔』のネタバレに関する記述がありますのでご注意ください。[IMAGE]

マルコシアスのカッコよさに改めて惚れた『ウルズハント』【鉄血のオルフェンズ】

 第1期が2015年10月~2016年3月、第2期が2016年10月~2017年4月にかけて放送されていた『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』。

 2025年はその放送10周年にあたる年であり、10月31日からは『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ ウルズハント -小さな挑戦者の軌跡-』と10周年記念新作短編『幕間の楔』が同時劇場上映が行われています(すでにご覧になられた方も多いでしょう)。


 まず今回の上映のメインとなっている『ウルズハント』は、スマートフォン向けに展開されていたアプリ『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズG』内で展開されていた『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ ウルズハント』のアニメパートを再構成し、新規シーンを加えて1本の映像作品としてまとめたもの。

 火星との開拓競争に敗れた辺境である金星“ラドニッツァ・コロニー”を救うため、“ウルズハント”と呼ばれる莫大な賞金を懸けたレースに挑む少年ウィスタリオ・アファムの物語が描かれます。

 『ウルズハント』は全12話のエピソードを1時間程度の尺にまとめているのもあって、なかなか駆け足気味にストーリーが進んでいった印象で、とくにウィスタリオが主人公機であるガンダム・端白星に乗るまでのくだりがほとんど描かれなかったのには驚きました。

 本作の物語の大部分は、ヒロインの一人であるコルナル・コーサが振り返る回想という形で描かれていたので、まだコルナルがウィスタリオと出会う前のシーンが省かれていたという意図はありそうですが、そうした特殊な構成だったのもあって、序盤は物語の流れを掴むのに少し苦労した部分はありました。

 このあたりは、公式Xが世界観やキャラクターについての情報を細かくまとめてくれているので、そちらに一通り目を通しておくと良いかもしれません。


 そこから中盤以降は、キャラクターやそれぞれの関係性を把握できるようになるので尻上がりに面白くなっていき、とくに中~終盤において描かれたモビルアーマーとの戦闘はかなり盛り上がりました。

 やっぱり『オルフェンズ』といえば、モビルアーマー“ハシュマル”との戦いが一番好き……という人は多いと思うのですが、終盤の戦闘はハシュマル戦を彷彿とさせるスケール感と緊迫感で満足感が高かったです。

 あとはガンダム・マルコシアスのカッコよさもポイント。

 サービス中にアプリ版をプレイする機会はなかったのですが、自分はガンプラが好きなのでメカは以前からチェックしていて、マルコシアスのデザインがヒロイックでカッコいいなと気になっていたんですよね。それが実際にアニメとして動く姿を見られて、より好きになりました。


 『ウルズハント』はほぼ独立しているのですが、要所要所で『オルフェンズ』本編とのリンクもあって、途中でマクギリ……もといモンタークが登場した際にはテンションが上がりました。

 主人公のウィスタリオのキャラクター性も興味深く、おそらく三日月やオルガよりも歳下の年齢であるにも関わらず、両親から受け継いだ会社の社長を務めています。さらに、阿頼耶識なしでも高いレベルでモビルスーツの操縦ができ、どこか達観しているような雰囲気もありメンタルも強く、歴代ガンダム主人公の中でもかなりのハイスペックです。

 無駄な死人が出ることを望まない優等生的な側面もありつつ、自分の仲間を傷つけられると激怒したり、「ウルズハントの賞金でコロニーを買い取って金星を観光地にする」というあまりに壮大なスケールの目標を掲げたりするぶっとんだ一面があるのも面白かったです。

 ただ残念なのが、『ウルズハント』の物語は本作では完結していないこと。一旦の区切りこそついているものの、これからクライマックスに向けての戦いが始まりそうなところで終わってしまったので、「続きはどうなるんだ!?」という戸惑いもありました。

 “ウルズハント”というレースは一体何だったのか、という重要な謎も残っているままなので、是非とも何らかの形での補完が見てみたいところです。

短編とは思えない情報密度で満足させてくれた『幕間の楔』【鉄血のオルフェンズ】


 そして同時上映されたのが、『オルフェンズ』の10周年記念新作短編となる『幕間の楔』。第1期~2期の間の鉄華団を描いた、完全新規エピソードとなっています。

 やはり『オルフェンズ』のファンとしては、この完全新作部分が一番の楽しみではあったんですが、正直なことを言うと「15分くらいの短編だしな……」という想いもあったんですよね。尺的にも、そんなにたくさんのことは描けないだろうと思っていたので。

 が、蓋を明けてみると約15分ほどのエピソードとは思えないほど満足度が高くて、エンドロールでは堪えきれずに号泣しました。

 というのも、ただの1期と2期の間の話というわけではなく、2期の展開に向けたいろんな伏線が仕込まれていて、その後に2期以降の物語を見ると、また違った視点から楽しめるようになるような作りになっているんですね。

 三日月たちが好きで、『幕間の楔』の方を目当てに見に行こうか迷っている方も少なくはないと思うのですが、その価値はあると断言できます。

(※以降は『幕間の楔』のネタバレになりますので、まだ映画を見ていないという方はご注意ください)

 具体的なシーンを挙げると、とくにグッと来たのがオルガに関連するエピソード。

 2期のオルガは、ワインレッドのスーツを着用して登場していることが多いのですが、団長としての固い仕事が増えているので、オルガがスーツを着ること自体は自然なのもあってか、スーツについてに言及されるシーンはほぼなかったんですよね。

 そこから今回の『幕間の楔』で、いつまでもボロボロの服を使っているのを見かねて団員たちからオルガにプレゼントされていたものだったという経緯が判明しました。

 オルガがクーデリアにサインの書き方を教わっていたのも印象的で、目に見えないところで少しでも立派なリーダーになろうと頑張っていたこと、危ない橋を渡らずに生きられるように、ということをこの頃から考えていたんだなとも改めて分かり、その後に鉄華団がああした結末を迎えてしまったことへの納得感みたいなのも得られました。

 鉄華団の面々は家族であり、オルガも家族として団員たちを大切に思っていたからこそ、あの選択をしてしまったんだろうなと。もちろんそれはTVシリーズを見た時から分かってはいたことなんですが、今回の短編を見たことで、それがより腑に落ちるような形になった感覚があります。

 しっかりとガンダム・バルバトスの戦闘シーンも見せてくれたのも嬉しい点。

 今回登場したのは新しい形態である“ガンダム・バルバトスアダプト”で、メイスではなく太刀のみを装備した珍しい戦闘スタイルながら、荒々しい三日月らしい立ち回りも見れて大満足でした。

 一方で、1期では多用していた太刀を2期以降使わなくなるのがファンの間で時折話題になっていたのですが、その理由が分かるようになっていたのも面白かったです。


 そして、何より反則だったのがエンドロール。最後の伊藤悠先生の描き下ろしイラストで完全に涙腺をやられました。

 「今回は1期と2期の間の話」という認識の上で見に行っていたので、あのイラストは完全に不意討ちで、同時に“Iron-Blooded Orphans”が流れ始めたあたりから、切なさだったり安堵感だったり、いろんな感情が混ざり合ってもうボロボロに泣きました。

 まだ見ていない方のために具体的にどんなイラストなのか直接言及は避けますが、とりあえず言えるのはライド・マッスのファンは是非とも見に行って欲しいということです。

 自分はTVシリーズのラストには概ね納得しつつも、ライドがああなってしまうことだけはどうしても受け入れ難かったのですが、今回の短編でライドの心境がより深く掘り下げられたことで、ああなってしまうのも無理はないかもしれない……と、こっちもより腑に落ちるようになりました。

 ノブリス・ゴルドンは死にましたが、ライドの復讐はまだ終わってないんじゃないかと思うんですよね。ラスタル・エリオンという、鉄華団を壊滅させた張本人とも言うべき人物がまだ残っていますから。

 ただそのラスタルは、ギャラルホルンの改革を進めながらクーデリアとも協調していて、『オルフェンズ』の世界にとって必要な人物ではあります。加えて、生前のオルガ自身も、仮に自分が途中で殺されるようなことがあっても、その仇を仲間たちに討って欲しいとは微塵も思わなかったでしょう。

 ライド自身もそれは理解した上で、それでも許せない感情がある……という葛藤とか、それだけで1本話が作れるくらい面白そうなテーマなんですよね。

 今回の短編の罪深い点があるとすれば、あの最終回を受け入れられるように気持ちの整理をつけさせてくれた一方で、「また『オルフェンズ』の物語が見てみたい」という気持ちも再燃させた点だと思います。

 15分ではなく、映画1本分のくらいのボリュームであのエンディングの後の話が見てみたい……と思ったのは絶対に自分だけではないはず。

 最近のガンダムシリーズ(とくにオルタナティブシリーズ)の流れを考えると、一度は止まったあのキャラクター達の時間が、また動き出すんじゃないか……そんな期待をしたくなるような短編になっていたんじゃないかなと。4週間と上映期間が少し短めなので、『オルフェンズ』ファンは是非とも映画館に足を運ぶことをオススメします。

関連記事


米澤崇史:ロボットアニメとRPG、ギャルゲーを愛するゲームライター。幼少期の勇者シリーズとSDガンダムとの出会いをきっかけに、ロボットアニメにのめり込む。今もっとも欲しいものは、プラモデルとフィギュアを飾るための専用のスペース。

【ABEMAプレミアム】月額580円~でアニメ・映画・ドラマ・バラエティー番組が見放題!【PR】

40,000以上のコンテンツが見放題!

最新のアニメ・ドラマ・映画だけでなく、ABEMAでしか見れないオリジナルの番組も豊富にラインナップ。

登録は簡単で、解約もいつでもOK!

本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります