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『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』ビーム兵器がほぼ出てこない異色のガンダム。三日月とオルガの対比や、あの結末について今も考えてしまう【米澤崇史のガンダム、次に何見る?】

文:米澤崇史

公開日時:

 ガンダムシリーズファンのライター・米澤崇史がオススメのガンダム作品を紹介する連載【米澤崇史のガンダム、次に何見る?】。第5回は『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』を紹介します。

※記事内では、原作コミックを含む『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』のネタバレに関する記述がありますのでご注意ください。[IMAGE]

ビームではなく得物で殴り合う異色のガンダム【鉄血のオルフェンズ】


 第1期が2015年10月~2016年3月、2期が2016年10月~2017年4月にかけて放送されていた『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』。『オルフェンズ』以降のTVシリーズは、1~2クールで物語がまとめられているので、現状、4クールかけて物語が描かれた最後のガンダム作品となっています。

 2025年は放送10周年にあたる年であり、10月31日からは『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ ウルズハント -小さな挑戦者の軌跡-』と10周年記念新作短編『幕間の楔』が同時劇場上映されるなど、様々な施策が行われています。

 本作は非宇宙世紀作品であるオルタナティブシリーズの1作にあたり、魅力を語る上で欠かせないのがその独特の世界観です。

 とくに特徴的なのが、ガンダムシリーズの象徴的な武装といえる、ビーム・サーベルやビーム・ライフルといったビーム兵器がほぼ登場しないこと。

 というのも、『オルフェンズ』の世界のモビルスーツの多くはナノラミネートアーマーと呼ばれる特殊な装甲を備えており、ビーム攻撃に対して高い耐性をもっています。このナノラミネートアーマーの登場により、ビーム兵器は有効な武装ではなくなっていきました。

 代わりに脚光を浴びたのが、メイスや槍といった近距離向けの質量武器で、主人公機であるガンダム・バルバトスを始め、『オルフェンズ』ではほとんどのモビルスーツが実弾や質量武器を持って戦闘を行います。

 他のガンダムシリーズでも、巨大な剣を武器とするモビルスーツは存在しますが、『オルフェンズ』においては敵も味方も何かしらの得物を持って戦うので、戦闘の絵面がかなりダイナミックで迫力があります。

 とくに第1話の、地面から出現したガンダム・バルバトスがメイスでグレイズを一撃で殴り飛ばすカットは、この世界の不条理を圧倒的なパワーで吹き飛ばしたかような爽快感に加え、「今回のガンダムは獲物で殴り合うんだ」というコンセプトが一発で伝わってくるシーンとして印象深いです。


 また、あそこで流れるメインテーマ的なBGMである『Iron-Blooded Orphans』が鳥肌レベルでカッコいいんですよね。

 自分は『機動戦士ガンダムUC』の『UNICORN』とか、『機動戦士ガンダムSEED』の『GUNDAM出撃』とか、ボーカル曲以上にメインテーマ曲でテンションがぶち上がるタイプなんですが、いろんなメインテーマの中でも『Iron-Blooded Orphans』は、1話のインパクトもあって歴代ガンダムシリーズの中でもトップクラスに好きな楽曲になっています。

敵には一切の容赦をしない、ブレない主人公・三日月【鉄血のオルフェンズ】


 アクの強いキャラクターも『オルフェンズ』の大きな魅力。中でもやはり外せないのは、ガンダム・バルバトスに乗る主人公の三日月・オーガスです。

 三日月の特徴は、とにかく敵に対して容赦をしないこと。

 元々三日月は“ヒューマンデブリ”と呼ばれる孤児であり、下手をすると命を落としてもおかしくない“阿頼耶識システム”(身体にプラグを埋め込み、マシンと神経を直接接続して直感的な操縦を可能するシステム)の手術を3度も受けるという、歴代のガンダムシリーズの主人公の中でも飛び抜けて厳しい境遇の中で育っています。それ故に、三日月が戦う理由は理想や正義ではなく、仲間たちと共にこの世界で生き延びるためです。

 そうした境遇もあってか、敵として立ちはだかる相手にはとにかく容赦がなく、人間の生死についてもかなりドライな価値観を持っています。

 とくに物語の序盤、反乱を起こした三日月たちを止めるべく、決闘を挑んできたギャラルホルン(『オルフェンズ』における治安維持組織)のクランク・ゼントを破った際、介錯を引き受けてくれた礼を言うクランクの言葉を最後まで聞くことなく、躊躇いなく引き金を引いたシーンは衝撃的でした。

 クランク自らが望んだことではあるとはいえ、抵抗する気のない人間を銃で躊躇なく殺したガンダム主人公は前代未聞です。

 ただ、その容赦のなさこそが三日月の魅力。ガンダム・グシオンに乗り、鉄華団を襲撃したクダル・カデルを相手にした時には、三日月が戦いを楽しんでいることを指摘され一瞬考え込むも、「ま、いいか。こいつは死んでいい奴だから」とすぐに割り切ってクダルにトドメを刺しています。

 クダルの場合、良識ある軍人だったクランクとは正反対の、ヒューマン・デブリの子どもたちを使い捨ての道具として利用していた“吐き気を催す邪悪”と呼ぶに相応しい外道だったので、躊躇わずにトドメを刺してくれたことにスッキリした視聴者はかなり多かったのではないでしょうか。


 モビルスーツで戦い、結果、人を殺してしまうことの意味に苦悩する……というのはガンダム主人公の王道的な展開ですが、三日月は基本的に悩むことはなく、自分たちの居場所を作るためにブレることなく戦い続けるという、他にないキャラクター性をしています。

 一方、ただ戦うだけではなく、「いつかは自分の農園を開く」という夢も持っており、夢のために年少組といっしょにクーデリア・藍那・バーンスタインから文字を習うなど、日常では素直で年相応な面も持ち合わせているギャップも魅力です。

頼れるリーダーを演じつつ、内心では苦悩するオルガ【鉄血のオルフェンズ】


 『オルフェンズ』を語る上では、三日月と並ぶもう一人の主人公と言えるオルガ・イツカの存在にも言及しないわけにはいきません。

 鉄華団の団長でもあるオルガはリーダーとして皆を導き、団員からの信頼も厚いのですが、内心では何度も悩んで弱音を吐きそうになりながらも、必死に己を奮い立たせて前に進もうとするキャラクターです。


 人望・行動力もあり、いざという時は機転も効く、かなりハイスペックなキャラではあるのですが、ほぼ悩むことがない三日月と比べると、割と等身大で普通の人に近いと言えます。

 というのも物語開始時点ではオルガはまだ17歳。本当は自身も世間のことはほとんど分からないにも関わらず、仲間たちの期待に応えるために必死に立派なリーダー像を演じようと奮闘するオルガの姿に、感情移入した人は多いんじゃないでしょうか(とくに若い頃に管理職になった経験がある方は)。

 ただ、立派なリーダーであろうとするあまり、一人で抱え込みすぎる性質があるのがオルガの欠点。物語の中盤、あるキャラクターが帰らぬ人となってしまうのですが、それがよりオルガが一人で抱え込むようになる流れを作ってしまい、終盤でのある大きな判断ミスにも繋がってきます。

 いろんな意味で、『オルフェンズ』を象徴するキャラクターであり、悩みながら成長していくという本来主人公が果たすことの多い役割を、三日月に変わって担っている存在でもあり、オルガの決断が『オルフェンズ』の物語を動かしていくことになります。
※ここから先は、『鉄血のオルフェンズ』の結末に関連する記述があります

今でも考えさせられるエンディング。手書きだからこその破損表現も美しい【鉄血のオルフェンズ】


 少し終盤のネタバレになってしまうのですが、『オルフェンズ』はガンダムシリーズの中でも、かなりビター寄りのエンディングを迎える作品です。

 さすがにその詳細を書いてしまうと、ここでオススメする意味がなくなってしまうので、どうビターなのか、というところは伏せますが、「絶対にハッピーエンドが良い!」という人には、ちょっと辛い展開が待ち受けているかもしれません。

 自分個人の癖として、アニメなら『Fate/Zero』、ゲームなら『クライシス コア ファイナルファンタジー7』みたいなビターエンドが好きなタイプですが、それでも『オルフェンズ』は、救いはあるものの爽快な気分にはさせてくれない、エグみが強めのタイプのエンディングだと感じたほどでした。

 それまでの物語の流れからして、大団円にはならないだろうという覚悟はしていたので、自分は受け入れられたのですが、あの結末をどう咀嚼するのが良いのか、10年経った今でも結構考えるんですよね。

 きっとそれは自分だけではないと思っていて、SNSでも今でも『オルフェンズ』のラストについてファン同士が熱く議論し合っている場面も見かけます。

 感情を動かすパワーがとにかくすごくて、「面白かったけどあんまり印象に残らない」優等生的な作品とは真逆の、「好みは別れるかもしれないけど、とにかく心に残る作品」なのが『オルフェンズ』の特徴でもあります。だからこそ、今でも熱量をもって語られる作品なんだろうなと。

 あと、個人的にボロボロになりながら戦うガンダムが好きなのもあって、終盤の戦闘シーンは全体的にすごく好きで、とくに第49話のガンダム・バエルvsキマリスヴィダールや、最終話のバルバトスルプスレクスの戦闘はかなりのお気に入りです。

 最終決戦でガンダムが壊れる瞬間って、他のガンダム作品でも総じて好きでして、部位が破損しても戦い続けられるのって、ロボットアニメならではの魅力だと思うんですよね(人間だと死んでしまいますから)。どんどん機体が壊れていく『オルフェンズ』の終盤の戦闘はこのあたりの自分の癖にめっちゃ刺さりました。


 ああいった破損表現は、別のモデルを用意しないといけない3DCGだとハードルが高かったりもするので、今では少なくなってしまった手書き作画のロボアニメだからこそ強みも活かされていた作品だったと思います。

 そんな『オルフェンズ』ですが、最初に書いた通り、10月31日から『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ ウルズハント -小さな挑戦者の軌跡-』&『幕間の楔』の上映がいよいよ開始されています。4週間と期間が短めなので、忘れずにお近くの映画館に足を運びましょう。

【米澤崇史のガンダム、次に何見る?】バックナンバー(第2~4回)


米澤崇史:ロボットアニメとRPG、ギャルゲーを愛するゲームライター。幼少期の勇者シリーズとSDガンダムとの出会いをきっかけに、ロボットアニメにのめり込む。今もっとも欲しいものは、プラモデルとフィギュアを飾るための専用のスペース。

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