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『空の軌跡 the 1st』制作の裏話も。高い評価を獲得した“古きよきRPG”のフルリメイクをするうえでこだわったポイントは?【近藤社長インタビュー:前編】

文:アツゴロウ

公開日時:

 Nintendo Switch 2/Nintendo Switch/PS5/Steamで好評発売中のストーリーRPG『空の軌跡 the 1st(ザ・ファースト)』について、日本ファルコムの近藤季洋社長に行ったインタビューの内容をお届けします。

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 『空の軌跡 the 1st』は、2004年に発売された『英雄伝説VI 空の軌跡(空の軌跡 FC)』のフルリメイク作品。美しいグラフィックと豪華な声優陣、そして現代的な操作性を備えつつも、原作の魅力をしっかりと受け継いだ内容で多くのファンから高い評価を得ています。

 今回は日本ファルコム代表取締役社長の近藤季洋氏に、本作の開発秘話や反響、そして今後の展望などについてインタビュー。

 20年の時を経て新たに描かれた『空の軌跡』の世界はどのように作られ、ユーザーに何をもたらしたのか――その全容に迫ります。

※記事中にはエンディングまでのネタバレ要素が含まれています。未プレイの方はご注意ください!

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▲日本ファルコム代表取締役社長 近藤季洋氏。1998年に日本ファルコムに入社。『イース』シリーズや『英雄伝説』シリーズのリメイク作品の制作に関わったあと、『空の軌跡』シリーズの立ち上げにいちから関わる。2007年に代表取締役社長に就任した以降も、プロデューサー、ディレクター、シナリオライターとしてファルコム作品制作の陣頭指揮を執る。

──『空の軌跡 the 1st』の発売から1ヶ月以上経過しましたが、ユーザーの皆さんからの反響はいかがでしょうか?

近藤
 反響は非常にいいと思います。リメイクというと、各社さん「どこまでやるのか」と悩むと思うんですけれど、その方針や度合いについて「良かった」という声が一番多かったですね。「すごくいいリメイクだった」と言われることが多くて、そこまでポジティブな意見をいただけるとは思っていなかったので、驚いています。

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 日本国内はもちろんですが、中国や北米、欧州でも国内と同等以上の評価をいただいています。

 とくに中国では、セールス的には過去の『軌跡』シリーズの中でもトップということで、非常にいい反応をいただいていますね。

──今回のグラフィックがすごく評判良いですよね。今風というか、『界の軌跡』までの描き方と少し違って、個人的にはパステル調というか、本当にファンタジー感が出ていると思います。アニメ表現なども含めて、少し違う見せ方をされている印象を受けたのですが。

近藤
 使っている技術は、実は『界の軌跡』から何も変わっていないんですよ。

 絵の見せ方を本作で大きく変えたというところはあります。ただ、私が開発の始めに言ったのは一言だけで、「元気にやろう」と。エステルが元気な主人公で、それが『空の軌跡』の看板であり良いところなので、画面をパッと見て「空の軌跡が来た!」と思えるようにして欲しい、ということだけを言いました。

 第一稿でロレント(最初の街)のマップとエステルのキャラクターモデルが上がってきましたが、その時点でほぼ完成していました。わりとビビッドな感じで、今までの『軌跡』シリーズと比べると「昔の古きよきRPGをそのまま形にしました」というところが全面的に押し出されていて。

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 それと、自分が開発室を歩いているとモニターに映っている画面が見えるんですよ。「なんかいい感じだな」と思っていたんですが、実際に提出されたものを操作して歩いてみると、まさに「これは『空の軌跡』だよね」という形になっていました。そこはグラフィックのメンバーが頑張ってくれて、『空の軌跡』というものをそのまま形にしてくれたんじゃないかと思います。

 開発を始めた時に内緒で進めていたんですが、どこかでバレて、ほかのチームのメンバーから「関わりたい」とか「参加させて欲しい」という声がありました。『英雄伝説 界の軌跡』の背景リーダーを担当していた古参スタッフなんかは「『空の軌跡』だったらさらにやる気が出るので、やらせてください」と言ってくれたりして(笑)。「それは困るんだよね」と返しつつも、うれしかったですね。

 今回、ディレクターが「こうしよう」とトップダウンで指示を出すのではなく、「こうしたほうがいいんじゃないか」というところをメンバーから意見を出してもらって、それをそのまま形にしたというのが、いつもとは違うやり方だったと思います。

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 『空の軌跡』の発売からもう20年経ちますので、ユーザーの方たちもそうですし、我々の中でも「こういうイメージだよね」というものが時間とともにできあがってきていると思うんです。そこに今回オリジナル版に関わっていなかった若いスタッフも加わって。とくにイベントのカットシーンなどを彼らがやってくれているんですが、新旧の『空の軌跡』に対する思いがうまく一本にまとまっていったような感覚がありましたね。

 また、オリジナル版の『空の軌跡』の頃はキャラクターがチップのドットなので、その中でキャラクターの特徴を立たせるデザインにしていました。例えば服が真っ赤だったり青だったり、カラーが分かりやすくなっていたり。シルエットで見せないといけないので、腕の先端などにボリュームを持たせたりするデザインだったんですよね。

 それをそのまま今回3Dに起こしているので、ある意味RPGを長年見てきた方たちにとっても新鮮に映ったんじゃないでしょうか。「あの頃のRPGを今やるとこうなるんだよ」というところがあったんだと思います。

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――3Dでのアニメ表現も、最近また増えてきていますが、『the 1st』はよりアニメ的ですよね、コミカルな表情もありましたし。

 それもスタッフから相談がありました。「ギャグはどこまでやっていいですか?」と。

 私も『the 1st』を作る前にオリジナル版を改めて最初から自分でプレイしてみましたが、「これを3Dにそのまま起こすのは難しいだろうな」と感じる部分がありました。

 たとえば最初のエステルとヨシュアの出会いで、ヨシュアがベッドに寝ているところにエステルが飛び上がって上に乗って、また降りて上に乗って……というシーンがありますが、あれをそのまま3Dにはできませんから。

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 となると、ある程度の表情の豊かさや、コミカルな表現を漫画っぽく表現していかないと、これは『空の軌跡』にならないんじゃないかと思ったので、「ギャグはもうありでいい」ということはスタッフに伝えました。蓋を開けてみたらああいう形にしてくれていたので、今回は私はかなり楽をさせてもらえた気がします。

 若手含めいろんなスタッフが育っていて、『空の軌跡』をやりたかったというスタッフがたくさんいてくださったので、それに助けられましたね。色々言わなくても動いてくれるという、いつもとは少し違う感覚で制作を進められました。

――日本ファルコムさんは、ほかのメーカーさんよりも明確なイズムというか、カラーがあるように感じます。

近藤
 明文化されているわけではないんですけどね。ですが、やはりシリーズが続いているとなんとなくそういうものがありますよね。

――編集部でも、冒頭のドロップキックのシーンを見て「これはいいんじゃないか」という声があがりました。

近藤
 あそこはリメイクの勝負どころだと思っていました(笑)。

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――古参のライターからは「こういう表現はありなんじゃないか」という声が多かったです。逆に新しいライター陣には「ちゃんとこんな風に表現されるんだ」というのが分かりやすかったみたいで、冒頭から好評でした。

近藤
 最近はシリアスなものが多いから、逆に目立った部分もあるかもしれませんね。

Steam版は新しい層にも大きくアピール。体験版の配信もきっかけに


――今回プラットフォームがNintendo Switch、PS5、そしてSteamと複数ありましたが、これは海外展開などを見据えたものだったと思います。どのプラットフォームからの反響が大きかったですか?

近藤
 Steamの、特に体験版の反響が大きかったように思います。

 ユーザーさんからアンケートを取りましたが、購入理由の1つとして「体験版をプレイしたから」というのがトップだったんですよ。では体験版が一番プレイされているのはどこかというと、Steamなんですよね。そういう意味で、Steamの影響は非常に大きかったと思います。

 我々はなかなかSteam版を自分たちで展開できなかったのですが、今回は『空の軌跡』のフルリメイクということで、シナリオが全部最初に揃っていて何をすればいいか見えています。世界同時発売をここでやらなきゃいつやるんだろう、というところがありまして、制作ボリューム的にやらないといけないことが非常に多くて大変でしたが、それを実現するところで最初に決めていました。

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――ローカライズはどうなっていたのでしょうか? 海外向けの言語は?

近藤
 英語、ドイツ語、フランス語、スペイン語、イタリア語に対応しています。ローカライズ作業はガンホーさんにやってもらったのですが、かなり苦労があったと思います。

 今まではその日本語版が完成した後に、後から追いかけてローカライズしていたので作業ロスはほとんどなかったんですが、今回はテキストが変わると全部翻訳し直しになったり、といった作業ロスがどうしても発生してしまいます。場合によっては海外版の声優さんの音声の取り直しをしたりとか、そういう普段にはない苦労がありましたね。

――プラットフォーム展開といえば、最初の発表がNintendo Directだったことにも驚きました。

 あれは声をかけていただいて、実現したものです。発表の仕方はいろいろ悩みましたが、ここまで準備をしたのであれば、いつもと違うことをやりたいというところと、タイミングが良かったというのもあると思います。それをいい形で皆さんにお届けできたと思っています。

――CV(キャラクターボイス)は大幅に入れ替わりがありました。ただ実際にプレイしてみると違和感なく、皆さんがいい感じに熱演されていると思いました。声優さんの演技についてはどう感じられましたか?

近藤
 声優さんの演技に関しては、私はもう何も言うことがないですね。現場では「歴史のあるシリーズだし、気にしているユーザーさんも多いから緊張する」ということを皆さんもおっしゃっていました。「どこまで元のキャラクターを意識したらいいですか?」という相談も収録の直前に受けたりしたのですが、「とにかく最初はもう思った通りにやってください」と言って、ほぼほぼ修正していないんです。

 元のキャラクターも見てこられたのか、自分の持つ声といいところで合わせて、それぞれが考えてこられたのかなと思えるような内容でしたね。

 エステル役の高柳知葉さんも「ちゃんとエステルだ」という声をたくさんいただいています。うちのスタッフも「元のエステルとはもちろん違うけれど、ちゃんとエステルで何の違和感もない」と言っていました。

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――個人的にはヨシュア役の藤原夏海さんの演技が、女装時の声も含めて完璧に思えました。

近藤
 実は女装時の演技は何度か撮り直しをさせてもらっているんです。最初はちょっと女性っぽすぎちゃって、「ヨシュアの演じる女性」をやってもらいたかったんですよ。

 難しいんですけど、それを伝えたら一発で修正してくれていて。やはり声優の方たちはさすがですよ。

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――ヨシュアはSクラフト“漆黒の牙”の習得ボイスもX(旧Twitter)で話題になっていましたね。

近藤
 ヨシュアの役は、決まるまで一番苦労しました。まず最初に男性声優さんに変えるかどうかを悩みました。男性声優さんでもわりと中性的な少年の声ができる人はたくさんいらっしゃいますし、そのほうがいいかもしれないと思いつつも、ヨシュアは女性声優さんが演じるイメージも強かったので。でも、そういう声で演技できる女性声優さんはあまりいないんです、とディレクションの会社から言われていました。

 最終的に現在のキャストに決まったのですが、実際にはラストシーンを演じてもらったものを聞いて決めています。エンディングのところですね。それを聞いて「完璧だ」と思いました。あそこさえ決まれば、あとは何をやってもきっとはまるだろう、と。

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――CVを変えることについては、かなり悩んだとお聞きしました。

近藤
 フルリメイクということで、これから先もシリーズを続けていきたいという気持ちはありました。それを考えた時に、変えるのも一つの手ではあると。

 ただ、自分だけでは決断できず、いろんな人に相談しました。それこそ電撃オンラインさんに聞いてみたり、音声制作をしていただいている会社の担当の方たちに聞いてみたり。

 総合的な判断として変えることにしましたが、気持ちとしては「変えたくない」という思いと「変えたほうがいいのかな」という気持ちが半々ぐらいでした。ただ、先ほどお話ししたようにこれからもシリーズを続けていきたい、そして手応えもあったので、という判断になりました。

 そういえば昔、『イース』でアドル役を梶裕貴さんにお願いした時も、同じような感覚だったと思います。

――我々世代はどうしても、アドルといえば草尾毅さんの印象も強いですからね。

近藤
 どっちも正解だとは思います、変えるのも変えないのも。結果論でもありますが、グラフィックなどと合わせて考えるとフレッシュさは出たのではないかと思います。

ゲーム作りは楽しい! スタッフのモチベーションを上げた自由な開発環境


――モーションがかなり細かくなっているように感じました。専用モーションもすごく多い印象です。

近藤
 そのあたりも今回、かなり現場の人間に裁量を持たせて、ある程度思いついたらその場でやってしまってもいいような形になっているんです。

 そうすると何が起きるかというと、作業が早いんです。戻してチェックを受けて修正してという流れじゃなく、その場でいいと思ったことを反映できるので。

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 『空の軌跡』は新作と違ってなんとなく「こういうもの」というイメージがみんなにあるので、そんなに大きくブレることはないだろうと思ったんです。

 たとえばまったく新しい人間が登場するような作品だと、その人物像をきちんと把握していないと表現の方向性が間違ってしまったりしますが、エステルやヨシュアのようなキャラは最初から共有できているので、こういうやり方ができたんじゃないかと思います。

 実際にそうすると、制作メンバーのモチベーションも上がります。ノリノリでやってくれるので。毎回こういうやり方が通用するかは分かりませんけれど、今回に関してはうまくはまったのかなと思いますね。

──モーションキャプチャーを使ったシーンも増えてきた印象があります。

近藤
 わりと日常的な、何かを持ち上げるとか拾うような動作はモーションキャプチャーのほうが早くできたりします。ただ、クラフトの演出など、アニメチックなものに関しては手付のモーションのほうが派手にできますね。とはいえモーションキャプチャーを使ったものの比率は、以前より上がってきていると思います。

 あと、これは裏話のようなものになりますが、モーションキャプチャーは場所の関係で国営昭和記念公園で録ることもあります。外でスタッフが変なものを体にくっつけて剣をひたすら振り下ろしていることも……(笑)。何も知らない人に見られて笑われてしまうこともありますが、これからもいい感じに取り入れていければと。

──エンディングのエステルとヨシュアのキスシーンあたりは、表情や指回りの動きとか含めて、すごく細かい演技で表現されていました。あれはモーションキャプチャーなのでしょうか?

近藤
 あれは確か手付けのモーションだったかと思います。クオリティアップの理由としては、見せ場のシーンでスタッフも気合が入っていたのかもしれません。

 さっきも触れた通り、開発中のスタッフの雰囲気はノリノリというか、とても明るかったんですよね。作業していて「楽しかった」と言うスタッフも多くいました。

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――ゲーム画面からも、スタッフの方も楽しんで作られていたというのが伝わってくる気がします。

近藤
 今のゲーム制作は作業がどんどん細分化されていって、本当に昔の「ゲーム全体を作り上げる感覚」や喜びみたいなものが減ってきている気がするんです。

 それを『空の軌跡』で再認識してもらえるといいなと思っていたので、そこは狙い通りになったのかなと思います。ゲーム作りってもっともっと楽しいんだよ、と。

※インタビュー内容が膨大だったため、記事は前後半構成とさせていただきます。後半はシステム関連のお話に加えて、『軌跡』シリーズの今後の展望についても聞いてみました。乞うご期待!

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