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1/29発売・ADV『探偵・癸生川凌介事件譚 コレクション』レビュー。シリーズのオススメエピソード5選を電撃の編集&ライターが紹介!

文:電撃オンライン

公開日時:

 ジー・モードより、2026年1月29日にSwitch用ソフト『G-MODEアーカイブス+ 探偵・癸生川凌介事件譚 コレクション』が発売されます!

[IMAGE]※本記事はジー・モードの提供でお送りします。

『探偵・癸生川凌介事件譚』シリーズとは?


 『探偵・癸生川凌介事件譚』は、2002年7月より旧・元気モバイル社からフィーチャーフォン向けにリリースされていた人気推理アドベンチャーゲームシリーズ作品です。

 シナリオのネタのために癸生川探偵事務所に出入りするゲームシナリオライターの生王正生(いくるみ まさお)と、探偵事務所の助手・白鷺洲伊綱(さぎしま いづな)が、さまざまな事件の謎を解決していきます。

 また探偵事務所の所長・癸生川凌介(きぶかわ りょうすけ)や、事件を捜査する鞠浜警察署の刑事など、個性豊かなキャラクターたちが多数登場します。

 当時の厳しい容量制限の中で生み出された本作は、その制約を感じさせない濃密なシナリオで、多くのファンを獲得しました。

 2021年3月18日より、フィーチャーフォンゲーム復刻プロジェクト“G-MODEアーカイブス+”にてリリース開始。現在までにシリーズVol.1~17が発売されています。

 『探偵・癸生川凌介事件譚 コレクション』には、“G-MODEアーカイブス+”で復刻された『探偵・癸生川凌介事件譚』シリーズVol.1~17と、パッケージ版先行収録となるVol.18~20を前編・後編の2本に分けて収録。さらに豪華特典が付属する『コンプリートセット』も同時発売されます。

 パッケージのメインビジュアルは、イラストレーター・岩元辰郎氏による描き下ろし。前編・後編のパッケージを並べると、ひとつのイラストになるデザインとなっており、ファン必携のコレクションアイテムです。
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 『探偵・癸生川凌介事件譚 コレクション』に収録されるVol.1~17の中から、電撃のミステリー好き編集&ライターが選んだ5作品のレビューを掲載! ぜひチェックして、購入の参考にしてください!

Vol.1「仮面幻想殺人事件」(文:信濃川あずき)

捜査するのは探偵……ではない?

 シリーズの原点であるVol.1「仮面幻想殺人事件」。タイトルに“探偵・癸生川凌介”と冠されているにもかかわらず、プレイヤーが操作するのは探偵本人ではありません。

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 主人公は、ゲームシナリオライターの生王正生(いくるみまさお)さん。彼が実際に遭遇した事件をもとにゲームシナリオを執筆している……という、ちょっとメタな設定が本作の特徴です。

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 では当の癸生川凌介はどこにいるのかというと、物語の要所要所で颯爽と登場します。普段は何をしているのかよくわからない、つかみどころのない人物。しかし、いざというときの彼の言動には、深い意味があるのかも……?

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 そしてもうひとり、忘れてはならないのが白鷺洲伊綱(さぎしまいづな)。癸生川の助手を務める彼女は、実務面では生王さん以上に頼りになる存在です。事件の大部分は、生王さんと伊綱さんのコンビで調査を進めていくことになります。筆者はこのコンビが大好きです。会話のテンポがよく、深刻な状況の中でもちょっとしたオアシスの役割をしてくれるんですよね。

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 この他にも登場人物は多数。それぞれにちょうどいい濃さの個性があり、物語を彩ってくれます。シリーズを通じて再登場するキャラクターもいるため、Vol.1をプレイしておくと、続編をより深く楽しめるはずです。

 物語は、探偵事務所に有名ゲームメーカーの営業部長・砂永という男性が訪ねてくることから始まります。自社の将来有望なプログラマーが亡くなった件を調べてもらいたい、という依頼です。

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 亡くなった男性・村崎さんについて調査。村崎さんが住んでいた建物の大家・山王丸さんに頼んで部屋に入れてもらうと、警察の調査が済んでいるにもかかわらず、気になる箇所がいろいろ。

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 調査を進めると、オンラインRPG『タクリマクス』の存在が浮かび上がります。タクリマクスは、ゲーム会社“ゲンマ”が開発したネットワークRPG。村崎さんは、このタイトルの熱心なプレイヤーでした。そして、死亡時の状況から察するに、このゲームをプレイしている最中に亡くなったようなのです。

 さらに調査を進めると、タクリマクスをプレイしている最中になくなったのは、村崎さんだけではないことも判明。これは本当に、プレイすると死ぬ呪われたゲームなのでしょうか。関係のなさそうな事柄がなんとなく結びつきそうな状況に、背筋がゾッとします。何人か、怪しそうな人物も見えてきました……が、まだ断定はできそうにありません。

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 開発会社のゲンマは、社運を賭けて開発したゲームに不穏な噂がつきまとうことに困惑。当然のことながら、呪いを込めて開発されたゲームというわけでもないようです。筆者も一応ゲームに携わる者として、ゲンマ側の事情や気持ちもよくわかります。プレイヤーが続けて亡くなったのはたまたまなのか、それとも……。

現実と仮想、その境界にあるもの

 本作が描くテーマのひとつは、「現実と仮想の境界」です。オンラインゲームの中で人は別の人格になれる。画面の向こうにいる相手の本当の姿は見えない。2000年代初頭、インターネットが日常に浸透し始めた時代だからこそ、このテーマは強烈な説得力を持っていました。改めてシナリオを読むと、その先見性に思わずうなってしまいます。

 そして、20年以上経った今でもこのテーマは色褪せていません。むしろSNSやメタバースが当たり前になった現代だからこそ、より身近に感じられる部分もあるのではないでしょうか。画面の向こう……いえ、身近にいる人の本当の姿すらちゃんと見えているのか。読み進めながら、そんなことを思わずにいられませんでした。

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 さて、作中の事件は2002年7月前後に起こっていますが、現実の2002年も日本でオンラインゲームの著名タイトルが動き出した黎明期。ゲーム好きにとっては憧れの存在だったからこそ、オンラインRPG内の人間関係という題材がタイムリーに響いたのでしょう。筆者も当時、まだオンラインに手を出せず憧れていた身だったことを思い出します。

 タクリマクスとは何だったのか。プログラマーはなぜ死んだのか。そして「プレイすると死ぬ」という噂の真相は……ぜひご自身の目で確かめてください。伏線が回収されていく終盤の展開は、思わず「そうだったのかぁ!」と声が出てしまうかもしれません。

Vol.4「白鷺に紅の羽」(文:まり蔵)

20年経っても色褪せない名作ミステリー

 今回レビューするのは、『探偵・癸生川凌介事件譚』シリーズのなかでもっとも私が好きなエピソードであるVol.4「白鷺に紅の羽」。20年前の作品にもかかわらず、今もまったく色褪せない珠玉のミステリー作品です。

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 「白鷺に紅の羽」では、おなじみのシナリオライター・生王正生がほとんど登場しません。癸生川探偵事務所の助手・白鷺洲伊綱にスポットを当てた、過去のエピソードが展開します。

 ストーリーは、伊綱とジャーナリストの矢口床子が電車に乗って伊綱の故郷であるA県南部にある百白(ももしろ)村へ向かうところからスタート。2人の会話を経て、5年前に起きたとある事件の顛末が描かれる本編が始まります。

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記憶喪失の状態で相続問題に巻き込まれ……

 物語は、なんらかの理由で怪我を負って記憶喪失になってしまった楓さん(仮名)の視点で進行。くちばし山の崖の下で見つかった楓さんは、セーラー服姿がかわいい高校生の大鳳院伊綱に助けられ、診療所で治療を受けながら、なぜ自身が百白村を訪れたのかを探っていきます。

 ゲームシステムはVol.1から特に大きな変化もなく、オーソドックスなコマンド選択タイプのアドベンチャーゲーム。“移動”、“話す”、“調べる”、“考える”といったコマンドを選択しながら捜査を進めます。

 百白駅や宿屋の鳥歌亭といったさまざまな場所で情報を入手しながら、医者として働く白鷺州龍希、病気療養中の白鷺州涼二、大鳳院家の顧問弁護士・陸辺といった重要人物と出会っていく楓さん。

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 そんななか伊綱の父親が死亡し、祖父が行方不明になります。伊綱の実家である大鳳院家は、薬剤調合の技術で事業を興した“オオトリ製薬”という有名な製薬会社。楓さんは、記憶をなくし自分が何者なのかわからない状態で、大鳳院家の相続争いに巻き込まれていくことになります。

 あまり書きすぎるとネタバレになってしまうので控えますが、この泥沼の相続争いは、名家の大鳳院家や分家である白鷺州家、その関係者を大勢巻き込んで思いもよらない展開を見せます。

 まだ高校生にもかかわらず、非常につらくて厳しい環境に身を置く伊綱がかわいそうで見ていてハラハラしますが、そんな彼女にも心を寄せる存在がいます。それが白鷺州涼二。「白鷺に紅の羽」では、伊綱と涼二……2人の関係性も見どころのひとつとなっています。

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切ない物語に花を添える美しい楽曲にも注目

 ストーリーに加えて、もうひとつの本作の素晴らしい要素が“音楽”です。ゲームの冒頭、伊綱のモノローグにあわせて音楽が流れるのですが、この曲があまりにも名曲で。本編をクリアしてからもう一度聞くと、それはもう泣けて泣けて……。

 フィーチャーフォンでプレイしたときも泣きましたが、時を経てG-MODEアーカイブスのSwitchダウンロード版をプレイしたときも泣きました。このレビューを書くために改めてプレイし直して、やっぱり号泣しています。

 悲しくて切ないモノローグと相まって、もうこの曲が流れるだけで泣けるのですよ! 感情がぐちゃぐちゃになるとはこういうことをいうのだなと。

 良質なミステリーとともに、心打たれる人間ドラマを美しい音楽とともに堪能できます。ぜひ『探偵・癸生川凌介事件譚 コレクション』を購入して、Vol.4「白鷺に紅の羽」をプレイして、心を振るわせていただきたいです。

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Vol.6「対交錯事件」(文:米澤崇史)

主人公の視点を切り替えながらストーリーが進行

 今回筆者がプレイしたのは、前編に収録されているVol.6「対交錯事件」です。

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 『対交錯事件』の特徴は、2人の主人公の視点を切り替えながら進んでいくこと。

 基本的に『探偵・癸生川凌介事件譚』シリーズは、癸生川探偵事務所に出入りしているゲームシナリオライター・生王正生が主人公になるのですが、本作ではもう一人のメインキャラクターである癸生川探偵事務所の助手・白鷺洲伊綱の視点も描かれることになります。

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 2人の視点は、ほぼどのタイミングでも切り替えが可能。片方の物語を進めるだけでは謎は解けないので、ある程度生王の視点を進めたら、今後は伊綱に視点を切り替えたりしながら進めていく必要があります。

「謎を解きたい」と「騙されたい」ミステリーに求める2つの欲求を満たしてくれる

 生王パートと伊綱パートは、それぞれ取り扱う事件が異なります。

 まず生王パートでは、ある大手企業に派遣社員として勤めていた浜川優美子という女性の失踪事件を調査することに。調べが進むうちに、浜川優美子は写真の1枚すら残されておらず、重要プロジェクトの中心にコンタクトをとっていた、産業スパイ疑惑も浮かび上がってきます。

 一方の伊綱パートでは、鞠浜台を中心に発生している、遺体に刻まれた2桁のナンバー以外に共通点の見出せない連続殺人事件を調査することになります。

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 個人的にこうしたミステリーものが好きなのもあるのですが、最初は無関係なように見えた2つの事件が、少しずつ重なり合って謎が解けていくストーリーは非常によくできていて、アドベンチャーゲームで一番重要なシナリオの満足度はかなり高かったです。

 もちろんネタバレになってしまうので具体的には話せませんが、クリアした時に「そういうことか!やられた!」という、ミステリーを読んだ時に一番気持ちよくなる感覚を味わえました。

 不思議なもので、ミステリーを読む時って、「謎を自力で解き明かしたい」という気持ちと、「ものの見事に騙されたい」っていう正反対の気持ちが同時に存在してるんですよね。

 本作に関しては、前者の謎解きの爽快感はしっかりとありつつ、後者の想像していなかったドンデン返し(しかもちゃんと納得ができる)が両立できていたのが素晴らしかったです。

 基本的には選択肢をミスっても何度でも選び直せるので、最終的には総当たりでもクリア可能なので、謎解きが苦手という人でも安心です(ただし、正しい選択肢を選ばないと見れないイベントもあったり、キャラの反応が変わったりします)。

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 また、約2~3時間でエンディングまで到達できる手頃なボリュームになっているので、なかなかまとまった時間が取れないという社会人ゲーマーにも優しいです。文庫の小説1冊とか、長めの映画を1本見るくらいの感覚でプレイできます。

 その分アドベンチャーゲームでありがちな中だるみ的な部分が少なく、どんどん新しい手がかりや容疑者が登場するので、1回プレイを始めたら、続きが気になって最後まで通しでプレイする人がほとんどになるのではないかと思います。

 キャラクター的なところだと、生王と伊綱の軽快な掛け合いもおもしろくてお気に入りでした。

 この手のジャンルだと、主人公が探偵でヒロインが探偵助手というのが一種のテンプレだと思うのですが、本作の探偵はもう一人のメインキャラクターである癸生川凌介で、伊綱はその助手、さらに生王はシナリオのネタ探しのために事務所に出入りしている一般人……という立ち位置なので、よくある探偵モノとはまったくキャラ同士の関係性が異なっているのが新鮮でした。

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 筆者は今回のパッケージ版発売を機に初めてシリーズをプレイしたのですが、当時遊んでなかったのを後悔したくらいにおもしろかったです。

 サクッと遊べるミステリー調のアドベンチャーゲームが好きな人には自信をもってオススメできます。この機会にぜひプレイしてみてください。

Vol.10「永劫会事件」(文:カワチ)

人々が不安に生きていた世紀末の雰囲気を見事に再現

 癸生川凌介をはじめとした個性的なキャラクターたちのコミカルなやり取りや、法で裁けない悪について描いた社会風刺の効いたシナリオが魅力の『探偵・癸生川凌介事件譚』シリーズ。

 筆者は海中に閉ざされた屋敷で起きる惨劇というシチュエーションにビビッときた『海楼館殺人事件』や、仮想世界と現実世界で絡み合う連続殺人事件の謎を解く『仮面幻影殺人事件』も好きなのですが、やはりひとつを選ぶのであれば10作目の『永劫会事件』になります。

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 ストーリーは世界情勢が不安定だったことで人々が不安に生きていた世紀末が舞台。世の人々が心の拠り所として救世主を求めていて、全国各地でさまざまな新興団体が生まれているというバックボーンになります。

 40代の筆者は思春期に世紀末を体験していますが、実際に悲しい事件が複数起きている時代でしたね。

 今でこそ笑い話ですが、“ノストラダムスの大予言”で本当に世界が滅亡するのではないかと少しでも考えていた人は筆者を含め少なくないはず。本作はそんな世紀末の暗い雰囲気がテキストやBGMに見事に再現されています。

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 そんな本作の物語は予言の月である7月上旬に鞠浜台の河川で男性の遺体が発見されるところからはじまります。

 男性はある新興宗教の幹部を務めており、当初はそのトラブルによる殺人事件だと思われていたものの、調査を進めていくうちに不審な点が見つかっていく……という展開です。

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 ザッピングシステムを搭載しており、立場も目的も異なる4人の視点で物語を進めていくことになります。

 複雑そうにも思えますが、もとが携帯アプリだったこともあり無駄な部分がなくサクサクと読むことができます。中身は濃密なのでしっかり満足感のある物語が楽しめます。

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後味の悪い結末もあるが、その“余韻”がたまらない

 『探偵・癸生川凌介事件譚』シリーズは基本的にゲームシナリオライターの生王正生と癸生川の助手である白鷺洲伊綱のふたりが事件の謎を解いていくストーリーです。

 しかし、過去の時代を描いている『永劫会事件』では一新。新米エリート刑事の工藤貴樹、フリーライターの石上雅人、女子大生の妹浦澄佳。そして、謎の情報通という4人の視点で物語を進めていくことになります。

 あまり内容を語るとこれから遊ぶ人の楽しみを奪ってしまうのですが、判明する事実や張り巡らせられた伏線の数々に驚かされます。ゲームをクリアしたあとは「ここはそういうことだったのか!」という伏線を確かめるためにもういちど最初からプレイしたくなること間違いなしです。

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 とにかく物語のなかに違和感を作っておき、後半でその違和感を回収するのが上手。『探偵・癸生川凌介事件譚』シリーズ自体がそういったギミックが得意な作品ではあるのですが、『永劫会事件』は複数人主人公のザッピングシステムであることなども使って、プレイヤーを上手に騙してくれます。

 なお、そこまで必須では無いものの、過去作の『白鷺に紅の羽』と『五月雨は鈍色の調べ』をプレイしていると理解が深まるのでオススメです。

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 ミステリーとしてもおもしろい『永劫会事件』ですが、心をえぐるような展開も見逃せません。ハッピーエンドではないですし、主人公のなかには悲惨な結末を迎える人もいます。

 しかし、だからこそ、自分が同じ立場だったらどうするべきだったのか、手を差し伸べることができる立場だったらどうするのか考える余地があります。

 いいゲームというのはプレイヤーがクリアしたあと、その人生になにかしらの影響を与えるものだと思いますが、本作も心に残り続ける作品になっています。ぜひプレイしてみてください。

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Vol.11「あねの壁」(文:ぷにこ)

災いを引き寄せる男と、優秀な相棒

 雪国の古い屋敷を舞台に、不気味な伝承と現代の事件が交錯する物語が展開する「あねの壁」。

 本作では、癸生川探偵事務所メンバーではなく、彼らと縁のあるオカルトライター・弥勒院蓮児(みろくいんれんじ)と、その助手・十六夜彩子(いざよいさいこ)のコンビが物語を牽引します。

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 弥勒院は、なぜか行く先々で事件やトラブルに巻き込まれてしまう不運体質。その特異な巡り合わせから「災いの女神に最も愛された男」なんて呼ばれることも。当の本人はまったく気にしていないようですが、結果としてオカルト方面の仕事が増えていったのだとか。……そして今回の取材も、まさにその異名にふさわしい展開を迎えることになります。

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 一方の十六夜彩子は、学生の身でありながら弥勒院の取材を手伝う頼れる相棒。どこかミステリアスな空気をまとった少女で、冷静な観察眼が弥勒院の調査を支えています。

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 ふたりは、雪国のI県へと取材に訪れました。取材対象は、大蛇を倒した娘の髪の毛が塗り込まれているという“姉の壁”の伝承です。姉の壁そのものを保管しているという屋敷へ向かいます。

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 雪の中を車で屋敷まで連れていってくれたのは、元気な家政婦の中西なつさん。そして、当主の娘である御園ゆすらちゃんが屋敷を案内してくれることになりました。

哀しき“あねさま”伝承に潜む影

 屋敷では語り部のおばあさん・御園和音さんから、姉の壁の伝承を聞きます。

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 ――むかしむかし、気性の荒い大蛇がいました。村人たちは大蛇を恐れ、年に一度、娘を差し出すことで怒りを鎮めていました。あるとき、その年の生贄に選ばれた“あねさま”が言いました。「蔵を建ててけれ。そしてその蔵の壁さ、わたしの髪を塗り込んでけれ。わたしがなんとかする」

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 訪れた大蛇が蔵を壊してあねさまを引きずりだそうとしたとき、あねさまはまじないと唱えます。すると、壁に塗り込まれた髪の毛が針となり、大蛇に襲いかかったのです。大蛇は、あねさまを道連れに息絶えました。あねさまの髪の毛を塗り込んだ壁は今も残り、そこにあねさまの姿がうつることがあるといいます。

 語りの最後、和音さんはこう言いました。「あねさまは殺されたんだよ。自分の家族に殺された」と。伝承にはないその言葉に、弥勒院さんも筆者も驚きました。語り部は、いったい何を伝えようとしたのでしょうか……。

 ところで、この伝承の内容、現実にも伝わっていそうなリアリティがありますね。実際、姉の壁の伝承は現実にはないのですが、蛇に娘を差し出す伝承や、髪などを壁に埋め込む伝承は存在します。複数の伝承を参考に創作されたものと思われます。だからこそ、自分の地元にもありそうでゾクゾクするんですよね。

雪国の屋敷に満ちる不穏な気配

 姉の壁を保管しているという屋敷は、近年テレビ番組で心霊スポットとして取り上げられたことで注目を集めていました。別の心霊現象を、テレビ局が強引に姉の壁伝承と結びつけて放送したというのです。

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 屋敷の当主である御園塩十朗は、心霊スポットとしての知名度を活かして屋敷や周辺地域を盛り上げたいと考えているようです。取材を歓迎する姿勢は好意的に見えますが、筆者としては「なんとしても盛りあげたい」というあまりにも前のめりな雰囲気に、どこか引っかかるものを感じてしまいました。

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 他にも屋敷には、伝承の調査に来た大学教授の浅井さんや、ゆすらちゃんの弟である涼夢くんなど、滞在者が大勢います。刺すような寒さの中で、弥勒院たちは壁に関する取材を進めるとともに屋敷に滞在する人々と交流を深めていきます。

伝承の影を和らげる、人の温もり

 古い伝承、幽霊の目撃談、雪に閉ざされた屋敷……。こう書くと、どこまでも陰鬱な雰囲気が漂いそうですが、本作はそうならないギリギリのバランスを保っています。その功労者が、屋敷に集う個性豊かなキャラクターたち。

 特に印象的なのが、なつさんとゆすらちゃん。ふたりの明るく朗らかな性格が、暗くなりがちな屋敷をやさしく照らす明かりの役割を果たしています。

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 もちろん、ほかにも屋敷には癖のある人物たちが揃っています。誰が味方で、誰が怪しいのか。キャラクターひとりひとりの言動を注視しながら読み進める楽しさがあります。

雪に閉ざされた屋敷、逃げ場なし

 弥勒院たちは日帰りで取材を終えるつもりでした。しかし、交通機関が麻痺するほどの大雪となり、帰路が断たれてしまいます。予定外の一泊を余儀なくされた、その夜……屋敷で殺人事件が起こります。

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 大雪のため警察はすぐに到着できません。閉ざされた屋敷の中、居合わせた者たちだけで状況を把握しなければならない……。まさに、推理ゲームの王道ともいえるシチュエーション。ここから弥勒院と十六夜の調査が始まります。我々、特殊な訓練を受けたミステリーファンは、閉じ込められるとワクワクするのです。

壁に宿る声を聞くとき

 本作の魅力は、雪国の情緒ある雰囲気と、切ない伝承が織りなす独特の空気感にあります。じっくりと物語に浸りたい方におすすめの一作。人物を把握する前編と、調査をする後編にわかれており、短編ミステリーとしてまとまりのよい構成になっています。

 物言わぬ壁と伝承は、何を語りかけるのでしょうか。雪が静かに降り積もる中、凍えるような蔵の中で、“彼女”は何かを言いたげに佇んでいます。その答えは、ぜひご自身の目で確かめてください。

『G-MODEアーカイブス+ 探偵・癸生川凌介事件譚 コレクション』商品概要

【商品名】G-MODEアーカイブス+ 探偵・癸生川凌介事件譚 コレクション
【発売日】2026年1月29日(木)
【価格】
  • G-MODEアーカイブス+ 探偵・癸生川凌介事件譚 コレクション 前編:6,600円(税込)
  • G-MODEアーカイブス+ 探偵・癸生川凌介事件譚 コレクション 後編:6,600円(税込)
  • G-MODEアーカイブス+ 探偵・癸生川凌介事件譚 コレクション コンプリートセット:16,500円(税込)
【ジャンル】推理アドベンチャー
【ゲームプレイ人数】1人
【対応機種】Nintendo Switch

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