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『ハクスラゲーム転生』著者・止流うずさんのインタビューがカクヨムで公開。ウェブで読まれてしっかり稼ぐ新時代の作家のあり方とは

文:電撃オンライン

公開日時:

 KADOKAWAとはてなが開発した小説のサブスクリプションサービス『カクヨムネクスト』で更新中の『ハクスラゲーム転生』。

 その著者・止流うずさんのインタビューが、カクヨムで掲載されました。

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 『カクヨムネクスト』は3月13日でオープンから2周年を迎えました。

 「読まれた分だけ収入になる」というサービスは、本を出したり雑誌に載せてもらったりするのとは違った新しい“稼ぎ”の道を作家にもたらしています。そこではどのような作品が読まれ、どれくらいの収入に繋がっているのか。

 『ハクスラゲーム転生』という作品が、週イチペースの更新ながら週間ランキングの上位に留まり続けている止流うずさんに、本を出さなくてもウェブで読まれてしっかり稼ぐ新時代の作家のあり方を聞いています。

 この記事では、カクヨムに掲載されている止流うずさんへのインタビュー全文をお届けします。

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「今、毎月50万円入ってきます。」


―――止流うず先生は、「カクヨムネクスト」のローンチと同時に『ハクスラゲーム転生』の連載を開始された"生え抜き”です。当時はサブスクで小説を読んでもらうウェブサービスはありませんでした。どのように思われましたか。読者がついてくれるのか、読んでもらえるのかといった不安はありませんでしたか。

止流うず(以後、止流)
日本にはあまりなかったサービスですよね。pixivのFANBOXとかnoteのように、有料で作品を売るようなものではなくて、作家を集めてサブスクで読ませるというのはありませんでした。だからちょっとやってみようかなと思いました。不安はなかったですね。昔からウェブマガジンのようなものがあったじゃないですか。そういったものをやりたかったので、これは面白そうだと思いました。

―――作家の方が収入を得ようとすると、本を出して印税をもらうなり、雑誌に載せて原稿料をもらうといった方法が一般的で収入も予想できます。サブスクの場合どれだけ読まれてどれだけ稼げるか分かりません。それでも惹かれるところがあったのですか。

止流
実は、僕は書籍化っていうのがあまり好きではないんですよ。作家が書籍だけで暮らしていくとすると、年に3,4冊は出さないといけないじゃないですか。

 それで1冊出して50万円くらい入ってきたとしても、重版されなければ全然暮らしていけません。おまけに、そうした枠を目指して皆でパイを取り合っている状況です。

 それなら、サブスクのようなもので皆で稼ごうとするようなサービスがあれば嬉しいと思っていたんです。だからとりあえずやってみるかといった感じで乗りました。

―――やってみて2年、どのような手応えを感じていますか。

止流
今、毎月50万円入ってきます。


―――明かして大丈夫なんですか?

止流
大丈夫ですよ。というより、むしろ出して欲しいくらいです。僕の場合はランキングで1位じゃないんです。3位とか4位で、それで毎月書籍を出すぐらいはお金が入ってくる訳です。そのことを知れば、皆さんも「カクヨムネクスト」で頑張ってくれるかな、みたいな思いがありますね。

―――「カクヨムネクスト」にはプロの作家も参加していて、他にも「カクヨム」でも人気の作家が入って来て競争がありました。その中で稼げないまま埋もれてしまうような心配はなかったのですか。

止流
「カクヨム」にサポーターズパスポートという作家への支援制度があって、僕はその当時で月間700人から800人の方がいたんです。

 このこともあって「カクヨムネクスト」に移っても100人くらいの方には読んでもらえるかなという自信はありました。そもそも「カクヨムネクスト」は皆でやるものなので、僕以上に強い作家がいるんだろうという気持ちは持っていました。

ストーリーではなく、キャラクターで読ませる。


―――そうは言いながらも、蓋を開けたら『ハクスラゲーム転生』はずっと上位に入り続けています。作品が面白かったことも当然あると思いますが、他に何か読まれるための工夫のようなものはしたのですか?

止流
自分の作品のどこが面白いかよく分かっていないんですが、「カクヨムネクスト」の基本として20話まで無料ということだったので、そこまでに面白いことを置こうという作戦ではいました。

 ある程度テンプレートのような展開にして、主人公というものを10話までにはしっかり見せて、それを最初の引っかかりにして物語に入ってきてもらおうとしました。

 追放ものの場合、読者が読みたいのは追放した側がざまぁされるようなところで、主人公はどうでもいいと思われてしまいがちなんです。そこでテンプレを借りながら主人公を見てもらうことを意識して書いていました。

―――キャラクターを強く打ち出してその関係性で読んでもらうような感じですね。

止流
読者の人は基本、ストーリーはあまり追いかけたくないんです。要は主人公とかそういう人たちの動きが見たいんですね。僕は、書いてる時に「週刊少年ジャンプ」を参考にしているんです。

 最近だと『呪術廻戦』が人気ですよね。今のアニメでやっている「死滅回遊編」は戦闘ばかりが続きます。『ハクスラ』でも戦闘シーンが長く続く時があったんですが、ここら辺で戦闘は止めた方がいいかなと思った時、『呪術廻戦』を見たらずっと戦ってばかりだったので、これなら大丈夫だと思って戦闘シーンを続けました。

 それで読者が減らなかったので安心しました。キャラクターなんですね、見せるべきなのは。

―――戦闘シーンがスリリングで引き付けられるところもあったからだと思います。他に何か工夫のようなものはされているんですか?

止流
そうですね、手触りのようなものを意識して書いていますね。会話をするにしても食べながらとか何かに触れながらといった感触を織り交ぜています。

 ちょっと生々しい言い方になりますが、"肉”を混ぜるといったことみたいな。それを文字でやっているのは珍しいかもしれないですね。AI文章というのが流行ってるじゃないですか。あれは"肉”がないんです。

 AI が"肉”を理解できないからだと思うんですけど、要は触れた感触というものが出てこないんです。

―――AIには出せない"肉感”めいたものがあると、やはり読んだ時に印象が変わってきますか? 自分もそこにいるような気持ちになるといったような。

止流
そうかもしれませんね。そうしたことをなるべく意識しています。あと、僕以外やってる方をあまり見ないんですが、登場人物の名前が出た時に肩書きのようなものを一緒に書くようにしています。

 「アリス」というキャラクターが出てくるとすると、読者の中に「アリス」というのはいっぱいいるんですよ、他の小説にも出て来ますから。そういう時に、「伯爵令嬢のアリス」みたいな感じに書くよう努力しています。

 最初に説明してあっても読者の方はたくさん小説を読んでいるので忘れてしまうんですよ。そこで肩書きが書いてあると「ああ、こんな奴いたな」と思い出してもらえます。そうした努力はしています。

毎日更新はしない。書籍化よりウェブで書きたい。


―――ここまでは小説を読んでもらうための作法のような話でしたが、ネット連載の場合は更新の頻度についてもいろいろと言われています。読んでもらいやすい時間帯に更新するとか毎日更新するとか。止流先生はここで週イチペースというあまり例のない頻度で更新を続けています。何か理由があるのでしょうか?

止流
毎日更新される作品の読者は、毎日刺激をもらえて脳にアドレナリンが出ます。これが更新が止まるとアドレナリンが切れちゃうんですね。

 そこから再開しようとすると、読者の方の中で評価が下がった段階から勝負しなくてはいけなくなります。

 それなら、週に1回の更新でもしっかりしたものを書いていこうと思いました。

 実は、前に毎日更新というものをやってみたことがあったのですが、僕が疲れてしまいました。これは僕の持論ですが、毎日更新し続けていると話が雑になってくるような印象があります。

 「カクヨムネクスト」の場合はお金を出してくださる読者の方が相手になるので、それが1000人いるならその1000人にしっかりしたものを書こうと思いました。

―――ここまで人気がありながら、書籍化にはあまりこだわっていないもの、「カクヨムネクスト」上でしっかりと読者の方に読んでもらえること、サブスクでしっかり稼げていることがありそうですね。

止流
書籍化には労力がかかることもあります。文字や表現にネットとは違った規制がかかってしまうことがあるんですよね。出版社によっては使えない言葉もあります。

 あとは、ネット媒体の強みとして文字を盛ることができるんですよ。書籍化の場合は逆に削ります。ページ数が決まっていますから。描写を削ってストーリーを進めなくてはならないので、そこに"肉感”を混ぜる余裕がなくなってしまうんです。

 だから、僕にはウェブの方が書きやすいというところがあります。今、「カクヨムネクスト」が盛り上がっているからこういうことが言えますが、盛り下がっていても気にしなかったと思います。僕はもう「カクヨムネクスト」と心中すると決めているので。

―――「カクヨムネクスト」にとっては嬉しい言葉です。実際、止流先生の場合は以前に書籍を刊行された経験もありますから、書籍化についての意見には重みがあります。本が出れば出たで今度は売るためにアピールしなくてはなりません。刊行点数も多いですから手に取ってもらうまでが大変です。

止流
何万人というフォロワーがいて、何万件というインプレッションがあるポストに小説の宣伝をぶら下げても、誰も読もうとはしないでしょう。SNSは長い文章を読みたい人の為のツールではないので。

 仮に小説の内容がバズれば読んで見たいという人もいるかもしれませんが、そういうことは年に1回あればいいところです。そうしたことに気を向けるよりは、作家はやはり作家のことだけをしていた方がいいという思いはあります。

 作家以外のこと、例えばSNSでバズらせてPVを上げようとすると、目的がブレて面白い小説ではなくなってしまう気がします。小説としてのクオリティを高めるために、不純物は削っていきたいと思っています。

―――ネット小説の場合、連載していく中で読者のリアクションというものがあって、それを反映させていくことで読者の期待に応えビューを伸ばすような方法も取られます。止流先生はそうしたコミュニケーションなりインタラクションについてどう考えていますか。

止流
コメントを見てよく分からないというところがあれば文言を足します。誤字脱字の報告があれば修正しますが、キャラクターで読ませるということを意識して書いているので、読者の意見でキャラクターの行動が変わることはありません。ブレてしまいますから。僕の方が芯を持ってやっていくことが大事だと思っています。

「重たい小説を書いていきたい。」


―――『ハクスラ』の内容についても聞かせてください。いわゆる追放ものですが、主人公のエドワードが自分からパーティに愛想を尽かして出て行くところに意表を突かれました。

止流
そもそもの疑問として、無能を理由として追放された奴とヒロインがくっついて欲しくないというのが心情としてありました。だから、ちゃんとした有能が追放されるにはどうしたらいいかという前提で、いわゆる追放もののアンチとして書き始めたところがあります。

―――「二十四貴」という超強い魔族がいて、対決し倒していくようなスリリングなところもあります。

止流
苦戦するように頑張った感じですね。エドは調子に乗っているキャラクターという感じがあります。自分はこの世界を全部知ってるぞ、知っているから何でもできるぞ、僕は強いぞという。そのエドがなるべく苦戦するように相手を強くする感じです。

 一瞬で終わったら僕が書いていてつまらないんですよ。僕自身、先が見えないくらいがちょうどいいという感じでやっています。最初の強敵の時ももしかしたらエドは逃げるかもという感じで書いていました。

―――「二十四貴」として最初に対決する青藍公の正体には驚かされました。

止流
敵はなるべくグロテスクでいた方が良いと思って書いています。ビジュアルが良くて人間のような敵だと情みたいなのが出てくるじゃないですか。そういうものをなるべく排して、理解不能な怪物を出したいと考えています。

―――そうかと思えば「聖剣姫」シルヴェリアのような剣になる美少女というキャラクターも出てきます。

止流
シルヴェリアのアイディアは安井健太郎先生の『ラグナロク』という小説に出て来た、体の中に金属の武器を埋め込んで戦う敵が原型ですね。そうしたものとか、アマチュアの方が作っているフリーゲームのようなものから面白そうなものを、僕の中で咀嚼して混ぜ合わせて出しているところがあります。

―――今は第二章に入っていますが、今後の展開はどのようになりますか。

止流
「二十四貴」とかどうしようというところはありますね。どんどんエドワードが強くなってしまうので、そこは工夫しながら書いていきます。あとは場所を移動していくので、物語世界の広さというものを表現して、読者の視点を広げていきたいですね。

 作品の重みに関しては、なるべく軽くしないように気をつけています。僕が好きなものを書くということが前提にあるので、やはり重たい小説を書いていきたいです。

 この前読んだ本条謙太郎先生の『汝、暗君を愛せよ』も重かったですね。ああいう重みがある作品が多いと嬉しいですね。やはりお金を出して読んでいる方は、軽いものをお金を出してまで読みたくないだろうと思っています。

 軽いと読者の方の離脱率が高いような気もしています。同じような文体の方に流れていってしまうのかもしれません。

―――魔族と人類の大激突みたいな大きな話になっていくのでしょうか。

止流
なるべくやりたいですけど、そこまで連載が続くかはまだわからないので、その時になったら気合を入れてやっていこうと思います。ただ、あまり先のことは考えていません。先が見えてしまうと僕自身が萎えてしまうので。

新しい人があがってきて、バチバチのランキングバトルがしたい。


―――「カクヨムネクスト」での戦い方や、止流先生ご自身の小説への思いをうかがってきましたが、これだけノウハウを明かしてしまって新しい作家の方々に負けてしまわないか心配ではないのですか。

止流
ノウハウは明かしても良いんです。新しい人に「カクヨムネクスト」での戦い方を覚えてどんどん参加してもらいたいんです。僕はランキングバトルが大好きなんですよ。

 その意味で今の「カクヨムネクスト」の総合ランキングはちょっと新規の方に不公平ですね。主に作品のPVで順位が決まるので、僕も含めて話数が多い人、それこそ1年間毎日更新を続けた人のほうが圧倒的に有利なシステムになっています。

 それだと新規の人は露出しにくいので上にはいけず、ランキングブーストがかかりにくくなります。だからそうした新連載作品への読者の導線をしっかり作って欲しいですね。

―――それでご自身のランキングが下がっても構わない?

止流
僕は下から人がバチバチと上がってきて、僕も頑張らなければ落ちてしまうということがやりたいんです。

 だから挑戦者はいつでも大歓迎です!

―――切磋琢磨こそが繁栄をもたらすということですね。「カクヨムネクスト」への思いも聞かせて下さい。

止流
今の最前線なんですよね。WEB小説でお金を取って読んでもらうサービスは、国内で大きいものは「カクヨムネクスト」だけ。紙の本を出さなくても作家として稼いでいけるプラットフォームの成長は、僕ら作家にとって、この先もとても大きな支えになりうると思います。

―――最後に改めて読者の方へのメッセージをお願いします。

止流
見捨てないでくださいという、その1点です(笑)。長く続けていると、どうしても読者は減ってくものなので、なるべく見捨てられないように、これからも頑張っていきます。

―――本日はありがとうございました。

聞き手・文:タニグチリウイチ

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