電撃オンライン

なぜ無料? アークハイブ・フィルハーモニック・ウィンズに聞く今後の抱負。7月公演では『ポケモン』『ゼルダの伝説』『グランディア』などを演奏【岩垂徳行インタビュー】

文:ことめぐ

公開日時:

最終更新:

 2021年に結成されたゲーム音楽専門非営利吹奏楽団“Arc-hive Philharmonic Winds(アークハイブ・フィルハーモニック・ウィンズ)”。

 さまざまなゲーム音楽のコンサートを無料で実施しており、2023年1月に開催された第1回公演では『グランディア』などの楽曲が演奏され、第2回公演では『ファイアーエムブレム』シリーズ、『UNDERTALE』、『ラングリッサー モバイル』『逆転検事2』などの人気楽曲を披露。2025年1月開催予定の第3回公演では『百英雄伝』『ラグナロクオンライン』『原神』『グランディア2』の楽曲が演奏されることが発表されています。

[IMAGE][IMAGE]

 直近では2024年7月6日(土)に東京・八王子で
“Arc-hive Philharmonic Winds 2.5th Concertアンサンブルコンサート ~八花繚乱~”(無料)、2024年9月23日(月)に東京・武蔵野で“能登復興支援のための『ウインドボーイズ!』コンサートin東京”(有料)が開催予定でチケット発売中です。


 本記事では、楽団の団長・村上晶紀さん、『グランディア』『ラングリッサー』『逆転裁判』等の作曲家でお馴染みの指揮・顧問を務める岩垂徳行さんに、楽団への想いやゲーム音楽等についてお伺いしたインタビューの後編となります。

 後編では、コロナ禍での音楽活動や楽団のこれからの抱負、そして次回の公演についてたっぷりお伺いしました。

 なお、前編を未読の方は、まず下記の関連記事からお読みくださると、よりお二人を深く知ることができると思います。

●関連記事

コロナ禍ならではの音楽活動や練習の苦労話


──楽団の結成タイミング的にコロナの影響もあったと思います。楽団結成は、コロナ禍があったからこそやろうだったのか、それとも「これから始めよう!」という時にコロナ禍になってしまったのでしょうか?

[IMAGE]
▲岩垂徳行さん(左、以下岩垂)、村上 晶紀さん(右、以下村上)。
村上
:両方ですね。元々温めていたものはあったんです。コロナで自粛となった時はプロ公演でさえも公演中止の状態でした。

 ですが、ちょうど、ある程度感染対策の情報が出てきたタイミングでもありまして。YAMAHAさんが金管の飛沫がどういう風に飛ぶのか実験結果を出したり、全日本合唱連盟から合唱はどのくらい離れれば大丈夫みたいな話が出てきてところでした。だったら今楽団を作り始めて、もう少し情報が出たら安全にできるのではないのかという思いもあって始めました。

 もちろん、検温や消毒をはじめ、演奏しない時は常にマスクをしてね、というのは口酸っぱく言わせていただいたりしました。

 特に気をつけたのは換気ですね。サーキュレーターで空気を循環させて、休憩になったら音出しを完全にストップさせていました。ただ、吹奏楽はとにかく息を吹くので、大人数だと本当に酸欠になる危険が出ることもありまして。

 合宿所の出入り口近くに二酸化炭素濃度測定器があったんですけれど、出入り口で一番空気が循環する所ですら「ピピピピ……」とずっと鳴っていることもありました(苦笑)。なので、奥の方にもきちんと酸素をいきわたらせるという意味でも、サーキュレーターが活躍してくれましたね。

──吹奏楽器ですし、アークハイブさんは100人以上の規模で、大人数での練習も多いでしょうから、なおさらですよね。

岩垂
:これだけの人数でやるとなると、こんなことが起きるんですよ(笑)。音が漏れないように、密閉気味の防音室で練習することも多いですし。

村上
:あと、当時は急遽休む人も多かったので、録画もしていました。練習録音はどこの楽団もやっていると思うのですが、録音だけだとどういった風な様子なのかが分かりづらいんですよね。

 そこで我々は指揮を振る姿も録画する形にしようと、指揮棒を持つ岩垂さんの真ん前にカメラを置いたのですが……最初はすごく不満を言われましたね(笑)。

──やりにくかったですか?(笑)

岩垂
:邪魔だなぁ! って思いました(笑)。

村上
:その録画が、休んでいる人にも好評だったんです。なので、コロナが落ち着いてきた今でも、休んでいる人向けの復習用に録画は続けています。

──アークハイブさんは、第1回から有観客でやっていましたよね。

村上
:はい、運にも助けられ、有観客で行えました。ちょうど感染対策をすればいいよというところまで落ち着いてきたタイミングでしたので。でも、本当に戦々恐々としてました。団内で感染者が1人でも出たら、直前でも公演中止を検討しないといけないという状況でしたので、とにかく感染防止対策を徹底しましたね。

──まだ無観客で行うイベントもある時期でしたよね。

村上
:直前まで無観客で開催するかというのは少し悩みました。ただ、それでも有観客でできたというのは、幸運ですね。

──コロナ禍でいうと、岩垂さんはYouTubeでもいろいろな活動をされていた印象があります。

岩垂
:コロナの自粛ムードなどで自分も周りのみんなもやる気がなくなっちゃったんですよね。だからこそ「みんなを元気にするために、なにかやろう! やらなくちゃ!」と思って、まず以前にライブを一緒に行ってた『逆転裁判』のメンバーと曲を作り、『ロックマン』のメンバーと録音し、『ワイルドアームズ』のメンバーとも録音したんです。

 またこの頃、文化庁などが音楽活動を応援していたので、小寺可南子さんと新曲を作ったり、友人の家族の曲を作ってそこに応募したりと、いろいろな動画作りにも挑戦してみました。

 ただ、そこで頑張ったぶん、ちょっと燃え尽きて力尽きた感じになっちゃいまして。仕事はもちろんあったんですけど、「この先どうなるのかな?」という不安があって、何も考えられない時期もありましたね。

[IMAGE]
▲歌手・小寺可南子さんの「だれカナちゃんねる」で公開されている『ぎゅっとね』。岩垂さんは、編曲・演奏・映像編集・イラストの色塗りを担当されています。

 でもね、それだけじゃなぁと。もちろんそれも楽しかったんですけれど。いろんなコンサートが無観客で行われるという“つまらなさ”を僕はいろいろなコンサートで体験をしていて。そういうタイミングだからこそ、村上くんの話にワクワクして、アークハイブに参加することにしたんです。


 去年ですよ、去年やっと僕の中では「戻ってきたな」と思いました。去年トランペット奏者のエリック・ミヤシロさんと会って、「やっと戻ってきたね」という話をしました。「普通に仕事ができるようになったよね」と。

 だからこれからもう一度、新たにお客さんと一緒に何かを作っていけたらいいなと思っています。



なぜあの高クオリティで無料? 無料公演のメリットとデメリットを聞いてみた


──どこかで聞かなければと思っていたのですが、「あの演奏クオリティで無料っておかしくない?」という話をよく周りとするんですけれども、差し支えのない範囲でなぜ無料なのかを教えていただけますでしょうか。

村上
:メリットとデメリットの話で。ぶっちゃけ有料にした方がデメリットが大きいんですよ。例えば、有料公演だとホールの使用料金が大きく上がってしまいます。

 また、有料公演の場合は楽曲使用の許諾が難しくなる部分も大きいです。無料での演奏については許諾をしてくれることが多いのですが、お金が動く場合はNGが出ることが多いんです。

 有料公演にすることで手間が増えて、かつ許諾も下りず、観客のみなさんも無料公演よりも集めにくくなるリスクも増える……。なら、もう全部こちら(楽団)の負担でやってしまった方が奏者も安心して演奏できますし、いいんじゃないかなと。

 楽曲の権利問題はいろいろ複雑な部分もありまして、例えば一般楽曲の場合はJASRACさんやNexTone(ネクストーン)さんなどが預かっている場合、有料公演の相談がスムーズな部分があります。一方、ゲーム音楽は各ゲーム会社が自身で管理するという風土があるので、有料公演に関する交渉や許諾は難しいことが多いですね。

岩垂
:ゲーム音楽の権利問題をとりまく環境は少しずつ変わってきている部分もありますが、まだまだ模索中の部分もありますね。

村上
:9月23日に行う“能登復興支援のための『ウインドボーイズ!』コンサートin東京”は有料公演ですが、こちらは復興支援のためであり、関連会社の方々のご理解もあって実現できた特別なケースとなります。我々が儲けるためではなく、あくまで復興支援のための有料公演というスタンスです。


開演前まで油断できない!? 岩垂さんのサプライズに団長も奏者も驚きっぱなし


──過去に開催された第1回公演、第2回公演を振り返ってみて、いかがでしょうか?

村上
:団員の人数はそこまで集まらないと思っていたのですが、蓋を開けてみたら100人規模の応募でビックリしました。

 一部楽器でも人数の偏りが出ると全体のバランスが崩れがちですし、あまりに応募人数が多すぎるので一定数はお断りするしかないと考えていたのですが、岩垂さんが「いや、全員入れよう」と(笑)。

一同:(笑)

村上
:「バランスは僕達が何とかするから。ね、山田くん(※岩垂さんと一緒に指揮を務める山田雅彦さん)!」と(笑)。

 (通常の編成に比べると)決して綺麗な編成ではなかったんですけれど、せっかく応募いただいたのでみんなで楽しくやろうと覚悟を決めました。最終的にトレーナーのみなさんも納得してくださいました。

 そして第1回目にやってみたら、意外とバランスがよかったんですよね。そんなこともあったファーストコンサートについて、アンコール曲で『GRANDIA(グランディア)』の“戦闘3”を演奏し、そこで主人公のジャスティン役の声優・瀧本富士子さんが演奏中にセリフをしゃべる演出があったのですが……これ、なんと本番の5日前に決まったんですよ。


──えぇっ!?

村上
:岩垂さんと瀧本さんを含むLINEのグループがあるんですが、そこで急に演奏中にセリフを挟む話が出まして。「戦闘シーンだから、やっぱり叫ぶよね?」と言い出して。「それはそうだけど、それはゲームですよ?」って言ったんですが、やろうやろうって話になっていき……やるしかないかと。

 団員用Discordに「ごめん、演奏中にセリフ入る」と言ったら、「はぁ?」という反応が来ました(笑)。

──ゲームでしたら、セリフに合わせて音楽のボリュームが下がって、声が聞きやすくなりますよね。

村上
:そうですね。でも、ウチは人力です(笑)。「ここからここにセリフが入るから、ここはボリュームを落としてね」と言って。

 セリフが聞こえやすくなるように一部パートは演奏を止めるといった調整も進めて、本公演当日のリハーサルでもギリギリまで調整しました。なので、セリフが入るところだけ二段階くらいガクッと音が下がって、セリフが終わったらガ──ーッと上がるみたいな感じになりました。人力フェーダーです(笑)。

──アーカイブ動画でも聞けますが、あの音量調整を生演奏で行うのは大変だっただろうなぁと思いました。セリフ入れが決まったのが5日前と聞いて、さらに驚きです(笑)。

村上
:はい、本当に直前だったんです。「最終練習終わったけどなぁ」と思いながらやってました(笑)。

岩垂
:そんなものだよ。楽しいことを思いついたら、全部やらなきゃ(笑)。

村上
:岩垂さんと瀧本さんで「何の必殺技叫ぶ?」と話をしていて、「せっかくだからドラマCDでしか言っていない技も叫んじゃおうか!」と、楽しそうにしていました(笑)。

 第2回公演でもセリフに関する裏話がありまして。『ラングリッサー モバイル』の楽曲演奏に関連して、エルウィン役の声優の保志総一朗さんが録音形式で声の出演をしてくださることになりまして。奏者には少し秘密にしておいて、どこかでドッキリさせようなんて話をしていたのですが……私への事前共有なしで、リハ当日に岩垂さんが「呼んできちゃった」と言い始めまして(苦笑)。

 「スペシャルゲストです~!」と保志総一朗さんを呼び入れたら、練習ルーム内で黄色い悲鳴が起こりましたね。

岩垂
:なんか不思議な繋がりでね。その時に一緒にお仕事をしていた小寺可南子さんが、保志総一朗さんとIsla・la(アイララ)という音楽ユニットを組んでいて。で、保志さんといえば『ラングリッサー2』の主人公のエルウィンも演じているなあと。

 で、演奏前のナレーション的な声の出演をお願いしたんだけど、保志さんは結局、当日コンサート会場にもいましたね。


村上
:観客として来られてましたね。


[IMAGE]

──『ラングリッサー モバイル』でいうと、日本未公開曲も演奏されましたよね。

村上
:はい。『トイバール』ですね。もう日本でも実装されたので言えますけれど、あの曲、実はかなり前(楽団創設の話し合いの時)から岩垂さんは「今書いてる曲があるから演奏したいよ」とおっしゃっていたんですよ。

 そうしたら、第2回公演で本当に演奏することになりまして。ただ、大きな問題として、日本では未実装の状況だったので、曲名も公にはできないという(苦笑)。そこから「名前の言えないあの曲」ということで、LINEでも「本当にマジでやばいから!」と大騒ぎになりました。

岩垂
:間に合うはずだったんだよ。いろいろ話を聞いてそろそろ実装されるって聞いていたし。だけど、公演時点では日本版には実装されなくて中国版のみだったんですよ。間に合わなかった! 残念(笑)。

村上
:中国版のトレーラーが出たのが夏くらいで、本当に公演ギリギリでしたが、公に発表されたので、ちょっと安心しました。最初、岩垂さん自身も中国版のトレーラーが出たのに気付いてなくて、「これってあの曲ですか?」と聞いたら「あ、それだね」と返信が来たぐらいドタバタでした(苦笑)。

 なので、本番にも仕掛けをさせていただいて。公演前は曲名が文字化けした形でパンフレットに掲載をしていました。……一部の勘のいい『ラングリッサー』のファンの方達はそれを解析して、「これあの曲じゃん!」と気づいていたようですが(笑)。ちなみに電子パンフレットだったので、公演後には文字化けを直すという仕掛けも行いました。

──毎回面白い仕掛けがあるんですね。

岩垂
:そんなに毎回はしないよ。次回公演は何もないんじゃないかな(笑)。

村上
:大体岩垂さんが色々面白い話を振ってくれるので、うれしいけれども、怖いんですよね(苦笑)。うっかりまた歌手の方とか呼んでこないですよね……?


──先程お聞きした感じですと5日前に突然話が来ることもあるようですので、ギリギリまで油断はできないのかもしれませんね。

村上
:いろいろと突然話を持ってきた前例があるので、我々の間では直前に何かあるかもしれないと心の準備はしています(笑)。

岩垂
:そういえば、『百英雄伝』の楽曲演奏も、あとから追加したものだったよね。

村上
:そうですね。5月に“劇Bang!!JAPAN 2024”で演奏した『百英雄伝』の曲は途中で増えました。最初からずっと4曲演奏だと公開していたんですが、急に岩垂さんから「1曲増やしていいって?」というLINEがペッと飛んできたんです。

 それがちょうど本作のプロデューサー・村山吉隆さんの訃報が流れてきた時でして。そのタイミングでのお願いだったので、私はもう察して「これは断れないな」と思いました。本作のサウンドプロデューサーからも、ぜひやってもらいたいというお話もありまして。

──どのぐらいのタイミングだったのですか?

村上
:リハーサルが始まる直前ですね。2月中旬ごろに訃報が出て、3月3日のリハには間に合わない、みたいな感じでした。

 ちなみに団員から「もう曲増えないよね?」って言われて、「もう流石に曲は増えないから! 絶対!!」って言った翌日にこの話を団員に展開したので、団員からは「増えないって言ったじゃん!!」って怒られました。

 そこから岩垂さんが「難しい! 難しい!」と言いながら編曲をされて、譜面が上がって、なんとか……。正味1か月ぐらいでしたよね、練習期間。あまりにも難しくて、急遽トランペットを1人追加して。でもなんとか本番は形になったので良かったです。

──観客的にはうれしいですが、演奏する皆さんとしてはびっくりですよね。

村上
:「これ以上のRTAはやらねーぞ!」と言っていた矢先に、まさかの4月23日の『百英雄伝』発売から数週間後、5月6日のコンサートで最速公演という、またなんかよくわかんないことをしちゃうことに(笑)。

──ハードルが上がっていってますね。

村上
:そうなんですよ!

岩垂
:もう上げないよ(笑)。


今後のアークハイブの公演の注目ポイントは?


──ここからは、今後の活動についてお聞きします。7月6日に開催される2.5回公演“八花繚乱”の抱負についてはいかがでしょうか。

村上
:第1回、第2回共に、100人超えのメンバーでやっていて、アークハイブは大人数でグワッとやるよということがみなさんにも認識されたというところで、今回は少人数のアンサンブル構成です。最小4人くらいで、大きくても20人規模ですね。

 金管五重奏とか木管五重奏とかではない、よくわからない編成の、本当にここでしか聞けない変な編成の楽曲が楽しめるかと思います。

──逆にあまり普段聞いたことがない音で聞けるというのは楽しいですね。

岩垂
:メンバーが上手な人が多いので、こんな人たちがやるからまとまるんだと思いました。

──9月23日に開催される『ウインドボーイズ!』公演についてはいかがでしょうか。

村上
:なんらかの形で能登復興に協力したいということで始めたものになります。先日残念ながら、ゲームサービスは終了となりましたが、ある意味オフラインイベントになるかと思うので、ぜひ『ウインドボーイズ!』のファンのみなさんにお越しいただいて、楽しんでいただければと思います。

 イベントとして楽しんでいただき、かつ復興支援になるなら、我々としても一番嬉しいことですので、みなさんにぜひ来ていただきたいなと思っております。



──ゲーム的には吹奏楽をモチーフにしているので、演奏にぴったりですよね。

村上
:まさに私どもにぴったりな題材だったので、いつかやりたいねと思っていたら、まさかのこのタイミングで演奏ができる、けれどもサービス終了……ということで感情が追いつかないですけれど、それは置いておいて、まずはやっぱり楽しみながら頑張っていきたいなと考えてます。

──今後の楽団としての抱負、夢、ロマン的なものがあれば教えていただけますでしょうか。

村上
:岩垂さんと常々言ってますが、夢は武道館ですね。演奏メンバーについて100人は超えたから、次は1000人でいけるだろうと言い出しています(苦笑)。

岩垂
:客が9,000人で、奏者が1,000人。

一同:(笑)。

村上
:あと、楽団活動について30年は続けたいですね。岩垂さんが30回に達するまではやりたいとおっしゃっているので。

岩垂
:本当にそうですよね。こういうことは長く続けることがすごく大変だと思いますが、長く続いてくれると、いろんなことが、いいことが起きるような気がするんです。

 こうやって活動を数年続けてきたなかでも、演奏できる人達がどんどん増えていってますし。これがどんどん広がって、全国に広がって、世界に広がっていくと、1つの音楽が世界をパーッと埋め尽くすんじゃないかなと思っているんです。

 1つの譜面でいろんな所で演奏してくれれば、それが集まったらドーム公演も可能なんですよ!

一同:(笑)。

岩垂
:僕はドームを狙ってますけれど。5万人で。

──観客の数もですけれども、奏者の数もどんどんどんどん増やしていくと(笑)。

村上
:そういう意味では、思った以上に第1回が終わった後に第2回も乗りたいというお声が非常に多くて。喜ばしい悲鳴でした。

 第1回、第2回、第3回とどんどん人が増えて、もちろんなんらかの事情で1回離れてしまう方もいらっしゃるんですけれども、そういった方々もまた落ち着いたら戻ってきてもらいたいと考えて、半常設という今の状態で長く続けていける体制を早めに整えたいなというのは、今後の抱負としてあります。

 それこそ“ハイブ(巣)”ということで、戻ってこれる場所を作ることは頑張っていきたいなと考えています。



──先日の“劇Bang!!JAPAN 2024”、次回の第2.5回のようなものも含めて、年1回で大きな公演があることは、観客側としても嬉しいですね。

村上
:そこに関しても、まだまだいろいろ模索しています。今回はメンバーの希望の声もあり、アンサンブルオンリーの回というのをやってみるという流れになりました。

 活動を続けていく中で問題点、改善点というのは絶対出てくると思いますが、団体が長く続くためにはどうやっていけばいいのか、トライアンドエラーでやっていければなということは考えています。

──まだ先ではありますが、2025年に開催される第3回公演「Journey of the Quests(探求の旅路)」について教えていただけますでしょうか。

村上
:第3回は『百英雄伝』『ラグナロクオンライン』『原神』『GRANDIA Ⅱ(グランディア2)』を演奏します。公演名が“Journey of the Quests(探求の旅路)”ということで、今回はオンラインゲーム作品も選んでいます。

 『ラグナロクオンライン』などのオンラインゲームは自分が自由にストーリーを紡げますし、『グランディア2』などは冒険譚であり、それこそ世界中の“旅”が目的になります。そして“Quests(クエスト)”には“自分自身の探求”とい意味もありますし、“ゲームのクエスト”も含めてダブルミーニングとなっています。オンラインゲームでもサイドクエストは自由にできますよね。

 自分ならではの道を見つけていくゲームを揃えたということで、“Journey of the Quests(探求の旅路)”というタイトルをつけました。全部冒険譚が根底にあるものなので、こういったテーマをつけさせていただいてます。

 『ラグナロクオンライン』と『原神』はメドレーでの構成を考えています。基本的には各地を回っている曲、フィールドや拠点のテーマ曲でしたりとか、この曲を聞けばプレイヤーは自分もこの順で回ったとか、ここはこの曲だったよねと思い出していただけると思います。

 特に『ラグナロクオンライン』は20年続いているゲームでコアなプレイヤーさんもいらっしゃると思いますので、こんな思い出あったよなと思い出していただければということで諸国漫遊なメドレー構成を取らせていただいています。

 私自身も『ラグナロク オンライン』は、日本サーバー正式サービス直後のころから遊んできた思い入れの強いタイトルで、いつかやりたいと思っていました。『原神』はプレイしている団員が多く、演奏したいという声も大きかったです。

──アークハイブといえば、『グランディア』のメインテーマの印象が強くあります。今後の公演でも演奏されることを楽しみにしています!

村上
:なかばアークハイブのテーマ曲的な感じになり始めていますね。面白いことに『グランディア』のテーマだけ音圧が違うんですよ、奏者の。

岩垂
:あれ、毎回譜面書き直してるの。パートが増えてくんですよ。

村上
:第1回はコーラスがなくて、第2回はコーラスが増えて、さらにフィードバックがあったところを改定されて、この前のコンサートでもちょこちょこと変わってきているので、「どの譜面が一番最新のだっけ?」となることも(笑)。

 先日も譜面をチューバ奏者に流したら「チューバとユーフォが同じ譜面なんだけど」と言われて「嘘でしょ?」って(笑)。岩垂さんから「あ、ごめん、変えてあったわ」と言われました。

 常に変化を続ける楽曲ですし、奏者が変わるとやっぱりサウンドも変わるんですね。でも根底としてこの曲はこういう感じ、ということが団員にも染み付いているので……本当にこの曲ではみんな元気がいいですね。

岩垂
:ありがたいことだね。

──最後にゲーム音楽を愛する読者のみなさんへメッセージをお願いします。

村上
:“アークハイブ”は、私自身がゲームが好きで始めた団体でもあります。やはり、ゲーム音楽は、他の劇伴曲とも毛色が違うと思うんですね。ある意味フィードバックが来る楽曲だと思うんです。

 それこそ自分が操作をして町からフィールドに出たらフィールドの音楽になるし、フィールドを自分で歩いていたら曲が切り替わったり、昼と夜で曲が変わったり。BGMではあるんだけれども、自分がアクションを起こしたことに対しての応答がある曲というのは、ゲーム以外にはあまりないと思うんですね。

 演奏したい人はもちろん演奏していただいて、聞くのが好きな人もぜひ電子音ではなく生音で聞いてもらいたいです。今は結構生音を収録しているゲーム音楽も多いですけど、それでもやっぱりホールで聞くのは音圧が全然違うんです。

 吹奏楽だからとか毛嫌いはしないで「こういう解釈もあるんだ」という感じで、ぜひ今まで来たことがない方々も、なんらか知っている曲があればぜひ来てもらいたいな思っています。

 私もそうなのですが、人ってやっぱり好きなものしか見ないじゃないですか。最初のお話に戻るんですけれども、我々がなるべく多くの楽曲のタイトルがやりたいというのはそこなんです。「ある曲が目当てで来たけれど、別の曲も聞いたら好きになりました!」なんてことがあると本当に嬉しくて。

 その曲を知ってくれた、その曲がきっかけでそのゲームしてくれた……そうなると、すごく多くの人々にプレイしてもらうことになりますし、ゲームはゲーム音楽以外にもいろんな方々が頑張って作った“結晶”みたいなものですから。

 ゲーム音楽が足掛かりとなって、全然知らなかったけれどプレイしてもらったとなると、それはゲーム制作に関わった皆さんも嬉しいでしょうし、それがきっかけでアークハイブの公演にもっと行こう、また新しい曲に出会えるかもしれないと思って来て下さるというのも大変嬉しいことです。

 ですので、やはり会場に来ていただいて、知らない曲も楽しんでもらいたいということは根底としてあります。ぜひ会場に聴きに来てください。

[IMAGE]

おまけ:リハーサル取材で感じたアークハイブならでの熱量の高さと楽しさ



 インタビュー後には、2.5回公演に向けたリハーサル風景も見せていただきました。普段のアークハイブにしては参加人数が少なめのリハーサルだったそうですが、それでもかなりの数の奏者の方が参加し、岩垂さんの指揮のもとでさまざまな楽曲を演奏していました。

[IMAGE]

 フランクで和やかな雰囲気で、指揮を振る岩垂さんも演奏している方々もゲーム音楽が好きで楽しく演奏しているのが伝わってきました。そしてもうひとつ印象的だったのは、岩垂さんの音楽指導の熱量の高さ!

[IMAGE]

 気になるところがあれば演奏を中断して、各楽器に対してのアドバイスをしていく様子は、見学していて頼もしかったです。音の強弱や演奏に込める感情など、かなり細かく具体的に指示していましたが、そのなかでも印象的だったのが、『ラングリッサー』関連のメインテーマを演奏する際に「この曲はベルンハルト(『ラングリッサー2』の敵であるレイガルド帝国の皇帝)をイメージして、もっと重厚な感じで」とアドバイスしていたこと。そういうゲーム話が通じる奏者メンバーが多いこともそうですが、岩垂さん自身もゲームへの理解が深いからこそ、面白くてハイクオリティな演奏につながっているんだと感じることもできました。

 7月6日(土)に東京・八王子で行われる
“Arc-hive Philharmonic Winds 2.5th Concertアンサンブルコンサート ~八花繚乱~”(無料)が楽しみです!

【アンサンブルステージ】
 任天堂アラカルト(金管アンサンブル)
 『ポケットモンスター 赤・緑』メドレー(木管アンサンブル)
 『ゼルダの伝説 夢をみる島』メドレー(木管アンサンブル)
 『リズム怪盗R 皇帝ナポレオンの遺産』より「怪盗Rのテーマ」他(サックスアンサンブル)
等、計8チームの饗演

【合奏ステージ】
 『ラングリッサーモバイル』より「The Beginning」
 『ファイアーエムブレム 紋章の謎』より「メインテーマ」
 『GRANDIA』より「グランディアのテーマ」

アークハイブ・フィルハーモニック・ウィンズの今後の活動について


 直近では2024年7月6日(土)に東京・八王子で
“Arc-hive Philharmonic Winds 2.5th Concertアンサンブルコンサート ~八花繚乱~”(無料)、2024年9月23日(月)に東京・武蔵野で“能登復興支援のための『ウインドボーイズ!』コンサートin東京”(有料)が開催予定でチケット発売中です。

[IMAGE][IMAGE]

アークハイブ・フィルハーモニック・ウィンズの主な過去の演奏曲について


●第1回公演:Arc-hive Philharmonic Winds 1st Concert -The Beginning of the Adventure-(2023年1月21日)

[IMAGE]

【出演者】
MC(『GRANDIA』演奏時):瀧本富士子(『GRANDIA』主人公ジャスティン役)

指揮:岩垂徳行/山田雅彦
演奏:Arc-hive Philharmonic Winds

【演奏楽曲一覧】
・第一部
『モンスターハンター』より「英雄の証」
『グランブルーファンタジー』より「メインテーマ」
『eBASEBALLパワフルプロ野球2022』より「群像夏」
『ウインドボーイズ!』より「Brand New WIND」
「星のカービィ」より「デデデ大王&メタナイト・タッグメドレー」
『Cuphead』より「Inkwell Isle Ⅰ」、「Die House」
『ウマ娘 プリティーダービー』 より「URAファイナルズメドレー」、「GIRLS' LEGEND U」

・第二部 ※アンサンブルステージ
『夜廻』より「夜廻」、「深夜廻」、「夜廻三」
『わるい王様とりっぱな勇者』より「日常メドレー」「おうちにかえろうメドレー」

・第三部
『グランディア』より「世界の果て」、「冒険の軌跡 -街メドレー1-」、「ミューレン」、「冒険の軌跡 -街メドレー2-」、「ガーライル」、「グランディアのテーマ」

(以下、アンコール)
『グランディア』より「戦闘3」
『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』より「メインテーマ」
『逆転裁判6』より「追求〜追いつめあって」


●第2回公演:Arc-hive Philharmonic Winds 2nd Concert  -What is True Justice-(2023年10月1日)

[IMAGE]

【出演者】
スペシャルゲスト:小寺可南子(Vocal)
MC:ブリドカットセーラ恵美

指揮:岩垂徳行/山田雅彦
演奏:Arc-hive Philharmonic Winds

【演奏楽曲一覧】
・第一部
『ファイアーエムブレム 紋章の謎』より「メインテーマ」
『ファイアーエムブレム if』より「if~ひとり思う~」
『ファイアーエムブレム Echoes もうひとりの英雄王』より「神よ、その黄昏よ」
『ファイアーエムブレム 風花雪月』より「鷲獅子たちの蒼穹」、「再戦」、「天と地の境界」
※「再戦」「天と地の境界」はシークレットプログラム

・第二部
『UNDERTALE』 より「Once upon a Time」、メドレー「Peacefully Underground」、メドレー「We are Royal Guards!!」、メドレー「Do you like Butterscotch-cinnamon Pie?」

・第三部
『ラングリッサーモバイル』 より「The beginning」、「El Sallia」、メドレー「魔剣アルハザード〜力に集いし猛き者たち〜」、「Yeless」、「Geal' Paayis」、 メドレー「聖剣ラングリッサー~光に導かれた勇ましき者たち~」、 「Toywar」、「Knights Errant」

(以下、アンコール)
『ラングリッサー4』より「Wish…」
『UNDERTALE』より「華麗なる死闘」
『逆転検事2』より「追究 ~つきとめたくて」

岩垂徳行(いわだれのりゆき)

[IMAGE]
作曲・編曲家。長野県松本市出身在住。大学在学中にほぼ独学で作曲の基礎を築く。4年間のバンド活動のあと、数々のゲーム音楽の作曲、アーティストへの楽曲提供、テーマパークなどのショー・イベント、舞台、放送関係など多方面での音楽制作を行っている。また「Japan Expo」をはじめ世界各国でのライブやレコーディングの他、オーケストラへの造詣も深く、「逆転裁判」など多くのゲームタイトルのスコアを制作。指揮者としても活動歴が長く、特に若手の演奏家たちへの指導には定評がある。

Arc-hive Philharmonic Winds:指揮、顧問
Game Symphony Japan:顧問
●執筆:『音符の隙間』(ニンテンドードリーム)

    本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります