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レビュー:『KANADE』は“受け入れる”ことの深遠さを教えてくれた。フロントウイング新作は植物に覆われた世界を歌で救う、純度高めのボーイ・ミーツ・ガール作品

文:sexy隊長

公開日時:

 グッドスマイルカンパニーとフロントウイングラボのタッグが贈る新作ビジュアルノベルゲーム『KANADE』が、6月12日にSteamで発売されました。

 企画およびシナリオを浅生詠氏が担当し、キャラクターデザインをゆさの氏が手がけるなど強力なチームで制作された、独特な世界観と心温まる作品。

 このレビュー記事では、極力ネタバレなしで『KANADE』の魅力をお伝えしていきます。

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『KANADE』とは?


 『KANADE』は、シナリオに『euphoria』と筆者が大好きな『リルヤとナツカの純白な嘘』の浅生詠氏、キャラクターデザインに『ATRI -My Dear Moments-』のゆさの氏と『物語シリーズ』の渡辺明夫氏、主題歌・楽曲の制作には『素晴らしき日々 ~不連続存在~』の松本文紀氏が参加する、“歌”をテーマにした王道のビジュアルノベルゲームです。

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――私、最高のラブソングを歌って、世界を救わないといけないんです

 植物に覆われた世界を歌で救うため、カナデは主人公に「私と恋、してもらえませんか?」と提案。魅力的なお姉さんたちに見守られながら、主人公とカナデは少しずつお互いを意識し……初めての恋のトキメキが描かれます。

心温まるピュアな恋愛と“歌”をテーマにした物語【KANADEレビュー①】


 『KANADE』の最大の魅力は、ピュアで心温まる恋愛と、“歌”を軸にしたロマンティックなストーリーにあります。

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 物語は、植物に覆われたポストアポカリプス世界を舞台に、主人公“悠登(ゆうと)”とヒロイン“カナデ”の関係を中心に展開します。

 カナデは宇宙人と人間のハーフで、“歌で世界を救う”という壮大な使命を持つ少女。彼女の素直で心優しい性格と歌への情熱が物語のコアとなり、序盤から終盤まで一切ブレないので、プレイすればするほど深く心に残り、感動を覚えます。

 悠登とカナデの関係は物語開始時点ですでに深まっており、恋愛アドベンチャー特有である“関係構築”のドギマギや、すれ違いによるストレスが少ないのが特徴です。これにより、プレイヤーは2人の絆や成長に集中でき、恋愛のドキドキ感や温かさを存分に味わえます。

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 もうとにかく、「悠登とカナデがピュアで尊い!!!!」と叫びたくなるぐらい、ふたりの純粋なやり取りが多くて……楽しい……。

 “歌”が物語の鍵となる点も魅力的! カナデの“歌声が世界を変える力を持つ”という設定は、ビジュアルノベルとの親和性が高く、ロマンティックで壮大な要素になっています。この設定のおかげで、不自然なタイミングで歌いだしたり、いい感じの曲が突然流れ出したりしないので、物語にどっぷり没頭できるのがとてもよかったです。

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 主題歌や劇中歌は、『グリザイアシリーズ』の楽曲で知られる桑島由一氏が作詞を手がけ、松本文紀氏の音楽と相まって、感情を強く揺さぶります。この“歌と恋”の融合は、『KANADE』を単なる恋愛物語を超えた、世界を救う思い、恋愛の喜びや切なさ、そして希望を感じさせてくれるものにしています。

浅生詠氏のシンプルに構築されたシナリオとさわやかな読後感【KANADEレビュー②】


 『euphoria』や『サクラノ詩』『リルヤとナツカの純白な嘘』などで知られる浅生氏のシナリオは、複雑な世界観や感情の機微を描くことに定評があり、本作でもその手腕が発揮されています。

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 『KANADE』は終末系SFと恋愛要素を融合させた物語ですが、浅生氏の“読後感”と“わかりやすさ”を大切にした構成で、誰にでもすっと届くような純粋な物語が描かれています。そこには普遍的な感情とメッセージが込められており、プレイを終えたあとには、心にやさしく残るさわやかな余韻が残ります。

 物語は、ゲーム開始時から目的が明確で、“カナデが歌で世界を救う”過程を追いながら、悠登との恋愛や周囲のキャラクターとの関係を楽しめます。複雑化せずシンプルにわかりやすい構成はビジュアルノベル初心者にも優しく、程よいボリュームで気軽にプレイできるのもオススメポイントです。

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 悠登とカナデのピュアな関係や、カナデの歌が世界に与える影響は、感動的でありながら押しつけがましくなく、自然に心に響きます。恋愛の甘酸っぱさや世界の救済というテーマがバランスよく描かれているので、なんか「恋っていいな」という気持ちが込み上げてきます。

ゆさの氏による美麗なキャラクターデザインとビジュアル【KANADEレビュー③】


 『ATRI -My Dear Moments-』や『GINKA』で知られるゆさの氏は、繊細で愛らしい美少女イラストに定評があり、本作でもその実力が存分に発揮されています。

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 ヒロインのカナデをはじめ、登場キャラクターたちは鮮やかで感情豊かな表情を持ち、テキストに頼らず、キャラクターデザインのみでも物語の世界に引き込みます。

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 カナデのデザインは特に印象的で、宇宙人と人間のハーフという設定を反映したエキゾチックな魅力と、純粋で親しみやすい雰囲気を両立させています。特に純粋無垢でかわいすぎる彼女の笑顔は、ゆさの氏の描く柔らかな線と色彩が、カナデのキャラクター性を一層引き立てています。

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 とくに恋愛シーンや胸を打つ感動的な場面ではその魅力が際立ち、プレイヤーの心を大きく揺さぶってくれます。カナデが歌うシーンや、悠登との親密なひとときは、ビジュアルとシナリオが美しく響き合い、強く印象に残る名場面に。

 繊細かつ鮮やかに描かれたビジュアルは、『KANADE』を視覚的にも堪能できる作品に押し上げており、ゆさの氏のファンはもちろん、本作で初めて触れる新規プレイヤーの心にも、確かな魅力が届くはずです!

 加えて、ビジュアル面では背景美術も大注目していただきたいです!

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 植物に覆われたポストアポカリプス世界は、荒廃しつつもどこか美しく、緑豊かな風景が物語の牧歌的な雰囲気を強化しています。度々登場する悠登の部屋や街の描写は細部まで丁寧に描かれており、細かなビジュアルが世界観を深め、没入感を与えてくれるので、ぜひ背景美術にも注目して見ていただきたいです。

音楽と声優陣による感情を高める演出【KANADEレビュー④】


 『KANADE』の音楽と声優陣は、物語の感情的な魅力を一層引き立てる重要な要素です。

 音楽は、『サクラノ詩』の松本文紀氏が担当し、主題歌や劇中歌はカナデのキャラクター性を強調する美しいメロディーで構成されています。主題歌はカナデ役の夏吉ゆうこ氏が歌い、桑島由一氏の作詞による歌詞が物語のテーマである“歌と恋”を象徴しています。

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 これらの楽曲が物語の感動的なシーンやカナデの歌唱シーンで使用されており、ホントにいいタイミングでいい楽曲が流れるので、耳だけでも感情を強く揺さぶられます!

 特に、カナデの歌声が世界を救うという設定は、音楽の力を最大限に活かした演出として機能します。「最高のラブソングを歌って世界を救う」というコンセプトがシンプルに“壮大でロマンティック”になっており、音楽が物語のテーマと密接に結びついています。

 松本文紀氏の音楽は、ポストアポカリプス世界の寂しさと希望を両立させ、ゆさの氏のビジュアルや浅生氏のシナリオと調和しているのも本作の魅力になっています。

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 主人公以外のキャラクターはフルボイスで描かれる本作は声優陣も豪華で、カナデ役の夏吉ゆうこ氏をはじめ、白砂沙帆氏、桑原由気氏、青山吉能氏らが参加。カナデの素直で心優しい性格は、夏吉氏の透明感のある演技でより魅力的に表現されています。サブキャラクターたちの個性も、声優陣の演技により際立ち、物語に深みを加えています。

 音楽と声優の相乗効果により、『KANADE』は聴覚的にも楽しめる作品となっており、ビジュアルやテキストに頼らず強い印象を残します。

本作から感じられる“受け入れる”ことの深遠さ【KANADEレビュー⑤】


 『KANADE』の物語を読み進めていく中で、“世界を救う恋物語”という魅力の裏に、より深く、そして普遍的なテーマが潜んでいることに気づかされます。

 それは、“受け入れる”ことの大切さ、そしてその難しさです。本作は、一般的なビジュアルノベルに多い選択肢がほとんど登場せず、流れるようにストーリーが展開していきます。これにより、物語に没入し、ノンストレスでサクサクと読み進められる心地よさがあります。

 しかし、そのスムーズな進行とは裏腹に、序盤からプレイヤーは次々と提示される“受け入れがたい現実”に直面することになります。

 突如目の前に現れる、宇宙人と地球人のハーフであるヒロイン・カナデ。植物の異常増殖によって、美しくも不気味に緑に沈みゆく街。そして、カナデが背負う“最高のラブソングを歌って世界を救う”という壮大でありながら漠然とした使命。さらに、突然姿を消したカナデの母親の存在など、物語は序盤からプレイヤーの認識のキャパシティを超える情報であふれかえります。

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 これらの要素は、単に物語のフックとして存在するだけでなく、登場人物たち、そしてプレイヤー自身に、その“現実や境遇をいかにして受け入れるか”という問いを突きつけます。

 カナデが街の住民に受け入れられる過程や、彼女自身の出自と向き合う姿は、単なる問題解決のストーリーとしてではなく、まずその前提にある“受容”のプロセスが丁寧に描かれます。

 一般的なビジュアルノベルがしばしば描く“運命に抗う”や“困難を解決して物語を終わらせる”といったカタルシスとは異なり、『KANADE』は“運命を受け入れる”、“解決できない現実を受け入れる”といった、より成熟した心の強さがテーマにあると感じました。

 本作をプレイすることで、現実社会における“受け入れる”という行為の意味や重みについて、改めて考えさせられたというプレイヤーも多いのではないでしょうか。

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 『KANADE』は、ただ物語を消費するだけでなく、読了後にじんわりと心に残り、現実世界における自身の在り方を見つめ直すきっかけを与えてくれる、そんな示唆に富んだ作品になっています。価格もリーズナブルなので、ビジュアルノベルを始めてみたいという方にも最適な一品です。

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