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『ぼくのなつやすみ』私の夏休みは“8月32日”で止まっていた。20年越しに解けた『ぼくなつ』の恐ろしい呪いと真実の涙【メモリの無駄づかい】

文:sexy隊長

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 三つ子の魂百までと言われますが、幼少期に限らず、ゲームを遊んだ思い出は脳に深く刻まれるもの。

 何年、何十年たっても、「なんでオレ、こんなこと覚えてるんだろ…」と愕然とするような記憶が残りがちでして。

 そんな脳のメモリ(記憶・容量)を無駄づかいしている例を語ります! 今回は2000年6月にPlayStationで発売された『ぼくのなつやすみ』を語ります。

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食卓に並ぶ“異形”たち。予想外のトラウマ【ぼくのなつやすみ】


 セミの声が鳴り響く、とある夏休みの日。友人から「どうしても観てほしいゲームがある」と招かれたあの日から、私の時間は、ある意味で止まってしまったのかもしれません。

 作品の名は『ぼくのなつやすみ』通称『ぼくなつ』。当時すでに発売から数年が経過しており、未プレイだった私でも「少年が田舎で夏休みを満喫する、ノスタルジックで心温まる名作」というのは知っていました。

 「なんで今さら、あのほのぼのしたゲームを?」そんな軽い疑問を抱きながら友人宅のドアを叩いた私を待っていたのは、あまりにも残酷で、あまりにも美しくない、悪夢のような光景でした。

 画面に映し出されていたのは、あたたかな食卓の風景……のはずでした。しかし、そこに座る主人公の顔はドットのモザイク状、家族と思わしき人々は半透明。あるいはトロンの世界に出てきそうなワイヤーフレーム、最悪なことに“下半身だけ”で存在している者までいました。

 飛び交うセリフや説明文は基本文字化けし、解読不能なノイズに目を疑いました。本作の特徴である絵日記は、バラバラに引き裂かれたかのように崩壊していました。

 「えっ……!?」

 言葉にならない衝撃。背筋を駆け抜ける冷たい戦慄。そうです。友人が私に見せたのは、後にネット上で伝説として語り継がれることとなるバグ、通称“8月32日”の姿だったのです。

 当時はまだSNSどころか、インターネットも普及しはじめの時代、情報を手軽に調べる術もありませんでした。純真無垢だった私は、そのあまりの光景に「『ぼくなつ』は、最後にはすべてが崩壊するサイコホラー作品なんだ」という、致命的なほどに間違った知識を脳裏に刻み込まれてしまったのです。

 以来20年近く、私はこの作品を「絶対に触れてはいけない、美しき皮を被ったホラーゲーム」として認識し、面白いカルト作品もあるもんだなぁと思いながら生きてきました。

20年目の邂逅。気づいたら私は泣いていた【ぼくのなつやすみ】


 そんな私の“呪い”が解けたのは、つい最近のこと。たまたま目にしたゲーム実況者が、『ぼくなつ』を配信していたのがきっかけでした。

 「懐かしいなぁ……。でもこれ、最後はめちゃくちゃ怖くなるんだよな」嫌な予感を抱きながら画面を覗き込むと、そこには私が知る“地獄”はありませんでした。

 映し出されていたのは、1975年の日本の夏。黄金色に輝く夕日、虫取り網を振り回す少年、そして家族との、痛いくらいに切ない別れ。

 「あれ? おかしい……全然怖くない。……というか、泣ける!」

 慌ててネットで真実を調べた私が行き着いたのは、あの日見た光景が“バグ”であったという事実。そしてこの作品が、子供時代の冒険や家族とのふれあいを描いた、至高のノスタルジーシナリオであるという真実でした。

 

止まっていた夏休みを取り戻しに行く【ぼくのなつやすみ】


 「なんでこんな怖いゲームを、みんな好きだと言っているんだろう?」

 20年間抱き続けてきた大きな疑問が、夏の夕立が去るように、スッと晴れていきました。と同時に、強烈な恥ずかしさが込み上げてきました。こんな素晴らしい名作を、私は20年も誤解したまま放置していたなんて……!

 「このままではいられない。私の夏休みを、ちゃんと終わらせなきゃ」

 気づけば私は、その足でゲームショップへと走っていました。

 20年越しに買い求めた『ぼくなつ』のディスク。震える手で起動し、今度はバグではない、本当の8月を歩み始めました。

 かつて友人の家で見たあの不気味な食卓は、本当はこんなに温かかったのか。文字化けしていた言葉は、こんなに優しい愛に溢れていたのか……。

 20年の時を経て、ようやく私の夏休みが動き出しました。

 私にとっての『ぼくなつ』がそうであったように、あなたにも「勘違いで避けている名作」があるのではないでしょうか。未プレイのまま心の隅に置いている物語があるのなら、勇気を出して飛び込んでみてください。そこにはきっと、何年経っても色褪せない、最高の景色が広がっているはずです。

 ちなみに当時筆者は、友人と8月32日バグを丸一日遊び尽くしました(笑)。

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