Bokeh Game Studio(ボーカー・ゲーム・スタジオ)の新作ホラーアクションゲーム『野狗子:Slitterhead』。11月8日の発売に先駆けて、本作の国内メディア向け試遊イベントが開催されました。
『野狗子』は、『SIREN』や『サイレントヒル』を手がけたクリエイター・外山圭一郎氏が開発する最新のホラーゲーム。猥雑さを色濃く残す街“九龍”を舞台に、プレイヤーは記憶と肉体を失った“憑鬼”として、人間に擬態する怪物“野狗子”と死闘をくり広げることになります。
どうも皆さん、こんにちは。ライターの原 常樹です。
恥ずかしながら筆者はあまりホラー作品が得意ではありません。というのも、かなり肝が小さく、風呂場でたびたび背後を振り返っては勝手に恐怖におののく……そんな日々を送っているからです。
ただ、そんな自分にとっても興味を惹かれるタイトルがありました。それが日本時間6月8日に開催された“Summer Game Fest 2024(サマーゲームフェスト2024)”にて、キービジュアルやティザー映像が発表となった『野狗子』です。
異形の存在・野狗子によって脳をくり抜かれた犠牲者の遺体、血が飛び散る凄惨な現場。さっそくビビり散らかした筆者ではありましたが、それ以上に舞台となっている“九龍”が美しく、退廃的な路地裏の光景と、色鮮やかなネオンサインとの組み合わせに興味を惹かれてしまいました。
そして、もうひとつ。怖いはずのクリーチャーのデザインにも「えっ、怖ッ……でも、なんかすごく惹かれるデザイン……」と夢中に。気がつくと、聞き覚えのなかった“野狗子”というワードを検索していました(※野狗子は、中国の清代前期の短編小説集『聊斎志異(りょうさいしい)』に登場する妖怪で、戦場や墓場に出没しては死体の頭をかち割って脳髄を啜るのだとか!)。
今回はそんなゲーム『野狗子』の国内メディア向け試遊イベントのオファーをいただき、喜び半分、恐怖半分で足を運んできたという次第です。では、さっそく、その内容をお届けしましょう。
人間の倫理観は捨て去るべき!? 衝撃のチュートリアル
今回の体験会で、まず遊べたのがゲームの冒頭。ストーリーの導入でもあり、アクションゲームとしてはチュートリアルも兼ねたパートです。精神体であるプレイヤーは、まずは路地裏にいる犬に憑依することに……。覚束ない操作感覚と見慣れない街の風景とが“記憶を失っている”という状況にうまくリンクして、そのまま没入感につながっているというのも構成の妙を感じます。
犬ならではの“嗅ぐ”というインタラクトを使うことで画面上に可視化された臭いを辿り、さらに町の人々の身体を乗り換えて路地を進んでいくと、そこに立っていたのは怪しげな女性。彼女はたちまち“野狗子”としての本性を現し、襲い掛かってきます……。
人に擬態しているクリーチャーが正体を現して襲い掛かってくるというのはお約束の展開ではありますが、このデザインがまた不気味で秀逸なんですよ。顔の部分が変質し、その禍々しい姿はコズミックホラーのクリーチャーのよう。ホラーが好物という方にとってはもうこれだけでご飯を何杯でもいけるんじゃないかなと。
こうしていきなり陥った危機。正体を現した野狗子に対して、(この時点で)プレイヤーは戦う術を持っていません。憑依していた人間もなす術なく殺されてしまいます。アクションゲームでは往々にして“敗北=死”であり、その時点でゲームオーバーとなってしまうことも少なくないのですが、本作の主人公は憑鬼……寄生している身体が死を迎えても、そのまま自身が死ぬというわけではありません。
圧倒的なフィジカルで追いかけてくる野狗子を前に、プレイヤーはさまざまな人間の肉体を乗り換えながら裏路地を逃げまどいます。そして、やっとの思いで大通りに辿り着き、どうにか難を逃れました。
いきなりの逃亡劇でしたが、これがとてつもない没入感でした。ひたすら裏路地を逃げ続けるプレイヤーと、その後を追いかけてくる野狗子。不幸にも通り道にいた人間は何もわからないまま野狗子によって惨殺されていきます。まさに映画のワンシーンのようですね。
とりわけ印象的だったのが、おそらく娼婦と客であろう2人組に憑依する場面。突然走り出した客に対して「えっ、どうしたの!?」と困惑の表情を浮かべる娼婦。そこに野狗子が降ってきて……次の瞬間、路地に血の雨が降ったことは言うまでもありません。
“乗り移った身体を見捨ててでも逃げる”というのは非人道的に感じますが、これこそが『野狗子』というゲームの本質。──そう、残念ながら、本作において一般人の命は軽いんです。
それを顕著に感じたのが、建物の高層階にいる女性に憑依した場面。すでに野狗子との追いかけっこは終わって落ち着いたシーンにもかかわらず、地上に移動するためにプレイヤーはビルから飛び降り、“空中にいるあいだに別の肉体に憑依する”という所業に出ます。
もちろん、飛び降りた女性は無事ではすみません。地上では地獄のような光景が広がりますが、別の肉体に憑依した主人公は何事もなかったかのようにその場を後にします。プレイヤーはあくまで精神体“憑鬼”であり、人間の倫理観を超越したところにいるということを痛感させられるひと幕でしたね。
なお、上記で紹介してきた流れはチュートリアルに含まれているため、不可避の展開。このゲームにおいては「一般人がある程度犠牲になることは割りきってください」という開発チームからのメッセージと捉えてもよさそうです。
反撃のときは来た──凝血武器を手に抗え!
一方的に野狗子に追われていたプレイヤーですが、街のあちこちで“記憶の欠片”を手にすることで、少しずつ能力を取り戻していきます。詳しいことはまったく思い出せませんが、“すべての野狗子を殲滅する”という強い意志に突き動かされ、野狗子に立ち向かうことに。
ここからは少しずつバトルの要素が入ってきます。プレイヤーの主な攻撃手段は、 “凝血武器”による直接攻撃。連続でボタンを押すことによって連続攻撃になりますが、一般人は攻撃できる回数も多くありません。構え状態からくり出す強攻撃もありますが、こちらはやや大振り。
身を守る手段としては回避やジャンプ、構えなどがあり、とりわけ重要なのが“構え”でしょう。構えているあいだは敵の攻撃をガードすることが可能で、敵が攻撃してくるタイミングで“弾きガイド”に従ってスティックを入力すると敵の攻撃を受け流す“ディフレクト”を発動できます。
ディフレクトが成功すると“ブラッドタイムゲージ”が溜まり、ゲージがMAXになると自分以外の時間がゆっくり進行するブラッドタイムに突入! 反撃の好機となります。
“弾きガイド”で表示されるスティックは敵の攻撃が向かって来る方向で、ベストなタイミングは被弾より少し早め。“弾きガイド”がしっかり光るので反射神経のいいプレイヤーであれば、スムーズに攻防一体の華麗なアクションを展開できるかなと。
ただ、一部の攻撃はディフレクトができないため、回避と併用する必要がありそう。敵が回避できない攻撃をくり出す際には赤く点滅していたので、こちらも目安になりそうです。
カギを握るのは、強力な力を秘めた“稀少体”
物語が進み、プレイヤーは野狗子に襲われている少女と遭遇します。彼女は憑依されても自我を失うことのない“稀少体”でした。
本作に登場する稀少体は、作品のキーマンであり、憑依したときの戦闘能力も段違い! こちらの“稀少体”の少女は、両手から生えた鋭い鉤爪を武器に野狗子に正面から立ち向かっていきます。敵も禍々しい姿をしていますが、まったく引けを取りません。
アクションゲームがあまり得意ではない筆者は、野狗子の攻撃をしばしば食らってピンチに陥ったりもしましたが、そういうときにもちゃんと対応策が用意されているのが本作。周りにいる一般人に憑依して難を逃れたり(稀少体は憑依していないときも自動で攻撃を避けてくれます)、周囲の血溜まりを回収することでHPを回復したりすることで凌げました。
一般人の身体に次々に憑依できるというのはプレイヤーにとって心強い要素ですが、死亡回数に限度があったり、死亡後に別の肉体に一定時間以上乗り移れなかったりするとゲームオーバーになってしまいます。この点は注意が必要かなと。
スタッフにお話をうかがったところ、いわゆる「死にゲー」にはならないように調整されているということ。たしかにプレイしていてもこの辺りは細やかにバランス調整されていると感じました。
一般人を乗り捨てるゲリラ戦術が強い!?
今回の体験会では、いわゆるチュートリアルパートとは別に、本作中盤のパートも体験できました。簡単に内容を説明すると、人間に擬態した野狗子が手綱を握る“黒社会”の組織に、稀少体の“ALEX(アレックス)”と“NIGHT OWL(ナイトオウル)”が突入するパート。詳しい経緯は割愛しますが、組織の本拠地は無数の野狗子によってすでに血の海に……。
道中のバトルの難易度もだいぶ上がり、狭いビル内では廊下の曲がり角で野狗子と鉢合わせになるなどの展開も体験できました。床に不気味に映し出された野狗子の影を頼りに死角をうかがうような場面は、まさにホラーアクションならではの緊張感。
狭い屋内では、ディフレクトに頼らざるをえない場面も増えてきます。敵の数が増えると弾きガイドの操作も慌ただしく……こんなときに活路を開いてくれたのが憑依でした。
敵の攻撃を受けている肉体を乗り捨てることで、安全な肉体へと移動し、奇襲をかける。そして、その肉体が敵のターゲットになったところでまた別の肉体へ……というゲリラ戦術を展開することで敵のヘイトを散らすことに成功。バトルを優位に進めるためならば人間の乗り捨てを厭わないのも憑鬼ならではという気がします。
“九龍”ならではの縦に長いビルを登っていくと、待ち受けていたのはカマキリのような鋭い腕を持つ野狗子。こちらの腕を切断するような凶悪な攻撃もくり出してきます(斬られた腕は近づいてくっつけることができます)。戦場は建物の中だけに留まらず、ビルの上に強引に建てられた(スラム街らしい)バラック小屋の横を通り抜け、開けたビルの屋上へとシームレスに移行。
筆者は死闘の末にどうにか勝利を収めましたが、ちなみにこのときトドメを刺したのは稀少体ではなく一般人でした。一般人の力もバカにはできません。
逆に言えば、一般人の力だけでバトルに勝利するような“縛りプレイ”も可能なのでしょう。稀少体でない人間であっても操作している内になんだか愛着が湧いてしまうので、発売後はぜひ試してみたいところです。
ちなみに筆者の目を釘づけにしたのが、ビルの上階にて上半身裸で涼んでいた中年男性。たるんだお肉を弾ませながら、凝血武器を振るう姿がなんとも愛嬌たっぷりで、ついつい無駄に憑依して戦わせてしまいました(開発スタッフさんの話だと、ほかのメディアにも人気だったようです)。
特殊な効果を持ったスキルを駆使せよ!
野狗子との戦いで切り札となるのが“スキル”の存在。方向キーの上下左右に最大4つまでセット可能で、憑依しているキャラクターによって使用できるスキルも異なっていました。
遠距離から攻撃できる飛び道具のスキルもあれば、周囲の人々を回復・蘇生させるスキルや、周囲にいる人々の精神を遠隔操作して攻撃させるスキルもあったり……と、その効果は多種多様。うまく使えば戦闘を優位に進められそうです。
今回のプレイでとくにユニークだったのが“タイムボム”というスキル。こちらはボタンを長押ししてスキルを使用するとカウントダウンが始まり、数字が0になると使った人間が爆弾のように爆発し、周囲にダメージを与えるといういろいろな意味で恐ろしいスキルでした。
自爆というとリスキーに感じますが、人の命が軽い本作においてこれは大したことではありません。いや、遊んでいるうちにそう思えるようになってしまうのが『野狗子』というゲームの本当にすごいところなのかも……。
タイムボムを誤って起動して一般人を無駄に爆発させてしまったのですが、横にいた担当編集がゲラゲラ笑っているのを見たときに、筆者は「我々の倫理観はどうなってしまったんだ?」とちょっぴり考えてしまいました(すぐに考えるのをやめました)。
なお、スキルは使用時にスキルに応じて、自身の血液(HP)や思念力が必要になるため、計画的な利用が必要になりそうです。記憶の欠片でスキルポイントを入手すれば、スキルの強化も図れるようなので育成面での楽しみもありそうですね。
鮮やかなネオンサインや生活感漂う街並みにも注目
人間を乗り移りながら戦うという唯一無二のアクションが楽しめる本作ですが、そこ以外にもまだまだ注目したい部分はあります。そのひとつが舞台となっている“九龍”の放つ独特の空気感。
路上から空を見上げると、そこに並ぶのは煌びやかな電飾の数々。LEDライトとはまたひと味違うような、ネオンサインの味わい深い光彩が目を楽しませてくれます。看板の作りも非常に精緻で飽きません。
街中にはおいしそうなビールの看板も並んでいるのですが、この日の体験会ではこちらの看板を元に特注で作られたクラフトビール“九龍鞭炮”がメディアに振る舞われました。爽やかな飲み口に、八角や山椒などが聞いている絶品……。一般に流通するかはわかりませんが、もしかすると『野狗子』ファンが飲める日がいずれ来るかもしれません。
街中にはほかにも色とりどりのTシャツが並んだ出店や、食材を扱った精肉店など、街に根差したお店が数多く並んでいます。一方で路地裏に目を向けると、そこにはゴミの山やゴソゴソと這い廻る虫の姿が……。陰と陽、正と負の両面が混在し、それがカオスで魅力的な輝きとなって人々を惹きつける──そんな魔力が画面の中にも溢れていました。
このようにほかにはない独自の楽しみがたっぷりと詰め込まれている『野狗子』。バトルシーンも爽快かつユニークなので、筆者個人的には“実況配信”をしたらおもしろそうだなとも感じました。
ホラーが苦手な筆者は終始怖がることなくこの日は遊べましたが、スタッフさんのお話だと今回の体験会では遊べなかったストーリーのなかにはヘビーなものも用意されているとのこと。ホラーが大好きな方はぜひそちらも期待してみてください。