絶賛公開中の『劇場版モノノ怪 唐傘』のスペシャル対談企画“北川役・花澤香菜×監督・中村健治監督”の模様が公開されました。
『劇場版モノノ怪 唐傘』スペシャル対談企画。「北川役は花澤さんしかありえない」と言わしめた中村健治監督の心中は?
本作のキーパーソンとなる北川を演じた花澤香菜さんと、中村健治監督の対談が実現。物語の核となる重要な役どころだっただけに、映画公開前のインタビューは一切なかったという花澤さん。今回初めて、本作の出演にあたっての役作りや、アフレコの裏側を語りました。さらに中村健治監督は、「北川役は花澤さんしかありえない」と言い切ります。その理由とは一体――。
──『モノノ怪』17年ぶりの復活にして初の劇場版です。テレビと映画という表現媒体の違いをどのように感じられましたか?
中村健治監督(以下、敬称略):映画はテレビアニメに比べて、やれることの深さが格段に違うと実感しました。話数のあるテレビアニメの場合は、ざっくりと全体を俯瞰して1話1話の中に入れるべきミッションをどのように見せていくのかを考えながら作ります。しかし映画の場合は1本で一つの作品になるわけですから、俯瞰ではなく接近して全体を見るわけです。俯瞰で見ていると気づかないところも気づく様になって、細部まで気になるようになる。また物語のスタートからラストまでを一気に見せるというのは、息継ぎせずに一息で泳ぐ行為にも似ています。その一息の中で複雑かつハイコンテクストなものにチャレンジできるのが映画だと思いました。
──花澤さんは中村監督から通常のアニメとは違う事前レクチャーに驚いたとか…?
花澤香菜さん(以下、敬称略):アフレコ前に中村監督から物語のテーマやキャラクターの詳細情報が書かれたPDFを頂きました。そこには台本を読んだだけではわからない北川さんの背景やキャラクター性が補完されていて、演じる上での指針になりました。作品によっては台本とは別に説明書きのようなものを頂くことはありますが、ここまで情報が詳細に記された大ボリュームのPDFは初めてでした。いい意味で…普通ではない(笑)。そもそも台本も89分の内容とは思えないくらい分厚くて、アフレコの時に片手で持ちながら演じるのが大変でした。
中村:花澤さんを含めて、皆さん演じる以外の事前準備が凄かったですね~!
花澤:PDFでは伝えきれなかった設定を中村監督から直接解説していただく時間もあって、それだけのものを事前に用意してくださるのはありがたいですし、この作品に対する中村監督の熱量を感じました。熱量を伝えてくださることでこちらのテンションも上がりますし、下手なものは出せないぞ!という覚悟にも繋がる。頑張らねば!という気持ちでアフレコに臨んだのを覚えています。
──今回の舞台である「大奥」に込めた思いとは?
中村:この物語の大奥とは、地球、国、社会、学校、家族…。それら集団すべてを暗喩しています。大奥ということで女性特有の物語は当然入れてはありますが、普遍的な人間ドラマを展開させたつもりです。女中の多くに顔がないのも「個を失くしたモブ」と「組織に染まる」という二つの意味を込めています。
花澤:北川さんが手を放した途端に、同期の女中の顔がグルグルに変わる場面は見ていて心にグサッと刺さりました。同じ組織に属していたのに、捨てた途端に自分とは無関係の人になってしまうのかと…。その冷酷さは怖いです。「組織の中で孤独に生きること」を物語のテーマにしている点も今日的だと思いました。組織に組み込まれている以上、その集団も大事にしなければいけない。でも自分の理想や願望はどこに置いておけばいいのか?その葛藤は学生でも社会人でも抱えることがあると思います。北川さんの言葉というのはアサちゃんに伝えたい言葉でありながら、実は自分自身に向かっているような言葉でもあり、しかも北川さんは実態としてその場にいるようでいてぼんやりとした思念でもあるようで、北川さんの声が届いているのか届いていないのかわからない。その揺らぎのようなものを表すことに苦労しました。
──花澤さんを北川役に抜擢した理由を教えてください。
中村:オーディションでの長セリフを聞いた瞬間に、北川役は花澤さんでしかありえないと思って即決しました。一番の決め手は一つのセリフに様々な感情を込めることが出来るところ。この物語には様々なキャラクターが出てきますが、北川はある意味で作品を形作る入れ物のような大きな存在です。物語の根底に北川がいて、ブルブルと作品を揺すっている。花澤さんはそんな北川というキャラクターの心の揺れ動きを声と連動させて、しかも凄く複雑に表現してくれた。僕自身、想像していた以上の北川の感情を教えてもらうことがありました。
花澤:そのように言っていただけて光栄です! 私が演じる上で意識したのは、北川さんの孤独です。北川さんは頑張り屋さんで自分を犠牲にしながら、なりふり構わずにキャリアアップを目指してきました。しかしある時に、その糸がプツリと切れてしまって気力を失ってしまった。大奥には大勢の女中がいるのにも関わらず誰にも相談できず、どんどん孤独を深めてしまった。私自身、このままいくと心が乾いてしまうかもしれないという感覚になったことがあるので、北川さんの悲しい孤独に対して心を寄せることは難しい事ではありませんでした。
──大奥でキャリアアップを図る新人女中・アサ役の黒沢ともよさんとは一緒にアフレコをされたそうですね。花澤さんが差し入れた芋けんぴに黒沢さんが喜んでいる姿が微笑ましかったです。
花澤:ともよちゃんとは彼女が10代の頃からの知り合いで、一緒に焼き芋フェスに行ったこともあるくらい仲が良いです。現場で会うのは久しぶりだったので、お芋好きのともよちゃんのために私イチオシの芋けんぴを買って、アフレコ前に一緒に食べました。ともよちゃんが芋けんぴをポリポリと食べている姿を眺めていたら凄く幸せな気分になりました。
中村:黒沢さんが芋けんぴをポリポリと食べる姿は小動物みたいでした(笑)。
花澤:物凄く可愛いですよね!しかも物理的距離が近くて、会った瞬間に後ろから抱き締めてくるんです。最初はそれに慣れなくてビックリしましたが、今では抱き締められることも普通になって、私も「よしよし」モード(笑)。ともよちゃんは天真爛漫なのでタイプ的にはカメのイメージ。アサを演じると聞いたときは意外性に驚きました。でもともよちゃんの内面を掘っていくと実はアサがいます。ともよちゃんは真面目だし、凄く色々なことを考えているし、周りを見ている。でもそれを内に秘めて外には出さない。
中村:その分析、わかります。黒沢さんは我慢をする人だと思いました。
花澤:今回の作品で自分の本質的な内面を出せるアサを演じるともよちゃんの姿を、私はいわゆる近所のお姉さんのような気持ちで嬉しく見守ってしまいました(笑)。
中村:人気実力が共にあるお二人がプライベートでも仲が良いというのは、ヤバい情報です(笑)。まさかこの二人が繋がっているのかという驚きがあります。役者同士で仲が良いという話は聞きますが、それだってたまにお茶に行く程度。出会いから長く、一緒に芋フェスに行くほどの仲であるとは…。サッカーで言うところの、凄いフォワードが2人も揃っている状況です。
花澤:(笑)。ともよちゃんとは仕事の話はほとんどしなくて、プライベートな会話だけで盛り上がれる。気の置けない感じが一緒にいて心地いいのかもしれません。
──最後に本作の見どころをお願いいたします!
中村:勧善懲悪のわかりやすい話ではなく、登場人物すべてに大なり小なりの罪があって、直線的ではない立体的かつ複雑な人間ドラマを目指しました。それはある種、果てしない物語であり、生きることの辛さや人間が持つ闇を描くことになります。「人間の心に浸食してくる闇とは何だろうか?」と深掘りしていくと、周囲との間に生まれる絶対的に埋められない矛盾が見えてくる。そんな闇や矛盾が広がっていく中で生まれたモノノ怪・唐傘を薬売りが斬っていく物語です。作品を通して観客の皆さんが自分の心と会話をしてもらえたら嬉しいです。
花澤:悪いように見える人にも、実は背景や理由があったりして、正当化できないけれど理解は出来るというキャラクターが出てきます。現実世界にも負の連鎖というものはあって、知らず知らずのうちに巻き込まれてしまうこともあるでしょう。この映画が、自分の大事なものを確かめる時間、自分の心を確かめる時間になってもらえたら嬉しいです。カラフルな映像美にも圧倒されますし、セリフ以外のアイテムにも深い意味が込められています。あの北川さんの人形の意味とは? など様々に考察して隅々まで堪能して楽しんで欲しいです。
『劇場版モノノ怪 唐傘』作品情報
キャスト
薬売り:神谷浩史
アサ:黒沢ともよ カメ:悠木碧
北川:花澤香菜 歌山:小山茉美
大友ボタン:戸松遥
時田フキ:日笠陽子
淡島:甲斐田裕子
麦谷:ゆかな
三郎丸:梶裕貴
平基:福山潤
坂下:細見大輔
天子:入野自由
溝呂木北斗:津田健次郎
主題歌
「Love Sick」アイナ・ジ・エンド(avex trax)
スタッフ
監督:中村健治
キャラクターデザイン:永田狐子
アニメーションキャラデザイン・総作画監督:高橋裕一
美術設定:上遠野洋一
美術監督:倉本章 斎藤陽子
美術監修:倉橋隆
色彩設計:辻󠄀田邦夫
ビジュアルディレクター:泉津井陽一
3D 監督:白井賢一
編集:西山茂
音響監督:長崎行男
音楽:岩崎琢
プロデューサー:佐藤公章、須藤雄樹
企画プロデュース:山本幸治
配給:ツインエンジン ギグリーボックス
制作:ツインエンジン EOTA