アニプレックスによるノベルゲームのブランド“ANIPLEX.EXE(アニプレックスエグゼ)”。2019年12月に発足され、“ノベルゲームだから、おもしろい”をテーマに、1stプロジェクトとして『ATRI -My Dear Moments-』と『徒花異譚』、2ndプロジェクトとして『ヒラヒラヒヒル』をリリース。ユーザーから高い評価を得ました。
そして、2024年の冬には3rdプロジェクト『たねつみの歌』が発売予定。こちらは『雪子の国』『ハルカの国』といった評価の高いノベルゲームを個人で制作してきたクリエイターのKazukiさんを起用した作品になっています。
電撃オンラインではANIPLEX.EXEのプロデューサーである島田紘希さんにインタビューを実施。これまでのANIPLEX.EXEの歩みを振り返ってもらうとともに、新作『たねつみの歌』の魅力についても語ってもらいました。
そして、2024年の冬には3rdプロジェクト『たねつみの歌』が発売予定。こちらは『雪子の国』『ハルカの国』といった評価の高いノベルゲームを個人で制作してきたクリエイターのKazukiさんを起用した作品になっています。
電撃オンラインではANIPLEX.EXEのプロデューサーである島田紘希さんにインタビューを実施。これまでのANIPLEX.EXEの歩みを振り返ってもらうとともに、新作『たねつみの歌』の魅力についても語ってもらいました。
索引
素晴らしいノベルゲームはクリアしたあとに虚脱感を与えてくれる
――まず、改めてANIPLEX.EXE全体についてお聞かせください。アニメで有名なアニプレックスが“ノベルゲームだから、おもしろい”をテーマに掲げたノベルゲームブランドを作り、美少女ゲームを手掛けてきたスタッフとともに作品を送りだすことになった経緯をお聞かせください。2019年はソーシャルゲーム全盛期だったと思うのですが、どうして買い切りのゲームに挑戦しようと思ったのでしょうか?
属人的な理由というか、もともと僕は学生時代から、18禁を含む美少女ゲームやノベルゲームがすごく好きだったんです。
――ご本人の口から言いづらいかと思うので、以前にもお話を聞いたことがあるこちらから補足すると、島田さんは美少女ゲームが大好きで、とくに『ボクの彼女はガテン系』がお好きなんですよね(笑)。
はい(笑)。そんなノベルゲーム好きがアニプレックスに入社をしまして、ずっとビデオの営業をやっていたのですが、たまたま社長と話す機会があり、ノベルゲームのブランドを作るのはどうか、みたいな話をしました。
当時からSteamではノベルゲームのヒット作も数多く出ていたため、市場もある程度は出来ていました。なによりも僕自身が実際にゲームを遊んできた立場として、おもしろいノベルゲーム、美少女ゲームを作っているクリエイターや企業、ブランドさんがいるということをよく知っていたのも大きいです。
そういった方々と協力して、市場として出来上がっているSteamで、日本だけでなく世界に向けて販売していくことができれば、クリエイターやブランドさんの魅力を拡げていくとともに、ビジネスとしてヒットさせられるのではないかと思いました。
――ANIPLEX.EXEが始動する前からすでにSteamでノベルゲームが売れる市場は出来ていたんですね。
『ネコぱら』や『ドキドキ文芸部』などが非常に話題になっていましたし、国内の美少女ゲームのSteamへの移植も結構リリースされていました。
自分がいくらノベルゲームが好きだといっても、ビジネスとしての可能性がなければ会社として挑戦することはできなかったので、そういった環境が後押ししてくれたことは間違いないですね。
――島田さんがノベルゲームを好きなことはさまざまな場所で語られていますが、そのおもしろさの本質はどこにあると思いますか?
物語の没入観とそのうえでの読後感かなと思っています。ノベルゲームは基本的に文章を読むことで進行していきますが、読むことは映像メディアなどと比べてとてもカロリーがかかるんですよね。一方で、物語に対して自分から能動的に関わっていくことになるので、没入感は高くなると思います。
加えて、ノベルゲームは文章のほかに、絵や演出といったグラフィック、音楽や声といった表現も一緒に体験できるのも魅力です。
小説であれば音がないし、映像であればほとんど読むことがない。それぞれのメディアの特性があるなかで、ノベルゲームはいろいろな要素を味わいながら物語を体験していくことができるのが強みだと思います。
様々な要素で物語世界に引き込まれながら、そのうえで自分自身で読み進めていくことになるので、自分から歩いて、沼のなかに沈んでいくような、独特の没入感を体験できるジャンルなのかなと。
自分自身、学生時代は20時間以上ぶっ続けでノベルゲームをやることもありました。それだけ没入したあとだからこそ感じる、エンディングが終わったあとの読後感はなにものにも変えられないものです。ロスと言うには留まらないような、奇妙な虚脱感のような読後感を与えてくれるのがノベルゲームです。
広い意味でゲームというメディア自体が、そういう体験を提供してくれるものだと思いますが、とくにノベルゲームは物語やキャラクターに特化して楽しめるという独自性を持ってるのかなと思ってます。
属人的な理由というか、もともと僕は学生時代から、18禁を含む美少女ゲームやノベルゲームがすごく好きだったんです。
――ご本人の口から言いづらいかと思うので、以前にもお話を聞いたことがあるこちらから補足すると、島田さんは美少女ゲームが大好きで、とくに『ボクの彼女はガテン系』がお好きなんですよね(笑)。
はい(笑)。そんなノベルゲーム好きがアニプレックスに入社をしまして、ずっとビデオの営業をやっていたのですが、たまたま社長と話す機会があり、ノベルゲームのブランドを作るのはどうか、みたいな話をしました。
当時からSteamではノベルゲームのヒット作も数多く出ていたため、市場もある程度は出来ていました。なによりも僕自身が実際にゲームを遊んできた立場として、おもしろいノベルゲーム、美少女ゲームを作っているクリエイターや企業、ブランドさんがいるということをよく知っていたのも大きいです。
そういった方々と協力して、市場として出来上がっているSteamで、日本だけでなく世界に向けて販売していくことができれば、クリエイターやブランドさんの魅力を拡げていくとともに、ビジネスとしてヒットさせられるのではないかと思いました。
――ANIPLEX.EXEが始動する前からすでにSteamでノベルゲームが売れる市場は出来ていたんですね。
『ネコぱら』や『ドキドキ文芸部』などが非常に話題になっていましたし、国内の美少女ゲームのSteamへの移植も結構リリースされていました。
自分がいくらノベルゲームが好きだといっても、ビジネスとしての可能性がなければ会社として挑戦することはできなかったので、そういった環境が後押ししてくれたことは間違いないですね。
――島田さんがノベルゲームを好きなことはさまざまな場所で語られていますが、そのおもしろさの本質はどこにあると思いますか?
物語の没入観とそのうえでの読後感かなと思っています。ノベルゲームは基本的に文章を読むことで進行していきますが、読むことは映像メディアなどと比べてとてもカロリーがかかるんですよね。一方で、物語に対して自分から能動的に関わっていくことになるので、没入感は高くなると思います。
加えて、ノベルゲームは文章のほかに、絵や演出といったグラフィック、音楽や声といった表現も一緒に体験できるのも魅力です。
小説であれば音がないし、映像であればほとんど読むことがない。それぞれのメディアの特性があるなかで、ノベルゲームはいろいろな要素を味わいながら物語を体験していくことができるのが強みだと思います。
様々な要素で物語世界に引き込まれながら、そのうえで自分自身で読み進めていくことになるので、自分から歩いて、沼のなかに沈んでいくような、独特の没入感を体験できるジャンルなのかなと。
自分自身、学生時代は20時間以上ぶっ続けでノベルゲームをやることもありました。それだけ没入したあとだからこそ感じる、エンディングが終わったあとの読後感はなにものにも変えられないものです。ロスと言うには留まらないような、奇妙な虚脱感のような読後感を与えてくれるのがノベルゲームです。
広い意味でゲームというメディア自体が、そういう体験を提供してくれるものだと思いますが、とくにノベルゲームは物語やキャラクターに特化して楽しめるという独自性を持ってるのかなと思ってます。
――ANIPLEX.EXEさんの作品はすべて楽しくプレイさせていただいていますが、とくに『ATRI』はノベルゲームをクリアしたときの虚脱感を味わうことができました。筆者としてもなつかしい体験だったのですが、島田さんとしてもかつて自分がもらった感動を今のユーザーに届けたいという気持ちはあったのでしょうか?
自分が体験した感動の再現をあえてお題目にしているわけではないです。いまリアルタイムで触れていただいている方に、ノベルゲームの普遍的な魅力を味わってほしいなと思っています。
――なるほど。そういう活動をしていくなか、この5年間で変わったことはありますか? 業界的には『ぬきたし』のアニメ化が発表されたり、『はみだしクリエイティブ』のクラウドファンディングが大成功したりと、とても盛り上がっているように感じました。
美少女ゲームの界隈であれば、若いお客さんに支持されるブランドが増えているという印象があります。『ATRI』も10代後半から20代前半がボリュームゾーンになっていました。この5年での状況かはわかりませんが、新しいユーザーがたくさん入ってきてくれていると思います。
より広くノベルゲームという意味では、個人で制作されていた『シロナガス島への帰還』、海外の開発会社の『飢えた子羊』など、Steamで話題になった作品が続々とリリースされた5年だったと思います。
とくに海外産のゲームは活発な印象で、純粋なノベルゲームではないかもしれませんが、『君、勉強を邪魔しないでください』みたいな実写恋愛シミュレーションは野心的でおもしろいなと思いましたし、『夢灯華 Noctuary』はアクションとノベルパートの塩梅が見事なうえに、物語やキャラクターがとても心に残りました。
――ANIPLEX.EXEさん自体の歩みとしてはいかがでしょうか。『徒花異譚』と『ATRI』が発売されたあと、第3弾の『ヒラヒラヒヒル』が発売されるまでに間が空きましたが、次の作品を発表するまでの準備期間だったのでしょうか?
最初の2作品の反応を受けてから次を考えたかったので、単純にそれで間が空いた形です。最初にリリースした2作品はおかげさまでいずれも非常に好評をいただいたのですが、その反応を踏まえたうえで、改めてアニプレックスのブランドとしてノベルゲームを作ることの意義ってなんだろうとか、独自性とはなんだろうということを考える期間でもありました。
考える中で、ANIPLEX.EXEの独自性とは、社内にグラフィッカーもイラストレーターもシナリオライターもいない、ノベルゲームが好きな会社員がひとりだけいるという意味不明さなのかなと行きつきました。それは作品制作においては弱みなのですが、一方であらゆるクリエイターやパートナーと一緒に作品を作るチャンスがあるということであり、ジャンルを問わず作品を世に送りだせることに意義があるのではないかと。
ちょうどその時期に、瀬戸口廉也さんがお仕事を承っているとSNSで書かれていたので、お声がけしました。
『ATRI』で美少女ロボットを題材にした理由は?
――わかりました。それではこれまでに発売した作品について、ひとつずつ詳しくお聞かせください。『ATRI』について紺野アスタさんとはどのような経緯で組むことになったのでしょうか?
ANIPLEX.EXEが発足するタイミングで「一緒に作りませんか?」と紺野さんにメールをお送りしました。紺野さんと開発をどこに依頼するか相談していき、枕さんや、後に紺野さんが所属することとなるフロントウイングさんにお願いすることになった形ですね。
――ANIPLEX.EXEを発足するときに最初にお声がけしたのが紺野さんだったんですね。
はい。僕自身が『この大空に、翼をひろげて』や『見上げてごらん、夜空の星を』をプレイしていて、紺野さんがすごくいいシナリオを書くのを知っていたので、お声がけした次第です。
――『ATRI』の企画自体は島田さんが考えたのでしょうか?
自分からはロボットものの女の子の話をやりたいという話を紺野さんにしました。それを受けて、紺野さんが水没した世界観といった設定やキャラクターなどを膨らませてくれました。そこからディレクターで入っていただいたすかぢさんからのアドバイスなどもありつつ、徐々に企画が出来上がっていった形です。
立場上プロデューサーなのでいろいろな判断に関わってはいますが、企画の内容に関して僕からの発信は、美少女ロボットものがやりたいと言ったぐらいじゃないですかね。
――美少女ロボットを題材にしたのは紺野さんならかわいく描けると思ったからでしょうか? それとも島田さんが好きな属性だったとか?
僕が好きだからというのは大きいですね(笑)。歌うアンドロイドのキャラクターっていいなと思っていたのがきっかけだったと思います。美少女ロボットものは好きな人も多いジャンルですし、挑戦する価値はあるとも考えていました。
――『ATRI』は主人公の夏生やヒロイン・アトリの交流はもちろん、生き生きとしていて魅力的なサブキャラクターなども魅力です。島田さんはこれから本作をプレイする人にどんなところに注目して欲しいですか?
僕が好きだからというのは大きいですね(笑)。歌うアンドロイドのキャラクターっていいなと思っていたのがきっかけだったと思います。美少女ロボットものは好きな人も多いジャンルですし、挑戦する価値はあるとも考えていました。
――『ATRI』は主人公の夏生やヒロイン・アトリの交流はもちろん、生き生きとしていて魅力的なサブキャラクターなども魅力です。島田さんはこれから本作をプレイする人にどんなところに注目して欲しいですか?
主人公の夏生、友人である水菜萌や竜司といったキャラクターたちももちろん魅力的なのですが、やはりタイトル名を冠しているアトリに注目してほしいです。とても変化に富んだキャラクターで、良い意味での目まぐるしさがクセになると思います。
――確かに。
個人的には発電機を作る一連のシーンが好きです。仲間と協力してひとつのことを成し遂げるという青春感のある展開は紺野さんらしくていいなと思っています。そういったジャンルのものが好きな人もプレイしてみてもらいたいですね。
おとぎ話を題材とした『徒花異譚』の開発秘話
――続いて『徒花異譚』についてお聞かせください。ライアーソフトさんは濃いファンが多い印象ですが、ライアーソフトさんと組んで作ることになった経緯は?
こちらも、やはり自分がもともとライアーソフトさんが好きだったという理由です。ライアーソフトさんは我が道を往くブランドで、独自性ある魅力的な作品を多数発表されています。
自分のなかで大石竜子さんの和風のイラストをゲームにしたらどうなるんだろうという興味もあり、ライアーソフトさんにご相談させていただき、その結果、シナリオを海原望さん、イラストを大石竜子さんという鉄壁の布陣で制作を進められることになりました。
――海原さんと大石さんのタッグで発売された『フェアリーテイル・レクイエム』が洋風のおとぎ話だったので、和風のおとぎ話を題材にした『徒花異譚』がちょうど対比のようになっているように感じられました。
そうですね。海原さんも企画コンセプトの一つとして“和風『フェアリーテイル・レクイエム』”を掲げていた記憶があります。
――では、本作はどんな人にオススメですか?
『徒花異譚』は大石さんのイラストと海原さんのテキストが共鳴して、このふたりでしか表現できない唯一無二な美しさを生みだしているのが魅力だと思います。イラストや世界観に興味をいただいた方には是非プレイしてほしいです。
本作にはいくつかエンディングがあり、個々に魅力がありますが、僕自身は“夢エンド”と呼ばれるエンディングが好きです。おふたりの作り出す美しい世界のなかでも、とくにその美しさが際立っていると個人的には思っているので、ぜひ観てみてください。
重い題材を扱う『ヒラヒラヒヒル』ならではの魅力・読後感とは?
――続いて3作目の『ヒラヒラヒヒル』について。風爛症という難病を抱えた人々と社会について描く、とても重たいテーマの作品になっていますが、改めてどのような経緯で本作を作ることになったのでしょうか?
瀬戸口さんにはブランドとしてやりたいことや作品の全体の規模感といった指針だけをお伝えして、いくつかの企画案を提出していただきました。そのなかのひとつに『ヒラヒラヒヒル』の原型があり、いちばん読んでみたい作品だったので、その企画に決定した形です。そのあとの骨組みから肉付けまではすべて瀬戸口さんによるものです。
――瀬戸口さんの作品なので、選ばれなかった企画もダークで暗いものだったのでしょうか?
うーん。どうでしょう。最初の作品指針として、舞台は広すぎないようにしたいなどの意向は伝えてたので、そういった部分を汲み取っていただいた企画になっていたと思います。
――『ヒラヒラヒヒル』は禅之助さんのイラストも素晴らしいと思いますが、どのようにしてこのようなテイストに?
アニメ的なイラストよりも写実的なイラストのほうがこの作品の雰囲気をよりいいものにしてくれると思い、瀬戸口さんと相談して禅之助さんにお願いすることになりました。
――『ヒラヒラヒヒル』という作品の魅力はひとことで表せるようなではないと思うのですが、あえてプレイしてない人に魅力を語るとしたらどういった部分になりますか?
瀬戸口さんにお願いした以上は、読み終えたあとに面白かったとか良かっただけで終わるのではない、ユーザーが立ち止まって考えてしまうような読後感になってほしいなと考えていました。実際そういう作品になってくれたと思いますし、そこが一つの魅力かなと思います。
このゲームには千種正光と天間武雄というふたりの視点があります。個人的には、武雄視点のあるルートの最終盤で、武雄の友人・衣川兵太郎のセリフと共に“北国の春”というBGMが流れるシーンがとても好きです。
――とても衝撃でしたね。正光視点で起こる重大な出来事も瀬戸口さんらしいものでしたし、ぜひ多くの人に体験して欲しいゲームでした。
重い題材の作品ではありますが、それだけ心に残る作品になっているので、ぜひプレイしてみて欲しいです。
インタビュー前編はここまで。後編では新作の『たねつみの歌』について詳しく聞いているのでこちらも合わせてチェックしてみてください。
カワチ:RPGとビジュアルノベルが好きなゲーマーで、誰にも気付かれないようなマニアックな小ネタを記事に織り込むのが好き。深みのあるゲームが好きかと思えば、本当は肌色が多ければなんでもいいビンビン♂ライター。