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第32回電撃小説大賞の特別選考委員・支倉凍砂先生にインタビュー。小説を書くうえで大事にしていることや大賞の投稿者に求めるものは?

文:電撃オンライン

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 現在作品を募集中の“第32回電撃小説大賞”では、特別選考委員として『狼と香辛料』の作者である支倉凍砂先生が参加します。それを記念して、電撃オンラインでは支倉凍砂先生へインタビューを実施。先生自身の作家人生の思い出や作品作りで心がけていること、そしてどんな作品を読んでみたいのか、作家志望者に向けたアドバイスなどについて聞いてきました。

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 支倉凍砂先生は、『狼と香辛料』で第12回電撃小説大賞≪銀賞≫を受賞し、同作品で電撃文庫から小説家としてデビューしました。代表作でもある『狼と香辛料』は2008年に初アニメ化し、2024年には新たに作られたアニメが放送されました。

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▲こちらは電撃文庫『狼と香辛料』の第1巻表紙。
 なお、このインタビューでは、トークの掘り下げや周辺知識を補完するために“第32回電撃小説大賞”に運営陣にも参加いただきました。

最終選考に残ったという話を聞いた時は有頂天でした【電撃小説大賞:支倉凍砂先生インタビュー】

――今回の電撃大賞では支倉先生が特別選考委員として参加されますが、特別選考委員を担うことになった経緯を教えてください。

支倉
先輩が引き受けられているので、自分もそろそろ受けないと無責任かなと。正直おこがましいとは思いましたが……。20年経って審査員をやらせてもらえるのは、「うれしい」という気持ちと責任感が半々くらいですかね。

――話をもらった時には即答したのでしょうか?

支倉
あまり悩まなかったです。昔であれば頼まれても断っていたと思いますが、自分より年齢が上の人たちが引き受けられていて、後輩の川原先生も引き受けられたとなったら、流石に知らん顔しているわけにはいかず……!

――ご自身も2005年の第12回電撃小説大賞にて『狼と香辛料』で受賞されていますが、当時を振り返って、受賞した時や、その後の作家デビューなど、どういうお気持ちでしたか?

支倉
それまでも電撃大賞に応募していましたが、毎回一次選考で落ちていました。受賞当時は、ちょうどこのくらい(夏頃)の時期に、徳田さん(※徳田直巳さん。元電撃文庫編集長)から「最終選考に残りました」という電話がかかってきた覚えがあります。

――電話を受け取った当時の心境はいかがでしたか?

支倉
直接は電話で出られなくて、留守電で聞いたのですが、思ってもみなかったですね。折り返して徳田さんと電話で話しましたが、会話の内容はまったく覚えていないです。ただ、いつもの徳田さんらしい、軽いノリで応対いただいたような気がします。

――それまでの応募経験はどのくらいですか?

支倉
3回か4回くらいは応募していましたね。電撃大賞以外の公募にも出しました。電話をもらった当時も受賞するとは考えていなかったので、別の作品を執筆中でした。

――「最終選考に残りました」という連絡の後、どれくらいで結果がでたのでしょうか?

支倉
あまり覚えていないのですが、結果をいただくまで1~2カ月は経っていたと思います。その後は「銀賞になりました」という連絡を徳田さんからいただいて、その時に「本を2月に出さないといけないから、忙しくなるよ」と。いきなり仕事の話でしたね(笑)。

――1~2カ月というと、なかなかじれったくなるような気もしますが、実際に銀賞だと言われた時の心境はいかがでしたか?

支倉
実のところ、あまり落胆も喜びもなかったですね。こう話すとなんだか意外に思う方も多いと思うので補足しますが、最終候補の電話をもらった時に有頂天過ぎたので、そこで喜びの感情を使いつくしたような感じです。

 最終候補のなかで1位になれるとは思っていなかったので、銀賞は妥当かなと思いました。なんとなく当時は電撃大賞の銀賞は渋めの作品が多いという印象があったので、そこに収まるなら健闘しただろうと。

――先ほど、いきなり仕事の話をされたとおっしゃっていましたが、やはり忙しくなりましたか?

支倉
はい。自分は原稿の直しが多かったので大変でした。校正記号の説明からしていただいたので、いろいろと時間がかかったほうだと思います。

――投稿作品である『狼と香辛料』を書き終えたときに、何か手ごたえのようなものはあったのでしょうか?

支倉
『狼と香辛料』は、キャラクターに関してはホロはよく書けたという手ごたえを感じていました。ただ、あまり賞を取れるイメージがわかずに、「ここまで書いてもダメなんだろうな」とは心のどこかで思っていました。

――電撃大賞の授賞式の思い出はありますか?

支倉
弁当が豪華だったことですかね(笑)。貧乏学生で、お昼を抜いて本を買うみたいな生活だったので、こういうお祝いごとで出る弁当が衝撃的でした。

電撃文庫編集部
受賞してからは「迷わず大盛の食券を買えるようになった」と当時言っていたそうです(笑)。

――授賞式では作家同士のつながりが広がったりもするのでしょうか?

支倉
当時はレーベルごとに仲がいい雰囲気があったので、先輩たちの飲み会にも参加させてもらえるようになりました。今ってどうなんでしょうね?

電撃文庫編集部
今でも、受賞者の皆さんでその場で連絡先を交換されていますね。

支倉
自分が12回の受賞者だったのでまだ人数が少なかったのも、つながりができた理由かもしれません。今より当時のほうが、知り合いが多かった気もします。今では飲み会もだいぶ減ったので。

――作家同士では、集まった時にどんな話をするのですか?

支倉
それほど特別なことは話してないですね。作品論みたいなのは少なかった気がします。旅行とか遊びの話ばかりだった気がします。専業の人が多くて時間の都合がつけやすく、旅行はかなり行きました。

――「急にお金を……」というのもその一環なのかもしれませんが、デビューしてから「作家になったんだな」と実感したのはいつですか?

支倉
「書店に本が並んだ時」というのはよく聞きますが、自分に関して言うと、書店に並んだ本を見てもそんなに実感はありませんでした。自分の場合、アニメが決まってから、その年のコミケで最寄り駅に『狼と香辛料』のポスターが出た時に「ついにここまで来たか」という実感がありました。出身が同人なので、故郷に錦を飾ったような感じです。

2024版のアニメは現代技術で描かれるホロとロレンスや世界観を楽しんでほしい【電撃小説大賞:支倉凍砂先生インタビュー】

――文倉十先生のイラストを初めて見た時の感想はいかがでしたか?

支倉
線が細くて、可愛い絵でいいなと感じたことは覚えています。イラストに関しては、とくに自分のほうからイラストの希望を出したことはなく、徳田さんと文倉さんのセンスにお任せする形でした。

――受賞作『狼と香辛料』は、現在も完全新作アニメとして第1巻の内容から絶賛放送中です。とても息の長い作品だと驚きますが、リメイクが決まった気持ちはいかがですか?

支倉
アニメ化はもちろん、そのリメイクというとかなり作品が限られると思うので、長い時の流れのなかで再浮上できたのは、純粋にうれしいです。

――アニメ化もあって、『狼と香辛料』の読者層は入れ替わっているのでしょうか?

電撃文庫編集部
『狼と香辛料』は、根強いファンに支えられたシリーズという印象はずっとあります。ただ、新アニメ化で新しいファンが流入してきたことは感じますね。読者の平均年齢も若くなっているように思います。

――2024年版アニメの見どころについて教えてください。

支倉
古くからのファンには、現代技術で描かれるホロとロレンスや世界観を楽しんでもらいたいと思います。そもそも2008年のアニメの出来がとてもよく、さらに思い出補正があるのを踏まえたうえでも、かなりクオリティの高い作品になっていると思います。2クールあるのもありがたかったですね。1クールだけだと、どうしてもダイジェスト的な内容になってしまったと思うので(笑)。

――2024年版アニメでも主演キャストが同じなのもすごいですよね。

支倉
そうですね。ただし、実はVRゲームが2024年版アニメの4年前に発売されていて、そこで主演のお2人(福山潤さんと小清水亜美さん)の演技はすでに見ていたので、そこの驚きは今回はほとんどありませんでした。2024年版アニメでの続投を聞いた時も「お2人なら大丈夫だろう」という安心感はありました。

電撃文庫編集部
以前、主演のお2人は「15年経っているからこそできることがある」ともおっしゃっていました。また、すでに物語が一度完結しているからこそ、それを踏まえて演じられている部分があるのではないかと思います。新しいファンはもちろん、古くからのファンにもその辺りの違いに注目して見ていただきたいですね。

電撃小説大賞の投稿者に望むのは“前のめりな作品”【電撃小説大賞:支倉凍砂先生インタビュー】

――もしも今、支倉先生が電撃大賞に応募するとしたら、どんな作品を書きますか?

支倉
いやあ……ちょっと想像できないですね。自分が『狼と香辛料』を応募した当時は学園異能ものが多くて、商人が主人公の作品で大きくヒットしたものはほとんどなかったとか、文芸に対するラノベの立ち位置もハッキリしていて、仮想敵を想像しやすかったです。そこで自分は一般文芸とラノベの間くらいを狙って作品を作って、ついでに趣味で獣耳を入れて……と戦略を立てやすかったです。結果からいってもそれがハマったのかなと。今はジャンルが多種多様になっていて、狙うべきものがわからないです。

電撃文庫編集部
今は日常もので、キャラクター(ヒロイン)に特殊な個性を付けて、その魅力で突っ走るような作品が多い印象です。

支倉
今は流行というものを語れない気がします。いろいろなジャンルの作品が出てきているので、多様性という意味では今が一番でしょう。そんななかで今自分が作家になろうと思ったら、ラノベの賞には応募しない気がします。大変すぎて(笑)。まだ文芸のほうがジャンルが絞られているので、戦略を立てやすい気がします。

――特別選考委員としては、投稿者にどういう作品を応募してほしいですか?

支倉
あまり特定のジャンルを送ってほしいみたいなものはありません。強いて言うなら、“前のめりな作品”が読みたいです。「よくできてるけど、こなれているな」という作品より、大分文章が怪しかったり展開が空回りしていたとしても、熱量を感じられる作品が読みたいです。

――支倉先生が読まれた書籍の中で、そうした熱量を感じた作品はありましたか?

支倉
パッと思い浮かぶのは『君の膵臓をたべたい』(住野よるさん著/双葉社/2015年)です。とにかく熱量がすごくて、持っているものを全部吐き出してる感が強烈で、ストーリーとは別のところでハラハラしながら読んでいました。こんなにすごい熱量で書いてしまったら次の作品書けるのだろうかと心配していたら……まったく問題ありませんでしたね(笑)。

――小説家として活動を続けるうえで大切だと思うようになったことはありますか?

支倉
資料を読み続けることです。歴史の本や、中世ヨーロッパに関する本が多いです。『狼と香辛料』を書いている時、ネタはすでに3巻くらいで尽きていましたから(笑)。常に外部から情報をインプットしていけば、なにかしらアイデアが降りてくる……というイメージです。

――ちなみに、作品を作るという目的で年間に読んでいる本の量はどれくらいですか?

支倉
80冊くらいです。そのなかで物語に直接役立つのは1~2割くらい、2割くらいはまったく役に立ちません。それ以外は自分の知識の周辺を埋めてくれるという感じですかね。とはいえ、何が後々役に立つかはわかりませんから、おもしろかろうがおもしろくなかろうが、定期的に読み続けるように心がけています。

電撃文庫編集部
以前何かを書こうとした時、最低3冊はそのジャンルの本を読むとおっしゃっていましたが、その3冊はどう決めているのでしょう?

支倉
学生の時は有名な本を選んでいましたが、今はランダムに決めています。ただしタイトルに“〇〇入門”と書いてある本は手に取らないようにしています。そうして2~3冊と読んでいくと、だんだん同じ話も出てきて、自分のなかに“地図”ができてくる感覚があるんですよ。“地図”ができてきたら、あとはまだきちんと描かれていない場所を埋めていく感覚ですね。

――そうなると、3冊目を読み終わったあとに1冊目を読み返すことなどもあったりしますか?

支倉
本当はそうしたほうがいいのでしょうが、“積ん読”している本が山ほどあるので、読み返すことはめったにしないです。ですが読む本が多くなってくると、以前読んだ本をまた買ってしまう……なんてことはありますね。ただ、同じ本を読んでも付箋を貼る位置が違っていたりして「旅を経た成果が出ているぞ」と感じたこともあります。最初に読んだときにすくい切れていない部分をちゃんと読めているという点に、喜びを感じました。まあ、そもそも同じ本を買う時点でダメなんですが(笑)。

――ご自身が小説を執筆される際に大切にしているポイントをいくつか教えてください。

支倉
“起承転結”です。自分は少年誌の連載みたいに起承転転転転……みたいな、ずっと盛り上げ続けるタイプの作品や日常ものは書けないと思っているので、起承転結を手掛かりにしています。起承転結をしっかり作るには何か事件が必要なので、そのネタを外から読書などで拾ってくるというのが、自分にとっての一種のスタイルになっていますね。

 あとは“説明はちゃんとキャラクターにしゃべらせる”、“設定資料集にしない”などですね。たまに設定資料集になっていてもおもしろい作家さんもいますが……修羅の道だと思います(笑)。その他に自分のこだわりとしては“メインヒロインは1人”、“誰も死なせない”というのもあります。

――“誰も死なせない”というのはどういう狙いがあるのでしょう?

支倉
ハッピーエンドが好きなので、自分の好みとして大事にしています。“キャラクターたちが誰かの死を乗り越えていく”という作品はあまり好きではないので。多分自分の本を読んでくれる人たちも、そういうテイストは期待していないと思っています。一回ドン底に落ちたとしても、最終的には元に戻るようにしています。

――『狼と羊皮紙』シリーズを書くうえで大変だったことはありますか?

支倉
長く続いてきた『狼と香辛料』シリーズが下敷きとしてあるので、やれないことがすごく多いということが大変です。選択肢が少ないなかで、新しいことをしないといけないのが辛いところですね。『狼と羊皮紙』以外の作品を書いた時は「小説を書くのってこんなに簡単なのか!」と思いました。

――ご自身の経験から、書くことに苦しくなってしまった方に何かアドバイスはありますでしょうか?

支倉
それでもやはり書くしかないですね。辛くても、書いてから悩むしかないと思います。島本和彦先生の作品でも「駄作を作る勇気!」というセリフもありますし(笑)。駄作でも出さないよりはマシと思って書くしかありません。ちょっと前の「小説を書くのって……」というのはあくまで『狼と羊皮紙』と比べたら、ということであって、自分が小説を楽に書けたことは一度もありませんので、とにかく完成させてみることが大事だと思います。

――書く時のルーティーンみたいなものはありますか?

支倉
家では100%書けないので、起きてやる気がなくても喫茶店に行きます。喫茶店で原稿を書けなくても、何か資料を読む。それもダメなら書店に本を買いに行く。という風に、1日のなかで何かしら創作に関する前向きなことをするようにしています。

――現在小説を執筆されている皆さんに、特別選考委員として激励の一言をお願いします。

支倉
本を1冊完成させるのはそれだけですごいことです。頑張って完成させて、応募しましょう! 自分で書いていておもしろいか疑問に思う瞬間がきっとあるかと思います。自分も『狼と香辛料』を書いている時に全然おもしろくないと感じていたシーンが評判よかったりしたので、とりあえず書いてみることをオススメします。おもしろくないと思っても、ひとまず完成させることが大事です。

――ありがとうございました。

“第32回電撃小説大賞”概要

 大賞及び各賞受賞作品はKADOKAWAから出版されます。1次~2次選考通過作に選評をお送りします。

 3次選考通過作(最終選考作のぞく)に複数名による選評をお送りします。

 最終選考作の作者には、担当編集がついてアドバイスします。

※選評の送付時期は受賞作の発表後、2025年12月末頃を予定しております。

募集内容

 オリジナルの長編及び短編小説。ファンタジー、SF、ミステリー、恋愛、青春、ホラーほかジャンルを問いません。未発表かつ日本語で書かれた作品に限ります(他の公募に応募中の作品は選考対象外となります)。

 ご自身で執筆された物だけが選考の対象となります。

賞・賞金

大賞:正賞 記念品+副賞 賞金300万円
金賞:正賞 記念品+副賞 賞金100万円
銀賞:正賞 記念品+副賞 賞金50万円
メディアワークス文庫賞:正賞 記念品+副賞 賞金100万円
電撃の新文芸賞:正賞 記念品+副賞 賞金100万円
※いずれの賞も、該当作品が選出されない場合があります。
※各賞受賞作は、電撃文庫・メディアワークス文庫・電撃の新文芸などから出版されます。
※各賞金の金額は、消費税込の金額であり、また、別途源泉所得税が徴収される場合があります。

応募資格

不問。

最終締め切り

2025年4月10日 23:59

選考方法

2025年4月10日の締め切り後、1次~最終選考を電撃文庫、メディアワークス文庫、電撃の新文芸編集部が行い、大賞及び各賞の受賞作品を決定します。
※カクヨムで応募された作品については、カクヨムでの読者評価と編集部からピックアップされた作品が1次選考作品としてエントリーされます。

最終選考審査員

電撃文庫編集部
メディアワークス文庫編集部
電撃の新文芸編集部

特別選考委員

支倉凍砂先生(作家)

発表

 受賞作品は、2025年11月中旬より、電撃大賞公式サイトにて発表予定です。

※なお、各選考段階(1次~4次)の通過者については、2025年夏頃より上記媒体にて順次発表していきます。
※カクヨムからの応募規定や注意事項については
カクヨム内エントリーページでご確認ください。

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