今からちょうど37年前の1987年12月18日、超人気ゲーム『FF(FINAL FANTASY)』シリーズの第1作『ファイナルファンタジー』が発売されました。その後の37年間に出たナンバリングタイトルは16作、その他シリーズに数えられるゲームはなんと80作以上にものぼるそうです。皆さんの思い出の作品は何でしょうか?
さて、歴代の『FF』シリーズには、実在する神話の要素が数多く見られます。召喚獣、モンスター、キャラクター、街の名前などなど……世界中の神話のモチーフが取り入れられて、壮大なファンタジー世界が構築されていったのです。
そこで、人気YouTubeチャンネル「しんりゅう / ファンタジー&神話研究所」の初著書『神話と宗教の解体神書 ファンタジーの元ネタ超解説』から厳選して、『FF』シリーズに見られる神話の元ネタを紹介しましょう!
さて、歴代の『FF』シリーズには、実在する神話の要素が数多く見られます。召喚獣、モンスター、キャラクター、街の名前などなど……世界中の神話のモチーフが取り入れられて、壮大なファンタジー世界が構築されていったのです。
そこで、人気YouTubeチャンネル「しんりゅう / ファンタジー&神話研究所」の初著書『神話と宗教の解体神書 ファンタジーの元ネタ超解説』から厳選して、『FF』シリーズに見られる神話の元ネタを紹介しましょう!
※あくまで考察であり、公式解答ではありませんので、ご了承ください。
※この記事は、しんりゅう著、沖田瑞穂監修『神話と宗教の解体神書 ファンタジーの元ネタ超解説』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
『FF7』の街の名前になった北欧神話の世界!
まずは、ナンバリングタイトルの中でも屈指の人気を誇り、2024年にはリメイク版の第2弾『リバース』が発売された『FF7』から。
実は『FF7』には、北欧神話に由来する単語が多く登場します。例えば、最初の舞台である魔晄都市「ミッドガル」や、主人公クラウドの故郷の村「ニブルヘイム」もその一つ。これらは北欧神話に登場する国の名前なんです。
さて、元ネタとなった北欧神話の世界は、非常にユニークです。
なんと超巨大な世界樹「ユグドラシル」が宇宙の中心にそびえ立っていて、様々な種族の暮らす「9つの世界」をこの1本の樹が支えている、というんです。神々も巨人も人間も、ユグドラシルが支える9つの世界のどこかで暮らしているというワケ。めちゃくちゃファンタジック!
そんな9つの世界は、主に以下のラインナップ(諸説あり)。
①アース神族の国アースガルズ
②ヴァン神族の国ヴァナヘイム
③人間の国ミズガルズ
④巨人の国ヨトゥンヘイム
⑤光の妖精の国アールヴヘイム
⑥闇の妖精の国スヴァルトアールヴヘイム(あるいは小人の国ニザヴェッリル)
⑦灼熱の国ムスペルヘイム
⑧極寒の国ニヴルヘイム
⑨冥界ヘルヘイム
とはいえ、これらの国がユグドラシルのどこに位置しているのかは、原典に記述が少なくかなり曖昧なんです。知りたい……!
そう、『FF7』の「ミッドガル」は人間の国ミズガルズが由来、「ニブルヘイム」は極寒の国ニヴルヘイムが由来となっているんです。
北欧神話の冒頭ではニヴルヘイムから転がってきた氷から原初の神ユミルが生まれ、その後の様々な物語へと続きます。その名が、『FF7』の全ての始まりとなった村の名前に付けられているのは、とても象徴的に思えますね。
召喚獣タイタンは、ギリシア神話の巨人・ティタン神族が元ネタ?
『FF』シリーズに欠かせないのがカッコ良すぎる召喚獣たち。
中でもストーリー上で重要な役割を果たしてきた召喚獣の一人が、巨人の召喚獣タイタンです。例えば、『FF4』では召喚士の村の少女リディアがタイタンを召喚して地割れを起こしたり、『FF16』ではダルメキア共和国の巨漢フーゴがタイタンの力を宿し、山のような巨体を躍動させて攻撃を繰り出したり。この迫力がスゴい!
実はこのタイタンは、「ギリシア神話」に元ネタがあると考えられます。
それは、巨大な体を持つとさせるギリシア神話の神々「ティタン神族」です。ティタン神族には、かつて最高神であった農耕神クロノスや、その兄弟にあたる12柱の神々が主に属しています。
クロノスには多くの子供がいて、そのうちの1柱が、ファンタジー作品でもお馴染みの最強の雷神ゼウスでした。あるときゼウスは兄弟たちと共に、父クロノスが率いる親世代の神々に大戦争「ティタノマキア」を仕掛け、最高神の座を見事に奪います。そしてクロノスたちティタン神族を、冥界タルタロスに幽閉するのでした。
最後はゼウスたちに敗れてしまったティタン神族。しかし、その戦いは大迫力だったに違いありません。
オルトロスとテュポーン先生は、ギリシア神話では怪物の親子だった!
『FF5』に登場する人気ボスモンスターといえば、関西弁のような方言で話すタコ「オルトロス」と、その師匠的な存在のテュポーン(先生)ですね。実は彼らの元ネタもギリシア神話にあるんです。
それは、ゼウスたちがティタノマキアに勝利した後のこと。父クロノスたちティタン神族を冥界タルタロスに幽閉したゼウスに対して、ティタノマキアでは味方になってくれたゼウスの祖母である地母神ガイアが怒り心頭。
今度は、祖母ガイアたちとの大戦争「ギガントマキア」が勃発してしまいます。ゼウスは、この戦いにも何とか勝利を収めますが、ガイアはそれでも諦めません。なんと怪物テュポーンを産み落とし、ゼウスに最後の戦いを挑みました。しかもテュポーンは肩から100の竜を生やし、星に届くほどの巨体を持つ最凶怪物。とんでもなく強く、ゼウスは最強武器である雷霆ケラウノスを奪われ、殺される寸前まで追い詰められてしまいます。
ところがそこに伝令神ヘルメスが現れて幽閉されていたゼウスを助けたことで、ゼウスは逆にテュポーンを圧倒し始め、最後にエトナ火山でテュポーンを押し潰すことで封印に成功します。こうしてゼウスは最後の戦いを終え、今度こそ本当に世界の支配者となったのでした。
ちなみにテュポーンは、女怪物エキドナとの間に多くの子をもうけました。しかも、子どもたちもよく知られた怪物ばかりで、3つ首の冥界の番犬ケルベロス、双頭の番犬オルトロス、9つの頭の大蛇ヒュドラ、100の頭の竜ラドン、合成獣キマイラなどなど。『FF5』では師弟関係にあったオルトロスとテュポーン先生は、ギリシア神話では実の親子だったんです。しかもオルトロスはタコではなく犬です。
最高神ゼウスすらも苦しめたテュポーンですが、『FF』シリーズにも頻出のモンスターたちを産んでくれたと考えると……結構ありがたい存在かも?
「おれは しょうきに もどった!」竜騎士カインの元ネタは『旧約聖書』に
『FF4』の主要キャラクターといえば、世界を救う旅をすることになった暗黒騎士(パラディン)の「セシル」とその親友である竜騎士の「カイン」。カインはセシルの恋人ローザに密かに恋をしているんですが、その嫉妬心を利用されて敵に操られてしまい、何度もセシルを裏切ります。「おれは しょうきに もどった!」という名セリフ(?)が最高!
実はこの「嫉妬によって親友を裏切る」というカインの性格は、その名の由来にもなった『旧約聖書』の物語から来ています。『旧約聖書』はユダヤ教やキリスト教の正典とされる書のこと。その中で語られる物語にカインは登場します。
カインは、『旧約聖書』における最初の人類「アダム」と「エバ」の間に生まれた子ども。そしてカインには弟アベルがいました。兄弟はやがて成長すると、兄カインは農夫に、弟アベルは羊飼いになります。そんなある日、神への供え物として、カインは作物を、アベルは肥えた仔羊をそれぞれ捧げます。すると神は、カインが捧げた作物には見向きもしない一方で、アベルの仔羊には大層喜びました。なんで!?
カインはこれに「弟だけがなぜ!」と怒りを募らせ、ひどく嫉妬します。そしてカインは、野原にアベルを連れ出して、なんと殺してしまいました。『旧約聖書』ではこれが「人類最初の殺人」とされています。
このように嫉妬に駆られて弟に殺してしまうカインの性格が、『FF4』のカインに影響を与えているというワケ。嫉妬からの裏切り……これは人類不変のテーマなのかもしれませんね。
「奴は四天王の中でも最弱…」の四天王は仏教の守護神!
続いては、ちょっと変わり種の”元ネタ”をご紹介。
ゲームや漫画で、実力のある4人衆は「四天王」と呼ばれますよね。そして四天王の最初の1人が倒されて、2人目が「奴は四天王の中でも最弱…」と言われるのが定番。これは人気漫画『増田こうすけ劇場 ギャグマンガ日和』の作中漫画『ソードマスターヤマト』内でのセリフが元ネタとされますが、実はこのセリフ自体も、“よくある展開” のオマージュ。
実際『FF4』にも、悪のゴルベーザに仕える4体の魔物「ゴルベーザ四天王」が登場。四天王の中で2番目に戦う水のカイナッツォは、最初に倒された土のスカルミリョーネを指して「あいつは 4てんのうに なれたのが ふしぎなくらい よわっちいヤツだったからなあ」というセリフを吐いています。様式美すぎる!
さらに言えば、この「四天王」という言葉は、本来、仏教において「天部」というグループに属する4柱の神のことを指します。その神々とは、①持国天、②増長天、③広目天、④多聞天です。彼らは、それぞれ東西南北の方角を担当し、仏教の教えを滅ぼそうとする邪鬼や魔物から人々を守るとされています。まさに守護神というワケ。
作品内では悪役にされることの多い四天王とは異なりますね。
神話が元ネタの召喚獣たちシヴァの元ネタは諸説あり?
『FF』シリーズには様々な召喚獣が登場し、その多くは神話に元ネタを見つけることができますが、中には元ネタが不明の召喚獣もいます。そのうち、特にややこしいのが氷の召喚獣「シヴァ」です。氷を操る美女で、「シヴァと言えば『FF』!」という方も多いかも。
実は、神話でシヴァと言うと、インド神話(ヒンドゥー教)に登場する破壊神「シヴァ」が真っ先に思いつきます。インド神話の3大神は、創造神ブラフマー、維持神ヴィシュヌ、破壊神シヴァであり、インド神話の物語では、この3大神が世界が危機に陥った“良いトコ”で登場し、世界を救ってくれるのが鉄板の展開です。
しかし、インド神話のシヴァは男神。また特に氷にまつわるエピソードがあるワケでもありません。そのため『FF』のシヴァの元ネタはインド神話のシヴァではなく、『旧約聖書』に登場する聡明で美しい女性「シバの女王」だとされることもあります。
しかし、実はその説も微妙です。というのも、 FFのシヴァは英語で「Shiva」ですがこれはインド神話のシヴァの英語と同じであり、シバの女王は「Sheba」なんです。もしかすると英語の「shiver(震える)」が元ネタで、だから氷属性なのかも? と考えることもできますが、いずれにせよ『FF』の有名召喚獣のシヴァは、意外にも元ネタが曖昧。ご存知の方はいませんか……?
他にも、『FF』で馬に乗って「斬鉄剣」を放つ召喚獣オーディンが北欧神話の最高神オーディンと似ても似つかなかったり、雷を放つ召喚獣ラムウがおそらくギリシア神話のゼウスを元ネタにしているものの名前が違ったり、と『FF』と神話の元ネタの間には、様々な違いや謎があります。気になる方はぜひ元ネタの神話を考えてみると、より考察が深まるかも。
『FF』シリーズ37周年を記念して、『FF』と関係の深いファンタジーの元ネタを紹介してきました。これを機にぜひ、『FF』をプレイしたくなっていただけたら嬉しいです。
また、こういった神話と現代作品との関わりをまとめた書籍『神話と宗教の解体神書 ファンタジーの元ネタ超解説』もぜひお手にとっていただければと思います。
プロフィール
著者:しんりゅう(@shinryu_myth)
ファンタジー好きだった父の影響を受けて、ゲーム、漫画、小説など、様々なファンタジー作品に触れて育った一般男性。作品内に登場する用語の“元ネタ”を調べるうちに神話・宗教に興味を持ち、専門書を集めて学び始める。神話好きが高じて、2022年6月にYouTubeチャンネル“しんりゅう / ファンタジー&神話研究所”を開設。“ファンタジー作品の元ネタ紹介”を軸に、神話用語を解説する動画を投稿している。2024年12月現在、チャンネル登録者は20万人。
監修:沖田 瑞穂(おきた みずほ)(@amrtamanthana)
1977年、兵庫県生まれ。学習院大学大学院人文科学研究科日本語日本文学専攻博士後期課程修了。博士(日本語日本文学)。専門はインド神話、比較神話。著書に『マハーバーラタの神話学』(弘文堂)、『マハーバーラタ入門―インド神話の世界』(勉誠出版)、『世界の神話』(岩波ジュニア新書)、『怖い女』『怖い家』(以上、原書房)、『災禍の神話学』(河出書房新社)など多数。
ファンタジー好きだった父の影響を受けて、ゲーム、漫画、小説など、様々なファンタジー作品に触れて育った一般男性。作品内に登場する用語の“元ネタ”を調べるうちに神話・宗教に興味を持ち、専門書を集めて学び始める。神話好きが高じて、2022年6月にYouTubeチャンネル“しんりゅう / ファンタジー&神話研究所”を開設。“ファンタジー作品の元ネタ紹介”を軸に、神話用語を解説する動画を投稿している。2024年12月現在、チャンネル登録者は20万人。
監修:沖田 瑞穂(おきた みずほ)(@amrtamanthana)
1977年、兵庫県生まれ。学習院大学大学院人文科学研究科日本語日本文学専攻博士後期課程修了。博士(日本語日本文学)。専門はインド神話、比較神話。著書に『マハーバーラタの神話学』(弘文堂)、『マハーバーラタ入門―インド神話の世界』(勉誠出版)、『世界の神話』(岩波ジュニア新書)、『怖い女』『怖い家』(以上、原書房)、『災禍の神話学』(河出書房新社)など多数。
書誌情報
書名:神話と宗教の解体神書 ファンタジーの元ネタ超解説
著者:しんりゅう
監修:沖田瑞穂
定価:2,090円(税込)
発売日:2024年9月27日(金)
判型:A5判
ページ数:248ページ
ISBN:978-4-04-606715-9
発行:株式会社KADOKAWA
著者:しんりゅう
監修:沖田瑞穂
定価:2,090円(税込)
発売日:2024年9月27日(金)
判型:A5判
ページ数:248ページ
ISBN:978-4-04-606715-9
発行:株式会社KADOKAWA