漫画『キングダム』の最新74巻が12月18日に発売されました。今回は読み終えてみての感想記事をお届けします。
[B]※記事内には『キングダム』のネタバレが含まれています。
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『キングダム』74巻感想(ネタバレあり):大敗を喫した秦軍の再興はなるか? 王翦が口にした“李牧の弱点”とは……
李牧(りぼく)率いる趙軍との総力戦“番吾の戦い(はんごのたたかい)”で、手痛い敗北を喫した秦軍。総大将・王翦(おうせん)こそ生き残ったものの、多くの将と兵を失ったこの敗戦で秦は国力が大きく低下しました。まさに大惨敗……。最新74巻では、大きく後退した“中華統一への道”に秦の国は再び返り咲くことができるのか──? というところが焦点となってきます。
ぶっちゃけ73巻では過去イチの絶望を味わいましたよね。王騎(おうき)や桓騎(かんき)の敗北にもショックを受けたものでしたが、個人的にはその衝撃をも上回るインパクト。向かうところ敵なしだった王翦をもってしても李牧にはかなわないのか……と思い知らされる大敗で、多くの兵はもちろん、亜光(あこう)や田里弥(でんりみ)といった将軍たちが次々と討たれたことは、正直トラウマになっています(苦笑)。
李牧、許すまじ! これまでならそんな気持ちにもなるってものですが、前回の負け方があまりにもヤバ過ぎたこともあるのかな……。今の僕としては“しばらく趙と李牧には触らんとこう?”って気持ちになっていまして。だって、同じ相手に3連続で負けたら立ち直れないでしょ!
ホント、李牧の策もさておき。司馬尚(しばしょう)を筆頭とする青歌軍の武力、あれが本当にキツかった。あんなチートみたいな連中を相手に、どうすれば勝てるのかビジョンが見えないというか……。
唯一希望があるとすれば、王翦が口にした「李牧には“大いなる弱点”がある。そこをつけば奴を殺すのは容易だ」という言葉くらいでしょうか。いや、でもホントに? 負け惜しみじゃなくて?(苦笑)
王翦いわく「弱点を突くことなく真っ向勝負で勝つ算段があった」とのことですが。負けた人間が言っても説得力に欠けるし、個人的には策があるならやっときゃ良かったのにって気持ちになりましたよ。倉央(そうおう)が「その真っ向勝負に出て敗れたせいで亜光も田里弥も死にましたぞ」って強めにツッコミを入れてくれたおかげで、少し溜飲は下がりましたけども(汗)。よくぞ言ってくれたぜ倉央。彼のこと、僕はかなり好きだったりします。番吾で退場しなくて本当によかった……。
ちなみに、このくだりの感想を書いていてふと思い出したシーンがあります。具体的には、桓騎軍と飛信隊が慶舎(けいしゃ)率いる趙軍と争い、勝利を得た“黒羊の戦い”でのこと。敗れた趙側の人間である李牧が、黒羊の去り際に口にした「桓騎の弱点を見つけた」という45巻のシーンですね。
あの時は「負け惜しみか?」と思ったものの、この伏線はそこから時間を経た69巻にて、桓騎の死という形で回収されたのは皆さんも記憶に新しいところかと。王翦ほどの策士がそう口にしたわけですから、もしかすると僕なんかには思いもよらないところで、李牧の弱点が暴かれている可能性はあります。秦としてはそこに賭けたいところですよね……。
加えて、俯瞰視点で見てみるとこの負けに意味がなかったわけでもなさそうかな、と。敗戦を機に文官たちが中心となって“戸籍”の制作が進んだわけですが、これ、秦が中華統一を成すためにはすごく重要な政策だった気がするんですよ。もっと言ってしまえば、この戸籍作りのノウハウは中華統一後にもきっと役立つんじゃなかろうか、と。そんなふうに考えてしまいました。
大きすぎる敗北だからこそ、立ち止まって見つめ直すものが出てきた感覚。幸いにも、文官たちの踏ん張りで再度、中華統一への道が見えてきたところもありますからね。ホント、李牧にはいつかガツンとわからせてやってほしい。できれば、そう遠くない未来に……(願望)。
韓の国を討ち滅ぼすため飛信隊が六代将軍・騰の軍勢と共に出陣! 見せ場は戦場ではなく食事?【キングダム 74巻】
連敗で足踏みし、ともすれば横道に逸れかけている覇道をどうにか軌道修正するために重要となりそうなのが、次なる“韓”との戦い。この絶対に負けられない戦いを任されたのが、六代将軍・騰(とう)と、李信率いる飛信隊でした。
羌瘣(きょうかい)も将軍へと出世し、渕さんや楚水ら副長格も五千人将になるなど、ここにきてどんどん規模を大きくしている飛信隊。久しぶりの登場となる騰も含め、さぞ戦場で存在感を発揮するんだろうな……と思いきや、韓の要所である“南陽(なんよう)”はあっけなく無血開城。なんか、思っていたのと違うというか。この74巻では戦いより“融和”に重点が置かれていたところには大いに面食らい、そして感心してしまいました。
嬴政(えいせい)が願う中華統一思想を実現するため、侵略者と蔑まれても前に進まなければならない李信たち。彼らが武力のみを押し出して進めば、そこには血が流れ、多くの憎しみが生まれていくことでしょう。韓の国民にとって、秦の軍は侵略者そのものなんですよね。当然ながら、それは趙をはじめとする秦以外の国にとっても同義のことですし。
つまるところ、今回の韓攻めではこの“侵略者である秦の考えをどう理解してもらうのか?”にスポットが当たっていました。これまではただ“勝てばいい”だけだった戦争が、その後の統治のことまで含めたお話になってきたわけで、またもや風呂敷が広げられた感覚です。
前述しましたが、単細胞な僕としては“今度こそ李信たちがアツい戦いを繰り広げて韓軍を打ち倒してくれるだろう”と考えていたのですが。実際のところ李信たちの戦いは戦場ではなく、陥落させた城のなかで行われることになり、思いもよらない展開にこれはこれでワクワクが止まりませんでしたよ。
秦の民と韓の民、簡単には交わりそうもない彼らですが、そこの間を取り持つことになりそうなのが他ならぬ李信ということで、これはかなり胸アツ。本巻屈指の名シーンである、李信たち飛信隊と南陽に残された韓の民が食事を共にするところは、本当にグッときました。ここでみなまで書くのは無粋なので避けますが、李信の器のデカさがあらためて垣間見られる名エピソードでしたからね。未読の方はぜひお楽しみに。
「ルアア!」と雄たけびがこだまする『キングダム』も大好きですが、こういった方向性のエピソードもしっかり描いてくれる点には好感が持てます。さておき、次はいよいよ韓の王都・新鄭(しんてい)が戦場になりそう。今度こそ李信と飛信隊の躍動に期待したいところですね。
以前も書いた気がしますが、自分としてはやはり戦場こそが『キングダム』の華だと思いますし、ここからの展開には大いに注目しています。それでは今回はこのへんで!