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『メダリスト』1話感想。始めるには11歳でも遅い、フィギュアスケート界の恐ろしさ。コーチと選手を"弓と矢”になぞらえた米津さんの主題歌もエモい(ネタバレあり)。

文:米澤崇史

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 放送中のTVアニメ『メダリスト』第1話“氷上の天才”の感想記事をお届けします。
【注意】キービジュアルより先のテキストでは、『メダリスト』1話の物語に関する記述が多々あります。そのため本編をご覧になってから読むことをオススメします。 [IMAGE]

初心者視点でスタートするフィギュアスケートものは意外と新鮮【メダリスト】

 『月刊アフタヌーン』にて連載中の、つるまいかだ先生の漫画を原作としたTVアニメ『メダリスト』の放送がいよいよスタートしました。

 名だたるヒット作の人気の火付け役になった、“次にくるマンガ大賞”で1位になった時からタイトルは知っていたこと、アニメのPVのクオリティがめちゃくちゃ高かったこと、さらに主題歌をあの米津玄師さんが担当されるということなどがあり、今期の中でも個人的にかなり注目していた作品でした。


 毎回新アニメがスタートする時に、まっさらな気持ちでアニメを楽しむか、原作を予習してどう映像化されたかを楽しむか迷うんですけど、今回は我慢しきれなかったのもあって、原作2巻まで予習した状態で視聴をスタートしました(途中までなので、たまに的はずれな考察が入り交じることもあるかもしれません)。

 そんな本作が題材にしているのは、日本人には馴染み深い競技であるフィギュアスケート。

 自分はフィギュアスケートに特別詳しいというわけではないんですが、ちょうど浅田真央さんや安藤美姫さんくらいの世代で、フィギュアスケートが瞬く間に大人気競技になっていく様子を目の当たりにしていたのもあって、いろんなスポーツの中でもかなり関心がある方の競技です。

 『ユーリ!!! on ICE』とか、定期的に題材とする作品も作られますしね(自分は『銀盤カレイドスコープ』が好きで、原作小説も買っていました)。

 PVを見た段階から期待していた部分ではあったんですが、もう1話の冒頭からいきなり作画で度肝を抜かれました。

 本作の主人公である結束いのりがバッグを掴んで走りはじめた時の躍動感、その後の手すりを滑り降りる時のスタイリッシュなアニメーションは、めちゃくちゃインパクトがありました。動きはやたらと機敏でカッコいいのに、顔はビビりまくっているというギャップも面白いです。


 その後は、もう一人の主人公ともいえる明浦路司と出会い、いのりが本格的にスケートを始める最初の第1歩を踏み出すシーンも描かれたわけですが、先ほど話題にあげた『銀盤カレイドスコープ』も『ユーリ!!! on ICE』も、主人公は最初からスケートの実力はすでにあるところからスタートしていたので、初心者から始まるというのは新鮮でした。

 その中で、「11歳がギリギリ」という発言もありましたが、本当にフィギュアスケートって3~4歳くらいから始めるのが珍しくないらしいんですよね。

 日本がフィギュアスケートの強豪国であることを差し引いても、野球やサッカーで11歳で始めるのが遅すぎると言われることはあまりないでしょうし、本当にすごい世界だなと。自分は水泳とか習字みたいな、子どもの頃の定番の習い事もやっていなかったので、尚更想像が難しいです。

 一方の司は、競技スケートから引退後、フリーターで食いつなぎながらアイスショーへの出場を目指す日々を送っているという、なんだか冴えなそうな雰囲気を漂わせている人物なんですが、過去には日本の競技スケートの頂点とも言える、全日本選手権の出場経験を持っている、ものすごい経歴の持ち主。

 人あたりがよく、明るくて声も大きい、まさにスポーツマンらしい性格もしているのに、自己評価が超がつくくらい低いのに、やたらギャップがあります。自分よりもすごい天才たちがゴロゴロいる世界にいたからこそではありますが、かつての相方だった高峰瞳にコーチを打診された時も、「自分には無理」という理由で辞退する一歩手前まで行っていました。


 ここでタイミングよくいのりが来ていなかったら、司はコーチを断っていたでしょうし、そもそも昨日の出会いがなかったら、いのりは母親にスケートがしたいと告げていなかったと思うので、ほんの僅かでも掛け違いがあれば『メダリスト』の物語は始まらなかったんですよね。出会うべくして出会った二人というか、運命の巡り合わせみたいなものを感じます。

娘への愛情は感じられる母親の正論【メダリスト】

 いのりにかつての自分を重ねていた司の助け舟によって、どんどんいのりのスケーターとしての才能が明らかになっていきます。こういう、“主人公の隠れた才能が明らかになって周囲が驚く”展開って、スポーツ漫画の王道中の王道ですが、やはり何回見ても気持ちがいいです。

 一方、スケートリンクの上で別人のようになった娘を見て感激する、なんか良さげな雰囲気から、急に「スン……」と真顔になって掌返ししたのは笑ってしまいましたが、いのりのお母さんが言っていることも本当に正論なんですよね。


 年齢的に圧倒的に不利になるフィギュアスケートよりも、もっと自分にあった楽しいものが見つかるかもしれないですし、青春をフィギュアに捧げてきた娘の姿を見てきたからこそ、いのりにはもっとのびのびと育って欲しいと思うのは、客観的に見ても何らおかしくはありません。

 スケートを諦めさせるためとはいえ、実際に近くのスケートクラブをいくつも一緒に回ってあげている時点で、めっちゃいいお母さんだと思うんですよね。しっかりと自分の意思で“諦める”という方向に誘導する、大人ならではのずるいやり方ではありますが、頭ごなしに「ダメ」と言われるよりは、子供の立場からしても納得しやすくなる方法を取っています。

 しかし、それでもいのりは引き下がりませんでした。1話のクライマックスで、いのりがボロボロに泣きながら、自分の気持ちを打ち明けるシーンは、普段喋っている子が一生懸命喋ろうとしているような独特の息遣いがあって、いのり役の春瀬なつみさんの演技も素晴らしかった。

 姉のことがあったとを考えると、フィギュアスケートがやりたいと母親に伝えられた時点でもかなりすごいですし、一見おどおどしているように見えて、言う時は結構しっかり言えるあたり、やっぱりいのりは主人公なんだなと。


 また、「スケートをもっと早く始めていれば」という後悔と、それでも結局は諦めきれなくなることを知っているからこそ、いのりに感情移入する司の気持ちも理解できます。「5歳から始めても、本格的な練習をできる子なんて早々いない」というのもそうですし、あそこで司がぶちまけた言葉の数々は、かつての司自身が誰かに言ってもらいたかった言葉なんじゃないかとも思えてきます。

 そしてエンディングでは、米津さんが歌う主題歌“BOW AND ARROW”が満を持して流れましたが、歌詞がまさにいのりと司、フィギュアスケートにおける選手とコーチの関係性を表すような内容になっていて、本当に『メダリスト』のためだけに作られた楽曲なんだなと。コーチと選手の関係を「弓と矢」と表現するのも実にハイセンスでエモいです。

 実は“BOW AND ARROW”には、原作の大ファンだった米津さんが、アニメ化の発表を聞いて「曲を作らせてもらえないか」と逆オファーしていたという驚きの制作経緯があったことも明かされていて、作詞・作曲・編曲をすべて米津さんが担当していることからも、並々ならぬ熱い想いが込められているのが分かります。

 やっぱりアニメだと、動きが映像で表現されるので、とくにスケートシーンでどういう技をしているのかが想像せずとも分かるのは強みだと感じました。

 原作のスケートシーンの絵の迫力も本当に素晴らしいんですが、名前を聞いてもピンとこない技とかは、動きでみると「あ、この動きのことだったんだ」と現実の競技を見た時のイメージと結びつけられたりもして、しっかりとアニメならではの良さも出ています。

 1話ではまだお披露目されていない、米津さんの主題歌にどういう映像が乗るのかも気になるところで、2話の放送も待ち遠しいです。



米澤崇史:ロボットアニメとRPG、ギャルゲーを愛するゲームライター。幼少期の勇者シリーズとSDガンダムとの出会いをきっかけに、ロボットアニメにのめり込む。今もっとも欲しいものは、プラモデルとフィギュアを飾るための専用のスペース。

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