電撃オンラインが注目するインディーゲームを紹介する電撃インディー。今回は、あまたが運営するインディーゲームパブリッシングブランド“AMATA Games”より配信されたノベルアドベンチャー『じゃあ、また』のレビューをお届けします。
なお、電撃オンラインは、尖っていてオリジナリティがあったり、作り手が作りたいゲームを形にしていたりと、インディースピリットを感じるゲームをインディーゲームと呼び、愛を持ってプッシュしていきます!
『じゃあ、また』の魅力
濃密な物語を体験できるアドベンチャーゲーム
本作は、タイトルの通り、“別れ”をテーマにしたノベルタイプのアドベンチャーゲームです。
主人公は、物語開始時10歳の少年、ナツ。6月6日の誕生日に不意にタイムスリップしてしまった彼は、ある人と出会います。
幼い頃に母を亡くし、日々無気力な生活を送ってきた彼は、それから毎年、誕生日を迎えるたび、タイムスリップしてその人と出会うのですが……。
システムはとてもシンプルで、基本的にはストーリーを追っていくだけです。とくに選択肢などもなく、物語の分岐もないので、ゲーム自体は、1時間もあればエンディングを迎えることができるはず。
その約1時間で展開する物語は、主人公の少年と、タイムスリップすることで出会ったある人が、“カメラ”を通じて交流する、なんてことない日常です。
たった2人の登場人物しかいない、1年に1日だけの出会いを積み重ねていく物語は、本当に静かで、波乱万丈な事件は一切起こりません。しかしその内容はとても濃密で、絶妙な展開と軽快な語り口で、世界観にグイグイと引き込んでくれました。
そして最後は、まるで良質のドラマや映画を見終えたような、充実した満足感を与えてくれるのです。本作の魅力は、まさにこのストーリーに集約しているといっても過言ではないでしょう。
何気ない日常の積み重ねが心に染みる
本作の魅力はストーリーにあるとはいえ、ゲーム自体ノベル式のアドベンチャーゲームであるため、あまり語るとネタバレになってしまうのが難しいところ。
そこでちょっと掻い摘んで説明しますと、主人公は、毎年6月6日の誕生日の日だけ、タイムスリップする力を手に入れた少年。
彼は、生まれてすぐに亡くなったという母親の記憶はなく、写真でしか知りません。しかし、この不思議な力をきっかけに、徐々に母親のことを知っていくことになります。
そして、タイムスリップした先で出会うのは、さばさばとした性格でぶっきらぼうな若い女性。カメラが趣味で、写真の撮り方を主人公に教えてくれます。2人は最初はどこかすれ違ったような空気感でしたが、やがてお互いに心を許し始め、その心の距離を縮めていくことになるのです。
そして迎える“最後の夏”は、これまで積み重ねてきたエピソードがすべて繋がり、感動が一気に押し寄せてきます。涙腺が緩い人は、ハンカチを忘れないよう注意です。
ゲーム的なインタラクティブ性もあります
基本的に読み進めていくだけですが、その途中途中でゲーム的なインタラクティブなシーンが挿入されます。主人公のちょっとした移動はもちろん、画面をスワイプして物を動かしたり、周囲のもやを晴らしたり等々……。
とくに、物語で重要になる“カメラ”の操作は、光の加減を調整したり、ピントをあわせたりといった操作を行う必要があります。しかし、これらはどれもほんのちょっとした操作なので、煩わしさは一切ありません。むしろ世界への没入感を深めることに一役買っています。
なかでも個人的に好きなのが、タイムスリップをしたとき、画面をスワイプすることで、周囲の情景が一気に鮮やかな色をつけるという演出。
本作では無気力に過ごす現実の世界はモノクロで描かれ、タイムスリップ中はカラーになるのですが、この心情の移り変わりを描いた演出は、主人公とのシンクロ率を高めてくれました。
翻訳も面白さの要因の1つ
ゲームは主人公のモノローグと、2人のセリフのみで展開していくのですが、かなり情緒あふれる言葉にあふれ、すんなり情景が頭に入ってきます。
実は本作は海外製で、元のゲームは日本語ではないはずなのですが、そのことをまったく感じさせないくらい、セリフや状況描写に優れているのです。
どういう過程で製作されたのかは分からないので詳細は不明ですが、これが翻訳によるものであるなら、この翻訳をした人に本当に感謝したい。それくらい素晴らしい翻訳です。
また、タイトルの『じゃあ、また』もいいですね。原題は『再见 Once Again』で、訳せば“さようなら”とか“また会いましょう”みたいな感じだと思うのですが、日本語で『じゃあ、また』とするセンスが、なんとも本作の雰囲気をしっかり捉えていると思いました。
マルチエンディングではないので、何度も繰り返すタイプのゲームではないですが、その1度のプレイで、実に濃密な物語を体験できるゲームです。価格も880円(Switch版)と比較的安価に購入できるので、ちょっとした短編映画を見るつもりでぜひ遊んでみて下さい。
『じゃあ、また』とは(ストアページより)
「じゃあ、また」は別れに関係する物語。成長期の少年は、ある夏、時空を越えある人物と出会う。
会った瞬間、少年の夏は、想像もできない不思議な夏へと変わる。時空を越えられるとしたら、誰に一番会いたいですか?
いつもの退屈な夏、少年ナツが誕生日ケーキのロウソクを吹き消すと、予期せぬことが。
時空を越え、人生で最も会いたいと願っていた、でも会ったことの無い人物に出会ったのである。
その時空で、ナツは「その人」に会えただけでなく、「その人」から写真の撮り方を教わり、失われた時間をフレームの中に収めていく。
ここに留まりたいと一番思わせたのはどの「その人」だったのか? ナツとその「その人」が辿った過程とは?
「じゃあ、また」は、再会の約束なのか、それとももう会うことはないという意味なのか? その最終的な意味は、この旅に参加することでしか分かりません。
ゲームの特徴
・誕生日は毎年、ナツが「その人」と過ごせる時間。それは愛の時間であり、永遠の記憶である。
・時空を超えたナツと「その人」の出会い。この夏の最も感動的な物語。
・画面スワイプ、主人公のコントロール等といったインタラクティブな方法で、物語を進める。
・物語をより美しく感動的にする、手描きアニメーションとスケッチ風の様々な時空の情景。
・ゲームを通し、光の加減や、焦点の合わせ方など、カメラのスキルを学ぶことができる。