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『クレール・オブスキュール:エクスペディション33』が生まれたきっかけは『FF8』と『SEKIRO』だった!? 体験会レポート&開発者インタビュー【Clair Obscur: Expedition 33】

文:米澤崇史

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 4月24日発売予定のPS5/Xbox Series X|S/PC(Windows/Steam/Epic Games Store)用ソフト『Clair Obscur: Expedition 33(クレール・オブスキュール:エクスペディション33)』。

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 2月25日に東京・渋谷のShibuya Sakura Stageにおいて、本作の世界初となるプレイアブルデモ体験会が開催されました。

 体験会では、開発を担当するSandfall InteractiveのCEO兼クリエイティブディレクターのギヨーム・ブロッシュ氏と、COO兼プロダクションディレクターのフランソア・ムーリス氏が登壇。日本のメディアに向けたセッションを行いました。

 ここではそのセッションの模様と、ギヨーム氏、フランソア氏へのインタビューをお届けします。

『エクスペディション33』体験会レポ:日本のコマンドバトルRPGへのリスペクトにより生まれたタイトル


 ベル・エポック時代のフランスをモチーフにした幻想的な世界を舞台に、革新的なターンバトルシステムを採用した RPGである『Clair Obscur: Expedition 33』。開発を担当するSandfall Interactiveは、フランスに約30人ほどの開発スタジオで、開発メンバーの多くが日本のゲームや文化に深い思い入れがあるそうです。

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▲ギヨーム・ブロッシュ氏(写真左)、フランソア・ムーリス氏(写真右)。
 そんなSandfall InteractiveのCEOであり、本作のクリエイティブディレクターも務めるギヨーム氏は、本作の魅力として“ストーリー”、“ゲームプレイ”、“世界観”の3つの柱を紹介。

 本作の舞台となるのは、崩壊したフランスのパリをイメージした“ルミエール”という架空の土地。ルミエールの人々は、“ペイントレス”と呼ばれる存在によって毎年呪いの数字を書き込まれており、呪いの数字よりも上の年齢になった人間はその世界から消えてしまいます。

 呪いの数字は毎年小さくなっており、数値が33になるタイミングに、ペイントレスを倒すための遠征隊が結成される形で、本作の物語は始まることになります。

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 音声は英語・フランス語が収録され、『デアデビル:ボーン・アゲイン』マット・マードック役のチャーリー・コックス氏、『バルダーズ・ゲート3』シャドウハート役のジェニファー・イングリッシュ氏といった、豪華なキャスト陣が起用されています。

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 “リアクティブターン”という本作独自のバトルシステムは、従来のコマンドバトルをベースに、パリィや回避といったアクションのエッセンスを盛り込んだもの。本作では、あらゆる敵の攻撃をパリィで防ぐことも可能になっているそうで、ギヨーム氏はノーダメージクリアを達成するプレイヤーが出てくることにも期待を寄せていました。

 パリィを使うのか、それとも攻撃を受けるのを前提にするのかなど、プレイスタイルに応じてさまざまなキャラクタービルドの幅が用意されているのも特徴。本作にはフリーエイムモードというシューターゲームのような操作で敵を攻撃できるモードも存在しており、開発メンバーの中にはそのフリーエイムモードだけを使ってゲームをクリアしたという猛者もいたほどなのだとか。

 またマップについてのこだわりとして、広大なワールドマップを用意したことを紹介するギヨーム氏。ギヨーム氏は、オープンワールドではないエリア式のマップが日本のRPGの象徴だと考えており、日本のRPGをリスペクトした本作もそれを踏襲したそうで、「最新の技術でワールドマップを作ったらどうなるのか?」という点も、本作のコンセプトのひとつになっているようです。

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 サウンドについてもかなりこだわって制作されており、Lorien Testard(ロリアン・テスタール)氏が制作したサウンドトラックは7~8時間にも及ぶ大ボリュームで、約5年もの制作期間をかけて、シーンひとつひとつに合わせた楽曲が作られているそうです。

 ゲームエンジンにはUnreal Engine5が採用されており、本当にその世界の中に入り込んだかのようなリアリティを感じられる、あえてファンタジーではなく写実的な映像表現を目指したことも語られていました。

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 セッション後には、質疑応答の時間も設けられ、ギョーム氏がさまざまな質問に回答していました。

 質問の中で、とくに思い入れの深いタイトルとしてギヨーム氏が挙げていたのが『ファイナルファンタジーVIII』。氏が生まれて初めてプレイしたゲームでもあり、バラムガーデンの音楽を聴くだけでウルッとしてしまうほどで、その他にも『真・女神転生』シリーズや『ペルソナ』シリーズ、『アトリエ』シリーズなども好んでおり、「日本のコマンドRPGはほとんど遊んだ」という言葉も飛び出すなど、日本のRPGへの愛の深さをのぞかせます。

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 また、アクションが苦手なプレイヤーも本作を楽しめるような仕組みとして改めて強調されていたのが、キャラクタービルドの幅の広さ。

 本作に登場する装備はすべてパッシブスキルが付与されており、膨大な組み合わせパターンが存在。キャラクターごとのスキルツリーも用意されており、ダメージを軽減できるスキルに特化するなど、組み合わせによってはパリィを一切使わず、普通のコマンドRPGのようなプレイスタイルでもクリアできるほど自由度が高いそうで、どんなキャラクタービルドであってもゲームがクリアできるようにバランス調整がされているようです。

 なおメインストーリー以外にも膨大なサブクエストが用意されており、メインストーリークリアまで30時間、サブクエストもプレイすると60時間にも及ぶボリュームになり、ゲームを気に入った人向けの周回要素として、”ニューゲーム+”も用意されていることも明かされていました。

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 ここからは、セッション後に実施されたギヨーム・ブロッシュ氏と、フランソア・ムーリス氏へのインタビューを掲載します。

『エクスペディション33』開発陣インタビュー:初心者でもパリィを楽しめるようにするための細部にわたるこだわりが明かされる

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――発売も近いタイミングになりましたが、現在開発としてはどんな作業をされているのでしょうか。

ギヨーム氏
ゲームのコンテンツに関しては全て完成している状態で、今は品質を少しでも向上させるため最後の詰めをしています。UI・UXを少しでも気持ちよくしたり、難易度の調整、とくに最後のエリアですね。最後の強敵が本当にこの難易度でいいのかという検証をして、最高の体験をお渡しできるように頑張っています。Day1パッチも予定しています。

――本作の最大の特徴でもあるリアクティブターン制のバトルは、どんな発想で生まれたシステムだったのでしょうか。

ギヨーム氏
先程のセッションでも、僕の原体験が『FF8』だという話をさせていただいたのですが、本当にターンバトルのRPGが好きで、市場にあるものはほとんど遊んでいるような状態だったんです。その上で、新しいユニークなターンバトルのゲームを作りたいという思いを持っていたんですが、アイデアは行き詰まっていました。

 そんな時に偶然遊んだのが『SEKIRO(SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE)』で、その時に体験したパリィがめちゃくちゃ気持ちよかったんです。これをターンベースのバトルシステムに落とし込んだらどうなるんだろうとプロトタイプを作ってみたらところうまくマッチしてくれて、おもしろいコンセプトなんじゃないかと気付いたのが始まりでした。

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――実際にプレイさせていただいて、パリィが軸になるゲームだとも感じたので、『SEKIRO』の影響があったというのはすごく納得がいきました。

ギヨーム氏
そうなんです。『SEKIRO』に関しては本当に好きで、スピードランにチャレンジしたりもしています(笑)。

――自分は結構パリィが苦手なタイプなのですが、本作は慣れるとかなりの確立で決まるようになって、かなり気持ちよかったです。本作のパリィは、あまり難しくなりすぎないように調整されているのでしょうか。

ギヨーム氏
おっしゃる通りです。本作では、パリィが苦手な方にもなじみやすいように、本当に細かい工夫をゲームに取り込んでいます。

 いくつか例をあげると、敵のアニメーションについて、これからどんな攻撃を行うかを意図的にわかりやすくしたモーションを事前に見せるようにしていて、それに合わせてテキストでもなんの攻撃を行うかの予告をしています。

 あとは攻撃ごとにカメラワークを同じものすることでタイミングをつかみやすくしたり、効果音でもパリィを促すヒントを出したりしています。また、ほぼ言われないとわからないレベルですが、実は攻撃のタイミングに一瞬スローモーションをかけていて、パリィを成功しやすくもしています。

フランソア氏
その点、ターン制バトルとのシステムがうまく噛みあわさったと感じているのが、攻撃と防御のタイミングが敵味方のターンで完全に別れているところです。

 通常のアクションゲームの場合、パリィをするのか攻撃をするのか、その時々に自分で判断しないといけないわけですが、本作では自分のターンなら攻撃、敵のターンなら防御のことだけを考えればよく、パリィが苦手な人にもとっつきやすくなっています。

 あとは、パリィだけではなくドッジ(回避)もあって、そちらはカウンターが出ない分、パリィよりも簡単に調整しています。ドッジの中でも、完璧なタイミングで入力した時に発生する“パーフェクトドッジ”はパリィとまったく同じタイミングに設定していて、パリィの練習として使えるような位置付けにもなっています。

 なので、パリィがなかなか成功しないという方は、まずドッジを使ってもらうのがいいかもしれません。

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――本作ではすべての攻撃がパリィできるとことでしたが、コマンドバトルのRPGって、やっぱりアクションと比べると、配信には不向きだと感じてもいました。その点、本作は配信でも盛り上がりやすそうだなと。

ギヨーム氏
最初から意図したわけではなく、副次的に生まれた形ではあるのですが、おっしゃる通りだと思います。我々がプレイテストをしている時にも、一番難しい設定でプレイしている人を数人で眺めたり、コントローラーを回して交代交代にプレイする、みたいな光景が度々生まれていました。

 我々も作った後で、結果的にコマンドバトルのRPGが抱えるひとつの問題の解消になっていたことに気づいたような形で、ストリーマーの方にも楽しく遊んでいただけるゲームになったんじゃないかと思っています。

――本作はSandfall Interactiveの1作目になると思いますが、いきなりこの規模のタイトルを作り上げるのは、かなり奇跡的なことだと思います。どうしてこんなことが実現できたのでしょうか?

ギヨーム氏
うまくいった要因はふたつあると思っていて、ひとつが「こういうゲームが作りたい」という確固たるビジョンをもっていて、それをチームに伝えられたことです。とくに自分の場合、チームが立ち上がる前からこんなゲームが作りたいというビジョンがあったので、そこは一切ブレていませんでした。

 もうひとつが、それを軸にして必要な人材を適した場所に配置できたことで、例えばアートワークをユニークなものにしたいと考えた時、優秀なデザイナーがそれをやってくれたり、最小限の人数でビジョンを実現させるための人材を雇うことができたのが要因だと考えています。

 もちろん、実際にはなかなかうまくいかず、苦労したところも多かったですけどね(笑)。

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――具体的に、とくに大変だったところはどこだったんでしょうか。

ギヨーム氏
おそらく、この規模の開発チームだったら普通あり得ないのが、かなり数のカットシーンを作って実装したところだと思います。本作ではカットシーンが世界観とストーリーに密接に紐づいているので、どうしても外すことができませんした。

 ただ、いわゆるAAAタイトルの開発チームのようなリソースは我々にはないので、そこを解決するためのクリエイティブな方法や手段をかなり模索して、そのおかげ自分たちが満足できるレベルにまで到達できたと思っています。

フランソア氏
カットシーンの撮影にはだいたい20時間ほどかけているのですが、撮影期間を9カ月に分けて少しずつ撮影しています。役者さんも含めて、インハウスで全部作っているので、カットシーンだけでひとつのプロジェクトと言えるくらいの労力を掛けています。

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――もう完全にインディーズの規模ではないですよね。映像面でも、AAAタイトルと比べても遜色ない表現が実現できていると思うのですが、Unreal Engine5の存在は大きかったのでしょうか。

ギヨーム氏
やはりこのレベルのクオリティのゲームを作るのに、自分たちでエンジンから用意するのは不可能だったのは間違いないです。

 実は、Unreal Engine5が出てきたのはこのゲームを開発している最中で、僕が最初にこのゲームのプロトタイプを作り始め得た時はUnreal Engine4を使っていました。

 その時点でもある程度おもしろゲームの原型にはなっていたのですが、その時まだ試験運用段階だったUnreal Engine5に切り替える決断をしました。そのシフトは少し大変ではあったのですが、まだプロジェクトのある程度初期の段階だったので、廃棄するデータも最小限で済みましたし、クオリティの質上げやその使える機能の高さを考えると、その時の判断はこのプロジェクトを成功させる重要な要因になったと思います。

フランソア氏
自分は以前にUBIソフトで勤務していましたが、その時はゲームのナラティブを作る担当だったんです。だから開発の経験は薄くて、Unreal Engineも4で初めて触ったくらいなんですけど、エンジン自体がすごく初心者にもわかりやすくできているんです。ぜひ新人のゲーム開発者には、Unreal Engineをオススメしたいです(笑)。

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――本作の開発期間はどれくらいだったのでしょうか?

ギヨーム氏
最初にプロジェクトが始まったのがだいたい6年半前で、その時は自分1人だけでした。そこから手伝ってもらう人を少しずつ増やしていって、会社化したのがだいたい4年半前ぐらいになります。開発が本格化したのはそのあたりなので、開発期間としてはだいたい4年半くらいになると思います。

――その期間の中で、「このゲームはいける」と手応えを感じたタイミングはあったのでしょうか?

フランソア氏
僕が感じたタイミングはふたつほどあって、ひとつがGDC(Game Developers Conference)で、パブリッシャーを相手にプレゼンをした時の反響がすごく大きくて、このゲームはすごくポテンシャルがあるんじゃないかと思えました。

 もうひとつが、ゲーム自体の発表をしたタイミングに、Youtubeのコメントなどで発売を楽しみにしているというリアルな声が入ってきた時ですね。すごく励みにもなりました。

ギヨーム氏
僕の方は本当にいろいろあって、今のこのタイミングもまさにそうなんです(笑)。本当にリスペクトしている日本という国で、こうしてメディアの方に暖かくインタビューをしてもらているのが夢のようなことで、今まで頑張ってきてよかったなという気持ちになっています。

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――ストーリー的な部分のお話も少しお聞きしたいのですが、とくにゲーム序盤の展開から『進撃の巨人』のエッセンスみたいなのをすごく感じたんですが、ゲームだけではなく日本のアニメや漫画からの影響というのもあったんでしょうか。

ギヨーム氏
まず前提として、僕は『進撃の巨人』のファンなので、少なからず影響を受けているのは間違いないと思います(笑)。

 ただ、本作のストーリーについては、『La Horde du Contrevent』というフランスの小説からの影響が大きいです。隔離された人類が外の世界を探検しいくという、『進撃の巨人』とも通じる要素があり、他言語の翻訳もほとんどされていないんですが、フランス国内では結構有名な作品です。

 とはいえ、僕自身アニメや漫画は大好きで、それを見て育ってきているので、無意識の内にインスパイアしていたところはあるかもしれませんね(笑)。

――主人公であるギュスターヴについて、どんなキャラクターか教えていただけないでしょうか。

ギヨーム氏
ギュスターヴは、王道的なヒーローとして描いています。ペイントレスを倒して、子どもたちのために未来を作りたいという強い使命感をもっているキャラクターです。

 ギュスターヴはルミエールの貴族で、奥さんと結婚して子どもを生みたかったのですが、死が目に見えているこの世界で子どもを生み育てることに奥さんが絶望し、子どもを持つことを諦めたという背景があります。

 だからこそ、自分たちと同じような思いを味わう人間を増やさないために遠征隊に志願し、ペイントレスを倒したいと強く願っています。

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――物語の序盤、大勢の仲間たちの死体発見した時に、ギュスターヴが自殺しようとしたのにはビックリしました。

ギヨーム氏
ギュスターヴは、ペイントレスを倒したいという使命感が強かったからこそ、出発した遠征隊が入口でほぼ全滅していた現実を突きつけられ、その衝撃で心が折れてしまったんです。そこに登場するのがヒロインの1人でもあるルネで、彼女は世界の真理のようなものを知るために戦っていて、ギュスターヴとは対照的なキャラクターになっています。

 2人以外にも、遠征隊のメンバー全員分、なぜ遠征隊に入ったのか、どんな動いているのかといったストーリーをしっかり作っているので、そちらにも注目していただければと思います。

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――ありがとうございます。最後に、日本のファンに向けてのメッセージをお願いします。

ギヨーム氏
私がこの場にいるのは、日本のRPGに影響を受けたからこそで、こうしてこの場でお話させていただけること自体、すごく光栄に思っています。

 本作は、日本のRPGの魅力を損なわないようにしながら、自分たちなりのアレンジを加えて、日本のRPGをさらに発展させたものを作れないかという挑戦をした作品です。我々なりの日本のRPGへのリスペクトを読み取った上で、挑戦を見守っていただけるとうれしいです。

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