フロントウイング/ブシロードから5月29日に発売されたPC向け新作ビジュアルノベル『花束を君に贈ろう-Kinsenka-』のレビューをお届けします。
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本作は、フロントウイング25周年作品の第1弾。少年少女の精神的な成長を描いたビジュアルノベルゲームです。
制作陣には、5年ぶりの新作となる漆原雪人先生と、ビジュアルノベルゲーム初挑戦となる人気イラストレーターのさいね先生が参加。異なる経歴の2人がタッグを組んで本作を手がけています。
メインキャラクターの声優は、紅緒祀/ヒトデナシ役を石見舞菜香さん、橘才役を花守ゆみりさんが担当。ミドルプライスながら、ボリュームは約1.7MB(約80万文字)と、フルプライス作品にも匹敵する大ボリュームであるなど、注目ポイントが満載の作品です。
心無い少年が別世界で知る人情とは【花束を君に贈ろう-Kinsenka-】
物語は、“心”に痛みを感じない少年・橘才が、特殊な力を有する紅緒祀と鎌原竜起の2人に出会うことから始まります。
世界には”呪詛”と呼ばれる呪いが具現化した存在があり、彼らはそれを排除するために活動しています。同時に、現実世界に潜む殺人鬼を探すという活動も行っています。
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3人の出会いは、控えめに言っても普通ではありませんでした。紅緒祀と鎌原竜起は普段“夕暮れ”と呼ばれる現実とは別の世界で生活しており、橘才を排除するために現実世界へやって来ていました。
そして、橘才の正体は現実世界で人を手にかける殺人鬼。心がないがゆえに、人を殺めることに一切の躊躇がない人間でした。
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執行者と標的――そんな関係から始まった彼らは、ひょんなことから“夕暮れ”の一つ屋根の下で、他の仲間たちと共に生活を送るようになります。
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主人公が殺人鬼であるという設定からわかるように、本作はかなり癖のある物語で万人受けするスタンダードな作品とは言いがたい部分があります。ショッキングな描写もあり、プレイにはある程度の心構えが必要でしょう。
とはいえ、表現についてはビジュアルノベルならではの文字表現の良さが活かされており、映像では難しい表現も文字を通して実現されています。これが映像作品であれば、ここまで具体的に風景を描写するのは規制の面からも困難だったかもしれません。
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これまでビジュアルノベルの歴史を作ってきた名作にも、攻めた表現の作品は多く存在しました。筆者は個人的に、文字で描く作品だからこそ映像では表現できないことに挑戦すべきだと思っており、本作の展開に驚かされながらも、これをまっすぐに伝えられる点は文字の良さだと感心する場面が多々ありました。
もう一つ特徴的に感じたのは、主人公が殺人鬼という点により、彼に自己投影して物語を読むことが難しい点です。
そのため、物語の各所では「えっ、そんなことしちゃうの!?」と予想外の展開が続き、良い意味で最後まで先の読めない物語になっています。
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詳細については、実際にプレイしていただきたいので深くは語りませんが、主人公らしい姿を見せたかと思えば、突然“心なき殺人鬼”としての本性を露わにするなど、周囲のキャラクターだけでなく、プレイヤーも振り回される展開が用意されています。
テーマは“少年たちの成長”であり、最終的には橘才をはじめとしたキャラクターたちが精神的な変化を迎えます。ただし、その成長は直線的ではありません。周囲のキャラクターたちの影響や新たな真実に触れながら、不器用に寄り道しつつ成長していく姿は、シンプルな成長物語よりも遥かに共感できるものでした。
最初は「この主人公に感情移入するのは難しい……」と思っていたのですが、物語を進めるごとに少しずつ受け入れられるようになりました。特になんで周りのキャラクターが彼をこんなにすんなり受け入れるのか疑問だったのですが、いろいろな事実が明らかになるにつれて「なるほど……」と唸らされました。
キャラクター紹介【花束を君に贈ろう-Kinsenka-】
本作に登場する主要キャラクターを紹介します。
橘 才(CV:花守ゆみり)
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主人公の少年。心を持たず、人の痛みがわからない。過去に何度も人を殺めている。紅緒祀と鎌原竜起に出会い、“夕暮れ”で生活することになる。
(左)紅緒 祀/(右)ヒトデナシ(CV:石見舞菜香)
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“夕暮れ”に住む少女。紅緒祀は口数が少なく人形のよう。ヒトデナシは彼女のもう一つの人格で、明るく口が達者。交互に表に出て活動する。
鎌原 竜起(CV:森嶋秀太)
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祀の幼なじみで、橘才の前に現れた少年。身体の痛みを感じない体質で、重傷でも動ける。物語では橘才に次ぐ第2の主人公的存在。
神鳥 夜空(CV:空賀花)
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“無銘荘”に住む先生のような立ち位置の大人の女性。お酒とギャンブルが好きでズボラな性格。呪詛能力はないが、耐性と身体能力に優れる。
霧島 梅雨(CV:首藤志奈)
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“無銘荘”の住人。見た目は可愛い女の子だが、実は男の娘。お調子者であざとく、よく夜空にお仕置きをされている。
塚原 碧(CV:咲々木瞳)
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明るく人懐っこいいたずら好きな“無銘荘”の住人。友人の杏道目々を溺愛している。
杏道 目々(CV:月城日花)
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真面目で厳しい性格だが、可愛いもの好き。碧の愛情に呆れつつも、良好な関係を築いている。
紅緒 終(CV:田中貴子)
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“夕暮れ”を管理する紅緒家の当主。複数の人格を持ち、すべてが残酷な性格。子供たちを”家族”と呼び、時に利用する謎多き女性。
ペンギン(CV:藤沢れい香)
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言葉を喋る不思議なペンギン。“夕暮れ”のホテル受付を務める。神様と呼ばれることも多いが、その正体は謎に包まれている。
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中心キャラクターは以上ですが、他にも多くの人物が登場し、物語を進める中で明らかになる関係性や過去も豊富に用意されています。
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注意深い方はお気づきかもしれませんが、タイトルの『花束を君に贈ろう-Kinsenka-』にある”キンセンカ”は花の名前です。
キンセンカの花言葉は、黄色では”変わらぬ愛””献身””慈愛””乙女の姿”など温かいものが多く、一方でオレンジ色には”別れの悲しみ””失望”といった意味があります。
どちらをイメージしているのか明言はされていませんが、橘才のダークな内面を考慮すると、両方がテーマに絡んでいるとも考えられます。
キービジュアルやタイトルの色合いも、黄色とオレンジの中間のようなデザインで構成されており、どんな意味が込められているかをプレイしながら想像したり、プレイ後に答え合わせしたりすることで、より深く物語を楽しめるはずです。
本作はフルプライス作品に近いボリュームのビジュアルノベルということで、読み応えは抜群。さらに、物語のどのシーンを切り取っても軽い部分はなく、セリフをじっくりと一つひとつ進めたくなる内容でした。
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筆者はノベルゲームを一気に進めてしまうタイプですが、ここまで一度に読み進めるには惜しい、というよりも心を正常に保ちながら読むことが難しいほどハイカロリーで、ゆっくり読み進めたくなる作品は久しぶりです。
お世辞にも良い人間とは言えない主人公を中心に物語が進むこともあり、プレイした人たちがどのような感想を抱くのかも気になるところ。ぜひ皆さんにもプレイしていただき、どのような感想を持ったか聞いてみたいですね。