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新生『ToHeart』レビューと感想。30年近くたっても色褪せないヒロインたちの個性、みずみずしい青春物語、時代を切りひらいた名作が令和に蘇る

文:原常樹

公開日時:

 アクアプラスから6月26日発売予定のNintendo Switch/PC(Steam)用アドベンチャーゲーム『ToHeart』の先行レビューをお届けします!

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 1999年――この年の7月に恐怖の大王が来るというノストラダムスの予言を前に、筆者は怯えながらもどこかワクワクした気持ちで学生生活を過ごしていたものです。結局、何事もなく2000年を迎え、いまでは世紀末という単語自体もすっかり昔のものになりました。

 そんな1990年代の終わりに恋愛ゲームの歴史を変えるような作品がリリースされたことをみなさんはご存じでしょうか? そう、それが
6月26日にNintendo Switch/PC(Steam)にてリリースされる新生『ToHeart』です。

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 『ToHeart』のPS版がリリースされたのは26年前の1999年3月25日(PCゲーム版は28年前)。この記事を読んでいる人のなかには、まだ生まれていないという人もいらっしゃるかもしれません。

 改めて説明すると、もちろん26年前にはスマートフォンなどなく、ようやく世界初のインターネットサービスが始まったばかりで、ブロードバンド回線すら普及していない時代。大型匿名掲示板の2ちゃんねるが立ち上げられたのもこの年でした。

 当然ながらソーシャルゲームも存在しません。ゲーマーが夢中になっていたのは家庭用ゲームやPCゲーム、アーケードゲームなど。90年代から恋愛シミュレーションゲームは流行していましたが、そんななかですい星のように現れ、新たな未来を切り開いた歴史的名作がこの『ToHeart』でした。

 ホラーや伝奇がテーマになることが多かったビジュアルノベルと学園を舞台にした青春物語を組み合わせるという『ToHeart』の方向性は、ゲームに留まらず、アニメや小説といった創作分野に大きな影響を与えたと筆者は認識しています。筆者自身も『ToHeart』をきっかけにビジュアルノベルにハマり、友人たちとともに「こんなにすぐれた作品が生まれる業界で活躍したい」と大志を抱いたものです。

 そのときの友人たちは現在も声優やシナリオライターとして最前線で活躍していますし、我々と同じような足跡を辿ってこの世界で働いているおじさんも多いはず……。『ToHeart』がなかったら後世に生まれなかった作品もきっとあることでしょう。

 まさに時代を切りひらいた『ToHeart』ですが、じつは長らく現行機で遊ぶことができませんでした。そういう意味でも今作は大きな注目を集めているというわけですね。ということで、ここからは新生『ToHeart』のプレイインプレッションをお届けします!

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グラフィックはフル3Dに! さらにルートガイド機能で遊びやすく


 オリジナル版の『ToHeart』は2Dアドベンチャーゲームでしたが、今作ではグラフィック面を完全リニューアル。イベントシーンはもちろん、キャラクターの立ち絵などもフル3Dで作られています。

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 また、イベントシーンは専用のカメラワークやモーションを取り入れた“ビジュアルシネマ”の技法を取り入れることで臨場感を増幅。シーンによってカメラの位置も大きく変わるので飽きることがありません。

 さらに今作では、選択したヒロインを攻略するために必要な選択肢がすべて可視化される“ルートガイド”まで完備。当時は恋愛シミュレーションゲーム選択肢を誤るとそのキャラクターのルートに入れないということが往々にしてありました。

 『ToHeart』の一部のヒロインも攻略が難しかった記憶があるのですが、今回はその心配はなさそうです(ただし、ルートガイドは一度ガイドにない選択肢を選ぶとオフになり、再度オンにはできないので注意を!)。

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こだわりがつまったオープニング


 本編が始まったところで、流れるのがオープニングムービー。「偶然がいくつもかさなりあって~」というエモーショナルな歌い出しから始まる
名曲「Feeling Heart」が響き渡ります。YURiKAさんの明るく包容感のあるボーカルと、時代にマッチするような楽曲のアレンジはまさに必聴。

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 映像にもこだわりがたっぷり。アニメーションで描かれていたPS版のOP映像の構図が大きく変わることなくフル3Dで再現されています。アクアプラスさんの公式YouTubeチャンネルで比較動画も上がっているので、技術と熱量の高さがひと目でわかりますね。気合いを感じます。

甘酸っぱい日常の描写


 『ToHeart』といえば、シナリオで描かれるみずみずしい青春物語こそが最大の魅力。(非日常の要素はあれど)高校生の等身大で甘酸っぱい日常を追体験できます。

 とりわけ、気持ちの休まるシーンといえば、お節介な幼なじみ・
神岸あかりと過ごす時間でしょう。主人公・藤田浩之と毎朝のように家に起こしに来るあかりとの和やかなやり取りは見ていてほっこりします。男子にとって、固いきずなで結ばれた幼なじみという関係性は永遠の憧れですよね……。

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 あと、『ToHeart』のキャラクターで忘れてはいけないのが親友の
佐藤雅史。ビジュアルがいいだけでなく気さくかつ気配り上手の素晴らしい青年です。

 じつはオリジナル版ではどのヒロインのエンディングにも辿りつけなかった場合、代わりに彼が登場するという“攻略失敗”のシンボルとしても親しまれていた(?)印象があります。残念な結果に終わっても、雅史の顔を見るとなんだか安心してしまうというか……2025年に彼と再会してもなんだかホッとする感覚があるというか。

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 なお、キャラクターの服装や髪形はシナリオの経過に応じて変化します。こちらは今作ならではの要素なのでぜひともチェックを。

30年近く経っても色あせないヒロインたちの個性


 あかりのほかにも、本作にはさまざまなヒロインが登場します。

 神秘的で物腰も優雅なお嬢様・
来栖川芹香や、カリフォルニア生まれの日系ハーフ・宮内レミィ、関西弁のメガネ委員長・保科智子、儚げな雰囲気を漂わせる超能力少女・姫川琴音など、それぞれが魅力的かつ個性的。

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 その中で、主人公の悪友ポジションにいるのが
長岡志保。うわさ話が大好きな彼女による“志保ちゃんニュース”もビジュアルシネマでしっかり再現されています。気が置けない仲だからこそ、試験の点数でけん制し合うのもダイレクトに青春という感じが。

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 ヒロインたちの個性はいまでこそ“属性”として言語化されていますが、1990年代はまだまだそういった部分も固まりきっていなかった時代。たとえば、距離感が近くてときおり飛び出すカタコトの話し方がかわいらしい金髪碧眼の少女――という個性もいまでは王道の様式美としてゲームやアニメ、小説で多く見かけるようになりましたが、宮内レミィはその源流のひとりだと筆者は認識しています。

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▲改めて本作を遊んでいても、レミィの距離感の詰め方には胸が高鳴りました。あんなアプローチをされて脳がとろけそうな声で囁かれたら、高校生はおろか、おじさんでも心が揺れますわ……。
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 こちらは全国総合格闘技選手権“エクストリーム”に必死に打ち込む
松原葵。3Dになったことでボーイッシュなだけではないかわいらしさや健気さが底上げされている印象です。学生時代、葵ちゃんに一目惚れして(彼女のお気に入りスポットである)神社に頻繁にお参りする習慣がついた筆者からすると、うれしさもひとしおですわ……。

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 葵ちゃんは自分が女の子らしくない、と自分のことを過小評価しがちではあるものの、しっかりと手作り弁当を作ってきてくれるところがまたかわいいんですよ。幼いころから目標にしてきた “綾香さん”に追いつき、追い越したいという夢を持ち、ひたむきに努力する姿はキラキラしています。

 彼女のシナリオで描かれる空手部の坂下に申し込まれた勝負を受けて立つという展開はまさに少年マンガのような熱い展開。漢気を見せてふたりの間に割って入る浩之の好感度も上がります。

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 いまでこそ広く浸透している女子格闘技ですが、『ToHeart』がリリースされた1990年代はまだそこまで知名度が高くなく、作中でも女子生徒たちから汗臭いと敬遠される描写がありました。こういう部分には時代の流れを感じますね。逆境においてもめげることなくがんばっているので、
葵ちゃんが部活動のアピールをしているときは(どんなにカツサンドを買いに行きたくても)一度は耳を傾けてあげてください……どうかお願いします……。

 そして、『ToHeart』のキャラクターとして忘れてはならないのが
HMX-12こと、メイドロボのマルチ。『ToHeart』を遊んだことがないという人でももしかすると名前を聞いたことはあるのではないかというぐらい世間を魅了したキャラクターです。

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 80年代~90年代にはロボット(アンドロイド)が登場する作品やメイドが活躍する作品は数多く存在しましたが、
ロボット×ドジっ娘×メイドという組み合わせは非常に画期的でした。今でこそドジっ娘メイドはシンボリックな個性になっていますが、それもマルチの功績が大きかったからだと筆者は記憶しています。

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 ともすれば人間以上に人間味にあふれるマルチ(水分の排出のためにトイレにも行きます)。シナリオで描かれているテーマもただ明るいだけでなく、「ロボットに心は必要か」、「ロボットは夢を見るのか」といったSFの普遍的なテーマををも内包しているので読みごたえは折り紙つき。もちろん、時代を経ても彼女のかわいさが色褪せることがありません。

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オリジナルの手触りを求めるファンのニーズにも対応!


 どのヒロインも魅力的な本作ですが、ヒロインの顔ぶれはオリジナル版からまったく変わっていないのでファンのかたもご安心を。キャラクターのボイスは、オリジナル版と一新された声優陣のボイスを設定で切り替えられるダブルキャスト方式。聴き比べるという楽しみもありそうです。また、オリジナル版では収録されていなかった主人公・藤田浩之のボイス(声:坂田将吾さん)が入っている点も注目でしょう。

 テキストに関してはデフォルトではメッセージウィンドウに表示されていますが、こちらもオリジナル版のように画面全体に表示する述べるノベル形式に切り替えることも可能です。当時の雰囲気をもう一度味わいたいというかたはぜひ一度お試しを。

 最後に筆者の雑感ではありますが、本作からはオリジナル版の空気を蘇らせようという強い想いを感じます。一方で平成を経験していない若いユーザーが遊んだときにどう感じるのかという点が興味深いというか……。

 たとえば、作中にはスマートフォンなどの電子機器は登場しません。ビデオやラジオ(選択肢によってはラジオ「ハート・トゥ・ハート」の聴取も可能)など若い人があまり触れていないようなメディアも大々的に登場します。当然ながらキャラクター同士がSNSを通じて交流することもないので、若い人が自身の青春と比較したときに違和感を持つ可能性もあるのかなと。

 とはいえ、この90年代をベースにした青春こそが『ToHeart』の魅力であることも疑う余地はありません。オリジナル版を遊んだことのない若いユーザーもフレッシュな感覚で“もうひとつの青春”を味わってくれたら筆者も1ファンとしてうれしいかぎりです。

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 新生『ToHeart』は、ダウンロード版が3,080円(税込)、パッケージ版が4,378円(税込)とリーズナブルなのも見逃せません。さらにサブスク配信が終了している第一期アニメ版(全13話)と特典映像(全6話)がリマスターされBlu-rayに収録された特典が付属するプレミアムエディションも10,780円(税込)で発売。

 現在、Switch版およびSteam版の体験版が配信されていますので、まずはこちらをプレイしてみてはいかがでしょうか。

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『ToHeart』商品概要

タイトル:ToHeart
ジャンル:AVG
発売日:2025年6月26日(木)予定
プレイ人数:1人
対応機種:Nintendo Switch™/Steam®
CERO:B(12才以上対象)
価格:
・ダウンロード版 3,080円(税込)
・プレミアムエディション 10,780円(税込)
・通常パッケージ版 4,378円(税込)※Nintendo Switchのみ

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