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『三國志』40周年記念インタビュー シブサワ・コウ×伊藤幸紀、最も古き三國志Pと新しきPが過去と未来を語る

文:うどん

公開日時:

 2025年に40周年を迎える、歴史シミュレーションゲームの金字塔『三國志』シリーズ(※)。その記念すべき節目に、シリーズの生みの親であるシブサワ・コウことコーエーテクモホールディングス代表取締役会長・襟川陽一氏と、最新作『三國志8 REMAKE with パワーアップキット』のプロデューサーである伊藤幸紀氏にお話を伺った。
※初代『三國志』は1985年12月10日に発売。

 小学生時代に出会った1冊の本から始まり、やがて世界中のファンを熱狂させるゲームとなった『三國志』。40年の長きにわたり、なぜ『三國志』はファンを魅了し続けるのか。シリーズの歴史と未来への展望を、2人のキーパーソンが語る!

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襟川陽一コーエーテクモホールディングス代表取締役会長・襟川陽一氏。シブサワ・コウはペンネーム。1983年に『信長の野望』、1985年に『三國志』を生み、現在まで続くコーエーテクモ歴史SLGの礎を築いた。現在はエグゼクティブプロデューサーを務める。

伊藤幸紀専務執行役員、エンタテイメント事業部長・伊藤幸紀氏。『三國志 覇道』の総合プロデューサー、『三國志8 REMAKE with パワーアップキット』プロデューサーを務める。

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志半ばで散った人たちの無念さを、自分がゲームのなかで成し遂げていく。その”もしも”の楽しさが歴史SLG【シブサワ・コウ×伊藤幸紀インタビュー】


――早速ですが、お2人がそもそも三国志を好きになったきっかけから教えていただけますか?

シブサワ
小学生のとき、学校図書館に子ども向けの三国志小説があったんですよ。それを読んだのが最初だった記憶があります。それから本格的に読んだのが吉川英治さんの『三国志』。あれがやっぱり一番面白かったですね(笑)。ほかにもNHKでやっていた『人形劇 三国志』も観ましたね。私が子どものころから三国志にはいろんなコンテンツがありましたから、それがゲームの『三國志』に影響されていったんだと思います。

――伊藤さんはいかがですか。

伊藤
私はもう、当社から出ている『三國志III』ですね。兄が友だちから借りてきて、それをやっているのを見て「なんか面白そうだな」と思って。当時、セーブデータが1個しかないので、兄のセーブデータを消せないから、兄がいない時に始めて、最初の1カ国、2カ国取ったらすぐやめる、というのをやっていました(笑)。

――お2人の好きな武将は?

シブサワ
最初の頃は諸葛亮でしたね。年齢を重ねてきたら黄忠とか、年を取っても頑張っていた、そういうキャラクターも好きになってきました(笑)。

伊藤
私は孫策ですね。若くして色々成し遂げたっていうのがやっぱりすごいなと。もう今の自分の年齢よりもはるか下で亡くなっているので、それで名を上げるってすごいよな、と思います。

――諸葛亮いいですよね……。

シブサワ
諸葛亮の忠義に非常に厚い生き方というのは魅力的ですよね。三国志って諸葛亮が三顧の礼で迎えられて、出師の表を奉ったころからはほとんど彼のストーリーになっているのかなと。多分、吉川英治さんも小説執筆時に、諸葛亮に相当入れ込んでいたんだと思っています。

――最終的に志を果たせなかった、というところがまた良いんですよね。

シブサワ
そうですね。それは織田信長と結構似たところがあって、志半ばで残念ながら散っていった、という。

――日本の歴史でも、ファンが多いのってやっぱりその志半ばに倒れた人たちですよね。

シブサワ
ええ、やっぱり琴線に触れるって感じがしますね。坂本龍馬とかもそうですし。

伊藤
確かに、好きな武将で「徳川家康です」っていう人はあまりいらっしゃらない。

シブサワ
歴史もののゲームで誰を主人公にして作るかというと、やっぱり志半ばで散った人たちになります。彼らの無念さみたいなものを、自分がゲームのなかで成し遂げていく。その”もしも”の楽しさを持っているのは織田信長や諸葛亮や坂本竜馬であって、家康たち成し遂げた側ではないんですよね。

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▲1985年発売、初代『三國志』。

三国志を初めてをゲーム化したっていう、思い出深さは忘れられません【シブサワ・コウ×伊藤幸紀インタビュー】


――ではゲームとしての『三國志』が作られた経緯を教えてください。

シブサワ
まず1981年に『川中島の合戦』を作ったんですが、あれは戦いだけのゲームでした。その後も『コンバット』や『ノルマンディー上陸作戦』といった、ウォーゲームをずっと作ってきたんですけども、1983年に戦いだけではないマネジメントの要素を入れた『信長の野望』をリリースしました。自分がマネジメントの立場にいたので、そういう考え方の延長線上で、「当時の戦国大名もいろんなことをやっていて、そのうちの一つが戦いだったんだろう」と。そういう発想で戦国時代のゲームを作っているうちに、次は好きな三国志をテーマにしたいと思うようになったんです。当時の社員とかアルバイトの中でも三国志のゲーム作りたい」っていう人もいて、「じゃあ作ろう」ということになって。それが1985年、『信長の野望』を出した2年後に最初の『三國志』ができたんです。

――当時の『信長の野望』はおっしゃる通り内政や戦闘の数字と格闘するマネジメントのゲームでした。それに対して、『三國志』は配下武将を使いこなすゲームだったというのが衝撃的でした。

シブサワ
ええ。最初の『三國志』は武将を255人入れました。『信長の野望』は『群雄伝』で初めて配下の武将を入れたんですが、それは『三國志』の影響があったんだと思います。

――今となっては、武将がいて、100点満点の能力値があるというのは当たり前のことですが、それを初めてやったのが『三國志』だったのではないでしょうか。

シブサワ
元々はボードゲームで、人物や兵器を数値で表すっていうのは普通にあったんですよね。サイコロを振って何かを決めるとか、それにプラスアルファするとか。そういう発想は、私自身ボードゲームもやっていたので、武将や何かの対象物を数値化して合わせていくっていうことは、プログラムが非常にしやすい。プログラム的な発想があそこに結びついていたのはありますね。武将同士を比較すれば、どっちが強いかわかりますし。

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――ちなみに、初代『三國志』の能力値はご自身でお決めになったんですか?

シブサワ
いえ、チームで決めました。みんなで喧々囂々(けんけんごうごう)と。でも、割とすんなり決まりましたね。全員がもう『三國志』を読んでいるし、知っているし、ストーリーも、誰がどういう活躍をしたか、しなかったかっていうのをよく分かっているので。

――初代作で今でも印象に残っているのが「カリスマ」という数値で、今でいう「魅力」なんですが、曹操が100で劉備が99なんですよね。曹操を上に持ってきたというのが、当時は驚きでした。

シブサワ
ああ、「カリスマ」もテーブルトークRPGの中でよく出てきましたからね。

伊藤
人知を超えた魅力、みたいな。まあ、曹操は天下統一に近いですからね。

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▲今も昔も喧々囂々な武将能力談義。初代の趙雲は強い……!
シブサワ
そういえば最初の『三國志』はヘクス(Hex:六角形のマス)を使ったんですよね。それ以前はクオーター(四角形のマス)でやっていたんですけども、ヘクスの方が隣接している数が多いので、戦場のリアル感を出せるかなと思っていたんです。それからしばらくへクスはあまり使ってなかったんですけど、『14』になって越後谷(『14』プロデューサー:越後谷和広氏)にまたへクスを使いたいと言われて。「なんでそんな古いのを?」と思っていたら、とにかく色を塗りつぶしていきたい、爽快感を出したい、それにはへクスがいい、という話になったようで。

伊藤
『14』を作るにあたって越後谷や私らでどんなゲームを作るかという話をしていたとき、越後谷がとにかく塗り絵をしたいと言ってて(笑)。「こんなゲーム作ったら売れるんじゃないか」「へクスの色塗りをまずベースにしよう」みたいに決めてから(シブサワに)話を持っていって作ったんですよね。

シブサワ
実際に『14』のアルファ版でへクスの色塗りをやったらすごく面白かった。今だとリアルタイムで3Dのキャラとか軍勢が戦っていく、そういうリアル系に振っていくわけですけど、また原点に戻ってヘクスをやりだすってびっくりしましたね(笑)。

伊藤
『II』のとき、全国マップを自分の勢力色に塗っていく感覚があったんですよ。それをベースに自分の土地を可視化したいよね、地図を塗りたいよね、みたいな話が出ていた気がします。

――シリーズでリアルタイム制ってあまりないですよね。戦略も戦闘もガッツリとリアルタイムしてるのは『13』くらいな気がします。

伊藤
『信長の野望』がリアルタイム制に寄っていってるので。その差別化も含めてというのもありますね。

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▲へクスを採用した初代『三國志』戦闘シーン。
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▲こちらもへクス採用の『三國志14』(2020年)。

――初代から『14』の話が出ましたが、思い出深い『三國志』シリーズというと、どの作品になりますか。

シブサワ
やっぱり最初の『三國志』ですね。三国志を初めてゲーム化したっていう、思い出深さは忘れられません。それと、今申し上げた『14』。30年以上経ってへクスに戻ってきたっていうのは、懐かしさと楽しさを感じました。

――伊藤さんはいかがですか。

伊藤
私が入社2年目くらいで、初めて開発に加わった『11』は思い入れがありますね。その前の『9』なんかもめちゃくちゃ楽しくて大好きなゲームです。

シブサワ
『9』は初めて1枚マップを入れた奴だよね。マップをちょこちょこ動き回って(笑)。

伊藤
そうですそうです。ちょこちょこ動きながら、戦法連鎖で大きなダメージ出したり見てるだけで楽しかった(笑)。

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▲1枚マップを初めて採用した『三國志IX』(2003年)。シリーズファンからも根強い人気を誇る中期の傑作である。
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▲『三國志11』(2006年)。『IX』や『14』と同じく1枚マップが採用されており、いずれも名作と名高い。
シブサワ
あと、『三國志』はシミュレーションゲームとしてだけではなくて、いろんなジャンルで展開をしてきました。三国志の多彩な人間ドラマという要素は、ほかのゲームでも使いやすいもので。最近は『ウォーロン(Wo Long: Fallen Dynasty)』という難易度の高いアクションゲームを作ったり、ちょっと前だと彼(伊藤氏)が頑張って作った『妖怪ウォッチ』とコラボした『妖怪三国志』とか。妖怪と一緒に三国志の物語を楽しめるというゲームで、ラスボスに私と鯉沼(代表取締役:鯉沼久史氏)が出てきちゃったんですよね。

伊藤
使っていいですか!? って聞きましたね(笑)。

シブサワ
魔王コイと大魔王シブみたいな(笑)。まあ、楽しく開発して、ゲームファンにも楽しんでいただければと。

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▲『妖怪三国志』(2016年)公式HPより。ちなみに大魔王シブは体の周りで浮遊している3本のゲームソフト……光栄歴史三部作にちなんだ攻撃を繰り出してくるのだ!

もう絶対にこれから歴史シミュレーションゲームの音楽作るんだったら、菅野さんにお願いしよう【シブサワ・コウ×伊藤幸紀インタビュー】


――『三國志』シリーズはナンバリングだけじゃなくて、本当に色々大きく広がりましたもんね。

シブサワ
そうですね。規模的なもので言うと、当社がライセンスを貸し出して中国のアリババさんが展開している『三國志 真戦』なんかは登録数で5000万人以上いるそうです。そこに出てくる劉備、曹操、孫権はじめ、登場しているキャラクターは当社の『三國志13』のキャラクターになっていて、それぞれの国のイメージカラーも、蜀が緑、魏が青、呉が赤と、全部同じ勢力色になっています。

――シリーズの魅力の一つが、顔グラフィックのクオリティの高さですよね。

伊藤
そこは我々も作っている側として責任感があって、やっぱり毎回チェックしている時に「いや、これは“三國志らしくない”」とか、そういうところは結構気にしてみてはいますね。孔明はこの顔、みたいな“らしさ”を失わないように。時代は変われども、ドット絵から今みたいに綺麗になっても、らしさは変わらない。

――作品ごとに毎回けっこうな数が描き直されていることに驚きます。

伊藤
そうですね。顔グラフィックに関しては毎回、「このあたりの武将を新しく描き直すか」という話からまず始まるのです。主役級は描き直すんですけど、この中くらいのところが一番、「もうそろそろ描き直したい人たち」とか出てくるので、それが結構な人数になります。

――『三國志』というと、絵もそうですけど、BGMに対してもすごくこだわりを感じます。

シブサワ
最初は菅野よう子さんにお願いしたんですよね。次に向谷実さんにお願いして。最近は社内で作ることが多いです。

――最初があの菅野さんというのがすごいですよね。

シブサワ
ええ。でも最初の頃はまだ早稲田大学の学生さんだったので、学生のアルバイトみたいな感じで作曲と編曲をされていました。ただ、聞いてすぐ感じましたけど、素晴らしいメロディーメーカーなんですね。『三國志』の前に最初の『信長の野望』の曲を作ってもらったんですが、聞いてびっくりしちゃって。「もう絶対これから歴史シミュレーションゲームの音楽作るんだったら、菅野さんにお願いしよう」と。仕事もすごく早くて、いろいろと助かりました(笑)。

――伊藤さんの好きな曲は?

伊藤
池頼広さんが手がけた『X』と『11』ですね。男性コーラスが入ったり、三國志らしい壮大な曲で。

――『X』の曲いいですよねえ……。近年の『13』なんかも壮大な曲が多くて、どの作品も素晴らしいです。

伊藤
今は『三國志』も『信長の野望』もオーケストラで録るっていうのがベースになっていますね。

シブサワ
かなり力を入れている部分ですね。オーケストラの曲ってスケールの大きさみたいなところをすごく感じ取れると思います。

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▲BGMへのこだわりを毎回感じさせる『三國志』シリーズ。こちらは服部隆之氏による『V』(1995年)。

あのころは現場に自分の席を置いて、毎日開発チームの中にいました【シブサワ・コウ×伊藤幸紀インタビュー】


――ナンバリング以外の三国志作品の話だと、『決戦II』も印象深いです。真面目な印象のある『三國志』のコーエーテクモが、ああいう三国志を描くのは驚きでした……。

シブサワ
ああ、あれは作っていて楽しかったですね。『決戦』の1作目も楽しかったんですけど、わりと歴史ものとしての関ヶ原の戦いを描いていて。それはそれで面白かったんですけど、『II』はファンタジー的な『三國志』のストーリーになっていたんですよね。あれも社内のシナリオを書いているセクションで随分揉んで、ストーリーを何回も作り直してできたんです。

――劉備が空を飛んだり、中山エミリさんの演じる貂蝉と恋仲だったりノリノリな展開でしたよね。

シブサワ
劉備と曹操が実は兄弟だったとか、もう好き勝手に作って(笑)。

――もっとはっちゃけなきゃダメだ、みたいな指示を出されたんですか?

シブサワ
いや、本当はもっとはっちゃけていたのを、もうちょっと抑えよう、みたいな(笑)。

伊藤
抑えてあれなんですね(笑)。

シブサワ
あのころは現場に自分の席を置いて、毎日開発チームの中にいましたね。やっぱり楽しいんですよね。現場で毎日毎日一つ一つのものが現実の姿形になっていくというのが。

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▲劉備(CV:古谷徹)と貂蝉(CV:中山エミリ)のラブロマンスを描いた『決戦II』(2001年)。S・RPGとしての快作であり、いろいろと突っ込みが追いつかない怪作でもある。

時代がどんどん過ぎていくなかでマシンの性能も上がって、より面白いゲームが生まれてくる可能性はすごくある【シブサワ・コウ×伊藤幸紀インタビュー】


――シブサワ・コウさんは現在、『三國志』のナンバリングの開発にどれくらい関わられているんですか?

シブサワ
最初にプロジェクトが立ち上がる時に、「次回作はこんな感じにしたい」っていう、もうイメージ的な話だけを聞いて、「いいんじゃないの」っていう感じですね。あとは途中でアルファ版とかベータ版とか、途中バージョンが出てきた時に、「ああ、良かったね」とか、「もうちょっと頑張って」とか、そういう感じです。

――もう『決戦』の時のように、開発現場に机を持ってくる、ということはないんですね。

シブサワ
そうですね、今はもう私は現場から離れていて、現場は社長の鯉沼がやってます。私は取締役会として応援団として旗振ったり、肩揉んだり、途中のバージョンをチェックしたりとかそういうことやっています。

伊藤
アルファ版、ベータ版をチェックしてもらう、そこでプレゼンするときはやっぱり緊張します。「違う」なんて言われるんじゃないかと(笑)。

シブサワ
でも、現場のアイデアってすごく豊富にありますね。自分なりにやっぱり『三國志』のゲームを作りたいっていう気持ちでプロジェクトチームが組まれるので、すごくいいアイデアが上がってきますよ。

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――『三國志』や『信長の野望』シリーズはナンバリングごとにスクラップ&ビルドでシステムをガラッと大きく変えられますよね。そこもシブサワ・コウさんの指示なんでしょうか?

シブサワ
それはもう、プロジェクトチームとか、ディレクターとかプロデューサーごとのアイデアですね。やっぱり自分たちのアイデア、自分たちのプロジェクトチームなりの『三國志』を作りたいんですよ。ここにいるメンバー全員、持っている三国志観が違うんです。

伊藤
毎回言い合いみたいになって、アイデアが通って、みたいなのがあるんですよね(笑)。

シブサワ
ただ、「国盗り」っていう、ベースの面白さに対する根幹部分は変えなくて、それをどう実現するかっていう実現方法がそれぞれいっぱいアイデアがあるので、そこが面白い要因だと思います。

伊藤
あと、歴史ものなので、やっぱり歴史は変えられないじゃないですか。変えられない物語があるので、それを表現するやり方って、一個のシステムだけでずっと続けるのは難しいという部分もあると思うんですよね。なので、システムを結構ガラリと変えて、「今回はこういう活躍のさせ方をしよう」とか、そういうのはみんなで入れていく感じですね。

――昔は『三國志』や『信長の野望』に影響を受けて、いろんなメーカーさんが歴史シミュレーションゲームを出していました。でも、国内で今も続けられているメーカーさんは本当に少なくなってしまいましたが、歴史SLGを40年間続けられた理由はなんだと思いますか?

シブサワ
ファンの方々がずっと応援してくださっているからだと思っています。もちろん、それとともに我々も年を重ねて、40代、50代、60代となっているわけですけども、そうやって長くご支援いただいて、その結果続けられています。あとは先ほど話にありました、スクラップ&ビルドでシステムがガラッと変わる部分。それが功を奏したんじゃないかなって感じがしますね。ずっと同じシステムでいたら、さすがにそれは飽きられちゃうと思いますけども、大幅に変えることで「次はどんな『三國志』になるんだろう」っていう期待感もある。そういう期待感にお応えするような形でシリーズ作を積み重ねてきたというのも、長く続いている秘訣かなと思います。

――SNSとかを見ていると、「過去作やってないけど、新しいやつから始めて大丈夫?」みたいなコメントがあったりしますけど、「毎回新しく作り直しているから大丈夫だよ」ってことですよね。

シブサワ
逆に私は、友人とか知人から「今から始めても大丈夫かな」って聞かれたとき「Steamで全部買えちゃうから、もう1からやってください」って言っていますけどね(笑)。

――(笑)。

シブサワ
いや、その方が簡単かなと。やっぱり最近の作品は難しくなっていて、もちろん初心者向けの配慮はしていますけども、60過ぎて会社をリタイアしたのでゲームでもやってみようか、と思うような人には「最初の『三國志』からやってください」って言っています。

伊藤
私は最新作の『8 REMAKE』が初心者にオススメのゲームだと思っています。開始30分で遊びやすさがすぐわかるようにしようというコンセプトの作りで、もとの『VIII』のシンプルさも踏襲しています。最初に「どの身分から遊びたいか」といった入り方も用意していますし、初心者の方に入りやすい作品かなと思っています。

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▲思うままの自由な武将プレイを、比較的シンプルなシステムで楽しめる『三國志8 REMAKE』(2024年)。『パワーアップキット』版での進化にも期待したい。

――ファンがずっとプレイし続けているというのもあると思うんですが、一方で、若い層にも常に入ってきてほしいと思っているのではないでしょうか。その点に関して特に意識されていることはありますか?

シブサワ
ええ。ゲームボーイの通信ケーブル、インターネット対戦、スマホゲームなど、その時々の流行りは必ず入れるようにしています。最近だとやっぱり若い方はスマホをお持ちになっているから、そちらにいろんなアプローチをしています。元は三国志のストーリーからスタートしていますけども、それをいろんなデバイス、いろんなシステムにして、これからも幅広いユーザー層に楽しんでいただきたいですね。

伊藤
スマホですと、『三國志 覇道』の開発・運営をやっていますが、公式オフ会には結構若い方も来てくれたりするんですよ。先日のオフ会で最後に顔を出したんですけど、30歳くらいの方と握手をさせていただいた際に、こっそり「多分この中で一番課金してます」って(笑)。そういう方も来ていたりするので、若いからダメとかではない。若い方もやってくれている人は結構いるっていうのは、チャットとか見ながらでも感じます。

――先ほどの『ウォーロン』とか、あるいは『真・三國無双 ORIGINS』とか、そういうところから入ってこられる方もきっといらっしゃいますよね。

シブサワ
新作の『真・三國無双 ORIGINS』は、今回ずいぶん年齢層が広がったんじゃないかなと思います。『真・三國無双8』でオープンワールドにチャレンジして、やっぱり原点に戻ってあの一騎当千の楽しさをもう一回作り直してみよう、という発想から『ORIGINS』になって。そして大成功して、ずいぶん若い人に三国志が広がったと感じています。

――そもそも『無双』が初めて登場した時も、あれは結構衝撃的でした。

シブサワ
最初は対戦格闘だったんですよね。『三國無双』。で、ちょうどPlayStation 2が2000年に出るっていうのが分かっていて、もっとたくさんのキャラクターを出せる、軍団戦が表現できるっていうので、当時のω-Force(オメガフォース)が「タクティカルアクション」というジャンルを作りました。アクションだけじゃなくて戦略戦術の要素も入れていたんですけど、それが新しいゲームとしてすごく若い方に受けました。それから20年以上経って、『ORIGIN』の成功は原点に帰ってもう1回シリーズを作り直そうという発想がよかったのだと思っています。

 あとやっぱり、PlayStation 5であるとか、マシンの性能が上がってきて、今まで以上に表現ができるようになったっていうところも大きいですね。当社の「KATANA ENGINE」というゲームエンジンがそれを実現してくれましたので、すごい、こう、映画を見ているような戦いのシーンを表現できるようになりましたから。

――話を聞いていると、とにかく新しいことにチャレンジされますよね。

シブサワ
そうですね。それがゲーム作りの面白さですから。

――とくに新しいハードが出たときには、PS2発売時の『決戦』、Nintendo Switch 2 発売時の『信長の野望・新生 with パワーアップキット Complete Edition』のように率先してリリースされている印象があります。

シブサワ
ええ。それがゲームを作っていく者としては、一番のきっかけになりますので。今までできなかったことができるようになって、それをうまく活用できるようなゲームを作りたいんですよね。昔、『三國志 Battlefield』というリアルタイムストラテジーを作ったんですが、マシンの性能の問題で大人数になるとスムーズにいかなくなってしまって。でも、そういうのもマシンの性能が上がると、スムーズになってくるでしょうしCGももっともっと綺麗に表現できるんじゃないかなと思います。
ですから、時代がどんどん過ぎていくなかでマシンの性能も上がって、より面白いゲームが生まれてくる可能性はすごくある。例えばいずれPlayStation 6が出てくるでしょう。そのときにはどんな機能を搭載してくるのか……そういう意味では、すごくゲームの将来が楽しみです。

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▲無双アクションの原点に帰った『真・三國無双 ORIGIN』(2025年)。
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▲オンライン対戦、リアルタイムストラテジーへの挑戦だった『三國志Battlefield』(2002年)。

――ちなみに『三國志』のナンバリングですが、昔はマルチプレイができたじゃないですか。今は1人プレイに特化していますが、それはどういう意図なんでしょうか。

伊藤
なかなかみんなで集まってやるっていう機会が減ったな、というのが基本としてありました。そのうえでマルチプレイならではの、直さなきゃいけないところが結構多い。そこに対して時間をかけなきゃいけないので、それなら中身をちゃんと作りきって、1人でも楽しめるものを、というところがまずベースとしてありました。でも、結構要望も多いので、なにか対応できたらいいなとも思っているんですが……。

――確かに実際集まって遊ぶかと言われると、年齢とともにその機会減りますね……。

伊藤
私自身、若いころは夜中に友達とやってました。一晩経ってもゲーム内時間はちょっとしか進まないのに(笑)。

シブサワ
ターン制でみんなでやると、終わらないよね。全然ターンを終わらせてくれない人がいたり(笑)。

伊藤
「じゃあ、次集まったらやろうぜ」って言うのに、絶対集まらないんですよ。で、また集まったときにはどんな状況だったか忘れているから、新しく始めるっていうのを繰りかえしてましたね。

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▲昔懐かしい最大8人のマルチプレイ。『VIII』や『11』ごろまでは採用されていたシステムである。

――それでは、そろそろお時間も近づいてきましたので、『三國志』がこれから目指していくもの、今後の展望をお聞かせください。

シブサワ
まず『三國志』の本編シリーズは、これからも『15』『16』と続けて欲しいとシブサワ・コウブランド(歴史SLG開発チーム)に大いに期待しています。それと、今までさまざまなジャンル、デバイスでいろんな三国志ゲームを作ってきましたが、その方向性も維持していきたい。新しいゲーム機が出たとか、パソコンのすごい性能が実現できるとか、そんな流れになったら、次の世代の三国志エンターテインメント、デジタルエンターテインメントの作品を作っていきたいです。

伊藤
現場の人間としては、まずはナンバリングですね。一個ずつしっかり作りきって、皆さんに満足していただけるものをプレイしていただく、というところが一番にあります。次に発売されるのはリメイク作の『三國志8 REMAKE PK』ですが、しっかり面白いものが出来ました。みなさんからは、次は『Ⅸ』を、『11』を、とさらなるリメイクを望む声も聞こえてきますので、そういうところのきっかけにもなればと思っています。是非楽しみにしていてください。

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