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小説『白昼夢の青写真』緒乃ワサビ先生インタビュー。ラプラシアンによる伝説のゲーム発売から5年。夏、流れ星、悪路を走れる車、年上のお姉さんと自分だけの秘密の関係…

文:電撃オンライン

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 ゲーム『白昼夢の青写真』のシナリオを担当し、11月29日に発売された小説版『白昼夢の青写真』の著者も務めている緒乃ワサビさんのインタビューをお届けします。

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 小説版『白昼夢の青写真』は、ゲームブランド・Laplacian(ラプラシアン)より2020年にPC向けに発表された同名の美少女アドベンチャーゲームを原作としたSFミステリー作品。

 原作でシナリオを担当した緒乃ワサビさんが再び紡ぐ重層的かつ感動的な物語と、同じく原作にイラストレーターとして参加し、小説版でも表紙や挿絵を担当している霜降さんによる透明感のあるイラストが見どころです。

 今回のインタビューでは小説化のきっかけや決まった際の意気込み、小説版ならではの魅力、今後の展開などについて伺いました。

■小説版『白昼夢の青写真』

ゲームと小説の関係性は、原作とノベライズではなく、姉妹作品のようなイメージ【白昼夢の青写真】


――2020年のPC発売から約5年。今回のノベライズは、どのようなことがきっかけで実現したのでしょうか? また、ノベライズが決まったときの気持ちや意気込み・覚悟はいかがでしたか?

 直接のきっかけは、今作の担当編集者さんからラプラシアンへの問い合わせを頂いたことです。

 2025年の春頃、ラプラシアンの新作情報を4本同時に公開しました。

 お問い合わせのもともとの主旨は、今後の新作ゲームのノベライズのお誘い、だったのですが、ラプラシアンに単身乗り込んで来て下さった担当編集者さんの聡明さにビビッときまして、新作ではなく自分の代表作である『白昼夢の青写真』のノベライズに一緒に取り組みたい、と逆オファーしました。

 この作品を作るときに決めたテーマは、“耐久性の高い物語”です。派手さがなくても、いつまでも売り場に残るような作品。ユーザーさんが折に触れてふっと思い出すような物語にしたいと思って作りました。

 ゲーム版の発表から5年が経ち、この作品を心の深い部分に置いて大切にしてくれているユーザーさんがたくさんいます。その人たちの期待を裏切るようなショボい小説にはできない、絶対にしない、という意気込みで書きました。

 今度は、回転の速いラノベ売り場で長く残るような作品を目指して、最後まで書ききりたいと思っています。

――カメラ、ハレー彗星、キャンピングカーなど、さまざまなキーワードが盛り込まれた今回の『白昼夢の青写真』(CASE-3)の物語は、どのようなことから思いつかれたのでしょうか。また、ゲーム版を含めて、制作当初に一番強かったのは、どういったキーワードだったのでしょうか。

 ゲーム開発時のCASEー3のコンセプトは、“作品全体の中の清涼剤”でした。

 気軽に楽しめるもの、眩しい青春の1ページ、爽やかな読後感。小説版でも全容が明らかになればご理解頂けると思いますが、CASEー1、CASEー2、CASEー3と並んだときに、CASEー3を重たい話にする選択肢は存在しなかったんです。

 『白昼夢の青写真』を、ひとつの超長編作品として俯瞰したときに、どう考えてもちょっとしたインターバルが必要になる。清涼剤と決まってからは、イチ男の子だった自分がワクワクしたものを詰め込んで青春劇を組み立てていきました。

 夏、流れ星、悪路を走れる車、年上のお姉さんと自分だけの秘密の関係、ガレージでの共同生活。親子関係のほろ苦さと青春の甘酸っぱさを添えて、出来上がったのがCASEー3です。

 余談ですが、ゲーム開発当時はクラウド監視と称して、執筆作業のほぼ全容をYouTube配信で垂れ流していました。CASEー3の後半部分は、ネタを考え始めてから書き終わるまでの80時間分の全配信が、今でも管理画面に残っています。長すぎてアーカイブは見られないんですが。

――主要キャラクターについて、作者視点での特徴やチャームポイント、思い入れなどについて教えてください。また、ネーミングの理由や狙いなどについて、明かせる部分がありましたらお願いいたします。

 ここも、基本的にはゲーム全体のバランスを考えて、気軽にわかりやすく考えていきました。

 すももは確か、デザインの初案をみてすんなりと「この子は桃ノ内すもも」と決まった記憶があります。思いついたあと開発メンバーみんなでゲラゲラ笑えたので、もうこれでいいだろうと。いかにも物事を深く考えなそうで最高! みたいなノリでした。

 松風梓姫(あずき)は、過去作にいた薊野椿姫というキャラクターで描ききれなかった大人の女性の魅力を描ききるぞ! という決意を込めて、親戚のような空気感の名前にしました。

 飴井カンナは、甘ったれ小僧だから飴ってつけたいな、みたいな単純な発想だったような気が。

――『白昼夢の青写真』を小説にすることに際して意識したことはありますか? また、ノベルゲームの制作とあえて意識を切り替えた部分や、逆に小説にも踏襲した部分などはありましたか?

 意識したのは、ゲーム版を原作としない、ということです。

 今回のようなノベライズだと、本来はゲームを原作として、そこからの派生作品として小説がある、という図になります。

 そうじゃなくて、ゲームの源となった「白昼夢の青写真という物語で表現したかった概念、ユーザーに受け取ってもらえた概念」にまで立ち返って、その抽象的なものを原作とした小説を生みだそうと考えました。

 なので、“原作”という概念から、ゲームと小説が並列に存在しているような感覚で書いています。

 ゲームと小説の関係性は、原作とノベライズではなく、姉妹作品のようなイメージ。兄弟作品ではなく姉妹作品と称したのは、なんとなくです。

 『白昼夢の青写真』を発表したあと、この物語はなかなかの強度だという手応えは自分にもあって、テキストデータを流用しての小説化には取り組んだことがありました。

 小説家になるのは子供の頃からの夢だったし、この自信作をどこかに持ち込んで出版してくれないものか、と目論んでいたんです、5年前に。

 ノベライズのプロトタイプともいえるこの小説はCASEー0とCASEー1の二つが存在していて、CASEー0はSwitch版のコレクターズボックスの特典に、CASE-1のほうは有料コラムでの連載に使いました。

 このプロトタイプの二作を書いたのち、ラプラシアン過去作のアフターノベルを3冊、新潮文庫nexさんから『天才少女は重力場で踊る』『記憶の鍵盤』と、合計で5冊の小説を書いたんですが、自分の中では明確に「ゲームシナリオの流用では、リーダビリティに限界がある」という結論が出ました。

 読み比べてみると、シナリオを流用したプロトタイプ2作と書き下ろし作品群には明らかな差がありました。

 これ、なんでなんでしょうね。ゲームシナリオとしては読みやすい文章になっていると自分でも思っていたんですが、小説に改編してみるとどうも、ぎこちなさがあった。もしかしたら、単に自分の技術が上がっただけかもしれません。

 理由はどうあれ、自分の中でこの結論が出てしまった以上は、シナリオデータを流用してのノベライズはそもそも選択肢にありませんでした。

 ゲーム版と一字一句同じ台詞が登場するにしても(というかたぶん登場してます)、それは小説を書き起こす作業フローの中で、前後の文章と有機的に繋がったものとして出てくるべき。そうじゃないと、文章のリズムが崩れてしまう。

 表示されているテキストは同じなのに本当に不思議です。

 これが、ゲーム版のテキストを使わなかった理由です。当然、続刊でも使いません。

――今回、CASE-3を1冊目にもってきた狙いや意図がありましたら、教えてください。

 ゲーム版でのCASEのナンバリングは、ラプラシアンの過去作の発表順序に起因して付けたものでした。すごく極端に言うと、デビュー以来ブランドを追ってくれているコアユーザーさんが一番楽しめるであろうギミックとして用意したものです。

 CASEー1はデビュー作と同じ舞台、CASE-2・CASEー3はそれぞれ2、3作目と同じ舞台になっていて、背景素材やBGMも流用しています。流用なしでは、一作で複数世界を描くことはできませんでした。

 ですが、物語の中の意味合いとしては、CASEー3→CASEー2→CASEー1が正しい順番です。ゲームに準拠することよりも小説としての面白さを優先するなら、順番は3からだろうと。

――今後の小説版の展開は、ゲームをベースにしていくのでしょうか。小説オリジナルの展開・結末などもありえるのでしょうか?

 物語の大枠の展開は、ゲーム版から大きく変えません。同じ原作から生み出された姉妹作品である、というのは前述したとおりです。

 姉にあたるゲーム版を評価してくれたユーザーさんあってこその妹・ノベライズですから、みんなが観たいもの、ゲーム版でよかった要素は当然ながら踏襲していく予定です。

 ただ、やはりゲームでこそ光るシーンというのも確実にあります。例えば、声優さんの掛け合いで成立しているギャグシーン。それから、迫真の演技で押し切れてしまったシリアスシーンというのも、たぶんあります。

 これは自分がゲーム版のライターで、かつ収録ディレクターも務めていたからよくわかるんですが、「ここ、描写に不安があったけど芝居で成立しちゃった」というシーンが、ちょこちょこあったんです。

 同じく、音楽とイラストの力もやはり強い。自分の中にそういう要チェックシーンがちょいちょいあるので、文章だけで成立させるためのイベント追加・変更は行っていきます。

 が、物語全体の結末は変わりません。 

――各店舗特典として多くのSSが新規描き下ろしされましたが、そのなかでも巻末SSである『アンナGOに乗って』を書こうと思ったきっかけについて教えてください。

 きっかけは、「ページが余ってるからなにか書きなさい」と言われたことです。店舗特典がこんなにあるのに!? という反論を呑み込んで書きました。

 ゲーム版からの変更点として、今回のノベライズにはヒロインビューがありません。ゲーム版では各ヒロイン視点の一人称シナリオで補完していた部分があったんですが、ノベライズではカットしました。

 理由は明確で、文章のみで構成される小説では視点切り替えのストレスが大きいからです。

 ゲーム版ではUIの色を切り替えたり、画面にトランジションかけたり、BGMやSEをいったん切ったりと、ユーザーさんが受け身の状態でもストレスなく視点が切り替わるように工夫していたんです。

 つまり、演出の力を借りて、文章表現としてはちょっとしたチートをしていた。

 ノベライズ本編には既に二つの視点が存在しています。その上、さらにヒロインビューが加わると、小説から入ってくる読者さんにはかなり読みづらいよなぁと。

 でも、自分でもヒロインビューのシーン、結構気に入っていたんです。おそらくユーザーさんの中にも、好きだった人がいらっしゃるはず。

 なので、巻末SSに本編のヒロインビューのシーンをベースにしたものを持ってきました。巻末SSという立ち位置なら視点がヒロインに切り替わってもいいかなって。

 でも一番のきっかけは、「書きなさい」って言われたことです。

――霜降先生による挿絵など新規イラストについて、一番印象に残っているのはどのシーンのものでしょうか?

 初版限定リバーシブルカバーに使われた、すもものカラーイラストですね。今回の物語のテーマが一枚でバシッと表現されていて「おっ!」と思いました。初見の人も読んでいく最中、なるほどっ! という気持ち良さを感じてくれるんじゃないでしょうか。

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 あとは、苦しんでいる世凪のモノクロ挿絵。これはゲーム版にはなかったシーンを切り取った一幕なので、自分の中でも「ほんとうに新しい白昼夢の青写真になっている!」と実感できたイラストです。

――長月達平先生の寄稿による「解説」を読んだ感想はいかがでしたか?

 めちゃくちゃ嬉しかったです。編集者さん経由でデータを頂いて読んだんですが、もしも長月さんから直接手渡しされていたら、感極まってキスくらいは余裕でしていたと思います。

 ニヤニヤしながら二回、そのあと真顔で二回、最後にもう一回ニヤニヤしながらと、受け取ってすぐに五回は再読しました。

 あの長月達平がここまで書いてくれたのだから、ノベライズもしっかり最後まで書ききるしかないですよね。こんなに熱い文章を頂いたからには半端な熱量では取り組めないなと、改めて気が引き締まりました。

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――最後に『白昼夢の青写真』やラプラシアンのファンに向けたメッセージをお願いします。

 ゲーム版をプレイ頂いた皆様。ノベライズの発表前、正直言うと、こんなに反響があるとは思っていませんでした。

 ビジュアルノベルからノベルって、単に情報量を削いだだけって見られちゃうかなぁ、と思いながら情報公開したんですが、めちゃくちゃ好意的な声がたくさん届きました。

 そうか、あの物語が届いた人たちは小説化をこんなに喜んでくれるのか。そりゃそうだよな、と認識を新たにしつつ、ちょっと反省しました。

 ポッと出の弱小エロゲメーカーだったラプラシアンが未だにしぶとく生き残れていることがそもそも、我々の作る物語を待っている人がいる証左だってことを忘れていました。

 ノベライズの続きの原稿もガンガン書きます。そして次なるビジュアルノベルの開発もガンガン進めます。

 決して手は止めませんので、楽しみに待っていてください。

■小説版『白昼夢の青写真』

小説版『白昼夢の青写真』あらすじ


 見知らぬ白い部屋で目をさました僕・海斗。そこにはもう一人、言葉を失った儚げな少女・世凪がいた。

 人が消えて死んだように眠る新宿で、たった二人の僕ら。世凪と僕に何が起きたのか? そして──さっきまで僕が見ていた「夢」は、何なのか?

 夏。高校。教育実習生の桃ノ内すもも。先生のくせに危なっかしくて、気づけば懐に踏み込んでくる彼女。ハレー彗星を最高の写真に収める、一世一代の大冒険。この夏を生きることが世凪を救うことに繋がると知った僕は、再び夢の中へ潜り込んでいき──。

 並走する二つの物語は、交差しながら真実に向かう。【世界と呼ばれた少女】を巡る傑作ゲームを、原作者が小説化。

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