三国志に造詣の深い“KOBE鉄人三国志ギャラリー”館長・岡本伸也氏による、三国志コラム。数多くの書籍が存在するなか、“民間伝承”にスポットを当てて紹介しています。
英傑群像出張版では、わたしが中国各地で集めた「三国志武将の民間伝承」の古書から、日本で知られていないものを厳選して文章をまとめて紹介しております。
「三国志武将の民間伝承」紹介は最終回になります。
今月は、過去紹介したものから漏れた有名武将の民間伝承をご紹介しています。
最終回である今回の登場人物は、諸葛亮、魯粛、周瑜、龐統、曹操、左慈、孫権、陸遜と勢揃いです!
諸葛亮と魯粛と周瑜で龐統にニックネームを付ける!
龐統は、蒲圻のそばの西山に隠遁して生活し学んだ。やがて孫、劉、曹操は大江(長江)で陣形を組んで戦闘に備え、西山は連合軍の防衛線となった。(赤壁の戦い)
諸葛亮、周瑜、魯粛などは、龐統がここに住んでいると聞いたので、時間があれば集まって座り龐統の家は会合場所になった。
龐統の家には新鮮な野菜<馬蹄菜>の畑があり、庭には井戸があり水は非常に甘く、家の裏にいくつかの茶の木が植えられており、茶葉は美味しくて香りがよい。
客が来るたびに、龐統は馬蹄菜を大鉢で炒め、もち米酒を添え、飲食後、香ばしいお茶を出した。
ある日、数人が龐統の小屋を訪れ、満腹になった後、香ばしいお茶を飲んだ。
魯粛は「あなたは古今稀に見る才能の持ち主だ」と言い、周瑜は 「あなたは人々に温かく接し、最善を尽くす 」と言い、諸葛亮は「前漢の李広将軍の孫・李陵は、学者たちと仲良くし甘美に浸ることはなかった。私たちの兄弟である龐統もこのような人ではないでしょうか」と言った。
周瑜は話題を引き継いで、「だから史記の作者:太史公の司馬遷は、李陵に“絶甘分少(※1)”という美しい文字を与えたのです」
魯粛は「この栄誉を龐統に与えてはどうでしょうか?」と言うと、三人は満場一致で賛成した。
龐統は「光栄です」と言った。
諸葛亮は続けて「ただし、“分”の字を“兮(※2)”に変えなければなりません。龐統のように奇才でありながら、平穏に暮らすことを望み、寛大な人は今日では少なすぎる。」と言った。
みんな「そうだ」と答えた。そこで諸葛亮は「絶甘兮少」という言葉を書き留め、龐統に渡した。
現在、この4つの言葉は、蒲圻の鳳雛庵の門に刻まれている。
●岡本コメント
これは赤壁の戦いの場所にある龐統が住んでいたという場所に伝わる話。龐統を通して、諸葛亮、周瑜、魯粛が仲良くあるという素敵な世界。
あまり指摘されない事ですが龐統が生きていたら呉蜀の両方と繋がりがある為、呉蜀が仲間割れせずに済んだのでは? と私は思っています。
曹操と左慈の別伝
曹操は83万の兵を率いて孫権を攻撃し、その結果、民衆は苦しんだ。
このことを知っていた仙人の左慈は、道端で曹操を待ち伏せ、曹操を説得して軍を止めさせ、民衆を安心させようとした。
曹操を見つけると左慈は「民衆を傷つけるよりも、国の問題を解決したほうがいい。」と言った。
しかし曹操は彼を無視し、自分の道を進んだ。
そこで左慈は魚料理をその場で描いて手でつまみ、酒を注いだ水差しを描いて手に持った。将軍たちはそれを見て驚いた。
「軍隊は長い道のりを歩んできたのだからもてなしましょう。魚を食べ、酒を飲んでください。」
魚は美しく酒はいい香りがしたので、みんなその料理を手に取った。83万の軍勢は魚も酒も食べきれなかった。
曹操は後ろにいた兵や馬がついてこないのを見て、彼らが左慈の魚や酒を食べていることに気づき叫んだ。
左慈は「あなたも味わってください、私には本物の魚と肉があります。曹操は食べる勇気がなく、「お前の策略には引っ掛からない」と言った。
左慈は酒を注ぐと、人差し指で盃の中の酒を二つに割った。彼はその半分を飲み干し、残りの半分を曹操に飲ませようとした。
恐れを抱いた曹操は激怒し、剣を抜いて左慈に斬りかかった。
左慈はゆっくりと体をかわすと、手に持っていた盃が鶴に変わり、馬に乗って逃げ出した。
曹操は左慈を追うように指示しようとしたが、兵隊は道端で酔っぱらっていた。
●岡本コメント
三国志演義にはない赤壁の戦いを止めようとした左慈の話。このあたりが目新しいところ!
こっちのほうが急に出てきて曹操を驚かせるだけの三国志演義の左慈より物語性があります。
ただし戦いを止められてないので仙人の左慈としては無力感が出てしまいましたが。
ちなみに史実として左慈を曹操が招き三国志演義と同じく曹操を色々と驚かせたというのが実話としてあります。
左慈はマジシャンなのでしょうか?
孫権を捕まえた陸遜
ある時、孫権は20代の陸遜「都のことは私に任せて、都の外のことは君に任せる」と言った。
多くの呉の大臣たちは、若い陸遜にそのような重責を負わせることはできないと心配し、納得しなかったが、孫権は安心していた。
ある日、陸遜が嘉鱼六口の河口で水軍の訓練をしていると兵士が報告に来た。
緑色の服を着て、小さな帽子をかぶった数人が水軍の戦いの練習を覗いており、その行動が怪しかったので、見張りに捕まった。
陸遜は彼らをここに連れてくるよう命令を下した。彼らは目隠しをされ、両手を後ろに縛られ、案内された。
陸遜は、それが孫権と彼を訪ねてきた平服の数人の大臣であることを見た。彼はとても驚きを受け、すぐに跪いて謝り、衛兵たちを叱責した。
孫権は縛られたことに怒ることなく、嬉しそうにこう言った
「衛兵たちには何の落ち度もなく、忠実であり、報われるべきだ。陸遜はよく治めている。大臣たちも心配する必要はない。」
孫権の賞罰を明確に区別し人をよく知る姿を見て、人々は「万歳」と叫んだ。
その後、人々はそこに呉主廟を建て六口を陸口に改名し、陸遜を鑑識眼で見抜いた孫権を称えた。
●岡本コメント
孫権はやはり父・孫堅や兄・孫策の血を引くだけあって自らもどんどん前に行きがちな性格。結果、危ない目に合いがちな炎上一族です。
お忍びで訓練を見に行ったことで陸遜の兵に捕まりますが本当に陸遜を信頼していたら見に行く必要すらないだろうなぁとは思いました。
ちなみに別の伝承では、【丁奉と孫権が陸遜の訓練を見にいってその指揮力に感服する】というものがあります。
大臣たちというのが丁奉など陸遜の司令官就任反対派だったと考えると説得のためだったのかもしれません。
まとめ
いかがだったでしょうか?
三国志の民間伝承は三国志演義、正史三国志などでそれ以上掘り出せない武将の外伝的お話が楽しめるのが魅力だと思っています。
しかも昔の人の創作もあると思いますが、現地の遺跡と連動して伝わる話が多く、もしかしたら本当の話だったのでは? と空想できるところも素敵なところです。
共感いただける方が少しでもいていただけるとうれしいです。
中国現地で私が集め続けた三国志民間伝承。
それを3年間も掲載発表できる機会を頂いた電撃オンラインさんに感謝いたします。
また長らくご覧頂いていた皆様にさらにお礼申し上げます。
面白いものはかなり紹介したと思いますが、まだ紹介できていないお話もまだいろいろあり、翻訳してないものもあるので、また別の機会にどこかでご紹介出来たらと思っています。
この英傑群像出張版としては、ときどきここでもイベント告知などはさせて頂く予定ですのでその時はよろしくお願いします!
神戸の施設にもぜひ遊びにいらしてくださいね。三国志の話をしましょう!
ありがとうございました。
三国志イベント紹介
平山郁夫美術館「三国志と中国」展 開催決定
シルクロード作品などで有名な画家・平山先生が三国志作品も描かれていたことから実施決定しました。
NHK『人形劇三国志』の川本人形も展示されていますので、ぜひ期間中に広島にお越しの際は訪れてみてください。
後援をさせていただき、三国志ギャラリーとのコラボ企画も実施しています!
開催期間:9/21~11/24
場所:広島県尾道市瀬戸田町沢200-2
後援:KOBE鉄人三国志ギャラリー
詳細は公式HPでご確認ください。
第18回三国志祭の開催決定!
秋の恒行事、第18回三国志祭の開催も決定しました。
漫画家横山光輝氏の故郷神戸で、18年目の三国志祭開催! 講演・講座・展示・ステージ・中国武術大会などなど例年通りいろいろな出し物が目白押し。
ぜひいらしてみてくださいね!
日時:2024年11月2日(土)11時~17時 観覧無料
(当夜祭:18時~20時頃:有料)
場所:KOBE鉄人三国志ギャラリー周辺
こちらも詳細は公式HPでご確認ください。
三国志カードゲーム『トリプル三国志』新発売予定
昨年『三国志ドラフト会議』というオリジナル三国志ボードゲームを作りました。今年も「三国志祭」「ゲームマーケット2024秋」に合わせて新作を販売予定です。是非チェックしてくださいね。
『トリプル三国志』
人数:2~6人
時間:20分
内容
三国志知識不要の駆け引きバッティングゲーム!
全員同じカードセットを持ちプレイ!
毎回開かれる土地を争って1枚同時に出しあいその強さで勝敗決定!
土地に応じた得点があり、得点をたくさん取った人が勝者の簡単ゲーム
新しいのは【重複倍増システム、同盟システム、カード返却システム】
岡本伸也:英傑群像代表。「KOBE鉄人三国志ギャラリー」館長。元「KOBE三国志ガーデン」館長。三国志や古代中華系のお仕事で20年以上活動中。三国志雑誌・コラム等執筆。三国志エンタメサイトや三国志グッズを取り扱うサイトを運営。「三国志祭」などイベント企画。漫画家「横山光輝」氏の故郷&関帝廟(関羽を祀る)のある神戸で町おこし活動中!