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“アニメで世界へ!小説大賞”キーマンのツインエンジン山本幸治&ストレートエッジ三木一馬にインタビュー。“アニセカ小説大賞”を作った狙いや、気になるお金の話もズバッと語る!

文:セスタス原川

文:てけおん

公開日時:

 受賞作品のアニメ化・書籍化を確約した文芸賞“アニメで世界へ!小説大賞(アニセカ小説大賞)”。12月5日(木)23:59まで“小説家になろう”公式サイトにて募集が行われている本コンテストのキーマンにインタビューを行いました。

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▲ストレートエッジ代表取締役の三木一馬さん(写真左)とツインエンジン代表取締役の山本幸治さん(写真右)にお話を伺いました。

 この小説大賞は、アニメーションの企画・製作を行う株式会社ツインエンジンと、IPプロデュース・作家マネジメントを行う株式会社ストレートエッジが開催しており、受賞作品は、ストレートエッジによる編集・作家マネジメントサポート、さらにツインエンジンのプロデュースによるメディアミックス展開が行われます。

 小説からいきなりアニメ化までが“確約”されるという稀有な大賞ですが、どうやって実施するに至ったのか。今回はツインエンジン代表取締役の山本幸治さんと、ストレートエッジ代表取締役の三木一馬さんにお話をお伺いしました。

これは、文字通り“世界”を目指す小説大賞【アニセカ小説大賞インタビュー】

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――この大賞を実施するに至った経緯をお聞かせください。

三木さん
私が出版業界に携わり続けている中で、昨今は小説家の皆さんが出版不況の波に揉まれて生活も苦しいという状況を実感しています。それは小説家の創作力が下がったわけではなく、いろいろなメディアの台頭や動画コンテンツの流行などで可処分時間の奪い合いの影響が大きいです。

 それでも、小説というメディアにはおもしろいものが多くあることは僕の重ねてきた経験から信じています。そのおもしろい小説を生み出せる作家たちをもう一度羽ばたかせたい。その人たちのすごさを知らしめたい。その思いで“アニセカ小説大賞”を実施することにしました。

 世界に羽ばたくために、今回は強力なパートナーを招聘しました。山本さん率いるツインエンジンとタッグを組み、日本が誇るアニメの力で小説家をステップアップさせたいと思っています。小説とアニメを両輪と考え、作品を世に広く打ち出していくための相互ブースターとして互いを補完し、これからも「小説家ってすごいぞ!」とアピールできる賞にしていきたいです!

山本さん
僕のきっかけはシンプルで、三木さんにお声がけいただけたから、です。こういった大賞でアニメ化の副賞がつく場合だと、該当作品が出なかったり、企画としての難しさが多少あっても無理やりアニメ化したりするケースもあると感じています。今回のアニセカ大賞でもアニメ化の確約を掲げていますが、リアルにどうやってアニメ化を実現できるか、そしてどのように良いアニメ化の企画にさせるかを詰めていきたいと思っています。

――企画としてはいつ頃から動き始めたのでしょうか。

三木さん
2023年の年末あたりですかね。改めて振り返るとまだ1年経っていません。

――早いですね! そんな最近のことだったんですか。

山本さん
三木さんは本当にアクションが早いので、初めて“アニセカ小説大賞”の話をした帰り道には企画内容が届いていました。最初のうちは三木さんのスピードに合わせたいと思って頑張っていましたが、最近は諦めつつあります(笑)。

三木さん
立ち上げるほうは、必要な確認が少なくて楽なだけです(汗)。提案されたアニメ側は、スタジオや部署など多くの方々に話を通す必要があり、大変な労力をお願いしてしまっています。

――そうは言っても、この速度感は驚くものがあります。お2人の交流は元々あったのでしょうか。

山本さん
三木さんと交流するようになったのも立ち上げのタイミングなんですよ。

三木さん
そうなんですよね。もちろん山本さんのお名前はずっと存じ上げていて、僕の中では“オシャレなアニメを作り続けている手の届かない存在”で、いわゆるアキバカルチャー的なものとは近似でありながら、1つレイヤーが違うイメージでした。

 かつてはアニメの中でもキー局と独立U局の格差みたいなものがあって、山本さんたちが手掛けるノイタミナの作品はフジテレビで放送されているじゃないですか。その時点ですごい。そんなキャリアをお持ちの方と仕事をご一緒できるのは光栄でしかないです。

山本さん
僕の目線でも三木さんは数々のヒット作を生み出していて、その手腕は学ばせていただきたいと思っていました。三木さんは僕がライバル視しているアニメ界のさまざまな大物プレイヤーさんと組んでいるのを見ていたので、勝手に負けるもんか! と競うような見方をしていました。

――付き合い自体はなかったものの、お互いに意識していたというわけですね。山本さんが参加を決めたのは三木さんからお声がけがあったから……とのことですが、決め手になったポイントはどこにあったのでしょう?

山本さん
一緒にIPとしてアニメを育てるパートナーを探していたとき、ストレートエッジさんから出版しているものを題材にしたいと考えたことがきっかけですね。

 許諾関係で言えば、作品をアニメ化する際は大手出版社さんの漫画から始まるケースが多いのですが、小説からのアニメ化を目指すのであれば、ぜひお力をお借りしようと思いまして。

三木さん
ツインエンジンさんの成り立ちを見ても、大手の映像部門ではなくて、山本さんがご自身で立ち上げられた独立系のベンチャー的な会社という印象でした。加えて、オリジナルの開発に力を入れている点が、規模は異なりはしますが、ストレートエッジの理念と近しいなと勝手に感じておりました。僕たちは文章が主戦場ですが、ツインエンジンさんはアニメを主戦場にしているというだけの違いしかないと。

 大手出版社の下に付くわけでもなく、オリジナルの物語を開発していきたいという根本の考え方が似ているので、そこで、図々しくも「一緒にやりませんか?」とお声がけした次第です。

――山本さんはなぜ小説からのアニメ化に着目したのでしょうか。

山本さん
昨今のアニメスタジオは一部の人気作はどんどん続いていく中で、次の人気作をどこが取るかを競うような状態です。その中でも、おもしろいのにも関わらず続編が作られない作品も多く生まれています。誤解を恐れずに言うと“1クールで消えていく作品を必死になって作っている状況”なんですよね。

 これの何がよくないかというと、長く続けられる作品を一緒に開発したり、オリジナルの作品を育てたりする発想を持ちづらくなっていることが挙げられます。そして、これを続けているとスタジオがどんどん疲弊していってしまうんですよ。

 我々としてはそうした状況に新たな選択肢として、アニメ独自の良さだったり、クリエイティブ力を発揮できるようなポテンシャルのある作品を、長期的に一緒に育てていける環境を加えられればと考えています。その開発ルートの1つとして見ているのが“アニセカ小説大賞”で、ただ許諾をもらうのではなく小説から一緒にアニメを作っていきたいと考えています。

――なるほど。“アニセカ小説大賞”の狙いというか、山本さんのやりたいことが見えてきた気がします。三木さんにも、この小説大賞が他と異なる点について聞かせていただきたいと思います。

三木さん
シンプルに受賞作のアニメ化が確約されているところです。ここが他の大賞とは明確に異なる点です。他には、今回はパートナーとして版元である実業之日本社さんに参加していただいてはいるものの、主催が媒体を持たない会社である点も大きく違う部分です。通常であれば、媒体を持つところが主催し、そこで刊行するのが一般的ですから、この形は特殊ですね。

 また、本小説賞を受賞された方は、もちろん自身の作品を商業物として世に出していく作家業を担うことになるわけですが、それ以外にも“アニメ制作チームのメンバーの1人”としても振る舞っていただくことになります。

 たった1人で創作をし続けてきた環境から、アニメフィルム創作チームの“原作担当”という1つのポジションを請け負うメンバーになる、という心構えを受賞者さんにはしていただく必要があります。

 慣れない仕事で大変だろうとは思いますが、やり遂げれば、あまりある成果が返ってきますので、ぜひ一緒に頑張っていきたいです。ストレートエッジの編集者がしっかりとサポートしていきます。

――アニメ化や公式サイトでリワードとして触れられているもの以外に、この大賞で得られるものは何があるのでしょうか。

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▲こちらは公式サイトに記載されているリワード内容。
山本さん
作品の種類にもよってはいろいろな展開ができる可能性もあるでしょうね。相性がよければ、キャラクターグッズを伸ばしていく方向性もあるだろうと見ています。

三木さん
受賞してアニメ化を視野に入れた展開をする過程で、IPを利用した多角的な展開ができます。例えばですが、コミカライズを実業之日本社さんにご相談したり、僕の古巣であるKADOKAWAさんに持ち込ませていただいたり、制約なくさまざまなライセンシーさんと組めると思っております。

 ゲーム化に関してもメーカーさんへの持ち込みを検討することあるかもしれません。このように作品を軸に展開していける積極性が明確な強みです。これは、営業アクションに動けない人たちが集まっていると逆に弱点にもなりますが、関わっている人がみんな生き急いでる人たちばかりなので(笑)、まったく心配しておりません。

山本さん
三木さんと最初に小説大賞の構想に関してお話した際に「レッドカーペットを目指す」と聞いて、それが本気だったことが印象深いですね。アニセカ小説大賞という名前の通り、世界を目指した作品展開をしてきます。小説という文芸作品のままで世界に評価される作家もいますが、我々は素晴らしい小説にアニメが組み合わさることで、より世界に羽ばたける可能性が高まると思っています。

三木さん
アカデミー賞ではピクサーなど本場のハリウッド系のアニメが多く受賞しますが、実は各国のアニメもノミネートされています。最近だと宮崎駿監督の『君たちはどう生きるか』も長編アニメ映画賞を受賞していますし、今後も日本のアニメが受賞する可能性も十分にありますよね。今年のアカデミー賞を受賞した『ゴジラ-1.0』の山崎貴監督の後に続くのは、アニメの監督だと思っています!

――大賞の名前にある“アニメで世界へ!”の世界は、そのままの意味ということですね。

山本さん
大賞の名前を決めるときの候補として“アニメで世界へ!小説大賞”が出たときには「それで行きましょう!」とすぐに決まりました。今なら配信でも世界に発信できますし。少なくとも作品の名前や原作者、アニメのスタッフの名前を世界に広げることはできると思います。

2人がそれぞれ応募作品に求める要素は?【アニセカ小説大賞インタビュー】

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――お2人が本コンテストの投稿作品に求めているモノなどはあるのでしょうか。

三木さん
あります。僕は作品から見える作家のドヤ顔が見えるような、調子に乗っている作品を出してほしいです。と言っても、お話しする電話口とか直接お会いした際にドヤ顔をしてほしい……という意味ではありませんが(笑)。

――ああ、実際にドヤ顔をしろって話ではないんですね(笑)。

三木さん
はい。作品内容でドヤ顔をしてほしい! という意味です。読んでいるとテキストの端々から「俺の作品、すげえだろ?」と聞こえてくるような作品。そんな作品がほしいという意味です。

 まるでドヤ顔をしているかのように、文章から「ここ! ここがおもしろいんです!」と訴えかけられるものが強いほうが、他のメディアに変換されたときも熱意が伝わりますし、他に負けない作品になると思います。なので僕はアニメ化しやすいかしにくいかという視点ではなく、自己承認欲求の塊みたいな作品を評価したいと考えています。

山本さん
そこは僕も同じ気持ちです。加えてアニメスタジオグループを経営している目線で言うと、クリエイターがアニメを作りたくなるような魅力を持っていることは1つの基準ですね。自分の役割は、三木さんが可能性を感じる作品をアニメクリエイターやスタジオ側とうまくマッチングすることだと思っています。

 個人的には、「こういうのが世間で売れるんでしょ?」というスタンスの作品が多くなりすぎているきらいがあるので、そうではないタイプの作品が出てきたほうがおもしろくなると思います。

三木さん
アニセカ小説大賞では、選考段階から山本さんのツインエンジンのグループ会社や、本小説賞に賛同してくださったスタジオさんも参加してくださっています。スタジオさんで実際にアニメ制作に携わっているクリエイターの方々にも、投稿された作品を直接ご覧になっていただきます。その方々の目に止まるかどうかも大賞を取るかどうかを左右する要素ですよね。

 例えば“アメリカズ・ゴット・タレント”のような感覚で、評価する識者がバラバラなこだわりを持っていて、彼らの誰か1人の琴線に触れたらOK! と思っていただければ。いろいろなスタジオのいろいろなクリエイターが参加されるので、むしろスタジオの特色なども気にせず、自分がビビっとくる作品を、ジャンルを問わず純粋におもしろいかどうかで応募してもらいたいです。

山本さん
三木さんが言ったように、ジャンルに縛りはないので、スタジオとクリエイターがアニメを作りたいと思わせてくれる作品をお待ちしています。

三木さん
もちろん、今流行っているものを応募していただくのもわかりやすく確率を上げる方法であるとも思います。異世界転生、現地転生、ゲームもの、悪役役令嬢ものetc…。これらはもうすでに1つのジャンルとして確立されているので、あえてこのジャンルを選ぶ。ただし、その中でどう自分の個性を出してキャラクターや物語の魅力を見せていくか、そういうところを見ていきたいです。

――先ほど山本さんは“アニメを作りたくなる作品”がほしいとおっしゃっていました。そことは多少意味合いが違うかもしれませんが、山本さんの視点から“アニメを作りやすい作品”はどういう作品なのかも教えていただければと思います。

山本さん
いわゆる小説作品は文字を映像に変換するという時点でハードル高い傾向があります。基本的にノベルはまずコミカライズをしてある程度売れるかどうかを見る流れが多くなってきていると思いますが、そういう前提があるうえで、この流れは今回想定しているビジョンではありません。

 漫画家は文章面と絵の両方で表現できる力を持った人がいますが、小説家も文章を映像化することで表現の力をさらに発揮してもらいたく、“アニセカ小説大賞”はその道の1つだと考えています。

 世の中には小説が人気でコミカライズはできたけど、そこで止まってしまいアニメ化のチャンスを逃している作品もあると思います。今回の大賞に限らず小説からのアニメ化はIP開発の有効なルートの1つと捉えているので、個性のある作品を求めています。

――現在の応募数はどのくらいなのでしょうか。

三木さん
本インタビュー公開時点では募集開始して1カ月半で約4,200作品です。おそらく大賞系の中では多いほうで、締め切り(12月5日(木)23:59)までにまだまだ増えていくかなと思っております。たくさん応募していただき、ありがたい限りです。

――本コンテストの選考はどういったフローで進んでいくのでしょうか。

三木さん
スケジュールはすでに発表されているので、基本的にはその通りに進行していきます。1次、2次選考はストレートエッジの編集者が責任を持って選考していきます。その段階からツインエンジンさんや選考参加スタジオの皆様にもご協力いただき、最終選考まで通過作品をすべて検討したうえで、受賞作品が決まります。

――“小説家になろう”での評価は影響するのでしょうか。

三木さん
FAQでも評価基準について記載していますが「応募作におけるすべての情報が選考時の評価対象となりますが、本コンテスト主旨にもあるように『おもしろければなんでもあり』ですので、作品内容そのものを重視して選考いたします」という評価方法になります。

 本編以外のあらすじなども評価対象になりますが、どこを重要視しているかと言えばもちろん本編です。他の要素は総合的に見ますが、もっとも重要なのは“作品のおもしろさ”なので、そこに一番力を入れていただきたいです!

――今回応募は誰でも可能なためアマチュアとプロが混在した大賞となりますが、どういった心構えで応募すればよいのでしょうか。


三木さん
実は執筆をしている人たちからすると、そこは気にしてないはずです。“小説化になろう”のプラットフォームに投稿している人は、プロやアマチュアは関係なく、よくも悪くも無邪気に創作を楽しんでいる人たちばかりだと思いますから、気負い、気後れなく気軽に応募していただければ幸いです。

 そして、誤解を恐れずにあえて1つ言うとすれば、小説の文章力のほうはそこまで重要視していないというか……。文章力よりも、勢いやおもしろさ重視! ということでよろしくお願いします。

――今回の大賞をきっかけに執筆を始める方もいるかもしれません。そういった方にアドバイスなどはありますか。

三木さん
他の小説大賞よりもハードルが高いのでは? と気にされている方もいらっしゃいましたが、肩肘張らずに書いてもらいたいですね。

ツインエンジンさんをはじめ、選考に参加するアニメスタジオさんの名前が
公式サイトで発表されていますが、各スタジオさんがどんな作品を作っているのか確認してみて、「自分の作品をこのスタジオがアニメにしてくれるかも……」「もしそうならこんな話がいいな!」なんて思いながら作品作りを始めていただければと。そんな軽い気持ちでまったく構いません。

山本さん
応募のハードルが高いと思われることは想定していませんでしたね。

三木さん
そうですね。まったくそんなことはなくて、他の大賞を比べても下限文字数は3万文字と控えめなのでこの記事を読んでいる今から書いても間に合います! 3万文字は書こうと思えば最速5日くらいあれば書けるのではないでしょうか!!!  多めに見積もって1週間!!  つまり、締め切りまで1カ月あるので書き下ろし複数本を応募しまくれます!!

――この記事を見て興味がわいた方にもぜひ参加していただきたいですね。

三木さん
それくらいの気持ちで参加していただければ幸いです。僕が担当した作家からも応募の相談を受けて「3万文字なので1週間で余裕ですよ~(チラ)」と言ったら「そうですよね! 頑張ります!」と返事をいただいたところです。社会人の皆さんも、土日を活用すれば書ける!!  頑張りましょう!! ふるってご参加ください。

――大賞を実施するうえで楽しいことや大変なことはありましたか。

三木さん
Xで皆さんの反応を見ると、投稿する作品について話していたり、投稿中の人が定期報告したり、応募するか相談していたりといった具合に、多くの方々がこの大賞について話してくれていることがとても嬉しいです。

 自分たちのほうで大変なことは、この後に控えている選考作業ですね。この大賞は下限文字数も少なめですし、応募してくれた作品に選考員がしっかりと目を通す予定です。生々しい話をすると、選考作業にはお金も時間もかかるので、これからが大変な時期だと思っております。なんとか、これまでの経験を活かして乗り切る予定です。

小説・アニメ業界の最前線から見た昨今のエンタメ文化【アニセカ小説大賞インタビュー】

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――昨今の“小説家になろう”から作品が排出されていく傾向について。三木さんは現在の小説文化をどう捉えていますか。

三木さん
今ではもうUCG(User Generated Contents=ユーザーが自発的に作成したコンテンツ)文化が当たり前となっており、その文芸方面で最も成功した事例が“なろう小説”だと思います。この、「プロの編集者が目を通した作品ではなく、ユーザー間で評判のよい作品が盛り上がってきている」という市場変化は、文芸・ラノベ界の大きな流れの変化だと認識しています。現代の編集者はそれに合わせてアップデートして、自分たちの武器をどう活かしてどう立ち回っていくかを考えるべきです。

 UGCが仕事を奪う、コンテンツのレベルが下がるなどの意見も目にしますが、結局は読者がそれを読みたいか、求めているか、ニーズがあるかどうかでしかありません。その変化する市場で僕ら編集者はどうやって存在意義を証明できるかを求められています。例えば昔は馬車の御者が職業として成立していましたが、交通手段の発展によって馬車が減っていき、車の整備士という新しい仕事が生まれました。もう馬車の御者の仕事は(ほぼ)存在しないわけで、時代に抵抗しようとしても無駄です。ならば、その流れの中でどう生き抜いていくかが重要だと思います。

 こうした変化は小説業界だけではありませんが、山本さんのアニメ業界目線では似たような変化として、動画コンテンツの盛り上がりはどう受け止めていますか?

山本さん
最近はショート動画が人気で長尺の動画は見られないだとか、動画を1.5倍速で見るとか、いろいろな問題が出てきています。これらは可処分時間の取り合いが産んだ結果で、制作側としては悲しいことだと思っています。

 長尺のものが逆風と言われつつも、アニメにおいては、映画は意外に数字が伸びている実情もあるので、あくまで一時的なトレンドとして認識しており、まだ大きな問題に直面はしていません。音楽業界でもCDが売れなくなった時期がありましたが、旧来の音楽ビジネスモデルから変化しただけでした。

 その後はライブ形式が伸びていき、アーティストが発信する曲やダンスをユーザーが真似をする動きがあり、新しいビジネスが起こっています。小説も同じで書籍の電子化などが変化しつつも、人々の才能や熱意は変わらず作品に活かされていると思っています。

――確かにどの業界でも常にビジネスモデルは変化し続けていますよね。

山本さん
ゲームも同じですよね。ソーシャルゲームが一気に成長し、現在は莫大な予算をかけた作品が目立つ中、一方ではインディーゲームも盛り上がりを見せています。大きなプロジェクトにカタルシスを得る人もいますが、その反動で自分のやりたいことをやりたいと考える人も出てきているなと感じることが多くなりましたね。

 どの業界でも同じような揺り戻しや変化は起きていて、いずれ才能や情熱を持った誰かのところに次の何かがやってくるんだろうなと思います。

――その変化も山本さんが小説からアニメを作ることに着目した要因というわけですね。

山本さん
小説を書くことを仕事にして食べていくには、本が売れないといけないというハードルはありますが、数多あるクリエイティブな仕事の中で、小説家という職業はかなり自由な形での創作ができると思います。

 映像化のしやすさという点において漫画は非常に強い形態ですが、我々の周りでも小説の可能性に注目している人は多く存在しています。昨今では小説家とイラストレーターのタッグによって映像化へのハードルは下がっています。“アニセカ小説大賞”が大きくなっていけば、未来のアニメ業界において、作品を作るための1つのモデルになる気がしています。

三木さん
映像コンテンツの中でアニメは展開の選択肢が広いほうです。逆に同じ映像でも実写映画は難しくて、フィルムで売上回収するのが難しいと聞きます。アニメだったら世界の各所から放映・配信権利を買ってくれたり、人気次第でたくさんの企業とタイアップできたりするので、比較的お金の回収をしやすいコンテンツだと思います。

 だからこそ、現在1クールで50以上もの作品が放映されているわけで、中には赤字の作品もあると思いますが、黒字化するための行動が取りやすく、挑戦し甲斐のあるメディアだと感じます。

――ここまでの流れでビジネスとして成立するかどうかのお話が展開していきました。少々お話がそれてしまいますが、お金の話というと、三木さんがXで小説家の賃金問題に触れていたのが印象的でした。こちらについてもお聞かせいただけますか?

三木さん
この大賞の趣旨とは少々ずれますが、昨今の世の中は物価高で、政府がインフレに対応した賃上げを経団連や中小企業にも要請している影響で、少しずつですが家庭の収入も増えてきていると思います。

 一方で出版業界はその流れに取り残されている印象で、例えばですが、作家さんの原稿料は30年前からほぼ変わっていません。にもかかわらず、物価は高くなり、払う税金は増えていく。クリエイターさんにとってかなり辛い状況だと思います。

――昨今はアニメーターの給料が少ないというテーマが議題に上がることも多いですね。

三木さん
以前から薄給について取り上げられていたアニメーターに関する問題は、よくも悪くもキャッチ―なので、国会で取り上げられたりして改善の傾向が一部見えています。僕もアニメの委員会にいたことがあるのでわかりますが、1話あたりの制作単価は今ものすごく上がっているので、アニメスタジオさんに支払う制作費(ほぼクリエイターさんの人件費)は10年前の1.5倍以上になっている印象です。

 委員会としては出資額が上がってしまいますが、これは健全な良い傾向だと思っています。制作費の増額を委員会も驚くほどさらっと承認するケースも多いです。それくらい、クリエイターさんの賃金問題を考えているということですから。

 ただ、その委員会から支払ったお金がきちんとアニメーターさんに届いているのか、どこかで止まっているのかはコントロールできないので、個人的にはそこも透明化されるといいなと思いますが……。

―― 一方で作家・原作者に対する還元が行われていないということでしょうか。

三木さん
行われていないわけではないのですが、インフレに比例した単価アップはされていない、という実情です。印税は据え置きかパーセンテージを下げ、原作使用料は上がっていないので、作家のところに入るお金は下がっています。その値上げ交渉をするとすごく驚かれるんです。「えっ、そんなこと前例がありませんよ!」と。原作者はアニメが売れたら(お金が)入ってくるよとよく言われますが、じゃあ売れなかった時のフェイルセーフは? というとどこにもありません。

 印税も初版部数が下がる一方で、初版1万部で頑張ったなと言われる時代です。600円の本だとしたら印税は約60万ですが、その1冊を書くのに3カ月ぐらい。出版まで3カ月の合計6カ月かかったとして、半年に1冊ペースだとその作家の年間収入は120万円です。これでは、小説家を目指す人がいなくなってしまいます。

――このインタビューの冒頭でも触れられていた通り、小説家の境遇改善もこの大賞の狙いの1つでもあるわけですね。

三木さん
僕としては皆さんに「小説家ってお金が儲かるんだ!」と思ってもらいたいです。今も昔ももちろん売れないと儲からないことに変わりはありませんが、売るための方法や手段を積極的に考えていかないと、昔とは時代が違います。

 自分のささやかな反抗の一手ですが、この“アニセカ小説大賞”で自分の作品がアニメ化された! となれば、小説家が夢のある職業という再認識をしてもらえるのではと。もちろん、選ばれる作家はごく少数ではありますが、この賞がないよりも、あったほうが良くないですか? 見られる夢はないよりもあったほうがいいじゃないか! という想いで頑張っております。

――最後に応募された方、応募を検討されている方にメッセージをお願いします。

三木さん
僕は小説家の可能性を信じています。これまで小説家の皆さんに育てられて、今の僕があるのも小説のおかげです。その方々に対する、勝手な僕の独りよがりの還元として“アニセカ小説大賞”を実施しました。

 小説家って、おもしろい話さえ書いていれば楽しく好きなことでお金儲けができると思ってほしいです。社内政治や血筋などに関係なく出世できたり活躍できるのが小説家です。ただし、おもしろいものは書かないといけませんが!!

 そういう夢を持った人を待っています。アニセカ小説大賞はそういう人に増えてもらうための第一歩と考えていますので、皆さんのドヤ顔がテキストを通して見えるようなおもしろい作品、ぜひお待ちしております。

山本さん
小説という一次創作物の応用が映像に繋がっているので、そこでアニメスタジオである我々は貢献したいと思っています。小説家の皆さんが持っている物語を作る能力はさまざまな可能性を持っていて、小説を映像にすることは、アニメをはじめとしたビジネスとして皆さんの可能性を広く展開できる力だと感じています。ともに世界に向けて自分の作品を発信する意欲のある方の応募を待っています!
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アニメで世界へ!小説大賞(アニセカ小説大賞)概要

【募集期間】2024年9月6日~12月5日23:59
【結果発表】2025年5月頃
【応募要項】
・プロ、アマチュア不問。作品ジャンル不問。どなたでも参加できます。
・応募作の文字数は3万文字以上とさせて頂きます。(完結・未完結不問)
・日本語で書かれた作品を募集します。
・応募規約“6.禁止事項”に該当する作品は選考対象外となります。
・複数作品の応募は可能です。
・応募する作品すべてに個別に応募キーワードの設定をお願いします。
・選考結果が発表されるまで“アニセカ小説大賞1”のキーワードを削除しないようお願いします。
・“小説家になろう”にて開催されている他コンテストとの重複応募も可能です。
(重複応募が許可されているコンテストに限ります。重複応募作品が受賞の候補作となった場合、他コンテストへの応募を継続するかご判断を頂きます)
・“ノクターンノベルズ”、“ムーンライトノベルズ”、“ミッドナイトノベルズ”掲載作品は選考対象外となります。
・応募期間中、本コンテストの運営企業および協力企業以外の企業から、出版などの打診があった際にはお問い合わせフォームよりご連絡ください。
※応募規約“6.禁止事項”やお問い合わせフォームについては
公式サイトをご覧ください。

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