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『ユア・フォルマ』尾崎隆晴監督インタビュー。人間とロボットのイメージと真逆のエチカとハロルドの関係性が持つ魅力。アニメが原作小説2巻からスタートする理由も聞いてみた。

文:米澤崇史

公開日時:

 2025年4月2日より放送開始となる、TVアニメ『ユア・フォルマ』。その制作に携わる尾崎隆晴監督のインタビューをお届けします。

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 電撃文庫から刊行中の、菊石まれほ先生のライトノベルを原作とした本作では、脳に埋め込まれた情報端末〈ユア・フォルマ〉が普及した世界を舞台に、〈ユア・フォルマ〉を通して人間の記憶を探る“電索官”であるエチカと、ヒト型ロボットの〈アミクス〉であるハロルドのコンビが様々な事件を解決していく、SFクライムサスペンスとなっています。


 2021年にはエチカ役を花澤香菜さん、ハロルド役を小野賢章さんが担当した原作のPVも公開され、100万再生を突破するなど大きな反響を呼びました。そこから満を持して制作された今回のTVアニメでは、『少女終末旅行』の尾崎隆晴氏が監督、『虐殺器官』や『ゴールデンカムイ』のジェノスタジオが制作を担当し、アニメファンを中心に注目を集めています。

 尾崎監督のインタビューでは、作品の魅力からアニメでのこだわり、原作から異なる形となったストーリー構成が生まれるまでの経緯まで、様々なお話を聞くことができました。

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▲尾崎隆晴監督。

SF色の強い世界観に目が行きがちだが、本質にあるのは人間ドラマ【ユア・フォルマ 尾崎隆晴監督インタビュー】

――最初に原作を読んだ時、どんな印象を抱かれましたか?

尾崎監督
最初、『GHOST IN THE SHELL』とか、『マトリックス』や『ブレードランナー』みたいな、近未来のサイバーパンク系の作品なのかなっていう印象を受けたんです。けれど読み進めていく内に、どちらかというとサイバーパンクよりは現実的な要素が強いのかなと感じました。

――現実的といいますと?

尾崎監督
例えば、〈ユア・フォルマ〉という電脳的な技術が出てきますけど、これって要は今のスマホを頭に直接入れたようなもので。ロボットに関しては、昨今のAIと通じる部分があったり、すでに現代に存在しているものに置き換えられる技術が多いんですよね。

 その上で、人とロボット、エチカとハロルドといったキャラクターがどう互いにコミュニケーションをとっていくかという、“繋がり”をテーマにした現代劇なんだというのがわかってきて、それがおもしろいなと思ったのが最初の印象ですね。

――SF的な要素がある一方で、ところどころ現代より昔に感じるような要素が混ざっているのもおもしろいなと感じました。

尾崎監督
そのあたり、『ユア・フォルマ』の世界って、ガラケーからスマホに変わるくらいのタイミングで、テクノロジー発達の分岐みたいなことが起きているんですよ。

 だからスマホが普及していなくて、代わりに脳に〈ユア・フォルマ〉を埋め込むようになったと考えると、「難解な近未来のSFではなく、パラレルの現代劇なんだな」と自分の中でいろいろ合点がいったんです。未来のようにも昔のようにも見えるのは、それが影響しているのかもしれませんね。

――どこか中世のような雰囲気のある街並みなどの風景も、SF的な電脳空間とのギャップがあって印象的でした。

尾崎監督
ええ、実際そこは意図した部分です。本作の世界をSFチックな未来都市のように描くつもりは全くなくて、あくまでも現代社会のようなルックにしたかったんです。

 その上で、本作の舞台になっているヨーロッパを考えてみると、今でも昔の景観を大事にした場所が多いんですよね。なのでそれをイメージして、シックで彩度低めな世界観をベースに置きました。

 一方で〈ユア・フォルマ〉の中のシーンとか、SF要素が強くなる空間では、彩度高めのきらびやかなビジュアルにして、差をはっきりさせたかったという意図もありました。両方がギラギラしてるとごっちゃになっちゃいそうで、この世界はそういう混沌とした感じではなく、目を閉じたら電脳空間みたいなのが広がっている……みたいな方がイメージに合うと思ったので。

――今話に出た〈ユア・フォルマ〉の中の電脳空間の演出にもかなり力が入っていましたが、どのようなこだわりがあったのでしょうか。

尾崎監督
それについては2つほどあって、1つは僕自身が80~90年代くらいのサイバーパンクSFがすごく好きなことによる影響です(笑)。電脳空間のイメージは最近のSFではなく、分かりやすいブロックやノイズみたいなものを入れて、ちょっとクラシックな方向に寄せて演出しています。

 もう1つは、人間が見る幻や夢の世界のようなイメージを取り入れたかったこと。機械的な要素と生物的な要素の両方を織り込むというのが、今回の電脳空間のコンセプトにもなっています。

原作2巻からスタートするという構成案に、最初は「なんで!?」と思ったものの……【ユア・フォルマ 尾崎隆晴監督インタビュー】

――すでに少し名前が上がったりもしましたが、尾崎監督はどんなSF作品に影響を受けられたんでしょうか。

尾崎監督
僕は80年代思春期育ちなので、先ほども名前を挙げましたが『GHOST IN THE SHELL』や『ブレードランナー』、『マトリックス』は好きでしたね。そのあとも類似したSF映画を結構たくさん見て来たので、知らず知らずの内に影響を受けていたなと、今回改めて思いました。

――自分もそのあたりを通ってきているので、かなり通じるエッセンスを感じました。昨今のオンラインゲームがベースのSF表現とはまた方向性が違っているなと。

尾崎監督
やっぱりSFのビジュアル的な表現っていうと、80年代のサイバーパンクムーブメントの歴史的価値って凄まじかったなと思います。

 小説だと、それよりも前に『ブレードランナー』の原作者フィリップ・K・ディックや、続いてウィリアム・ギブスンがチバ・シティ(※1984年に発表した『ニューロマンサー』のチバ・シティ)を取り扱ったりとか色々ありしましたが、映像化っていう部分では80年の初頭が始まりだったのかなという印象はありますね。

――原作の菊石まれほ先生や編集部とは、何かアニメ化にあたってお話をされたんでしょうか?

尾崎監督
もちろん基本は原作に準じているんですけど、とくにビジュアル面は結構自由にやらせてもらったなって実感があります。

 やっぱり小説だとビジュアルの情報が限られるのですが、今回は元々自分の好きなジャンルだったこともあって、自分の方から色々提案させていただいたような形でした。結構すぐにご承諾いただけて、スムーズに進められましたね。

 それ以外ですと、世界観の設定を固めるために、脚本打ちでのアドバイスや、内容が問題ないかの確認は定期的に取らせていただいていました。

――具体的にはどのようなアドバイスがあったんでしょう?

尾崎監督
やっぱり原作が小説なので、我々が把握しづらいビジュアルの設定みたいなのが結構あるんですよね。

 例えば作中にホログラム的な技術が出てくるんですが、これは現実の目で見ているのか、〈ユア・フォルマ〉を通して見ているのか、どちらなのかがちょっと分からなくて。

 実際には、〈ユア・フォルマ〉の中でだけ立体的に見える映像がホログラムで、現実の方は立体映像ではなく、ホロブラウザっていう物理的なモニターに表示される映像として、しっかり区別されているんです。そういった、先生の中にある細かいビジュアルのイメージや設定をご説明いただいたような形でした。

――かなり豪華なスタッフ陣が集まっていますが、尾崎監督が関わられたタイミングではもう座組みは固まっていたんでしょうか?

尾崎監督
いえ、スタッフは全然決まってなかったです。最初に制作がジェノスタジオであることと自分が参加することが決まって、そこからは自分が希望するスタッフなども含め、ジェノスタジオ側と協議してメンバーの皆さんを招集させていただいたという流れでした。

――『少女終末旅行』でもタッグを組まれていた、シリーズ構成の筆安一幸さんについても監督がオファーを出されたと。

尾崎監督
そうですね。筆安さんに関しては何度かご一緒させていただいていて、今回は本格的なSFを扱うのは自分としては初めてだったので、慣れ親しんだ方と一緒にやれた方がスムーズかなと。

――アニメは、原作2巻にあたるエピソードから始まったことに驚いたのですが、筆安さんとどんなお話をされたんでしょうか。

尾崎監督
原作もまだ続いていますし、結構膨大な内容があるので、最初からやるのか、どこか一部だけを抜き出してやるのがいいのか、みたいな話し合いを最初にしていたんです。その時に筆安さんから出たのが「2巻からやろう」という案で、当然「なんで!?」ってなるじゃないですか。

――はい。原作を知る読者の方も驚いた人が多いと思います。

尾崎監督
小説を読んでいただけるとわかるのですが、1巻はエチカの話として結構独立しているんですけど、2巻以降のお話って、アミクスと人間の関わりや、そのアミクスの未知の領域であるブラックボックスを扱っているハロルドのお話としての一貫性があって、アニメ化にあたってまとまりがすごく良さそうだったんです。それが一番綺麗にハマるんじゃないかというのが筆安さんの提案で、確かにそうかもしれないなと。

――菊石まれほ先生や編集部などは、その提案を聞いた時はどんな反応でしたか?

尾崎監督
これは想像になってしまいますけど、やっぱり最初聞いた時は自分と同じ「なんで!?」だったんじゃないかなと思います。ただ、そこから『ユア・フォルマ』という作品の物語を分析した時に、客観的に見ると筆安さんの提案は理屈が通っていて、理性的な判断でご承諾いただけたという印象でした。

 もちろん菊石先生ご自身としては、「最初から全部綺麗にやってほしい」という想いは少なからず持たれていたと思います。ただ、今の形がダメみたいなお話はまったくされていなくて、純粋に1巻の内容が飛ぶことで、エチカとハロルドの関係性が視聴者に伝わるのか、という部分の心配をされていました。

――確かに、原作小説の1巻は2人の出会いが描かれていますからね。

尾崎監督
そうですね。その分、アニメでの2人の過去については、インサート的な形で散りばめていて、視聴者に想像で補完していただく、一種の謎解き要素として取り入れています。より詳しく知りたい方は、原作も読んでいただければと。

人間だけど機械のようなエチカと、ロボットなのに人間らしいハロルドのギャップ【ユア・フォルマ 尾崎隆晴監督インタビュー】

――本作では、エチカとハロルドの“バディもの”という側面も持っているかと思いますが、バディとしての2人の関係性にどんな魅力を感じられましたか?

尾崎監督
エチカは人間なんだけど、人と接するのが苦手なタイプ。仕事ならできるんだけどプライベートだと内向的で、ちょっと機械的に見える部分があるんです。

 対してハロルドは、アミクスというロボットであるにも関わらず、フレンドリーで親しみやすい。お互い、人間とロボットっていうイメージと真逆の性格になっていて、対比としておもしろいんですよ。

 ただ共通しているところもあります。実は2人ともすごく不器用で、自分の本音を表現するのが得意じゃないんです。けどそういう未熟さって、同時に人間臭さでもあって。未熟だからこそ、互いに興味を持って歩み寄ったり、互いを労ったりみたいなやりとりが何度も生まれる。それがキャラクターの魅力や、作品のおもしろさにも繋がっているのかなと。

 そういう2人を中心とした人間ドラマ的な部分は、とくに注目していただきたい部分ですね。

――ロボットの人格を認めるかどうかというのはSFの普遍的なテーマでもあります。アミクスが登場する本作にもそういうエッセンスは入っていると思うのですが、尾崎監督としてはどんな考えを持たれていますか?

尾崎監督
今回に関しては、そういうロボットと人間のカテゴリー分けみたいなテーマは自分の中では持ってないんです。自分の中で描きたいと思っていたのは、「人間以外のものに心があるとすれば、その心はどのように作られていくのか」みたいなところが近いですね。

 例えば人形のようなおもちゃを家族みたいに大切にされている方もおられると思うんですけど、実際にはおもちゃに心はなくて、人間の心がそれを見出しているわけじゃないですか。でもそれをすることによって、心地良さや親しみやすさを感じられるようになるんですよね。

 それを前提として考えた場合、過去から未来に至るまで、あらゆるもの1つ1つに心があるとしたら、それを結ぶものってなんだろう……という疑問が出てきて、それが今回のテーマにもなっています。

 だからハロルドがロボットであるかどうかは実は重要じゃないんです。人間が感情移入した時点で、もうそこには一つの心が存在しているので、ハロルドにも心があるというのは前提になっているんです。その心同士がどういう風に触れ合っていくのか……というのが、今回の描きたかったところなので。

――なるほど。“ロボットに心があるかどうか”というところからは、一歩に先に進んだテーマになっているというか。

尾崎監督
SF作品ってロボットの人権とかそういうテーマに行きがちなんですけど、そこはもう色んな作品で描かれてきていますからね。今回はそこではなく、あらゆるものに心が宿ることは前提として、そこに人がどう関わっていくのか、というのが描きたかった部分ですね。

――エチカとハロルドの関係性や、人間ドラマを描くにあたって、具体的にはどのような工夫をされたのでしょうか?

尾崎監督
作画的なところだと、エチカとハロルドの目線とかですね。

 エチカは内向的な性格なので、興味があるものであっても正面から凝視したりってほぼしないんです。でも心の中ではすごく気になっているので、たまに目線を向けてチラ見したりする。

 反対にハロルドはフレンドリーだから、相手に何かを伝えたい時はしっかりと相手を見て話す。そういう2人の目線のギャップみたいなのは意識して演出していました。

――2人の距離感みたいなのが独特ですよね。片方が一歩近づいたら、もう片方がもう一歩引くみたいな。

尾崎監督
そうですね。ハロルド的には、真剣に話しているんだからこっちを見て欲しいんだけど、エチカはずっと横を向いていて、でも意識はめちゃくちゃハロルドの方を向いているみたいな(笑)。

 そういうのをアニメーションで描くのって結構難しいんですが、目線や顔の向き、表情であったりの芝居で表現できればな、と思いながら作っていました。

――エチカ役の花澤香菜さん、ハロルド役の小野賢章さんへのディレクション的な部分ではいかがでしょうか?

尾崎監督
そこについては、お2人にほぼお任せみたいな感じでしたね。お2人ともPVからエチカとハロルドを演じられていますし、自分としても、絶対にこの2人にお願いしたいという想いがあってオファーを出しているので、そこは信頼していました。

■花澤香菜×小野賢章『ユア・フォルマ』PV【電撃小説大賞《大賞》】

 やっぱり、お2人とも自身が演じるキャラクターについてはすごく研究して熟知されているので、こちらから「こうしてください」みたいなディレクションはほとんどなかったです。

――最後に、放送を楽しみにされているファンの皆様へのメッセージをいただければと思います。

尾崎監督
『ユア・フォルマ』は、一見SFサイバーパンクものっぽく見えるんですけど、実はヒューマンなドラマが主題で、キャラクター同士の関わりを描いた心のある作品になっています。どうかエチカとハロルドの行く先を、最後まで暖かく見守っていただければと思います。

TVアニメ『ユア・フォルマ』作品情報

放送情報
2025年4月2日(水)より、毎週水曜よる11:45~
テレビ朝日系全国ネット“IMAnimation W”枠にて放送開始
※一部地域を除く

スタッフ
原作:菊石まれほ(電撃文庫/KADOKAWA刊)
原作イラスト:野崎つばた
監督:尾崎隆晴
シリーズ構成・脚本:筆安一幸
キャラクターデザイン:嘉手苅睦
音楽:加藤達也
オープニング・テーマ:yama「GRIDOUT」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
エンディング・テーマ:9Lana「ネオラダイト」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
アニメーション制作:ジェノスタジオ
製作:ユア・フォルマ製作委員会

キャスト
エチカ・ヒエダ:花澤香菜
ハロルド・W・ルークラフト:小野賢章
ビガ:東山奈央
トトキ:遠藤綾
フォーキン:岡本信彦
ダリヤ:七瀬彩夏
ソゾン:福山潤
レクシー:斎藤千和
ライザ:東城日沙子
ベンノ:林勇
シュビン:杉田智和
ナポロフ:山寺宏一

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