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日本ファルコム加藤正幸氏がゲーム業界に残した偉業と教え。ファンによる献花や、佐藤辰男氏、新海誠氏、ヘンク・ロジャース氏による弔辞も

文:電撃オンライン

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 2024年12月15日に逝去された、日本ファルコムの会長・加藤正幸さんを偲ぶお別れの会が、2025年3月14日に東京の増上寺・光摂殿で行われました。

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 1981年3月に創設された同社の創設者である加藤正幸さん。本記事では会の様子などをお届けします。

老舗ゲームメーカー・日本ファルコムの創設者である加藤正幸さんの経歴と偉業

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 学生時代にSF小説でコンピュータに興味を抱き、ナイトクラブのバンド演奏で音楽センスを磨いた加藤正幸さん。20代の頃、自動車会社のシステムエンジニアとして12年間会社勤めをし、その後、日本ファルコムを創設しました。

 そのきっかけとなったのが、サラリーマン時代に出張で訪れたバンコクで目にした“アップルII”。この運命の出会いから「PCの時代だ」と感じ、1981年に会社を設立。アップルコンピュータの代理店ののち、翌1982年にはPC向けのゲームソフト制作と販売を始めました。

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▲日本ファルコム設立当時。立川にあったファルコムのコンピュータショップ内で撮影された貴重な写真。(出典:日本ファルコム30周年公式記念本 Falcom Chronicleより)

 式のなかでは動画や音声で加藤正幸さんの生前の言葉が流される場面も。事業を車の車輪に例え、調子がいいときは、それを押す社員たちの少しの力でもうまく回るが、一度止まってしまうと、なかなか動かし直すことは難しいからこど「カメラを止めるなじゃなくて、車輪を止めるな」など、独自の経営理論も語られていました。

 ゲームシステムや音楽、物語はもちろん、”作品のロゴもキャラクターの1つであり賞品である”という想いも強く、ゲーム作品のロゴや作品名にも徹底的なこだわりを見せたとのこと。加藤正幸さん直筆のデザインである一部の作品のロゴは、ステッカーとして会のしおりに同封されていました。

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▲『ウルティマ』の作者である、リチャード・ギャリオットさんとの写真も。着ているエプロンは『ザナドゥ』。日本ファルコムへ来社の際に、記念として撮影されたもの。(出典:日本ファルコム30周年公式記念本 Falcom Chronicleより)

 また、音楽に関する熱量が高いことも有名で、それは
ファルコム音楽フリー宣言にもつながっているのでないでしょうか。


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▲“ミス・リリア・コンテスト”のグランプリを獲得した、杉本理恵さんのイベントで撮影された1枚。J.D.K.BANDの前身となるメンバーが集まり記念撮影。(出典:日本ファルコム30周年公式記念本 Falcom Chronicleより)

 以前Falcom Chronicleに掲載したインタビューで、ファルコムのファンへ向けて「家庭用ゲーム機に足場を移して約3年。これからは近藤を中心として、どんどん新しいことを考えて、新しいことをやっていくのでご期待ください。日本ファルコムは、こうしよう、ああしようというのを決めていくんじゃなくて、やって来たことを見て、ファルコムってこうなんだなというのを社員自らが考えてゲームを生み出しています。それに、やりすぎたときはユーザーさんがしっかり抗議の声をあげてくれますしね」と、言葉を残しています。

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弔辞を担当したのは佐藤辰男さん、新海誠さん、ヘンク・ロジャースさん


 ゲーム業界の黎明期とも言える時代、その先駆者のひとりである加藤さんを偲ぶ会には、多くの業界の関係者が訪れました。

 また、カドカワ株式会社元代表取締役・現株式会社コーエーテクモホールディングス社外取締役の佐藤辰男さん、アニメーション監督の新海誠さん、ゲームデザイナーのヘンク・ブラウアー・ロジャースさんによる弔辞の読み上げも行われました。

「デジタルエンタテインメントの創成期というものがあの時代にありました。その先頭に加藤さんは立っていた、という想いを今でも抱いています。これからもあなたを追って、次々と新しい才能をもった方が生まれると思います」――佐藤辰男さん

「アニメ業界に入り、ゲーム業界から来たやつだとバカにされたとき、いつも加藤会長の言葉を思い出していました。“アマチュアだから面白いものができるんだぜ”……ほとんど負け惜しみみたいですが、今でも僕の心の拠り所です。『君の名は。』で、瀧と三葉が走りながら互いの名前を呼びあうシーンのあの“まるい外輪山”は『イース』のバギュ=バデットです」――新海誠さん
※バギュ=バデットとは、『イース』のエステリアに存在する外輪山で、その麓にはダームの塔がそびえたっている。

「加藤さんは素晴らしいゲームを作ることに専念されていましたし、私は彼がどれほど懸命に働いたかを知っています。ゲームをプレイしてくれる人たちを愛していたことも」――ヘンク・ブラウアー・ロジャースさん

 それぞれが仕事の中で加藤さんと過ごした日々を思い返しつつ、別れを惜しむ言葉、長年言うことができなかったことなどを弔辞として述べられました。

 社長・近藤季洋さんは挨拶で「時間をかけない、でも手は抜かない。ファルコムでは何をやってもいい、ただし、できないのはダメ。問題を増やすのはアイデアとは言えない、問題を解決するのが本当のアイデア――このようなお言葉を加藤会長からはいくつもいただきました。振り返ってみて一言でまとめると、きちんと考え続けなさい、ということだったのではないかな、と思っております」、「私たちにとってはかけがえのない存在であっただけに寂しさはつきませんが、ファルコムという場所を引き上げていただいたことに、1人のゲームユーザーとして、1人のクリエイターとして、ファルコムのメンバーの1人として、感謝しております。そして、この文化を大事にしたい、少しでも多くの未来へ引き継いでいきたい、とも考えております」と述べました。

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 日本のゲーム業界に大きな影響を与えた加藤正幸さん。その影響や教えは多くの人に継がれ、これからもゲーム業界に影響を与え続けるであろうことを感じさせられました。

多くのファンも献花に参加。Falcom jdk BANDによる、重厚でしめやかな生演奏も


 また、献花の際はFalcom jdk BANDによる生演奏も。『ザナドゥ』から『イース』、『軌跡』シリーズなどから計13曲が奏でられました。主にアコースティックバージョンとしてしめやかな楽曲が演奏されていましたが、一部楽曲はヴォーカルも添えられ、献花の式を演出していました。

 一般向けに開放されたあとは多くの同社のファンが訪れており、一人一人が氏を偲んでいる様子が見られました。

◆演奏曲
・LA VALSE POUR XANADU/ザナドゥ
・FEENA/イース
・FIRST STEP TOWARDS WARS/イース
・OPENING/ソーサリアン
・氷の洞窟(洞窟II)/ソーサリアン
・TO MAKE THE END OF BATTLE/イースII
・I'll remember you/英雄伝説 閃の軌跡II
・Josephine/ソーサリアン
・LILIA/イースII
・星の在り処/英雄伝説 空の軌跡FC
・女神の唄/英雄伝説 界の軌跡 -Farewell, O Zemuria-
・デュルゼルの手紙/英雄伝説III 白き魔女
・ルード城/英雄伝説III 白き魔女

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展示スペースには貴重な資料も展示。カセットテープやパソコンショップ時代のチラシも


 会場内にはPCエンジン時代のタイトル『ドラゴンスレイヤー』のパッケージなど、数多くの展示がされていました。ファルコムといえばこのタイトル! というファンの方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 展示物の中には、今となってはかなり貴重なものもあります。ファルコムのゲームメーカーとしての歴史の長さ、そして創業者である加藤正幸さんが残した功績の大きさが感じられます。

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▲電撃が携わった『イース大全集』や『日本ファルコム30周年公式記念本 Falcom Chronicle』も展示されていました。往年のファンとしては、子ども時代に読みまくったコミック版『ソーサリアン』も懐かしいですね。
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▲ずらりとならんだPCゲーム用のカセットテープ。若い方は物珍しそうに、ベテランの方は「これこれ!」と懐かしがっていました。
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▲ファルコム作品はこういった重厚なフィギュアもよく似合います。
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▲貴重すぎる原画の数々。こういったアナログの資料を生で見られるなんて!
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▲ファルコムショップオープン時の貴重なチラシ。デジタルなメールマガジンなどよりも前に、さまざまな冊子も展開されていました。
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▲昭和56年3月に作成された、日本ファルコムの設立趣意書。
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▲ファルコムといえば神曲ぞろいの音楽も有名。CDのほか、アナログレコードも展示されていました。
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▲加藤会長の私物であるApple IIeの実機も展示。なんと、まだちゃんと動くそうです!
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 創設者として、会長として、ファルコムというメーカーを導き続けた加藤さん。心より加藤正幸さんのご冥福をお祈りいたします。

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