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オタクが選ぶ三大糸使い。秋せつら、ブギーポップ、あと1人は? 糸使いには二重人格のキャラクターが多い説

文:米澤崇史

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 アニメ・漫画のキャラクターたちは様々な武器を使いますが、中にはフィクションだからこそ成り立つ、ロマンに溢れた武器ってありますよね。

 その中の代表例として思い浮かぶのが“糸”です。ある程度の漫画やアニメを通ってきた人なら、目に見えないほど細い糸やワイヤーを使って、切断や拘束などの攻撃を仕掛けてくるキャラクターを、何かしら目にした経験があるのではないかと思います。

 今回はそんな“糸”を使う印象的なキャラクターを、多少自分の趣味も交えつつ紹介していきたいと思います。

『魔界都市ブルース』秋せつら


 まず一人目が、1986年発売の菊地秀行先生の小説『魔界都市ブルース』の主人公・秋せつら。魔界医師メフィストと並ぶ魔界都市新宿を代表する人物の1人で、彼のファッションや言動、妖糸を真似た学生時代の黒歴史(?)を持つ方は多いのでは?

 普段は西新宿で小さな煎餅屋を営んでいる青年ですが、裏の稼業として“秋DSM(ディスカバー・マン)センター”という人捜し屋も並行しており、大地震によって悪鬼妖獣の棲家と化した新宿を舞台に様々な依頼をこなしています。

 そんなせつらの武器は、“妖糸(ようし)”と呼ばれる不可視なほどに細く、強固なチタン製の糸。射程はほぼ無限で、直接的に対象を切断するだけではなく、センサーのように張り巡らせて対象を探知したり、相手の体内に侵入して操ったり、糸を束ねて鎧のようにして身を守ったりと、とにかく用途の幅が広いのが特徴。

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 “妖糸”は戦闘面だけに留まらず、調査や潜入といったところも含めた、様々なシチュエーションで活躍しています。

 元祖というわけではないですが、“糸使い”という概念は広まったのはせつらの存在が大きく、平野耕太先生の漫画『HELLSING』のウォルターなど、キャラクター造形においてせつらから影響を受けたことを公言するクリエイターは少なくないです。

 キャラクターとしては、時に優しさを見せる場面もあれば、時に大人としてドライな判断を下す2面性に加えて、“僕”と“私”の二つの一人称を使い分ける二重人格者でもあります。とくに“私”の人格になると敵への一切の容赦がなくなり、凄まじい強さを発揮します。

 40年近く前の作品ではあるのですが、「一見トボけているけど実は無茶苦茶強く、時にはドライな判断を下して、敵には容赦しない」という、現在のオタク心にいろいろと刺さるカッコよさを持つ主人公だと思います。

『ブギーポップは笑わない』ブギーポップ


 ライトノベルに大きな影響を与えた上遠野浩平先生の小説『ブギーポップは笑わない』の主要キャラクターであるブギーポップも、代表的な糸使いの一人。2019年には二度目のTVアニメ化が実現したことも記憶に新しいです。

 ブギーポップは、世界の危機のような事態を察知した際に現れる宮下藤花の別人格と言える存在。ブギーポップの人格が表に出ている時は、筒の様な帽子とマントの衣装を着用して姿を変えていますが、見た目はあくまで帽子と衣服を着用しただけなので、藤花をよく知っている人物たちには結構正体を見抜かれています。

 ブギーポップが記憶の書き換えを行っているので藤花自身は自覚していませんが、衣装は常に藤花の鞄の中に入っていて、不思議な力で変身したりするのではなく、毎回自分で着替えているらしいのがちょっと面白いところ。

 作品のタイトルにはなっているのですが、『ブギーポップ』シリーズはエピソードごとに主人公が異なるオムニバス形式の作品なので、ブギーポップ自身は主人公ではなく、それぞれのエピソードに共通して登場する重要なキャラクターといった位置付けになっています(主人格である藤花の視点が描かれることもほとんどありません)。

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 概ね、物語の序盤~中盤にかけて少し登場して思わせぶりな言動を見せた後、クライマックスに再登場してあっという間に事件を解決する……という活躍が多く、物語に幕を下ろす舞台装置のような役割も担っています。

 『ブギーポップ』シリーズには、“統和機構”と呼ばれる組織の作った特殊な能力をもつ合成人間が多数登場するのですが、その合成人間たちほぼ太刀打ちできないほど、ブギーポップは作中で飛び抜けた強さをもっています。

 その強さの要因は、普段人間が発揮できていない潜在能力をブギーポップが引き出しているからなのですが、それだけで多くの合成人間たちを上回る実力を発揮できているのがすごいところ。

 武器として使うのは鋼鉄製の極細のワイヤーで、合成人間相手であろうと肉体を切り落とす強度があります(ただし硬い部位の切断には時間が掛かる様子)。切断以外にも足場に使ったり、相手の動きを拘束したりと、こちらもその使い方は多岐に渡ります。

 同じ“糸使い”同士というだけではなく、二重人格かつ作中で圧倒的な強さを持っている点など、せつらとは何かと共通点が多く、せつらの影響を大きく受けているキャラクターの一人ではないかと思われます。

『スーパーロボット大戦UX』オルフェス


 少し変わり種として挙げたい3人(?)目が、ニンテンドー3DS用ゲーム『スーパーロボット大戦UX』の主人機であるオルフェスです。

 傭兵部隊・アンノウン・エクストライカーズ(後のプレイヤー部隊)が所有する青い人型機動兵器で、元々は隊長であるリチャード・クルーガーの愛機として運用されていましたが、のちに主人公のアニエス・ベルジュが乗機を受け継ぐ形となります。

 そのオルフェスの最大の特徴ともいえるのが、ヒロインのサヤ・クルーガーが乗る支援戦闘機であるライラスとの合体攻撃“ヘル・ストリンガー”。

 この“ヘル・ストリンガー”の戦闘アニメーションは、ライラスから射出されたビームストリングを使い、拘束した敵を空中に釣り上げてからエネルギーを流し込んで爆破するという、『必殺仕事人』の三味線屋の勇次をオマージュしたようにも感じられるものになっています。

 相手を釣り上げた後に、糸を指で弾くような演出まで再現されていて、戦闘アニメを見る度に、脳内で『必殺仕事人』のテーマが再生されていたのは自分だけではないはず。


 なおオルフェスには、それ以外も『仕掛人 藤枝梅安』の針の首刺し、『暗闇仕留人』の村雨の大吉の心臓潰しなど、『必殺』シリーズをオマージュしたように感じられる武装で構成されていて、数ある『スパロボ』シリーズのオリジナルメカなの中でも強烈なインパクトを筆者に残した機体でした。

 パイロットのアーニーは、オルフェスに乗る前はちょっと線が細くて気が優しいタイプの主人公だったのですが、オルフェスに乗り換えた後は、リチャードへの憧れから、それまで「さん」付けで呼んでいたヒロインのサヤを呼び捨てするようになったり、クールかつワイルドな性格へと変わっています。

 アーニーの場合は二重人格というわけではないのですが、せつら・ブギーポップと共に、大きな言動の変化があるという点は、複数の“糸使い”キャラクターに共通する意外なポイントかもしれません。

『HELLSING』ウォルター、『閃の軌跡』シャロン、『甲賀忍法帖』夜叉丸、『幻影都市』美紅など、“糸使い”キャラはまだまだ存在


 と、3人(内1体はロボですが)をもう挙げてしまったのですが、当然のことながら、まだまだ糸を使って戦うキャラクター達はいます。

 せつらの項目でも名前を挙げた『HELLSING』のウォルターは、最強・お爺ちゃん・執事キャラといった属性も兼ね備えており、“糸使い=強キャラ”というイメージをさらに強固にした存在と言えるのかなと。

 ゲーム『英雄伝説 閃の軌跡』のシャロン・クルーガーは女性という違いはありますが、「重い過去を持っていて、鋼糸を使って戦う超強いメイド」と、ウォルターと通じる要素が多いです。糸は力よりも技量の高さが重要な武器なので、ウォルターやシャロンのような戦闘経験豊富なキャラクターの強さを表現するのにもピッタリの武器ですよね。

 遡ると、山田風太郎先生の『忍法帖』シリーズの1作『甲賀忍法帖』に登場する、伊賀・鍔隠れの里十人衆の夜叉丸が、女性の髪に獣油を染み込ませた武器である“黒縄”を使用しています。こちらは極細の糸というよりは、切断能力を持つ鞭のようなイメージなので、今まで紹介してきた“糸使い”達とは少し方向性は違っているものの、1950年代に書かれた作品であることを考えると、“糸使い”の原点は夜叉丸だという説も有力です・

 他にも、坂口いく先生の漫画『闇狩人』シリーズの外伝『闇狩人 -蛍-』では、釣り具と糸を用いて暗殺をする、一風変わった“糸使い”である工藤大介がいたり、マイクロキャビンから発売されたPC用ゲーム『幻影都市(イリュージョン・シティ)』では、ヒロインの美紅(メイファン)が“妖斬糸”と呼ばれる金属糸を武器として使用していたりと、“糸使い”たちは古今東西の様々な作品に登場しています。
 その歴史は古いですが、現在も“糸使い=カッコいい”というイメージは不動のままなので、今後作られる作品でもまだまだ魅力的なキャラクターたちが登場するはず。今度は、どんなインパクトのある“糸使い”が登場するのかもオタクとして一つの楽しみにしたいです。



米澤崇史:ロボットアニメとRPG、ギャルゲーを愛するゲームライター。幼少期の勇者シリーズとSDガンダムとの出会いをきっかけに、ロボットアニメにのめり込む。今もっとも欲しいものは、プラモデルとフィギュアを飾るための専用のスペース。

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