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【汝、暗君を愛せよ×幼女戦記×オルクセン王国史】作者が互いの著作を熱く語り合う鼎談レポ。3人が考える“名君”の条件とは?

文:米澤崇史

公開日時:

 DREノベルス『汝、暗君を愛せよ(以下、暗君)』の第2巻発売を記念して行われた、作者・本条謙太郎先生と、『幼女戦記』作者・カルロ・ゼン先生、『オルクセン王国史〜野蛮なオークの国は、如何にして平和なエルフの国を焼き払うに至ったか〜(以下、オルクセン王国史)』作者・樽見京一郎先生による鼎談取材会の模様をレポートしていきます。

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推薦文の話を聞いた時はたまらず「やめてください」と伝えた【汝、暗君を愛せよ×幼女戦記×オルクセン王国史 鼎談】

 鼎談はまず、『暗君』の推薦コメントをカルロ先生と樽見先生に依頼した経緯からスタートしました。

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▲カルロ・ゼン先生の『幼女戦記』表紙(画像左)と、樽見京一郎先生の『オルクセン王国史〜野蛮なオークの国は、如何にして平和なエルフの国を焼き払うに至ったか〜』の表紙(画像右)
 本条先生は「DREノベルスの編集者から『(推薦文を)カルロ・ゼン先生と樽見先生にお願いしようと思っている』と言われて、『恐れ多いのでやめてください』とお願いしたんですよ。実は自分はアニメや漫画にはあまり明るくないんですが、そんな自分でも知っていて、一読者として作品も楽しませてもらっていた大先生方だったので」と、当時の心境を告白。

 しかし、依頼を受けたお2人は、Web連載時代から『暗君』を愛読していたようで、周囲にアピールした結果だと明かすカルロ先生。

 一方の樽見先生も、すでに作品を読んでいたため依頼を快諾。その日の内に推薦文を書いて送り返したところ、事前に知っていたのではないかと編集者から怪しまれたというエピソードを披露し「それくらい惚れ込んでいました。話を聞いたときも、『私でお役に立てるようならぜひ』、という心境でした」と語っていました。

『汝、暗君を愛せよ』は、マルクス・アウレリウスの『自省録』をエンタメにしたような作品【汝、暗君を愛せよ×幼女戦記×オルクセン王国史 鼎談】

 続いて『暗君』の魅力について話していくことに。

 カルロ先生は「僕は、自分が作者ならどうするかってよく考えるんですが、自分ならやっぱり戦場での葛藤や戦闘などを入れてしまうと思うんですよね。それをあえて入れていないところに、美学を感じました」と前置きし、その上で『暗君』という作品を「マルクス・アウレリウスの『自省録』をエンタメにしたような、美しい苦悩の物語」と表現しました。

 続けて「人間としての前世、求められる役割との葛藤、そして異世界ものではあまり意識されない“価値観の違い”。このすべてを調和させながら、いわゆる“なろう小説”のテンプレートにおぼしきものにちゃんと擬態しているんですよ。これは本当に曲者だな、と思いました」と絶賛。

 本条先生としても、『暗君』は徹頭徹尾、個人の物語であり、個人の内面世界がどのように動いていくかが主題となっており、ストア派哲学的な思想がベースになっていると明かしつつ、カルロ先生の鋭い分析に舌を巻いていた様子でした。

 一方の樽見先生は、「私自身も小さい会社をやっているんですけど、会社や組織のトップってすごく孤独なんですよ。どれだけ周りに仲間がいたとしても、最後に決断を下す時は1人でやらなきゃいけない。その孤独感がすごく表れている。本条先生は経営者のご経験なり、組織のトップのご経験なりをお持ちの方なんじゃないかと思いました」と指摘します。

 それを受けて、実際のところどうなのかを尋ねられた本条先生は「秘密です」とかわしながらも、「樽見先生がおっしゃっていただいた部分に関しては、完全な実体験というところからご想像いただければ」とコメントし、自身の経験が執筆に存分に生かされていることを匂わせました。

グロワス十三世の内面以外の要素はすべて“添え物”だった【汝、暗君を愛せよ×幼女戦記×オルクセン王国史 鼎談】

 その後のテーマとして、国家の“内政”や軍の“戦略”にトークが及ぶと、本条先生から「『暗君』では、内政などの要素は全部“添え物”なんです。あくまでも主題は個人の内面世界で、それ以外の要素はボロが出ないようにそれっぽく形にすることだけを考えて頑張って作りました。なので、お2人の作品とは全然密度が違うなと実感しています」と、驚きの事実が語られました。

 するとカルロ先生も「実は、僕も戦略って書いたことがないんですよ」と告白。「基本的に僕が描きたいのは、“自分たちの専門領域しか考えたことがないような人が、自分は戦略を考えているんだと錯誤して好き勝手動くとああなるよ”ということなので。だから本当に戦略を考えられている人は作中で誰もいない。この中でちゃんと戦略を書いているのは、樽見先生だけだと思います(笑)」とコメントしました。

 これに対し樽見先生は、「『オルクセン王国史』も、メインのテーマになっている目的に対する動機や理由は最後まで開示されない形を取っているので、戦略をうまく書けたかと言われると、ちょっと怪しいですが……」と前置きをしつつ、「普段軍記ものを読まれていない方が読まれても大丈夫なように、なるべく詳細に書くようにしました。結果的に“くどすぎる”と言われることもあるんですけど(笑)、軍記モノとしての濃密さを感じていただけたのなら良かったと思います」と『オルクセン王国史』を書いた際に自分の中で決めていたことを話してくれました。

『幼女戦記』『オルクセン王国史』と通じる主人公たちの葛藤【汝、暗君を愛せよ×幼女戦記×オルクセン王国史 鼎談】

 それぞれの主人公たちと、組織や国との関係性へと話題が移っていきました。

 樽見先生は「近代というのは、個人の感情や抵抗では抗えない、1人の天才がいるだけでは勝てない時代になっている。国という恐ろしいものに王様でも飲み込まれちゃうものなんだ、っていうテーマは潜ませました」と語りました。

 本条先生は、「私が意識したのは、ひたすら矛盾させていくということです。人間って結局、合理的に何かを為そうとするけれども、感情では全然違うことをやっていたり、逆のことをやっていたりする。主人公(グロワス十三世)もそれを意識しながら矛盾したことをずっとやり続けていて、それこそがリアルなのではないかと考えました」と明かしつつ、個人の内面が国家や歴史といった要素でどうなっていくかは、続刊で描かれてくるとアピールしました。

 そしてカルロ先生は、「グロワス十三世もグスタフも組織のトップなんですが、ターニャの場合は中間管理職なので、いざとなったら辞められるんですよ。逃げることができる人のジレンマと葛藤って、最後の最後は自分で決断して組織に責任を負わなきゃいけない人のものとは別物だと思っています」と、『オルクセン王国史』や『暗君』とは主人公の立ち位置が大きく異なっていることを説明。その上で、「俺は悪くない」という思考に、読者が共感できるようにストーリーを構築していったことを明かしました。

 また、現在のライトノベルの流行である“異世界モノ”というジャンルにも話題が及ぶ中、実は本条先生と樽見先生は“異世界モノ”をほとんど読んだ経験がないまま作品の執筆を始めていたのだそう。その上で、“転生”したことの意味を持たせるという点が共通しており、作品作りに対するアプローチがかなり近かったことが判明します。

 両作に対してカルロ先生は、「お2人の作品は、読んでいてストレスフリーなんですよね。読者が『この世界はどういう世界なのか』で迷わなくていいというか。チュートリアルが極めて丁寧に作られている異世界にツアーガイドつきで見学に来たような感覚」と、丁寧に構築された世界観を絶賛していました。

 そんな互いの作品の魅力が語り合われる中、本条先生は『幼女戦記』の好きな要素として、“ターニャ”と“存在X”の関係性を挙げます。

「あの2人の関係には、聖書の色をかなり感じて読んでいて。最初は『ヨブ記』かなと思ったんですが、『士師記(ししき)』か? など色々と想像しました。存在Xは超越存在ですが、その行動は合理的で、彼らの世界も人間的な理性によって成り立っているという描写がすごく皮肉に満ちていて。あの超越的存在と個の関係性は現代だからこそ描けるもので、それが大好きなんです」と熱弁し、それを受けたカルロ先生が「怖い……」とタジタジになる一幕も。

 実際に『幼女戦記』の存在Xが聖書的なモチーフを参考にしているのかは鼎談の場では明言されなかったものの、カルロ先生はローマ・カトリックが現実と理屈を折り合わせるためのロジックを気に入っているとのこと。

 最後には、『暗君』の第3巻が2026年4月に発売予定となっていることも告知され、本条先生からは「3巻からは舞台も何もかもガラッと変わって、別のある種の歴史の世界のお話に変わっていくので、また一から読むみたいな感覚を持っていただけるんじゃないかと思います」とメッセージが送られました。

 そして樽見先生からは「『オルクセン王国史』については、3月にコミカライズ6巻が発売されます」、カルロ先生からは「『幼女戦記』のアニメ第2期の放送が今年予定されています」と、それぞれの作品のまつわる展開の告知も行われました。両作品のファンはお楽しみに。

魔法的な要素は、親の仇のように削除していた!?【汝、暗君を愛せよ×幼女戦記×オルクセン王国史 鼎談】

 鼎談終了後には、取材に集まったメディアとの質疑応答の時間が設けられ、本条先生、カルロ先生、樽見先生がそれぞれに回答しました。

――世界観を構築する上で、最初に固定した要素や、「ここは書かない」と決めたことはありますか?

本条
時々X(旧Twitter)でも書いているのですが、『暗君』って本当にノープロット・ノー設定で、即興で書き始めて最後まで書き切った作品なので、基本的にはその場その場の思い付きではあるんですよ。

 一番最初は、深夜2時にワイン飲みながらボーっと色々考えていて。「今自分がベランダから飛んで新しい王国に行ったらどうなるかな。いやでもお姫様欲しいな」って思って。それでお姫様の2人(ブラウネとメアリ)が決まって、この2人を生かしていくにはどうすればいいか、肉付けが始まっていったという流れでした。

 「書かない」と決めていたことに関しては“思想”です。私自身が昔、哲学の勉強をしていたことがあって、書き始めるとどんどん専門的になって止まらなくなるんですよ。読んでいても面白くないので、実は2巻や3巻の部分では、それを何十ページも削っています。

 あとはいわゆる“魔法”にあたる要素ですね。できるだけ“転生”以外の超常現象を物語に介入させたくなかったので、魔法や魔力に関する要素は親の仇のように憎んで消しました(笑)。

カルロ・ゼン
僕は、「大きな嘘を先に決めて、小さな嘘をつかないようにする」をモットーにしています。

 例えば『幼女戦記』なら、大きな嘘として“魔法”の存在があって、「現実世界に魔法なんてないだろう」と言われたらおっしゃる通りなんですが、そこに「俺の世界には魔法があるんだ、文句言うな!」って最初に決めてしまうんです。

 そこからは、もし本当に魔法があるなら、どういう社会構造になるかを逆算して、こういう風に活用されるだろう、こんなバカなことをするだろうなどと、いろんな建付けを作っていきます。その過程で“小さな嘘”……言い換えると矛盾になるんですが、そういう要素は極力なくしていきます。

 もちろん現実に魔法がない以上は完璧にはなりませんが、「どう考えても作者が設定忘れてるだろ」みたいな要素があったりすると、物語への没入感を大きく損なってしまうので。大きい嘘を決めたあと、小さい嘘を減らしていく、というのが自分のやり方ですね。

樽見
今、カルロ・ゼン先生がおっしゃられたことにも通じるんですけど、私も最初に決めたのは「大きな嘘はここまで」っていう範囲ですね。そこから、その嘘に説得力を持たせるために、それ以外をできるだけリアルにすることを考えました。

 『オルクセン王国史』の場合なら、大きな嘘というのはオークなりエルフなり、亜種族の存在自体が最大のファンタジーなので、科学技術であったり起こる出来事は、モデルになった時代に実在したり、やれることばかりにしています。その上で、「“転生チート”が通用するのは10年まで」と決めていました。それならモデルにした時代から大きくズレることはないだろうと。

 あともう一つが、私の作品は説明が多くて、文章がくどいとよく言われるんですけど(笑)、よく読んでいただくと一気に全部説明はしていないんです。例えば、Aという要因について説明するシーンなら、それが実際に現場に投入されたときにどう変わるかっていう説明はその先でやるようにしています。意外に思われるかもしれませんが、「どれだけ削ぐか」というところは意識して書いていますね。

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