ビジュアルアーツを代表するゲームブランドであるKeyから、フルプライス作品としては2020年6月26日に発売された『Summer Pockets REFLECTION BLUE』以来となる新作恋愛アドベンチャーゲーム『anemoi』が、4月24日に発売されました。
ここではKeyのファンであるライターのカワチによるレビューをお届けします。
ここではKeyのファンであるライターのカワチによるレビューをお届けします。

索引
閉じるKeyファンであれば絶対に見逃せない布陣【anemoi】
ひと足先に『anemoi』をクリアさせていただきましたが、とてもKeyらしい作品で素晴らしかったです。ファンの方々はすでに体験版をプレイしていて雰囲気を知っていると思いますし、田舎が舞台であることだけでなくファンタジー要素が織り交ぜられた内容であることは把握されていることでしょう。
ただ、まずは改めて基本情報から順に『anemoi』という作品を紹介していきます。
ストーリーの概要としては、主人公の速川麦と妹の六花が10年前に家族4人でふたたび訪れることを約束して埋めた“大事な物”を掘り起こすために旅をしているという設定。目的地の七竈町まであと少しのところで通行止めで阻まれてしまったところ、偶然通りがかった少女・辻倉朱比華に案内されて真澄町に訪れることになります。

体験版で判明することですが、『anemoi』の世界は宙の向こうから飛来した強力な宇宙災害によって、地球上のあらゆる電子機器と文明が一瞬で破壊され、都市部は壊滅的な被害を受けた過去があります。麦と六花はその影響で住んでいた土地を焼かれてしまいました。六花は災害のせいで学校に通ったことが無く、学校への憧れを持っています。

本編のストーリーは大災害から10年後の話。異常災害は未だ続いており、スマートフォンやパソコンなどの電子機器は物語のなかに登場しません。公式サイトなどでは“北の田舎で美少女たちとスローライフ生活”という説明になっている『anemoi』ですが、じつはその裏には独自の世界観設定があり、ここが重要になってきます。

物語の中には“超能力”や“魔物”といったものも登場。ヒロインのルートのなかにはこういったファンタジー要素がメインになるものもあります。
ファンタジー要素があるのはKey作品ではおなじみなので、筆者はとくに違和感なくプレイできました。ファンタジー要素があるといっても、田舎でのスローライフに重点が置かれていることに偽りはなく、北の田舎で素敵なキャラクターたちと過ごす日々を追っていく展開は素晴らしかったです。


シナリオ統括は『AIR』のシナリオアシスタントからはじまり、『CLANNAD』の藤林杏・椋シナリオ、『Summer Pockets』ではディレクターおよび、空門蒼シナリオを手がけた魁さんが担当。本作『anemoi』をプレイしていて共通ルートから個別ルートに至るまで随所から“Keyらしさ”を感じますが、初期からKeyに関わってきた魁さんがシナリオ統括としてしっかりコントロールしているからではないのかと考えました。

メインシナリオは魁さんのほか、フリーのシナリオライターでKeyの『Summer Pockets』に参加しており、『はつゆきさくら』『アインシュタインより愛を込めて』などでもシナリオを手がけた新島 夕さん、新島さんと同じく『Summer Pockets』に加えて、『D.C.4 ~ダ・カーポ4~』や『D.C.5 ~ダ・カーポ5~』などでの実績もあるハサマさん、そして、ビジュアルアーツ所属で『終のステラ』の企画・ディレクターをしていたことも記憶に新しい佐雪 隼さんが担当。
いわゆる“泣きゲー”を得意とするメンバーが揃っており、効果的なサウンドや演出も合わさって、クライマックスのシーンなどはとくに感動します。
また、Keyといえば“泣き”だけではなく“ギャグ”も重要だと思っていますが、今回もエッジの利いたギャグが満載で日常シーンを飽きることなくプレイできました。詳しくは後述しますが、本作は共通パートが長い仕様になっていますが、個性的なキャラクターとのやり取りが楽しく、ずっとこの街に留まり続けたくなるような魅力があります。

原画に関してはKeyファンにはお馴染みであるNa-Gaさん、ふむゆんさん、永山ゆうのんさんに加え、『きまぐれテンプテーション』や『アインシュタインより愛を込めて』の原画を務めていたきみしま青さんも参加されています。
どのキャラクターも愛すべきキャラクターたちばかりですが、原画担当のみなさんのデザインによって、さらに魅力的なキャラクターに仕上がっていると感じました。メインキャラクターとのロマンスが重要なジャンルの作品ではありますが、サブキャラクターたちを魅力的に描けることはアドベンチャーゲームにとってとても大事なことですし、そのサブキャラクターの魅力こそKeyらしさなのかなと考えます。
もちろん、デザインだけでなく演じている声優陣の芝居も素晴らしく、彼らと織り成す日常の日々が楽しいです。

音楽はプロデュースを折戸伸治さんが担当。折戸さんは主題歌の『エタニクル』の作曲も手がけており、同曲の作詞は魁さん、歌唱はASCAさんが担当しています。エンディングは大橋柊平さんが作曲を担当。作詞は新島 夕さんで歌唱を担当するのはfhanaさんです。どちらも素晴らしい曲なので必聴です。
またKeyの作品は主題歌だけでなくBGMも素晴らしいものばかりなのが特徴。今回は田舎を題材にした作品ということで、ケルト音楽のような牧歌的でのどかな曲も多く、プレイの妨げにならない感じでありながら、どれもしっかり耳に残るメロディになっています。
アドベンチャーゲームをプレイするときに音声が聞き取りやすいようBGMを下げる人もいるかもしれませんが、本作ではぜひBGMも合わせて物語を楽しんでみてもらいたいですね。

サブキャラクターたちとの交流を描く共通パートが素晴らしい!【anemoi】
ストーリーのプロローグは前述の通り、主人公の速川麦と妹の六花が朱比華(=スピカ)に真澄町を案内されるというもの。しばらく真澄町に滞在することになった兄妹は真澄町観光支援課で紹介された移住プログラムに参加。住居と食事の援助を受けながら就業体験を受けるという展開になります。
共通ルートは約2週間となっており、毎日、町の人が掲示板に貼る依頼から、好きなものを自由に選ぶことができます。頼まれごとはよくゲームなどにある酒場のクエストのような雰囲気で、キャラクターたちの個性が出ていて面白いです。場所ではなく依頼を選んで進めていくのがノベルアドベンチャーとして新鮮でしたね。

厳密には分かりませんが、進みたいメインヒロインのものを多く選ぶことで、共通ルートが終わるタイミングで対象のヒロインのルートに進める形だと思われます。とくに難しかったり引っかけがあることもなく、すんなりルートに入ることができました。攻略は難しくないと思います。

メインヒロインは町はずれのトレーラーハウスで生活している辻倉朱比華、町はずれで風車の修理をしている少女の総羽愛乃、奇麗なものを探すことを生きがいにしていて、それを地図に書き込み続けている淡雪陽彩、郵便屋さんを営んでいるひたむきな少女の白渡小詠、主人公の妹である速川六花の5人になっています。
それぞれがとてもいいキャラクターなのですが、個人的にいちばんぶっ刺さったのが妹の六花です。





じつは、Key作品の攻略ヒロイン枠に主人公の妹キャラがいるのは本作がはじめてなんですよね。六花はとにかく兄のことが大好きで、彼のことであれば全肯定してしまうタイプのキャラクター。ボケるような選択肢を選んでもすべて受け入れられて、すかされてしまいます(笑)。
兄のことが大好きですが、兄がほかの女の子と付き合うことは問題なく、後押ししてくれるタイプ。ただ、兄には幸せになって欲しいので“兄嫁検定ノート”を片手に女性を見定めています(笑)。
筆者がKey作品に主人公の妹キャラが攻略ヒロインとしていないことに気付いたのは『anemoi』の情報を集めていて偶然「そういえば……」と思った感じなのですが、Keyが実妹キャラのヒロインを作ったらこんなに破壊力のある人物が生まれるのかと驚きました。大好き。

ほかにも口は悪いものの本当は優しい女の子であるスピカや、IQが8那由他あると公言している天才であるものの、エキセントリックな言動や行動でこちらを驚かせる陽彩なども筆者的にすごく好きなキャラクターで、これまでのKey作品の魅力的なヒロインたちと比べても遜色なく愛すべき存在になっています。
それぞれの個別ルートは独立して完結したストーリーになっていますが、全体にかかる大きな謎が各ルートで少しずつ判明していく作りも見事。ヒロインとの交流はもちろん、ストーリー全体のバックボーンについても知りたくなるので、プレイを進めていくのが楽しいです。

また、本作で見逃せないのがサブキャラクターたちとの交流。最初こそ、町の人々との触れ合いが続くことに戸惑いがあったのは事実です。ヒロインの固有ルートのようにひとつのテーマがあるわけではなく日常イベントが続くので楽しみ方が分からない……と言いましょうか。
でも遊んでいくうちに、毎日のようにサブキャラクターたちと交流することでそれぞれの人物がどのような考えを持っているのか分かるようになりますし、彼らと真澄町で過ごす日々が楽しくなります。そんな各キャラクターへの感情移入があるからこそ、ヒロインたちのルートに入ったときの彼らの優しい言葉や行動に説得力が生まれて、より感動的な展開を生みます。

図書館で働いているものの頭が悪い華押つづらや、お茶目な性格をした役場のお姉さんである尾道文弥もいいキャラクターですが、個人的に注目して欲しいのは男性キャラクター!
Keyの作品は愛すべき男キャラクターが多いですが、本作も怪しさ満点のバーテンダーである小森健や愛用のバイクで速さを追い求めている河瀬千春など、とてもいいキャラクターたちです。とくに河瀬千春は愛すべきバカといった感じで好きになること間違いなしです。

キャラクターたちと交流するパートは“風車に鳥が巣を作ってしまったので助けて欲しい”といったものや“子供の合唱団を手伝いに来て欲しい”といったものなどさまざま。頼みごとのテキストもキャラクターの手書き風になっていてそれぞれの個性が出ています。
なかには「なんのこっちゃ?」と思ってしまうようなものもあるので、選んでみるのが楽しい! 数も膨大なので周回プレイのときに別のものを選んでみたくなります。

また、本作のやり込み要素的なものとして、“レコード”というものが存在します。これはトロフィーや実績のようなもので、ぜんぶで183個も用意されています。特定のヒロインのルートをクリアしたときにゲットできる分かりやすいものもあれば、特定のルートの特定の選択肢を選ぶことでゲットできるものなどもあります。このレコードのおかげでゲームを進めるのが楽しくなります。



ヒロインとの絆を描く個別ルートも凄まじい完成度【anemoi】
個別ルートに入ってからの展開はぜひプレイして楽しんでもらいたいですが、雰囲気などを知ってもらうためにスピカルートを紹介しましょう。以下はネタバレがあるのでご注意ください。

スピカについて、体験版部分にもあった共通ルートでこの世界に生息している魔物を討伐する“風の一族”であることが明かされますが、個別ルートに入ると、この魔物の正体がどんな存在であるのかが明かされていきます。主人公自身は集中力を高めると周囲がスローモーションになる“極限感覚(トリガー)”という能力を持っており、この能力を駆使してスピカをサポートすることになります。

また、スピカは麦畑の世話が仕事で、そこで収穫された麦を使って作るピザが絶品。スピカルートでは彼女のピザを使って真澄町の本格的な町おこしをすることになります。
お店を開いたり、町の人々がいろいろな具材を持ち寄ってどのピザが美味しいのか大会を開いたりとさまざまなイベントが発生。前述の通り、共通ルートでどのキャラクターがどんな性格かしっかり描かれるので物語も盛り上がります。



そして、スピカルートのいちばんのよさは彼女が主人公やほかのキャラクターに心を開いていく様子ですね。もともと、スピカは町はずれのトレーラーハウスで暮らしており、獣医である花山広美以外とはあまり交流していませんでしたが、このルートでは町でピザの販売を行うだけに、いろいろなキャラクターと絡んでいくことになります。あまり人付き合いが得意ではないスピカが町の人々と仲良くなって溶け込んでいく姿にホッコリします。
スピカ以外にも“風の一族”が町のなかにいるのではないか? と捜して回る展開もおもしろいです。個人的にいちばん好きだったのがスピカが自分が風の一族だと名乗ることを恥ずかしがるシーン。確かに中2病っぽいのですが、「そこを恥ずかしがるんだ!?」とめちゃくちゃ笑ってしまいました。

個別ルートに入ってからはラブコメ的な要素も多いです。共通ルートでのそっけない態度を取るスピカもそれはそれでかわいいのですが、個別ルートで素直になったスピカも最高です。ツンデレという言葉を使うと軽くなってしまいますが、ギャップがめちゃくちゃかわいい! 個別ルートはラブコメ要素も一気に高くなるので必見です。


もちろんイチャイチャ展開だけでなくクライマックスに向かうにつれてKey作品らしいドラマチックな展開になっていきます。今回も“泣きゲー”のKeyにふさわしい号泣必至の展開が待っていますので、ぜひ涙を拭くティッシュを用意して臨んでください!

今回はスピカのルートをピックアップしましたが、ほかのヒロインもどれも素晴らしいシナリオになっているのでぜひみなさん自身でプレイしてみていただきたいと思っています。Keyの約6年ぶりのフルプライス作品、大満足でございました!