第32回電撃小説大賞《金賞》受賞作『歌姫を殺したい』の作者・来述 延先生のインタビューをお届けします。

『歌姫を殺したい』は、同い年で人気の歌姫・ニーナを妬み鬱屈する日々を送っていた陰キャな少年・間原葵と、ニーナであることを隠して学校に通う内気な少女・蜷川真衣の恋と挑戦と葛藤を描いた青春ラブコメ。電撃文庫から7月10日に発売されます。
今回はその作者である来述 延先生にインタビュー。受賞に関連した驚きのとある裏事情から、書籍化にあたって全改稿が行われたという経緯まで、様々なエピソードが飛び出しました。
索引
閉じる――電撃小説大賞《金賞》を受賞された時の心境はいかがでしたか?
そのあたりは紆余曲折ありまして……実は、受賞を辞退しようかと考えていた時期があったんです。
――!? ど、どういうことでしょうか?
結果的に金賞を受賞させてはいただいたのですが、自分としてはその時に送った原稿に「もっと面白いものにできたはず」と満足いってなかったんです。
それに加えて、まだ作家デビューするには実力が足りないのではという不安や、「この作品で作家デビューして本当にやっていけるのか?」と思い悩んだ時期もあり……。ですが、今は辞退を止めていただいて良かったと思っています。
――デビューを決断したのには、何かきっかけがあったのでしょうか。
書籍化までの間に、担当編集さんにたくさん改稿に付き合っていただけて、今の自分が出せる最高値に近いところにまでは持って来られたんじゃないか、という実感を得られたのが大きいですね。
本当に心から喜べたのは、改稿版が完成した時が初めてだったと思います。校了の1週間くらい前のタイミングだったと思いますが、それまではまったく喜ぶ余裕はなかったです。
――『歌姫を殺したい』のコンセプトを教えてください。
一言でまとめるなら「何者かになりたい」という人間の承認欲求みたいなものが根幹のテーマになっています。
僕は以前カラオケ店で働いていたのですが、部屋の清掃中に画面で流れている映像が目に入り、Adoさんをはじめとした若い世代のアーティストの方々がすごく成功しているのを見て、「最近の若者はすげぇな」って純粋に感心したんです。
ただ同時に、音楽をやっている人が彼女たちの姿を見たら、ものすごくダメージを受けるだろうなとも思ったんですね。それが出発点に近いです。
――なるほど。言い方は悪いかもしれませんが、成功者に対するある種の嫉妬というか。
はい。だけどそういう感情って、共感する人も結構いると思ったんです。元々、その時に青春っぽい作品を書きたいという想いもあったので、広く受け取られやすい「何者かになりたい」という感情を軸にした学園モノを書いてみようと。
――テーマ的な部分が決まったあとは、どんな流れで作品を構築していったのでしょうか。
先に世界観や物語の流れを決めてからキャラクターを作っていく、という流れでした。
このテーマなら舞台は現代だよなっていうのはすぐに決まり、その後でヒロインは主人公とは違う輝かしい才能を持っているけど、人間性としては近いところにいる、みたいなことを考えながら作っていましたね。
――小説を書かれる時は、いつもそういった流れが多いのでしょうか?
そうですね。僕は自分が書きたいものを書くというよりは、先に物語を決めて、そこにハマる最適解に近いものを探し出していくタイプなので。
ただ、やり方としては「こうなったら面白いかも」みたいに思いついたシーンをどんどん頭から書き出していき、その流れの中でキャラクターも一緒に決めていくので、完全に物語が先というわけではなくて、同時並行している部分もあります。
型を知っていないと、“型破り”は書けない【歌姫を殺したい】
――『歌姫を殺したい』は、電撃小説大賞のためだけに書いた作品なのでしょうか?
いえ、実は別のレーベルの新人賞に一度送って、そこで落選したものを改稿してから電撃に送った作品でした。
複数の賞に応募するのはこの界隈だとそんなに珍しいことではないのですが、自分はほとんどやったことがなくて。今回は個人的に気に入っていた作品だったのもあって、改稿してもう一度送ってみようと。
そういう意味では、あんまり電撃文庫っぽい作品ではないかもしれないですね。
――Webでの掲載もされていないんですね。最近では珍しいように思います。
そうですね。そもそも、実は僕自身はそんなにWebで活動してないんです。
Web小説にはWeb小説独自の文脈がありますが、僕が触れてきた作品はその系統ではなかったので……絶賛、はぐれております(笑)。
――物語の構成も、終盤から一気に面白くなってくるタイプで、Web系の作品に多い、最初の掴みを重視している系統の作品とは少し違っているなと感じました。
確かに流行っているのは序盤に大きな盛り上がりがある作品で、『歌姫を殺したい』はライトノベルとしては結構クラシカルなタイプだと思います。
ただ、流行りのタイプの作品を書きたくないわけではなく、自分の中で、そのタイプの物語の面白さをうまく有効活用する方法を見つけきれていないだけなのかなと。
「小説とはこうあるべき」みたいな強いこだわりを持たれている作家さんもたくさんおられると思うのですが、自分はむしろ真逆で、「面白ければいいじゃん」という、こだわりがあまりないタイプなんです。
『歌姫を殺したい』をちょっとクラシカルな構成にしたのも、序盤はラブコメテイストを強めにしておいた方が、後半の展開との落差でコントラストを作れるだろうと判断したためで、今回のような構成にこだわりがあるわけではないです。
――ジャンルについてはどのように決められたのでしょうか?
そもそもとして、この作品はラブコメっぽくありつつ、創作モノっぽくもあるので、一括りに何のジャンルに属しているのか、自分でもまとめづらいところがあります。
一応は、青春モノがそれっぽいと思ってはいるのですが、面白くしたいと思って突き詰めた結果、ラブコメ成分が結構前に出た形になりましたね。 「ラブコメを書こう!」というよりは、気づいたらそうなっていたというか。
――普段はどのようなジャンルの小説をよく書かれているのでしょうか?
ちょっと前に書いたのは、ライトノベルが有害図書指定された世界で、ライトノベルを摂取しないと禁断症状が出る主人公のギャグ要素強めのアクションバトルなんですけど、その前はミステリー、さらにその前は青春モノとか。
さっきも少しお話しましたが、自分って作家としてのこだわりが薄いタイプなので、特定のジャンルを書き続けるのではなく、その時に自分が面白いと思うジャンルの作品を都度書くことが多いです。自分には何が合っているんだろう、というのを探っている最中なのもありますが。
――ただ、お話を聞くと現代を舞台にした作品が多そうだなと。
言われてみると、ファンタジーってあまり書いてないかもしれないですね。
最近のファンタジーって、フォーマット的なものが完成されていて、あまり触れずにここまで来た自分みたいな人間が書いても、ちょっと変なものになってしまうんですよね。
逆にその特異性を生かす手もありますが、結局“型破り”な作品って、そもそもの“型”を知っていないとダメなんですよ。それがない状態でやっても、型破りにはならない。自分の中でその研究が全然追いついてないので、今の自分が書くジャンルではないのかな、という意識はあります。

主人公・間原は、最初はちょっとイヤな奴だった?【歌姫を殺したい】
――『歌姫を殺したい』というタイトルはなかなかに尖ったものだと思うのですが、どのように決まったのでしょうか?
詳しくは覚えていないのですが、一番最初に思いついたのがこのタイトルで、他に候補もなかったですね。初期段階だと主人公の間原がもっと荒々しい性格で、創作に対する殺意みたいなのを最初から強く持っていたキャラだったので、それに合わせてつけたタイトルでした。
書籍化にあたって、ラブコメ成分を強めると決まった時には変更の話も出たのですが、やっぱり作品の根幹で、他のラブコメと違う個性の部分でもあるので、そのままにしようという話で落ち着きました。
――主人公の間原と、ヒロインの蜷川のキャラクターはどのように固まっていったのでしょうか?
どちらも書籍化の段階で結構変わっていますね。当初はラブコメよりも“青春×創作物”みたいなテイストが強く、とくに間原はより暗くて棘のある、ちょっと現実的にイヤな奴みたいな要素も持っているキャラクターでした。
――なるほど。そのキャラクターも面白そうですが、読者の視点にもなることを考えると、感情移入できるようなバランスみたいなのを取る必要がありますよね。
そうですね。ストーリー全体をライトノベル的・ラブコメ的に改稿する中で、それに合わせて言葉の強さを抑えたり、読者にとって地続きの存在として好いてもらえるようなキャラクターへと調整していったような形です。
――キャラの外見面などで、イラストを担当された熊野だう先生にオーダーはされたのでしょうか?
自分はデザインのプロではないので、参考画像みたいなものは渡しつつ、基本的には先生にお任せしました。主人公の間原だけは、顔の印象がイメージと少し違う部分があったため調整をお願いしましたが、他のキャラクターは全員文句なしの一発OKでしたね。
ただ、蜷川に関しては、どういうイメージなのかって聞かれた時に、自分でもあまりイメージできなくて。めちゃくちゃ悩みました。

――確かに、“陰キャ”なわけですから、派手な髪色とかにはできないですよね。
そうなんです。その上でヒロインらしい可愛さも必要なので……最終的に迷った挙句、「こういうイメージです」って曲を送ったんですよ。「こういう曲を歌っている人の外見」みたいな感じで。
――なるほど……確かになんとなく分かるような気がしますが、きっと珍しいイメージの伝え方ですよね。
こういうところが自分の悪いところで、本質はめちゃくちゃ感覚派なんです。
まず感覚が先にあり、そこに理屈を無理矢理後付けしているようなタイプなので、感覚をうまく言語化できないことが時々あるんです。蜷川の場合もまさにそれで、どういうオーダーを伝えるのがいいのかで、編集さんとかなり意見で殴り合いました(笑)。
最終的には、無印良品を歩いている時にふと思いついた、メンタルヘルス的なイメージでのハートマークをモチーフに取り入れてもらいました。
――間原と蜷川はいわゆる“陰キャ”だと思いますが、どちらの方が陰キャ度が高いですか?
タイプは違うんですが、総合的にダメなのは蜷川の方だと思います。 間原は対人での最初の壁が厚いだけで、そこさえ越えれば気安く話せるタイプ。
一方で蜷川は、社交的になろうという心はあるものの、距離感がまったく掴めてなくて、一度標的を定めたらずっと追いかけ回すタイプです(笑)。
――確かに。ちょっと言い方は悪いかもしれませんが、メンヘラ的な気質があるというか……。
本編中にはあまりそういう描写はないと思うんですが、実際僕の中ではそういうイメージはあります。めちゃくちゃ可愛いし、遠くから見ている分にはいいけど、絶対に自分の近くにはいてほしくないし、付き合いたくはないタイプですよね。
朝読書のために『とある魔術の禁書目録』を購入したのが小説にハマるきっかけに 【歌姫を殺したい】
――作中では音楽活動が重要な要素になっていますが、ご自身も音楽活動の経験があるのでしょうか?
ほぼゼロに近いです。音楽を聴くのは好きだったので、大学のサークルでちょっとコピーバンドを組んで遊んだりしたことはあるのですが、作曲などには触れずじまいでした。
ただ、父親が趣味でバンドをやっていたので、音楽自体は身近にありました。小学3年生の時、父から「弾いてみろ」とアコースティックギターを渡されたことがあったのですが、音が出たところで満足してしまって……。結局、その後一回も触れませんでした。
――英才教育に失敗したと(笑)。
僕自身、音楽は好きでしたし、それを学ぶための環境もあったにも関わらず、まったくやらなくて。思い返すと、本当に悲しくなるくらい、これまで小説しかやってきていないですね。
――では、小説を書き始めたきっかけは何だったのでしょうか?
それが、全く覚えていないんですよ。小学校4、5年生の頃から、ノートに思いついた物語を書き残したりはしていましたが、実は中学に入るまで小説を読んだことがなく、『かいけつゾロリ』と『名探偵コナン』くらいしか知らない子供だったんです。
――小説を読まれるようになったきっかけはありますか?
中学の朝読書が始まって、読む本を探して本屋へ行って、『とある魔術の禁書目録』を手にとったのがきっかけです。
お店の奥まった本棚で、紫色の背表紙とタイトルに惹かれて手にとり、表紙のインデックスのイラストを見て、これは面白そうだと。ライトノベルというジャンルを知ったのもその時が最初で、それから少し経って、高校生になった頃くらいから公募に作品を送るようになりました。
――結構早い段階から本格的に取り組まれているんですね。
そうですね、かれこれ10年以上は書いていると思います。
書き始めた理由は、本当になんか創作って楽しそうだなって思ったことくらいしか覚えてないんですが、当時から、どうせやるなら本気でやらないとダメだと思っていたような記憶はあります。
あと、もう小学生くらいの段階から「自分は社会じゃやっていけない」という自覚があったので、それならなんとか別の道を模索していかないといけない……と思っていたのもあります(笑)。
――小説を長く書き続けるには何かモチベーションが必要だと思うのですが、それは何だったのでしょうか?
最初の方は、とにかく西尾維新先生が好きで、作風もめちゃくちゃ真似をしていたんです。既存の枠組みに合わせて書くのが得意なタイプなんですけど、今思い返すと、西尾先生の劣化コピーみたいなものにしかなっていなかったんですね。
でも、自分の憧れる面白いものを追い続ける過程は結構楽しかったのも確かで、そこはモチベーションになっていたんじゃないかと思います。
まぁ、公募に送っても全然ダメだったんですけど(笑)。自分が面白いと感じたものを再演しているわけですから、結果がでなかったとしても創作自体が楽しかったんですよね。

――本作は天才と凡人の対比がテーマになっているという印象を受けました。 先生ご自身は、そういった才能の差を感じた瞬間や経験はありますか?
創作の話をするなら、「自分以外の人は全員すごい」と思っています。
というのも、「この人はキャラを描くのが上手い」「この人はバトル描写が上手い」「この人はギャグのセンスがいい」とか、人によって得意な分野が違うじゃないですか。
その度に自分との才能の差みたいなのは感じつつ、それを埋めるために少しでも自分の中に取り入れられるように意識しています。
ただ、その一方で「俺の作品が一番面白いな」みたいな意識も少なからずあるんですけどね(笑)。
――でも、それはクリエイターにとってきっと大事なことですよね。
創作以外で言うと、高校の頃からずっと尊敬している先輩がいるのですが、面白くて、コミュニケーション力もめちゃくちゃ高くて、人間としての魅力みたいなのがすごくある人なんですね。卒業して引っ越した時、久しぶりに連絡があったかと思ったら、開口一番「恋してる?」とか聞いてきて。
よく話を聞くと、大阪でホストになったらしくて、女の子の気持ちが分かるようになったから何でも聞いてくれと。でもそれで返ってくるのが「大事なのは、女の子はみんなお姫様だってこと」っていうめっちゃ浅い言葉なんですよ。
――確かに、特にホストの経験がない素人でも言えそうな……(笑)。
しかもまったく売れていないらしくて、「金がないから貸してくれ」と(笑)。いろいろめちゃくちゃなんですけど、いきなりホストになる行動力も含めて、「この人には敵わないな」と強く感じています。
自分は人生経験が浅くて、小説を書くことしかやってこなかったタイプだったので、そういう人間としての魅力の差みたいなのを痛感させられるのが一番効くかもしれません。嫉妬というよりは憧れに近い感情ですが。
小説の執筆はメンタルスポーツの一種【歌姫を殺したい】
――間原のように、ネガティブな感情を抱えながら創作することについて、先生はどんなお考えをもっていますか?
良い面もあれば悪い面もある……というところだと思います。 ネガティブな感情が熱量やモチベーションになるタイプもいれば、いろんなところで怨嗟を吐くだけの存在になってしまったり、自分の首を絞めてしまったりするタイプもいます。
なので、良いことばかりではないんですけど、誰かに嫉妬するようなネガティブな感情がないと“超越”がないんですよ。 現状を否定する気持ちや、本作で書いた“殺意”みたいなものがないと、突き抜けた何かには多分ならないんじゃないかと思ってます。
だからネガティブな感情はあった方がいいけれど、それをちゃんと飼い慣らすだけの精神力が必要なのかなと。そういう意味では、創作って本当に精神力だなとずっと思っていますね。とにかく重要なのは、才能よりも自分のメンタルを制御できるかで、完全にメンタルスポーツの一種なんですよ。
――確かに、自分との戦いという意味ではアスリートに近いと言えるのかもしれないですね。
個人的にも、かなりアスリートに近いと思っています。日々の練習もそうですし、戦いの中でめげない、しょげない、やるせない。 投げ出さないこと、負けないこと、信じること。それが一番大事です。
――執筆の際、プロットから応募段階にかけて大きく変わった部分などはあったのでしょうか?
プロットから応募段階にかけては特に変わっていないですね。僕はプロットをほとんど下書きまで行くような状態でガチガチに組むタイプなのもあって、あとはキャラや展開の微調整くらいでした。
――その一方で、書籍化にあたっては、かなり手直しをされたというお話もありました。
書籍化にあたっては、ほぼ全部変わった、と言っても過言じゃないと思います。というのも、受賞した後に2回ほど全改稿していまして。
今までにも話しましたが、一番大きいところで言うと、元々はリアル寄りで痛々しい部分が前に出すぎていたのを少し柔らかくして、ラブコメ的なエッセンスをいっぱい増やした点ですね。
――逆に変わっていないところはどこでしょうか?
物語のテーマやコンセプトの部分です。それ以外の、自分の中でも詰め切れていないと思っていた要素を、担当編集さんと色々話し合いながらブラッシュアップさせました。個人的には、結構“ソフィスティケート”できたんじゃないかなと。かっこいいから一度言ってみたかったんですけど(笑)、実際前よりも面白くなったと思います。
――結果、最初にお話しされていた「辞退するかも」という考えが変化するところに繋がってくるわけですね。
そうですね。結果としていい形にまで持っていけたのと、「今の自分の地力で出せるのはここまで」という限界が見えたので。
書くのが大変すぎて、ここ1ヶ月くらい本当に廃人同然で死んだように生きていたんですけど……今は『LoL(リーグ・オブ・レジェンド)』と、『Backpack Hero』というハクスラゲーのことしか考えてないです。
思い出のゲームとヒロインは『ときメモ4』の大倉都子【歌姫を殺したい】
――『LoL』の話が出ましたが、ゲームは結構お好きなんでしょうか?
めちゃくちゃやり込むというほどではないですが、小説の合間の息抜きとしてほどほどに遊びます。
――ゲームでの経験が、創作に影響した部分などはありますか?
基本的にはそこは切り離していて、あんまり影響はしていないと思っています。完全に趣味として遊んでいるだけなので。
――例えば、本作はラブコメですが、ギャルゲーを遊ばれたことはあるのかなと。
ああ、なるほど。そういう意味だと確かにギャルゲーは結構好きですね。『ときめきメモリアル』シリーズとかは、ナンバリングは『3』以外は一通り遊んでいると思います。
――『ときメモ』だと、好きなヒロインはいますか?
個人的に、PSPの『4』への思い入れが強いのですが、あの中に大倉都子っていう幼馴染の女の子がいるんですよね。
――自分も『4』はプレイしていました。都子は従来のシリーズの親友キャラのポジションの役割なんですよね。
そう、本来は攻略対象ではないので、最初はデートに誘っても「そんな関係じゃないでしょ」って断られるんですけど、しつこく何度も誘うと、渋々付き合ってくれるようになるんですよ。ただ、そこからさらに攻略していくと、どんどんヤンデレ化していって……。
――あれはちょっとしたホラーでしたね。
深夜の2時くらいに遊んでいたので、あの展開には普通に「怖っ!」ってなりました(笑)。
でも、それと同時にすごくドキドキしたんですよ。今まであまり自覚してなかったんですが、今振り返ると、メンヘラっぽい女の子が好きなんでしょうね。
――確かに。ヤンデレ要素がありそうというところでは、本作の蜷川とも通じるところがあるなと感じました。
ただあれは、吊り橋効果みたいなもので好きになっただけなのか、本当の恋だったのか、自分の中でもまだよく分かってないですね。
一応本来の傾向としては、『2』の赤井ほむらみたいな、元気で活発な女の子の方が好きなはずなんですよ。何故かメンヘラっぽい娘も好きになっちゃうんですけど。
――先ほど、影響を受けた作家として、西尾維新先生のお名前が挙がりましたが、具体的にどういったところに影響を受けたのでしょうか?
結構複合的ですね。まず西尾先生ご自身が人間としてすごく面白そうな方じゃないですか。加えて、僕はギャグが好きなので『化物語』シリーズとか、ギャグのセンスがすごいですよね。
あとは『戯言シリーズ』が本当に好きで……一時期は主人公の“いーちゃん”の夢女子になるくらい「いーちゃんかっこいい!」って言ってました。あのクールでニヒルな感じの男の子っていうキャラクター性にとにかく惹かれました。西尾先生以外には、入間人間先生の作品にもめちゃくちゃハマりました。
――なるほど。一見普通そうにも見えるけど、どこかで闇を抱えている……みたいなタイプの主人公が刺さるんですね。
そうですね。ゼロ年代にあった、ああいうジュブナイルっぽい世界観にはめちゃくちゃ憧れていましたし、超かっこいいと思ってました。いーちゃんが「戯言だけどね」って言うたびに黄色い歓声をあげちゃうくらい。
でも、考えれば考えるほど、自分はああじゃないなって分かり始めるんですよ。クールでニヒルな自分に憧れていたけれど、現実の僕はどっちかというと『アフロ田中』だなって。
なので今ではいーちゃんへの憧れとはスッパリ手を切って、「自分はアフロ田中なんだ」と思いながら日々を生きています(笑)。
――小説を書く上で大切にしていることはありますか?
なんとなく心がけているのは「正しく観測すること」ですね。作家ってどうしても、自分で作ったストーリーやキャラクターを特別に思って、ひいき目で見ちゃうんですよ。自分が「気持ちいい」「いいものだ」と心で感じて書いたものでも、他人の眼球から見て本当にその通りなのかっていうのは、しつこく疑っています。
――思いついた瞬間や書き上げた時は「最高だ!」ってなりがちですよね。
本当にそうなんです。でもそれって、自分で作ったんだから、自分が面白いと思うのは当たり前というか。
だからこそ、あらゆるものに主観的な感情を通した後で、もう1回「本当に本当か?」って客観視して、正しい結果が出るようにしています。
作家はどうしても作品に対して目が近くなるので、頑張って極力目を離す。「目は遠く、手は近く」という状態がやっぱり美しいと思っているので、そこは心がけたいですね。
――ただ、そうやって何度も疑う気持ちを持つと、自分へのハードルが高くなって、完成までにかかる時間が長くなってしまいそうな気も……。
いや、それはもう……本当にご指摘の通りなんです。
実は、『歌姫を殺したい』の改稿の作業でも、間に合わなくて1回締め切りを延ばしてもらったくらい、僕は書き上げるのに時間が掛かってしまうタイプです。この場を借りて担当編集さんにも謝りたいくらいです。
――納得いくものを作るために、やはり時間をかけられるタイプなんですね。
というよりは、シンプルに頭の回転が遅いんですよ。今回のインタビューも、めちゃくちゃ事前に内容を考えて、準備した上で答えていますし(笑)。
いいものを作るには相応の工数をかける必要があるのは確かなんですけど、その上で「本当にこれが面白いのか」と疑いを持つと、さらに時間が掛かるんですよね。
どうしてもそこで筆が重くなってしまう面があるので、「疑いは持ちながらも早く書く」というのが、自分の作家としての課題だと認識しています。
――でも、大多数の人は、アイディアを思いついてもそれを形にして、作品を完成させられないですよね。先生は、何度も賞に応募する作品を書き上げられています。
そこはもう、ある種の捨て身というか、諦めの境地ですね。クオリティの問題はありますけど、結局は完成しないのが一番ダメだとも思っているので。
自分が満足いっていなかったとしても、時が来たら作家は“処刑”を受けないといけないんですよ。書き始めた以上、ギロチンはもう上がっているので。あとはそれを受け入れる覚悟ですよね。
――最後に、読者に向けてのメッセージをお願いします。
死ぬまでよろしく。
『歌姫を殺したい』作品概要

陰キャ同士の青春は、ダサくて尊い。
長年作曲活動に励むも、なかなか結果が出ない陰キャな少年・間原葵は、同い年で人気の歌姫・ニーナを妬み鬱屈とする日々を送っていた。
そんな彼に、転機は突然訪れる。通学途中に鍵を拾ったことがきっかけで、クラスの内気な少女・蜷川真衣と仲良くなってしまったのだ。
「わっ私なんかでよければ! 友達になりたい、です!」
「……えっ? い、いいの?」
人生で初めての友達に舞い上がる葵だったが、ある日彼女の正体が歌姫・ニーナであると知ってしまう。葵は徐々に真衣に惹かれていくも、ニーナへの嫉妬心は依然と存在していて……。
少年少女の恋と挑戦と葛藤を描く、青春ラブコメ。
著者:来述 延
イラスト:熊野だう
発売日:2026年7月10日発売
定価:902円(本体820円+税)