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舞台『かまいたちの夜 ~THE LIVE~』原作・我孫子武丸×構成&演出・野坂実インタビュー。舞台でしかできない『かまいたちの夜』を――

文:電撃オンライン

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 舞台『かまいたちの夜 ~THE LIVE~』の関係者にインタビューを実施しました。

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 “あなたのせいで、死体が増える”というキャッチコピーで、1994年にスーパーファミコンで発売された『かまいたちの夜』。雪で閉ざされた山荘を舞台にしたミステリーで、小説と違って自分で推理をして真相を暴かないとハッピーエンドを迎えられないところがゲームならではで新鮮な作品でした。

 6月20日より、そんな『かまいたちの夜』を題材にした舞台『かまいたちの夜 ~THE LIVE~』の公演が始まります。チケットの一般発売が5月29日に迫るなか、今回、舞台の構成と演出を手がける野坂実さんと、原作を手がけた我孫子武丸さんにインタビューをする機会がありましたので、どのようなストーリーが展開するのか、舞台化にあたって意識したことなど気になるアレコレをお聞きしてきました。ぜひチェックしてみてください!

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▲『かまいたちの夜』の原作者・我孫子武丸さん。
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▲『かまいたちの夜 THE LIVE』で構成・演出を手がける野坂実さん。

オリジナルの『かまいたちの夜』を制作したときと同じ情熱で作り上げた舞台

――『かまいたちの夜』が舞台化されると知って驚いたファンは多いと思います。どのような経緯で舞台化が決まったのでしょうか。

野坂
僕が舞台の企画会議で、大ファンであった『かまいたちの夜』をやりたいと熱弁しました。企画会議では、アニメや小説など、どの作品を舞台化したらおもしろいのか話し合っていましたが、そのなかでゲームというジャンルも議題に上がり、それならば『かまいたちの夜』をやるべきだと。

――もとからゲーム版のファンだったんですね。

野坂
はい。会議でも“かまいたち”を連呼していましたね。その後、本当に舞台化を目指すにあたり、我孫子先生にご連絡を差し上げてスパイク・チュンソフトさんにも繋いでいただいた形ですね。

我孫子
舞台のお話が来たのは何年か前だったのですが、そのときはコロナの影響もあって、いろいろな舞台が中止になって状況も不安定でした。そのため、偶然にも『かまいたちの夜』30周年となる2024年に公演されることになりました。

野坂
自分が不勉強で我孫子さんに教えていただくまで30周年が控えていることに気付いていなかったんです(笑)。結果的に30周年のこのタイミングで舞台をお披露目することができてよかったです。

――ちょうどファンも30周年で盛り上がっているのでいいタイミングでしたね。今回、我孫子さんは舞台に関してどれぐらい関わられているのでしょうか?

我孫子
野坂さんとしては、僕がタッチしない形で、もとから存在する『かまいたちの夜』の要素をつまんで舞台化する予定だったと思いますが、こちらとしてはせっかくならちょっと関わっておもしろいことがやりたいと思い、いろいろと口出しさせてもらいました。そのため、何度も打ち合わせを重ねて、ようやくシナリオが完成しました。

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――それは楽しみです。

我孫子
ゲームをやったことがある人がそのゲームのシーンを舞台で見るようなものではなく、ぜんぜん違うものをお届けしたいと思いました。また、『かまいたちの夜』のゲームをやったことない人にも、普通の芝居とはちょっと違うと思ってもらえるような新しいものにしたいとも思いましたね。

――ということは、もしかして、舞台の『かまいたちの夜』は透や真理が登場するゲームの『かまいたちの夜』とはまったく別のストーリーになるのでしょうか?

我孫子
そうですね。ぜんぜん違います。

――なるほど。我孫子さんとしては、舞台をやるからには新しいものが作りたかったのでしょうか。

我孫子
そうですね。舞台にはちょっとだけ絡んだことはあるのですが、本ともゲームとも映画とも違う、舞台でしかできないことがあるなとずっと思っていました。今回の舞台でその仕掛けをやらせてもらおうと思いました。

――新しいことに挑戦しつつも、やはりファンの求める『かまいたちの夜』らしさは必要だったと思います。そもそもとしておふたりの考える『かまいたちの夜』の魅力をぜひお聞きしたいと思います。我孫子さんはどうして『かまいたちの夜』がここまでヒットしたと分析しますか?

我孫子
いや、僕にしろチュンソフトの人にしろ、『かまいたちの夜』がそんなに売れるとは思っていなかったです。どんどんゲーム機の性能もアップしていき、派手な効果があるアクションゲームが流行っていくであろうというなか、字を読ませるゲームの『かまいたちの夜』は、ある程度限られた人しかよろこばないだろうなとは思っていました。それが世間に受け入れられて、今でもゲーム実況者の方々などが取り上げてくれているのは不思議です。

野坂
僕はファミコン時代からゲームをやっていて、そのあとスポーツにハマったのでゲームをプレイしていない時期もあったのですが、『かまいたちの夜』はすごくのめり込んでプレイしていました。

 ガールフレンドといっしょにスキーに行き、ペンションで洋風のご飯を食べるというシチュエーションがオシャレですごく憧れました。そんな感じでウキウキしながらプレイしていたら、どんどん人が死んでいって……。なんの予備知識も持たずに遊んだので衝撃を受けましたね。

 とくに思い出に残っているのが、かまいさんが出てくる“鎌井達の夜”という結末で、「こんな展開もあるの!?」と。自分は50代になりましたが、当時の『かまいたちの夜』は青春が詰まっていましたね。

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――私(筆者)は40代で、リアルタイムは中学生でしたが、文章を読む楽しさを教えてくれたのが『かまいたちの夜』でした。ゲームならではの分岐もたくさんあり、とてもワクワクしました。『かまいたちの夜』はミステリーの間口を広げたことで評価が高いですが、我孫子さんは当時のトレンディーな雰囲気やギャグ部分にも同じぐらい力を入れていたのでしょうか?

我孫子
トレンディーは意識していないですね。ミステリーの舞台としてよくあるのが吹雪の山荘か嵐の孤島なので、『かまいたちの夜』は吹雪の山荘にしたのですが、プレイヤーが20代前後ということを考えると、謎の屋敷に招待されるというシチュエーションよりも、スキーのペンションがいいかなとは考えました。ミステリー編はベタな設定にしつつ、そこからゲームならではのオカルトやアクションといったいろいろな話を盛り込みたいと思いました。

――ミステリー編はもちろん、悪霊編やスパイ編、暗号編など、本当にいろいろな魅力がある作品でした。今回、舞台化するにあたって、『かまいたちの夜』らしさはどのように表現しようと思いましたか?

我孫子
舞台について、「ああしたい」「こうしたい」とスタッフのみなさんにずっと自分のアイデアを伝えていましたが、なんでそうしたのか振り返って考えてみると、『かまいたちの夜』を作っていたときの衝動と同じ原動力で今回の芝居も作っていたからだと思います。

 ゲームのファンにはどこが『かまいたちの夜』なのかと思われるかもしれないぐらい違うものですが、自分としては同じ視点で作っています。芝居を見ていただいたら意味がわかるかもしれないですが、『かまいたちの夜』という芝居をやるとしたら、どんなものになるだろうと自分が考えた答えがこの作品になります。

野坂
原作の『かまいたちの夜』をそのまま舞台化するという構想は最初からなかったのですが、それでも自分は原作のファンなので『かまいたちの夜』の要素を残したいという話を我孫子さんと話していました。ただ、我孫子さんは舞台ならではのいろいろな新しいアイデアを提案してくださいました。

 ネタバレになるので内容はお伝えできませんが、いろいろなギミックが仕掛けられた舞台になっています。我孫子さんがゲームの『かまいたちの夜』に注いだ熱意や情熱は舞台にもあります。表から見える形は違っていても、内側に脈々と流れる『かまいたちの夜』らしさはしっかり存在します。ただ、『かまいたちの夜』をプレイしているとクスリと笑えるような小ネタも用意しているので、そういった点も楽しんでもらえればと思います。

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――ゲームの『かまいたちの夜』を作ったときに我孫子さんを突き動かした情熱とはなんだったのでしょうか?

我孫子
コンピューターを使うことがおもしろかったんです。自分は小説を書くことぐらいしかできませんが、コンピューターを使えばゲームブックのようなものにも挑戦できるし、こんなこともできるんじゃないか、あんなこともできるんじゃないかというメディアならではの驚かせ方や仕掛けを作るのが楽しかったんです。

 新しい仕掛けが思い浮かぶたびに「ちょっとこういうのも入れてもいいですか」とスタッフにお願いして、どんどんぶち込んでいったのが『かまいたちの夜』で、今回は芝居だったらこんなことができるんじゃないかと思いついたり、それを実現させるにはどうすればいいのかということを考えるのが楽しかったです。

――ゲームをプレイしたとき、リセットボタンを用いた仕掛けまで用意されていたことは驚きでした。そんな驚きが舞台版にもありそうですね。

我孫子
そうだと思います。キャラクターもストーリーもオリジナルなので、「こんなの『かまいたちの夜』じゃないじゃん」と思われるかもしれませんが、もとのゲームをまったく知らなくても問題ないので舞台だけでも楽しむことができます。

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――舞台版はマルチエンディングになるということですが、観劇している人が展開を選ぶ形になるのでしょうか?

野坂
はい。配られたうちわを振ってもらい、人数が多いほうのルートに進むことになります。

我孫子
じつはそれだけではないのですが、そこは舞台で体験してみてほしいですね。

――分岐に関してはどちらの展開になるのかわからないようなバランスになっているのでしょうか。

我孫子
そうですね。ただ、分岐は役者の方が膨大なセリフを覚えなくてはいけなくて大変です。お客さんが本当の結末を知らないという形になるのもあまり望ましくないなと思い、分岐する部分に関してはあとで何らかの形で確かめられるように対応してもらいます。

野坂
そこはしっかりフォローしたいですね。

――今回はオリジナルのストーリーとキャラクターということですが、とくに注目してほしい人物はいますか? オリジナル版も香山さんのような濃いキャラクターがいたので、気になるところです。

野坂
すごく答えづらい質問ですね(苦笑)。今回の舞台はどんでん返しの繰り返しで、キャラクターたちの持つ意味合いも変わってくるんです。ひとりひとりの役者がいろいろなものを演じてくれるので、そういう意味ではまったく飽きない舞台になっています。原作ファンの自分としては香山さんとかも出したかったですけどね(笑)。ただ、香山さんはいなくても、原作ファンであれば楽しめる要素はたくさんあります。

――聞けば聞くほど観てみたくなる舞台です!

野坂
今回用意している大きな仕掛けが我孫子先生が最初の打ち合わせの段階でやりたいとおっしゃっていたもので、そこに焦点を合わせて舞台のお話を作っていきました。こちらもいろいろ語りたいのですが、どうしてもネタバレになるので……(苦笑)。

 今回の舞台はただ『かまいたちの夜』を舞台化するだけではつまらないという発想からはじまっていて、我孫子先生も舞台をやるならば、舞台にしかできないことをやろうとおっしゃってくださいました。打ち合わせを重ねて形になるまでは、「こういった形もありだな」という気持ちでしたが、最終的には『かまいたちの夜』の要素も入れつつ、まったく新しいものが生まれたなと思っています。

――それぐらいの自信作になったと。

野坂
はい。設定が緻密で読んでいると頭が混乱してきます。今回は望月清一郎という舞台の戯曲作家が脚本を書いており、生身の人間が芝居をしていればその場の状況を理解できるのですが、文字のシナリオだけを読んでいると「今はどういう状況だっけ?」と考えてしまうぐらい複雑です。ものすごく深みのある物語で、僕が手がけてきたもののなかでも一番難しい脚本になっています。役者たちもシーンによって演技の質感をすべて変えないといけないので大変だろうなと思っています。

我孫子
舞台の内容を知らないから野坂さんがなにを言っているのかまったくわからないですよね(笑)。

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――そうですね(苦笑)。

野坂
すいません(笑)。たとえば、演劇で大きい声で演じる演技と、テレビドラマで少し大げさに演じる演技、映画でナチュラルな演技があるとしたら、今回はその質の違う3つのお芝居を要求されます。その質が3つ違うお芝居を通常の稽古期間中に作り上げるというのが、役者にとってはとても大変なことなんです。その分、見に来てくださったお客様も「ウソでしょ!? こんなふうに展開していくの!?」という驚きを味わえると思います。

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――設定が特殊な舞台になるようですが、セットを用意するのも大変だったりしましたか?

野坂
大変でした。どこを派手にして、どこをスマートにするのか考える必要がありましたし、今回は犯人当てのような楽しみ方もあるので、なにが必要でなにが邪魔になるのか考える必要もありました。

――ミステリー部分の難易度はいかがでしょうか? 普段から謎解きをしている人であれば解けますか?

我孫子
難しくはないと思います。いわゆる謎解きのようにひとりで頭を働かせて論理的に解かせるものではなく、どちらかというと参加者を驚かせたいという思いがあります。

――舞台について、この部分に注目してほしいというポイントはありますか?

野坂
自分から言えるのは「劇場に入ったときからあなたは騙されている」でしょうか。

――いいキャッチコピーです(笑)。

我孫子
でも、野坂さんの言葉に尽きると思います。そういう“舞台でしか出来ないこと”を仕掛けているのでお楽しみに。

――『かまいたちの夜』は30周年ということでファンも盛り上がっていますが、我孫子さん自身、新作の構想はありますか?

我孫子
かつて、『かまいたちの夜2』の打診を中村社長(中村光一氏、当時)からされたときも、『かまいたちの夜』は完結しているので違うサウンドノベルなら可能だとお伝えしました。

 結果的にはほかの作家さんにも参加していただき、テイストを変えつつ、メタな構造を取り入れて作りましたが、また新規に『かまいたちの夜』を作るアイデアはないですね。もしもまた新しいサウンドノベルを作るとしたら、まったく新しいテーマで作ることになると思います。もしくはサウンドノベルじゃない形の『かまいたちの夜』ですかね。

――楽しみです。野坂さんはファンとして見てみたいものはありますか?

野坂
地下の閉鎖的な空間で繰り広げられるような、ワンシチュエーションものの作品が見てみたいですね。現代は情報があふれすぎているので、なにもないところから生まれるような発想のものが逆におもしろいのかなと思います。ただ、それだと『かまいたちの夜』らしくはないですよね(苦笑)。

――最後に舞台を楽しみにしている読者に一言お願いします。

我孫子
どこが『かまいたちの夜』なんだと思われるかもしれませんが、自分のなかでは完全にこれが『かまいいたちの夜』です。じつのところ、ゲームが好きな人たちにこそ喜んでいただけるような作品になっていると思いますので、ぜひ舞台に興味がないという人も足を運んでみてほしいですね。

野坂
自分はオリジナルの『かまいたちの夜』を遊んでときめいた人間なので、そのときめきを誰かに与えたかったのだと思います。我孫子先生に何度も脚本を推敲していただきながら新しい『かまいたちの夜』を作れたことをうれしく思います。鑑賞し終わったあとに誰かと話したくなる作品になっているので、ぜひよろしくお願いします!

舞台『かまいたちの夜 ~THE LIVE~』公演概要

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あらすじ

とある場所に閉じ込められた『かまいたちの夜』の登場人物たち。

 「こんや、12じ、だれかがしぬ」という手紙が発見され、本当に殺人事件が起きてしまう。プレイヤーであるあなたはさまざまな選択肢を選びながら物語を進めていく……。

 でも、何かが『かまいたちの夜』とは違う? そして、新たな殺人事件も発生? いったい何が本当なのか?

 舞台ならではの仕掛けもたっぷりの本作で、あなたは真の犯人を見つけられるのか。

スタッフ
原作:我孫子武丸
構成・演出:野坂実
脚本:望月清一郎

協力:スーパーエキセントリックシアター、スパイク・チュンソフト
主催・製作:NoSty(ノサカラボ/style office)

出演
  • ヴァサイェガ渉
  • 高柳明音
  • ドロンズ石本
  • 塩月綾香
  • 田中孝宗
  • 大髙雄一郎
  • 槙原唯
  • 谷口就平
  • 細貝圭
  • 安田裕
  • 豊田陸人
ほか

【東京】
期間:2024年6月20日(木)~6月23日(日)
場所:東京シアター1010
チケット料金(全席指定・税込):S席9,900円/A席9,000円

【大阪】
期間:2024年6月28日(金)~6月30日(日)
場所:COOL JAPAN PARK OSAKA TTホール
チケット料金(全席指定・税込):一般9,500円

チケット
一般発売:5月29日(水)10:00~

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