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『ブレイブルー エントロピーエフェクト』インタビュー:今後のアップデートや新キャラの実装予定などを紹介。リリース翌週に91Act全社員解散からの再結成秘話とは?【BBEE/電撃インディー#645】

文:団長

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 電撃オンラインが注目するインディーゲームを紹介する電撃インディー。今回は、対戦格闘ゲーム『BlazBlue(ブレイブルー)』シリーズのスピンオフ作品『BlazBlue Entropy Effect(ブレイブルー エントロピーエフェクト)』の開発元、91Actの日本支社代表を務める長谷川仁氏へのインタビューをお届けします。

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長谷川仁氏プロフィール

 1995年のNEOGEO時代に格闘ゲーム『NINJA MUSTER'S』や『Beast Busters Second Nightmare』のデザイン全般を担当。TECMO(現:KOEI TECMO)において『影牢』シリーズ、『零 zero』(FATAL FRAME)シリーズのキャラクターデザイン・アートディレクション・プロジェクトマネージャーを担当後、開発部長となりTeam NINJAの2代目統括に就任。その後、角川ゲームスにてプロデューサー・執行役員/開発本部副本部長を担う。アート出身のプロデューサーであり、現在は株式会社91Actの代表を務める。

・代表作:『影牢』シリーズ、『零 zero』シリーズ、『Dead or Alive -Online-』、『√Letter ルートレター』など


なお、電撃オンラインは、尖っていてオリジナリティがあったり、作り手が作りたいゲームを形にしていたりと、インディースピリットを感じるゲームをインディーゲームと呼び、愛を持ってプッシュしていきます!

口コミで広がったゲームの面白さで全世界50万ダウンロードを突破【BBEEインタビュー】


──最初に長谷川さんの簡単な自己紹介をお願いします。

 20歳の頃にゲーム業界へ入り、今年で30年目を迎えます。最初はADK(旧アルファ電子工業)という会社でNEOGEOの2D格ゲーやガンシューティングを作り、その後、テクモ(現コーエーテクモゲームス)に転職しまして、主に『影牢』シリーズや、『零 zero』シリーズなどのタイトルを開発してきました。その後、日本の市場に韓国や中国のPCオンラインの波がきたタイミングで、当時のテクモもPCオンラインに取り組もうという動きがあったので、自ら手を挙げました。

 そして『DEAD OR ALIVE』のPCオンライン版を中国のシャンダゲームズ(現:盛趣遊戯)のメンバーと共同開発するプロジェクトを2007年に立ち上げて、当時のTeam NINJAに協力を得て開発を進めていきました。その縁もあって後に、Team NINJAを任されることとなり、板垣さんに次いで2代目としてチームを支えていました。

 その後、自身に課した課題を達成したタイミングでコーエーテクモを退職し、角川グループに入ります。角川グループではゲーム専業会社となる、角川ゲームスの設立に参画し、ディレクションやプロデュース、海外事業などのゲームビジネス全般に10年近く関わりました。角川グループ内で、一定のやるべきことをやり終えたというところで独立を果たすのですが、その時のポイントは「次の世代を担う子たちと一緒にやりたい」という、ちょっとしたおじさん的な思考がありました(笑)。

 今までの「自分が前面に出てクリエイティブでやっていくんだ」というところから、次は若い人たちのクリエイティブを前面に押し出していかないとゲーム業界の未来がなくなるんじゃなかろうか?と、考えが変わっていったことが理由です。

 自分自身、結構いろんな失敗も経験もしてきてるので(笑)、そういったものを含めて、後進の育成に何か携わりたいとの思いの中、当時の『DEAD OR ALIVE』のPCオンラインで、元シャンダゲームズのメンバー達が、91Actという会社を中国の成都で立ち上げていたんです。彼らとはずっと交流を続けていて、すごくゲームを愛しており、若いスタッフも多く、一緒にやっていきたいと思ったところに、中国の代表の姜磊から日本支社の代表をやってほしいというオファーがあり、今に至ります。

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──『BBEE』が全世界50万ダウンロードを達成しました。インディーゲームとしてはかなりの好評価ということで、率直なご感想をお聞かせください。

 正直驚いています。PC(Steam)ゲームのタイトルは今まで何本かに関わってきたんですが、数字の推移は経験則から「凡そこれぐらいになるだろう」という予測のもと、今作はある程度コンサバな数字を見立ててました。しかしながら、いざリリースすると勢いは衰えず、短期間で50万を突破したのはとてつもない快挙だと思ってます。

──数字の動きというのはグローバルになっていくにつれてなかなか読めない部分があると思いますが、とくにどこが大きかったですか?

 一番普及率が大きいのは中国になりますね。次が北米で、その次が日本です。これは結果論ですが、コアユーザーさんたちが触れていただいたことによる “口コミ”効果が大きく影響したと思います。それを意図的に仕掛けていくのは難しいことですが、1点だけ91Actが対応した要因となるべき箇所は、迅速なユーザーフィードバック対応が影響していると思います。開発チームは元々モバイル開発を主としてきたので、プレイの声に対する反応速度がとても高く、ユーザーさんとのコミュニケーションを大事にし、真摯に向き合い最適化と不具合対応を随時行ってきました(現在も継続対応中)。そこを含めた複合要素によりこの数字に繋がってるのではないかと思っています。

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ローグライト的な要素でハマる“沼”のような魅力のアクションゲーム【BBEEインタビュー】


──そんな『BBEE』を気になっている人は多いと思うのですが、本作の魅力はズバリどのあたりとお考えでしょうか?

 一言で現わすと “沼”るアクションゲームです。アクションゲームは、スタートからエンドまでの過程で求められていく、テクニカルなキャラ操作の楽しさが醍醐味です。更にはゲームクリア時にはスピード感ある映画を観終わった気持ちよさが最後に残る…みたいな感覚もありますよね。『BBEE』では、その達成感はありつつも「もう一度観てみたい!」と繰り返したくなる感覚も同時に残り、再プレイしてしまう。気付くと何時間もやり込んでしまってるところが 一番の魅力になるんじゃないかなと思います。

──『BBEE』のやり込み要素のひとつとしての育成は、RPGのキャラクター育成とはまた違ってハマりやすい感じがします。

 そうですね。ユーザーさんによって遊び方が異なり、独自の拡がりや、体験が得られる仕組みが入っています。なので、気づいたら自分が思っていた以上の強さや、アクションの能力を手に入れたりとか、思ってもいなかった戦術が付加されて、新たな魅力に気づいたりとか、また、その能力と戦術の組み合わが、自分のプレイスタイルと相性が良かったり、そういった発見などが、プレイの度に見つかることもあるのが、特徴になりますね。

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──ローグライトの要素ですね。やっぱりジャンル的にすごく入りやすいとか好まれている傾向がありますよね。

 横スクロールのローグライト系やメトロイドヴァニア系の作品は、とても増えましたよね。これは個人見解ですが…、きっとすごく作りたかったっていう人たちが潜在的にかなりいたんじゃないでしょうか(笑)。同時にこのジャンルがオールドスクール的なゲームデザインから、プレイの敷居が高く見えないこともあり、新旧含めたユーザーさんたちに受け入れられてるのではないかと思ってます。

──1回のプレイ自体は短いサイクルなので、すごく気軽に遊べるというのも嬉しいです。

 そうですね。今作の特徴に繋がりますが、プレイ中にユーザーの選択に失敗というものが存在しません。なので、気負ってプレイするスタイルにはならず、気軽にプレイすることができます。また、アクションに特化したコアメカニズムとなっており、ひたすらアクションパートだけ楽しむプレイもできることが理由になりますね。

──あらためてですが『ブレイブルー』という作品のキャラクターを使うことになった経緯を教えていただけますでしょうか?

 本タイトルの出生にはアークさん(アークシステムワークス)と築き上げてきた協力関係がベースにあります。10年前に中国で立ち上げた91Actの代表の姜磊が『ブレイブルー』のスマートフォンアプリ『BLAZBLUE REVOLUTION REBURNING』(以下『BBRR』)を作りました。そのときにアークさん協力のもと『ブレイブルー』に関する様々な理解を深めていきます。その結果、『ブレイブルー』に対する愛がチーム内に蓄積され、姜磊が新たに『BBRR』でやりきれなかったこと、更にはアクションに特化したゲームとしての構想が高まったこともあり、今から4年程前に、アークさんに再度申し入れをし、成立したのが今回の『BBEE』です。

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今後のアップデートと追加キャラクターの実装【BBEEインタビュー】


──『BBEE』のユーザーさんからの反応はいかがでしょうか?

 僕は日本のユーザーさんの反応をよく見ているんですけど、素直に言うと「この食べ物を食べていいのかな?」 みたいな状態のユーザーさんが多いと感じてます(苦笑)。「『ブレイブルー』の名前がついている、知っているキャラクターも出てくる、でもシリーズではないのかな?」と。もっと言うと「この会社は何という会社?」みたいな。ユーザーさんにとってちょっと異質なモノに見え、且つ、聞き馴染みの無い会社名であり、更には「なんで格闘ではなくアクションゲームなんだろう?」という違和感がある。けれど「なんか気になるね」という感じです。

──食べようか食べまいかみたいなところで迷っているユーザーさんたちが結構多いと?

 そうですね。ただ、勇気をもって「食べてみよう!」と、多分人類で初めてイカを食べた人みたいな(笑)ユーザーさんがいて、「噛めば噛むほどすごいね」という味を知ってもらい、そういったユーザーさん自ら発信してくれています。ありがたいことに「買って損した!」というユーザーさんの声はほぼ聞かないですね。本当にそこは嬉しい限りです。買っていただいたユーザーさんたちはもう軒並みみんな、冒頭でも話した “沼”にハマってくれていて、より深く遊んでいただいていますね。

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──たしかに本作が『ブレイブルー』なのか何なのかというのは、最初はちょっとありましたね。でもゲームのサイクルがわかるとシンプルに遊びながらランダム性とやりごたえっていうのがすごくバランスが取れているなって感じました。

 そうですね。その遊びのバランスはとても大事ですが、その下支えをしているのが、アクションゲームでもっとも大切な操作感と爽快感になると思います。『BBEE』は2023年8月に早期アクセス版をリリースして、翌年の1月に正式リリースしています。この早期アクセス版までに相当の時間を費やして、その2つのポイントを練り込んでおり、そこから正式リリースまでの期間も都度最適化をかけてチューニングをしてきました。プレイ操作から得られる全体のプレイの快適さと気持ちよさを追求してきているので、触っていただいた皆さんはそこを違和感なく感じていただけているんじゃないかと思います。

──ユーザーさんの中で人気キャラクターって誰だったりするんでしょうか?

 開発チームとも、その話はしてきていて、一時期は何かしらでキャラクター投票みたいなものを出そうかとも考えました。ただ、同時に僕たちの『ブレイブルー』に対する想いみたいなものあって、アークさんから提供してもらっているキャラクターに優劣をつけた表現はしたくないなと。

──なるほど。『ブレイブルー』愛にあふれていますね。

 はい。やって頂ければわかりますが、全てのキャラクターが個性に溢れ、好きになれると思っています。とはいえ、ゲームとしてこのキャラクターのアクションが自分にフィットするとか、特定のキャラクター自体が好み! とかはあるじゃないですか。また、キャラクターによって序盤から扱い易いとかもありますしね。そういう観点ですとジンやハクメンは、最初に使われる傾向がありますね。この2キャラは最初から気持ちよく派手なエフェクトが出やすいのが好まれてるのかもしれません。

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──使いやすい王道なキャラがいるなか、トリッキーでなかなか難しいキャラクターもいます。ぜひアドバイスをください。

 例えばΛ-No.11-(ラムダ)は、その部類に入っていくキャラクターになりますね。本作にはキャラの個性である“ポテンシャル”に加えて、どのキャラクターにも優劣なく手に入る“戦術”という成長要素があります。この“戦術”の成長ラインをキャラ個性と組み合わせていくことで、ユーザーさんにとっては唯一無二のキャラに仕上がったりします。トリッキーと思われる部分はどんどん味になっていき、やり終える頃にはこのキャラクターが一番強いんじゃないかって感じてくると思いますよ。

──開発スタッフとしてはどのようなキャラクターの開放順番が多かったですか?

 開発スタッフは「全員強い!」と思ってます。それは能力と戦術のカスタムイメージをもっているので。なので、どれから使うみたいなのはないですね(笑)。ゲームをプレイしていただくと分かるんですが、キャラクター紹介映像が選択前にあるので、それを見て自分がどのキャラクターでどんなアクションをやりたいかっていう本能に任せて選択してもらうのが一番いいんじゃないかと思います。

──早期アクセス版から正式リリース版ではさまざまな点が変更されましたが、こういった変更点はユーザーさんからのご意見が大きかったのでしょうか?

 はい。その通りです。同時にユーザーさんからこういった声が出るだろうという先読みも行い対応策を講じて進めています。この点は冒頭でもお伝えしましたが、91Actはモバイルをメインで開発するチームであることから、ユーザー対応に対するフットワークが非常に柔軟で迅速です。また、91Actは代表の姜磊がクリエイティブを直接担っていることもあり判断が早いことが大きいですね。現在も毎週アップデートを行い、品質をより研ぎ澄ませてます。

──キャラクターの表示サイズが変えられるようになったのもユーザーさんからの声があったからでしょうか?

 この点はユーザーニーズと開発ニーズの両方です。けれどこの件は、リリース序盤から導入は行いませんでした。アクションゲームにおけるプレイヤーキャラクターサイズは大きければダイナミックに見え、小さければインパクトは欠けるもののキャラクターを取り巻く環境が広く見ることができるので、状況把握の観点でプレイしやすくなります。従ってこの件は、ゲームデザイン面とアクション体験のバランスになります。本作ではリリース後、一定の期間を踏まえ、ユーザーの皆さんがプレイに馴染むところを見計らい、サイズ変更を導入しました。どのようにプレイして頂くかは、ユーザーさんの趣向に合わせてプレイして頂くことが最適だとしたからです。

──やっぱりキャラクターのサイズが大きくなると気持ちいいですよね。

 そうなんです。アーリーアクセス版のリリースから間もなくしてボス戦後半にラッシュフェーズを導入し、そこではじめてカメラを寄せてキャラサイズが大きくなった画面を見て、気持ちよさの質がグッと変わったので、サイズ変更はそれがきっかけにもなっています。

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──現在テスト中のオンライン要素の“エントロピー戦場”の開発状況についてお聞かせください。

 “エントロピー戦場”(PVP)は正式リリースのタイミングでテスト版として出したのですが、現在はデフォルトでこのモードはOFFとしています。凡そテスト版で得られるデータが収集できたことからです。我々としては今後、このモードを完成形まで持っていった先に、『BBEE』ユーザーさんが求める体験と本当に合致していくのか? と、開発チームは検討を進めており、その中で対戦型よりも協力型(PVE)のほうがマッチしているのではないかと考えています。この点は大きな対応になっていきますので、時期を見てお伝えしていきたいと思います。

──そんな“エントロピー戦場”も楽しみですが、ほかに予定されているこれからの展開についても教えてください。

 今年1月末より正式版をリリースしてから、ずっとお客さんの声に耳を傾けて、これまでに 33回 のアップデートを行い560以上のコンテンツや機能面の最適化に対応してきました。また、それだけに留まらず今夏に大型のバージョンアップデートを計画しております。

 具体的には新しいプレイアブルキャラクター、2人で協力するオンライン意識トレーニング、高レベルの新しい敵への挑戦、及び戦闘目標以外のコンテンツ追加等となり、これらの新しいコンテンツは近いうちに皆様へ体験頂けるよう現在鋭意制作中です。

 そして、上記アップデートの先には、更なる新プレイヤーキャラクターの追加や、新しいレベルMAPのアップデートなどを予定しております。 これらの情報は今夏のバージョンアップデートと同時に情報公開をしていく予定です。

──追加キャラクターの話がくるとやっぱりワクワクしますね。

 現在10人のキャラクターが実装されていますが、『BBEE』では新たなキャラでプレイすると、全く別の新しいゲームをプレイしてる感覚が味わえます。それほどキャラ個性によるアクション体験が異なりますので、今までプレイしてきた方も、改めて新鮮な気持ちでプレイできると思います。

──ちなみにアップデートの“お知らせ”に出てくる女の子の詳細が気になります。

  『BBEE』でバトル中に操作できるキャラクターは『ブレイブルー』のキャラクターになるのですが、それ以外はオリジナルの世界で構築しています。故に、あの女の子はオリジナルキャラクターであり、名前は“NAN-01NAN-Fire Bite”という、バトル後半に出てくるボスの一人です。設定としては、スカイスアイズと呼ばれる組織が作り上げたACE(エース)装置内で生み出された人物となります。

──あの女の子誰だろうと思っていたらあのボスだったんですね!

 何の紹介もないですからね(笑)。彼女を紹介しても、やはり印象強く残るのは『ブレイブルー』のキャラクターですので。僕達としてはうっすら彼女を裏で推しています(笑)。

──やっぱり見えているものに関しては色々と勝手に妄想や考察を繰り広げていきたくなります。

 それは作り手冥利に尽きるというか、語られてないところまでユーザーさんたちが勝手に妄想して語ってくれるのが一番嬉しいですね。ユーザーさんの中で思いが醸成されていく一番ポイントな気がします。

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──現在PC(Steam)版のみのリリースですが、コンソール版の可能性などお聞かせください。

 コンソール版を出してほしいという声はすごく多いです。僕らもその声には応えていきたい思いはあり、社内でも話し合いはされています。しかし今はPC(Steam)版をメインに、まだまだ品質向上やアップデートを重ねて、やり切れるところまで高めていきたいと考えています。まずは、今いるユーザーさんたちに、より満足してもらえるところを目指し、充分にユーザーさんも開発チームも満足できるカタチとなれば、コンソール版の可能性が出てくると思うので、そのタイミングが来るようでしたら皆さんにお知らせしたいなと思います。

──ぜひ楽しみにしております!

スタッフ全員解雇!91Act解散から再結成までの21日間【BBEEインタビュー】


──『BBEE』の正式版リリース直後に起こった衝撃的なニュースについてお聞かせください。

 中国のメディアでは、かなり広まってしまっているんですけど、日本ではまだオフィシャルでこの情報を出してないので知らない人も多いと思います。まず2024年1月31日に、『BBEE』の正式版をリリースした翌週に、中国成都に開発チームを置く本社の91Actは本社代表の姜磊、日本支社の僕の2人だけ残して、100名近くの社員全員を解雇しました。

 なので、正式リリース後、3週間近くこの2人と、戻って対応してくれた僅かなスタッフでタイトルの運営していた時期があったんです。現在は当初のチームメンバーも戻ってきて、また一緒に『BBEE』の運営開発をしていくラインが整い、会社運用をしています。

──なぜ91Actのチームが解散することになったのでしょうか?

 経営上、色々な事案・事象が重なったことによるのですが、一言でいうとキャッシュフローの問題が大きな原因になります。1月後半の時点で、当面の開発チームを存続させるキャッシュはあったのですが、『BBEE』が十分な成績を出せるかは未知数でした。

 91Act開発は100名近くが在籍していましいた。その約半分が『BBEE』のスタッフで、もう半分は別のプロジェクトに関わっていたのですが、このプロジェクトの収益化にはかなりの時間が必要な状況でした。もし『BBEE』の成績が振るわない場合、ゆくゆくはジリ貧になり100名近いスタッフ全員を解雇せざるえません。その時の解雇は、キャッシュが尽きたものとなるので、社員に退職金すら支払えなくなります。それではあまりにも…ということもあり、「じゃあ『BBEE』以外の半分のスタッフを解雇すればいいじゃないか?」という考えもありますが、ゲーム開発において、どのチームに入るのかは運命じゃないですか。

 今まで皆、尽力してきてくれたスタッフであることには変わりなく、たまたまのタイミングで『BBEE』に携わってないから解雇されるっていうのは、不公平だという姜磊の信念もありました。そこから姜磊が『BBEE』の正式リリースに入る直前に、ここまで尽力したスタッフ全員に、「この残りの蓄えを全て退職金に当てて、91Actを一度リセットする」と皆に伝え、春節時期にはいったんです。姜磊からは「春節後、想いがある人間がいたら戻ってきてほしい」と、お願いをして解散をしました。

 この時、僕は姜磊とボードメンバーの王に「自分は一人になっても91Actを続ける」と宣言したのですが、王からは「1人じゃなく3人です(泣笑)」とこぼれた言葉がとても沁みました。

 こんな状況下で『BBEE』は正式リリースをしていたのです。

──解散後、わずか21日で再結成されましたが、どのように実現できたのかを教えてください。

 一度解散してから僕は日本の運営をしていて、姜磊は中国成都の広いオフィスで一人で居ました。ここで一つの出来事があって、1月31日に正式リリースを出した2日後に、Steam上の『BBEE』の“直近の評価”が一気に下がってしまったんです。それまでは “圧倒的な好評”だったのですが、それが70%近くまで落ちてしまいました。70%を切ると評価が“賛否両論“に入っていってしまい、今後の売上には良い影響を与えません。

 何故このようなことが起きたのかというと、ゲームをより良くしようと、正式版ではシステム面での大幅なアップデートを行った結果、セーブデータ引継ぎが困難となり、引継ぎを断念したんです。それによるネガティブレビューが一気にあがったのが要因でした。この評価値が時間単位で下降する中、解雇した数名のスタッフが春節期間に帰省せず、オフィスに戻って来てくれまして…。

 皆、下降する評価を見て駆けつけて「これを何とかしよう!」となり、短期間でセーブデータ引き継ぎではなく、それに該当するデータ移行の仕組みを作りの対応をしていきます。アーリーアクセス版までの累積されたデータを特定のポイントに変換し、正式版で利用できるように。

 そして並行して姜磊は、中国でのライブ配信で毎晩遅くまで『BBEE』の実況プレイを行いました。ユーザーと直接意見交換をし、91Act解散について心配するユーザー達に丁寧に説明をしていたのです。その流れが様々な人の心を動かし、元従業員、アーリーアクセスからのファン達、新規ユーザー等が、『BBEE』を応援するムーブへと広がります。

──代表自ら毎晩何時間も生配信でプレイし続けて、ユーザーコミュニケーションをしているというちょっと異常な状態ですね。

 はい(苦笑)異常ですね。一番は91Act創立者である姜磊の覚悟だったと思います。この出来事をきっかけに様々な人たちが91Actと『BBEE』に興味を持ち、「そういう状況であれば何か応援をしていきたい」という流れに変わっていくんです。

 春節の最中、急遽対応してくれた少数の解雇したスタッフ、姜磊が生配信をしながら踏ん張り、僕と王はバックヤードで下支えをしながら、先の見えない未来に向けて何か光を生み出そうともがき戦った3週間。その春節中に1名、また1名と戻るスタッフの名が上がり、3週間後の春節終わりに50名近くが戻る知らせがあって心から喜びました。

 同時に『BBEE』の売上の見通しも立ち、『BBEE』を再開発していけることができるという発表をした時に、この一連の出来事が中国メディアに取り上げられて「なんてドラマチックなんだ!」とニュースになりました(笑)。

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──本当にとてもドラマチックな展開です。

 このまま会社をたたもうという考えではなかったんです。少なからず『BBEE』は自信を持って出したタイトルだったので、その売り上げがあれば、再立ち上げができるチャンスはくるだろうと。全社員を解雇したことで、すぐには全スタッフを戻すことはできないので、気持ちはとても苦しく複雑ですが、それでも、再結成したスタッフ達のエネルギーは満ち溢れ、更に強い91Actとして再起できたと思っています。

──昭和の日本とかにありそうな話だと思いつつ、逆に日本の方から見たときに中国のゲーム業界って、そういった熱い部分が今たくさんあるのかなって思ったりしました。

 僕はアジア周辺のゲームビジネスを長くやってきた中で、中国はもとより、台湾や韓国、東アジア界隈のゲーム会社さんとの付き合いで感じたのは、日本企業と異なり、会社自体に一種の“ファミリー感”を感じます。もちろん全ての会社がそうではありませんが、この点は日本企業とは風土が異なると感じるところです。会社の忘年会ひとつにしても、みんなで団結し、楽しく盛り上げる流れがあり結束力は高く見えるなぁ…と。あと集合写真も大好きですね(笑)。

──本当に昭和の日本で聞く話ですね。

 そうなんですよ。もちろん全部が全部じゃないとは思いますが、そういう雰囲気をとても感じますね。今回のことはスタッフの気持ちもありますが、やはり踏ん張ってた姜磊のリーダーシップが大きいと思います。士気、ですかね。

──最後に、新たに再結成した91Act Ver2.0の意気込み的なものをお聞かせください。

 会社経営上、こんな考えはあまりよろしくないんですけど…、それでもここまで来ると“後がない強さ”みたいなものを奇しくも体験したこともあり、この再起したチームが今まで以上の熱量でタイトル制作をしていける状態となりました。一方で、ユーザーさんや関係者様には今回のようなご不安とご心配をおかけしないよう、且つ、このチームであればより良い未来が描けると思って頂けるよう、経営サイドは地に足付けて進めていきます。

 その上で、今回の経験から改めて、ゲームはユーザーの皆様の声や、開発スタッフの想いや愛が大切であると実感しましたので、そういう部分をより大事にする会社にしていきたいと思います。

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