日本ファルコムの人気ストーリーRPG『軌跡』シリーズ。その20周年を祝して行われた、日本ファルコム代表取締役社長・近藤季洋氏への特別インタビューをお届けします。
ゼムリア大陸という架空の世界を舞台に、若き英雄たちの冒険譚を描いてきた『軌跡』シリーズ。その20周年を記念して、電撃オンラインでは日本ファルコムの近藤季洋氏に特別インタビューを敢行し、『軌跡』作品の制作秘話について大いに語ってもらいました。今回はその後半となる部分、最新作『界の軌跡』に関する話も含んだインタビュー内容をお届けします。
なお、前編同様、一部に『軌跡』シリーズのストーリーにまつわるネタバレも含まれているのでご注意ください。
■前編はこちら!
・日本ファルコム・近藤社長が明かす『軌跡』シリーズ秘話。20年作ってきた中で社内で反対意見が相次いだ意外なモノとは?
■近藤季洋氏
1998年に日本ファルコムに入社。『イース』シリーズや『英雄伝説』シリーズのリメイク作品の制作に関わったあと、『空の軌跡』シリーズの立ち上げにいちから関わる。2007年に代表取締役社長に就任した以降も、プロデューサー、ディレクター、シナリオライターとしてファルコム作品の制作に関わる。
あのキャラクターだからこそ許された強化パッチの思い出
──これまで多くの『軌跡』作品が作られましたが、このなかで最も思い入れの深いものを挙げるとしたらどれになりますか?
近藤季洋社長(以下、敬称略):うーん、あまり優劣はつけたくないんですが、強いて挙げるなら一番最初に手がけた『空の軌跡FC』が思い出深いですかね。
もともと自分は『英雄伝説』がすごい好きで、入社のきっかけになったくらいでしたから。そんな『英雄伝説』シリーズの続編を担当できる、というのが一番嬉しかったです。
実際に制作を始めてみたら、右も左もわからなかったんですが、やっぱりクリエイターとしての必要な要素をすべて学んだのがここだった気がするんですよね。
もちろん、それ以前に『イース』シリーズや『英雄伝説』シリーズのリメイクに携わらせてもらいましたし、そこで得た経験も有益だったのは確かなんですけれど、本当に何もないところから作り出す経験をしたのは『空の軌跡FC』が初めてだったので、そういったことも含めて思い出深いです。
それってたぶん、ゲームクリエイターとして一生のうちに何度もあるものではないと思います。そこから先、20年も続けさせてもらえている、というのも理由ですね。
──では、思い入れの深いキャラクターについてはいかがでしょうか?
近藤:直前の話の続きになってしまいますけど、やっぱり『空の軌跡』のエステルとヨシュアになりますね。
世界設定などと同じく、0から考えて生み出した主人公コンビですから。どのキャラクターも思い入れはあるんですけれど、一番最初に生み出したキャラクターという意味でも印象深いです。
──敵側のキャラクターとなるとどうですか?
近藤:敵側はまた難しいですが、レーヴェになりますかね。単純にいいキャラクターだと思いますし、彼を強くするパッチを作ったということもありましたし。
あんまり強くするとゲームをクリアできなくなる人が出てくる可能性もあるので、あえてやさしめの強さに設定したら、ユーザーのみなさんから「あのレーヴェがこんなに弱いわけがない」と怒られてしまって(笑)。それで、レーヴェを強くするパッチを出したんですよね。
パッチをあてるというのは当時、コンシューマではまったく一般的ではありませんでした。PCタイトルでも、今でこそ一般的になっていますが、当時は「完成していないものを出したのか」という理由で怒られたものです。
ですからファルコムでも、パッチを作ってもなかなかリリースさせてもらえなかったんですよね。「絶対に必要なものでもなければ出さない」と。そんなご時勢に、レーヴェを強くするだけのパッチを作ったのは、今にして思えばずいぶん奇天烈なことだったと思います(笑)。
当時の僕は平社員でしたし、絶対に上司や先輩から怒られると思ったんですが、なぜかすんなり通ってしまいました。今でも通った理由はよくわからないです。ユーザーのみなさんからの要望が、それだけ大きかったからでしょうかね?
ということで、こういうことがありましたし、レーヴェといえばのBGM『銀の意志』がかっこよかったこともあり、思い入れは深いですね。
──レーヴェのことは、ストーリー中でも多くのキャラクターが言及しますよね。
近藤:いまだに一目おかれている感じですよね。スタッフのなかでもそうですし、ゲーム中でも《結社》の盟主やマクバーンが特別扱いしている感じです。
こうして振り返ると改めて思いますが、『空の軌跡』には特に強い思い入れがありますね。僕がガッチリ作業までしたのは『空の軌跡』だったというのもありますし。シナリオも、今ではシナリオライターが書いて制作側に渡すだけの人が多いのですが、当時は自分で書いたシナリオを、全部スクリプトでゲーム内に実装するところまでが仕事でした。メッセージを打ち込むだけでなく、キャラクターを配置したりするのも業務の一環です。
ですから、その場でメッセージを書き換えたり、セリフを言わせるキャラクターを新たに作ったりすることもあったんです。たとえば「グランセル城の門の辺りに誰もいなくて寂しいな」と思ったら、その場で新しいキャラクターを配置してしゃべらせたりしたわけです。そういう作業までしていたからこそ、『空の軌跡』への愛着が増したんでしょうね。
──『軌跡』シリーズということで、マスコットキャラクターのみっしぃについてもひとことお願いします。
近藤:みっしぃを出そうと言い出したのは、じつは僕なんですよ(笑)。あのころは空前のゆるキャラブームで、クロスベルを出そうとなったときに設定をよく見たらテーマパークがあるし、「これは何かマスコットを出すべきでしょう」と思ったんです。
そこで、僕とずっと一緒に仕事をしてくれているデザイナーがいるんですけど、彼に「殴りたくなるかわいいキャラクターを作って」とお願いしました(笑)。なんとなくですが、ゆるキャラってそういうイメージがあるんですよね。かわいいんだけどちょっとイラっとするような部分もあるというか。そういう、ある意味欠点的なものを合わせ持っていないと、ゆるキャラではないのではないかと思うんです。そのあたりをデザイナーに伝えて作ってもらったのがみっしぃでした。
僕はみっしぃの出番をクロスベルだけで終わらせるつもりだったんですが、販売方面から「キャラクターとして継続したいので、今後のすべてのタイトルにみっしぃを登場させてください」と言われました。ですからそのあとは、『軌跡』であれば必ず出ていますし、『イース』にも顔を出しています。
ちなみに加藤会長がファルコムを創業したとき、「キャラクタービジネスがやりたい」ということで、あるメーカーさんに話を聞きに言ったことがあるらしいんですよ。そのときに受けたアドバイスが「作っている側が飽きないことが大事」というもので、みっしぃもそれに習って、自分たちが飽きない限り、今後も鉄の意志で出し続けようと思います。
──共和国編ではみっしぃの偽者が幅を利かせてましたね。
近藤:サブクエストにもなっていましたが、あれはうまいと思いましたね。思わず考えたライターを手放しでほめたくらいです。
キャラクタービジネスの裏側を見たというか。みっしぃを愛するがゆえに偽者を認めない人が出てくるとか、妙な生々しさがありましたよね(笑)。みっしぃにまつわるエピソードはいろいろ作ってきましたが、毎回それまでのものと展開が似通らないように注意しています。
『ガガーブトリロジー』から受け継がれたこだわりとサービス精神
──オーブメントのシステムや、ストーリー進行に合わせて変化する人々との会話など、『軌跡』シリーズならではのものが多々あると思いますが、これらを導入した理由を教えてください。
近藤:会話の変化などは、もともと『ガガーブトリロジー』にあった要素でした。しかもこちらは『軌跡』よりも徹底されていたんです。
たとえば、『白き魔女』では船でいろいろな大陸に渡っていくのですが、船に乗って次の大陸に行くまでは、前のマップにいつまでも戻ることができるんですよ。冒険の始まりの場所である故郷の村なんかにも戻ることができます。それで次の大陸に行けるようになったとき、「故郷の村に恩人がいるから会いに行く」といったことを言うキャラがいるんですが、故郷の村に戻るとちゃんとたどり着いていたりします。
その恩人もなにやらタダモノではないらしく、それがあとで大きな物語につながったりして、ともかくものすごく緻密に組まれていたんです。そういう部分が、僕が『白き魔女』にはまった理由の1つでした。『ガガーブトリロジー』から何を引き継ぐべきかを考えたとき、世界観の描き方はもちろん、こういった会話の細やかさから得られる感動を味わえるようにしたいと思い、『空の軌跡』にも実装していきました。
とはいえ、ものすごく大変なんですよね、この仕様。主要人物から街の住人まで全員に名前を付けたうえで、フラグごとにメッセージを変えなければならないので。
『ガガーブトリロジー』のすごいところは、パーティメンバーの先頭を入れ替えられるんですが、先頭のキャラが誰かによっても会話が変わったりするんです。あとはストッパーもですね。これは社内用語で、ストーリーの進行上行ってほしくないところへ行こうとすると「今はそっちには行けないようだ」というナレーションが入るんですが、これも先頭のキャラによってナレーションの口調が変化していました。内容についても、ヒロインなら「今はそっちに行っている場合じゃないわ」みたいに、ちゃんとそのキャラに即したものになっていましたし、場合によってはキャラ同士のかけ合いが始まっていました。
『英雄伝説』は本当にそういうところが細やかですよね。たぶんですが、作品を作った当時の先輩たちが、サービス精神だけでやっていたものだと思います。そういうところは見習いたいですし、受け継ぐべきだと思い、『軌跡』シリーズにも取り入れていった形となります。
ただ、『軌跡』シリーズは作品を重ねるごとに規模も大きくなっており、このやり方を継続するかを考えなければならなくなりました。それで、『黎の軌跡』からはしゃべる人間=NPCとしゃべらない人間=モブに分けるなど、ちょっとずつ変えていったんです。
名前を付ける作業にしてももうストックがなくて、メインキャラクターですら以前使ったキャラクターの名前とかぶったりしました。釣り人のロイドと特務支援課のロイドとか……。この仕様はどうかご容赦いただければと思います。
──『軌跡』はシリーズを重ねるごとに、システムだけでなくグラフィックも大きく進化してきました。このことについて何か印象深いことがありましたら教えてください。
近藤:3Dでやるようになってから、モーションや演出も進化していますね。あれは若いスタッフが頑張ってくれています。
『黎の軌跡』もそうですが、『イースX』のカットイン演出などは、僕から「こうしてくれ」と言わなくても、さっき言ったサービス精神ではないですが、それに近い努力をしていいものに仕上げてくれました。ある程度自由にやっていい、という形にしているのがいいのかもしれません。
あとは『黎の軌跡』からゲームエンジンが変わったのが大きいですね。『閃の軌跡』シリーズはソニーさんが作った“Phyre Engine(ファイヤーエンジン)”でやっていたのですが、そこから内製のエンジンを『黎の軌跡』のために開発しました。
そこでシェーダー回りなども全部見直したことで、3Dの表現というものがそれまでとは違う、より精細なものになったのではないかなと思います。色々とシームレスに表現できるようになったのも、エンジニアのこだわりの結果ですね。
『界の軌跡』を含めた今後の『軌跡』シリーズの展望は?
──9月に発売されるシリーズ最新作『界の軌跡』についてお聞きします。制作も佳境かと思われますが、現状での完成度は何%ぐらいでしょうか?
近藤:75~80%くらいですね。今はとにかくボイスの収録に苦労しています。だいたい3カ月くらいかけて行っているのですが、なにせキャラクターの数が多いもので、なかなか予定通りにはいかなくて。
ですが、もうあらゆるデータもそろって、あとは仕上げるだけという段階ではあります。新しく追加されたものも多く、システム回りをもう少し整備するかもしれません。
──新しく追加されたものと言うと、具体的にはどんなものがあるのでしょうか?
近藤:今回はですね、キャラクターが多いですよ。アークライド解決事務所のメンバーは全員そろっていますし、ゲストもたくさん出ます……ゲストキャラではなくゲストチームと言っていいくらいですが(笑)。ですから、そんな大勢のキャラクターを育成できる場所として、『黎の軌跡II』に登場した《お伽の庭城(メルヒェンガルテン)》のような施設は当然用意しています。
あとはストーリー進行のやり方も、多人数に合わせて『創の軌跡』のようにパートに分けて描かれる部分もありますね。『閃の軌跡IV』などにもあった、途中でチームを切り替えながらダンジョンを攻略していくようなケースもあります。
──キャラクターについては、これまでのシリーズに登場した人気キャラクターが出るということで話題になっていますね。
近藤:PVなどで一部公開されていますが、あれで全部ではないので続報に期待してください。公開されているキャラクターでは、ケビンが懐かしいような、でもそんなに出てなかったけ? というような、変な感じですね。
──キャラクターとしてちゃんと登場したのは『碧の軌跡』以来だと思いますが、その間も存在は示唆されていましたし、オリビエとシェラザードの結婚式のイラストにもいましたからね。
近藤:まあでも、ここでケビンが出てきたことの意味を考えていただければと。『空の軌跡SC』のラストでもそうでしたが、彼が動くというのは、何かよくないことが起きている前触れとも言えますし、ワイスマンのような彼が狙うべきターゲットがいるかもしれませんから。
ちなみにケビンは、以前再登場して欲しいキャラクターのアンケートをとったとき、2位に食い込むほどでした。それに、彼が所属する《七耀教会》は、ゼムリア大陸の話の核と大きく結びついています。今後はケビンとともにクローズアップされていく組織だと思いますので、ご注目いただければと思います。
近藤:まあでも、ここでケビンが出てきたことの意味を考えていただければと。『空の軌跡SC』のラストでもそうでしたが、彼が動くというのは、何かよくないことが起きている前触れとも言えますし、ワイスマンのような彼が狙うべきターゲットがいるかもしれませんから。
ちなみにケビンは、以前再登場して欲しいキャラクターのアンケートをとったとき、2位に食い込むほどでした。それに、彼が所属する《七耀教会》は、ゼムリア大陸の話の核と大きく結びついています。今後はケビンとともにクローズアップされていく組織だと思いますので、ご注目いただければと思います。
──PVではルーファスの再登場も印象的でした。
近藤:思えば、ルーファスが人気を集めることとなった『創の軌跡』で彼を主人公の1人にしようと考えたのは、若いスタッフでしたね。
『創の軌跡』は制作前に、メインシナリオのコンセプト(基本方針)についてのコンペを行ったんです。そのなかで出てきたのがルーファスの主人公案でした。
案を見たとき「これはいいな」と思ったものの、ルーファスが『閃の軌跡IV』のあの所業であまりにも嫌われていたので「主役にしたらゲームが売れなくなるのでは?」という懸念はありました。
ですが、実際にプレイしていただければ、ルーファスがそんな単純なキャラクターではなく、さまざまな事情を抱えた人間味のある人物であることがわかり、ユーザーのみなさんにも受け入れてもらえたようです。
──PVを見るに、以前の貴族然とした格好ではなく、かなりラフなスタイルに見えます。
近藤:相変わらず指名手配犯ですし、あちこちに隠していた財産も凍結されている身ですから、貴族としてお金をじゃんじゃん使えた以前とはまるで違いますね。
ですが、そんな自分の境遇に対していろいろ開き直っているので、見ていて面白いですよ(笑)。ルーファスファンはもっと彼のことが好きになること間違いナシなので、どうぞご期待ください。
近藤:思えば、ルーファスが人気を集めることとなった『創の軌跡』で彼を主人公の1人にしようと考えたのは、若いスタッフでしたね。
『創の軌跡』は制作前に、メインシナリオのコンセプト(基本方針)についてのコンペを行ったんです。そのなかで出てきたのがルーファスの主人公案でした。
案を見たとき「これはいいな」と思ったものの、ルーファスが『閃の軌跡IV』のあの所業であまりにも嫌われていたので「主役にしたらゲームが売れなくなるのでは?」という懸念はありました。
ですが、実際にプレイしていただければ、ルーファスがそんな単純なキャラクターではなく、さまざまな事情を抱えた人間味のある人物であることがわかり、ユーザーのみなさんにも受け入れてもらえたようです。
──PVを見るに、以前の貴族然とした格好ではなく、かなりラフなスタイルに見えます。
近藤:相変わらず指名手配犯ですし、あちこちに隠していた財産も凍結されている身ですから、貴族としてお金をじゃんじゃん使えた以前とはまるで違いますね。
ですが、そんな自分の境遇に対していろいろ開き直っているので、見ていて面白いですよ(笑)。ルーファスファンはもっと彼のことが好きになること間違いナシなので、どうぞご期待ください。
──今後の『軌跡』シリーズの展望についてお願いします。
近藤:20年と長く続けてきたわけですが、現状では初期タイトルがハードの関係で遊びづらくなっており、新規のユーザーのみなさんが入りやすい状況とは言えなくなっています。もちろん、『黎の軌跡』や『界の軌跡』から入っていただければ幸いですが、やはりシリーズの導入から遊んでもらいたいという気持ちがあり、それを望んでいる人も多いと思います。
今、そんな声にお応えできる何かを用意しており、20周年のどこかで発表したいと思っています。ですので、どうかもうしばらくお待ちいただければと。
──それは楽しみですね。ちなみに『軌跡』シリーズでは、『那由多の軌跡』のような外伝の展開もありました。こういった作品を新たに作る予定はありますか?
近藤:『那由多の軌跡』のようなオリジナル作品もまた作ってみたいですし、これだけ多くのキャラクターが登場しているシリーズですので、「スピンオフ的なものを作りたい」というスタッフも多くいます。
ただ、ファルコム内で今手がけているタイトルがいくつもありまして、もし企画が通ったとしてもすぐには、とは行かない状況ですね。
──個人的には『イースvs空の軌跡』も楽しめたので、同じような作品が出るとうれしいです。
近藤:『イースvs空の軌跡』は、結構急に作ったんですよね。取締役会で「売上げが足りない」という話が出たとき、その場で考えて「じゃあこういうのを作ります」と提案して作った覚えがあります(笑)。確か制作期間7カ月くらいで作りました。当時はPSPで、今のように膨大なデータを作っての制作ではなかったので。軽いフットワークでゲームを作ることができた時代が懐かしくもありますね。
それに、突貫で作ったからこそ、思いつきをすぐに実装できたというメリットもありました。たとえばプレイアブルキャラクターはなるべく増やしたかったんですが、期間的に難しく、それならサポートメンバーとして登場させようということで、『イースVI』のヒロインのオルハなどを入れています。
こういったファンディスク的なものは、普段はなかなか提案しても稟議が通らないんですが、機会があればまたやりたいですね。僕もできれば、ダーナvsカージャとかを実現させてみたいですから(笑)。
──ちなみに『軌跡』シリーズといえばソーシャルゲームの『暁の軌跡』があります。こちらはどういった扱いなのでしょうか?
近藤:ファルコムとしては僕らが手がけた『空の軌跡FC』から『界の軌跡』までの13作品が『軌跡』シリーズという扱いになっています。ですが『暁の軌跡』も、企画立ち上げの時期にかなり深い部分まで監修しました。
近藤:20年と長く続けてきたわけですが、現状では初期タイトルがハードの関係で遊びづらくなっており、新規のユーザーのみなさんが入りやすい状況とは言えなくなっています。もちろん、『黎の軌跡』や『界の軌跡』から入っていただければ幸いですが、やはりシリーズの導入から遊んでもらいたいという気持ちがあり、それを望んでいる人も多いと思います。
今、そんな声にお応えできる何かを用意しており、20周年のどこかで発表したいと思っています。ですので、どうかもうしばらくお待ちいただければと。
──それは楽しみですね。ちなみに『軌跡』シリーズでは、『那由多の軌跡』のような外伝の展開もありました。こういった作品を新たに作る予定はありますか?
近藤:『那由多の軌跡』のようなオリジナル作品もまた作ってみたいですし、これだけ多くのキャラクターが登場しているシリーズですので、「スピンオフ的なものを作りたい」というスタッフも多くいます。
ただ、ファルコム内で今手がけているタイトルがいくつもありまして、もし企画が通ったとしてもすぐには、とは行かない状況ですね。
──個人的には『イースvs空の軌跡』も楽しめたので、同じような作品が出るとうれしいです。
近藤:『イースvs空の軌跡』は、結構急に作ったんですよね。取締役会で「売上げが足りない」という話が出たとき、その場で考えて「じゃあこういうのを作ります」と提案して作った覚えがあります(笑)。確か制作期間7カ月くらいで作りました。当時はPSPで、今のように膨大なデータを作っての制作ではなかったので。軽いフットワークでゲームを作ることができた時代が懐かしくもありますね。
それに、突貫で作ったからこそ、思いつきをすぐに実装できたというメリットもありました。たとえばプレイアブルキャラクターはなるべく増やしたかったんですが、期間的に難しく、それならサポートメンバーとして登場させようということで、『イースVI』のヒロインのオルハなどを入れています。
こういったファンディスク的なものは、普段はなかなか提案しても稟議が通らないんですが、機会があればまたやりたいですね。僕もできれば、ダーナvsカージャとかを実現させてみたいですから(笑)。
──ちなみに『軌跡』シリーズといえばソーシャルゲームの『暁の軌跡』があります。こちらはどういった扱いなのでしょうか?
近藤:ファルコムとしては僕らが手がけた『空の軌跡FC』から『界の軌跡』までの13作品が『軌跡』シリーズという扱いになっています。ですが『暁の軌跡』も、企画立ち上げの時期にかなり深い部分まで監修しました。
『暁の軌跡』は主人公が猟兵団《ニーズヘッグ》出身の元猟兵なのですが、作中で《ニーズヘッグ》のトップが変わるという話があり、それは『閃の軌跡III』でも語られています。
──アニメにもなった『閃の軌跡 Nothern War』はどうですか?
近藤:扱い的には『暁の軌跡』と同じですね。ちなみにアニメ化に際しては、舞台を帝国の北側に位置するノーザンブリアにするか、クロウの故郷であるジュライ市国にするか、『閃の軌跡II』と『閃の軌跡III』の間の帝国を描くか、アニメのスタッフの方に提案しました。
ジュライや『II』と『III』の間の帝国については、帝国編の延長線上にあるもので美術設定なんかもいちから作る必要はありませんが、本編である程度語られているので、多少の制約が出てきます。それに対してノーザンブリアは、国名などの設定はあるものの、きっちり決まっている部分が少なくて自由にやれますが、そのぶん制作コストは大きくなりますよ……とお伝えました。その結果、ノーザンブリアが選ばれたわけですが、「あえて茨の道を行くんだ」と敬服した覚えがあります。
とはいえジュライが舞台でも、それはそれで大変だったと思いますね。クロウが主人公で、どんな話になるのか見てみたくもありました。ちなみにクロウは今、ジュライを拠点にして活動しています。一応ジュライの勢力図みたいなものも設定しているので、どんなふうに『界の軌跡』の物語に関わってくるのかご期待いただければと。
──最後に、読者並びに『軌跡』シリーズに注目しているすべてのユーザーのみなさんに向けてひとことお願いします。
近藤:まず20周年を迎えるまで応援していただき、本当にありがとうございます。『界の軌跡』がいよいよ発売になります。『界の軌跡』は何度も言ってきたように、シリーズのクライマックスを描く作品で、色々な謎が明かされるということで、まさしく待ったなしという内容になっています。ぜひ楽しんでいただければと思います。
これでリベール王国編と帝国編、共和国編という、最初にやろうと決めた範囲が終わりますが、シリーズとしてはまだもうちょっと描きたいというところがありまして、今後も『軌跡』は続いていきます。とはいえもう20年も続いていますので、さらに20年とはとてもいかないと思っており……何より『界の軌跡』で大部分の謎は明かされることになるので、本当の結末がいよいよ見えてきたな、とスタッフとも話をしています。
せっかくここまで続けてきたシリーズなので、僕らも最後まで走りきりたいと思っていますし、そこまでやるからには、少なくとも自分たちが納得いく形にしたいと思っています。最後の最後で今までの20年が台なしになるようなことは絶対にしたくありませんし、そうならないように努力していきますので、引き続き応援のほどよろしくお願いいたします。