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バンダイの強さはどこにあるのか? 角川のキーマンが注目し、取り入れたポイントはココだった【連載コラム:おもちゃとゲームの100年史】

文:佐藤辰男

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連載コラム“おもちゃとゲームの100年史 創業者たちのエウレカと創業の地と時の謎”第12回

4-3 バンダイウォッチャー

第11回のコラムを書いて、ポピーの分社化のエピソードから思い出したことがある。

 『キャラクタービジネス その構造と戦略』(キネマ旬報社、1995年)の著者の土屋新太郎は、1980年代にバンプレストのコンサルタントをしていた人で、80年代後半から90年代にかけてぼくも縁ができた。当時、角川書店の専務で角川メディア・オフィスの社長だった角川歴彦とぼくは、土屋の案内で毎年東京おもちゃショーをひと回りし、レクチャーを受けるのを習わしとしていた。土屋からはキャラクター商品がヒットする法則を伝授された。

 これまでのキャラクター玩具(マスコミ玩具)の人気が一過性だったものを、『ウルトラマン』シリーズをはじめ、作品をフランチャイズ化しメディアの露出を継続することにより、玩具の寿命を、世代を超えた息の長い、いわば“定番キャラクター”に育てることができる。キャラクターは自然と対象年齢が上がってしまうから、絶えず下の年齢層に下げる努力が必要だ。SD(スーパーデフォルメの略)化して、対象年齢の低いメディアで展開するなどで、再活用することができる、などという話だった。これらは、おもちゃマーケティングの真髄のような話だったと記憶している。

 バンプレストは、アミューズメント業界の会社を買い取って、1989年にバンダイの子会社となった。社長に就いた杉浦幸昌は、1980年代半ばから大ブームとなったUFOキャッチャーにキャラクターものがないことに着目し、『ウルトラマン』や『仮面ライダー』、『機動戦士ガンダム』などのSD化したぬいぐるみを投入し大ヒットさせた。

 子ども時代にこれらのキャラに夢中になった20代に大ウケだった。土屋の言うところの、世代を越えた定番キャラクター作りの見本のような話だった。

 他にもバンプレストは、『スーパーロボット大戦』シリーズのゲームソフトもヒットさせたが、これもバンプレスト流の新しいキャラクター活用の一例で、本社の行き方とは違っていた。ポピーのときもそうだったが、バンプレストもグループのなかに競争関係を作り出し、本社に刺激を与える存在となった。

 バンダイ人脈との付き合いは、山科誠はもちろん、杉浦幸昌、村上克司、鵜之澤伸などのバンダイの中枢の各氏、角川グループホールディングス時代には高須武男と続いた。高須にはホールディングスの社外取締役をお願いした。

 企業家としての角川歴彦は、バンダイウォッチャーだった。ついでに言えば、ぼくも『玩具通信』の記者という経歴から、ぼくなりにバンダイウォッチャーであり、変な言い方だが角川(現KADOKAWA)ウォッチャーでもあった。

 歴彦はバンダイ人脈との付き合いから、会社の組織運営やIP活用についてのノウハウ、アニメ制作、アニメパッケージ販売のノウハウ、コンテンツという富をどうやって組織的に再生産するかのノウハウ、企業買収のノウハウなど、さまざまな局面でバンダイから知恵を吸収しようとしていたと思う。

 角川歴彦がウォッチしていた会社は、もちろん出版業界にもそれ以外にも多数あったけれど、バンダイへの視線が特別だったのは、継続してヒットを生み出す仕組み、時代の変化に合わせて人材が輩出するその組織力の謎、といった企業文化への視線だったことだ。

 例えば、電子書籍の時代になって、Amazon、Apple、Googleが日本に上陸したとき、とりわけAppleを知るために歴彦は本まで書いたが(『グーグル、アップルに負けない著作権法』KADOKAWA、2013年)、その時の視線が主にスティーブ・ジョブズ個人に向けられていたのに対して、バンダイは個人にではなく、代が替わっても強さが継続するその組織力の強さの秘密はなにか、といったところに注目していた。

 バンダイが1970年以降、グループ内競合を厭(いと)わずに分社化政策をとったこと、今井科学やサンライズのようなおもちゃ業界外でありながら、キャラクターマーチャンダイジングという視点からは欠かせないパートナーを買収したことは、角川書店専務時代の角川歴彦に感銘を与えたはずだ。

 つまり、角川書店、富士見書房、メディアワークス間のグループ内の文庫やコミックスでの同一領域での競合、ホールディングスになってからの、キャラアニやブックウォーカーなどの子会社設立、メディアリーヴス、メディアファクトリーの買収、アニメ事業への進出などの一連の施策は、バンダイから学んだことの応用、という一面もあったのではないか。

 少し時代が下って、1993年のバンダイの方針発表会における山科誠社長の発言が『輝ける玩具組合とおもちゃ業界の130年』(東京玩具人形協同組合、2017年)に掲載されている。

 
「バンダイの強みはキャラクターMDだが今後バンダイが進めるキャラクターMDは『メディアミックス』だ。玩具とプラモデルでスタートしたガンダムも、雑誌、コミックの出版になり、いまやビデオソフト化やCD化もされオリジナル映画化とつながり、それがまた玩具やソフトになっている。これからバンダイが進める事業を総称すれば『マルチメディアエンタテインメント』だ。21世紀に生き残り、成長するためにはデジタルの技術、開発力を持つことが不可欠だ。これからはインターナショナルでなければ生き残れない」

 言葉だけなら誰でも言えると言う人もいるかと思うが、山科誠はこのとおりのことを、つまりビジョン通りに進めようとした。この発言のなかの文字を、“玩具とプラモデル”でなく“出版”に、“ビデオソフト化”などを“電子書籍、映像配信”に置き換えれば、そのままホールディングス時代の角川歴彦の発言になる。角川歴彦もビジョンどおりに進めた。

 そこに軋轢(あつれき)はあったが、未来もあった。
【第20回までは毎日更新! 以降は毎週火曜/金曜夜に更新予定です】

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