電撃オンライン

『ユミアのアトリエ』細井Pインタビュー。キャラデザにべにたま氏を迎えた"次世代のアトリエ"で伝えたいこととは?

文:編集O

公開日時:

 2025年3月21日にNintendo Switch/PS5/PS4/Xbox Series X|S/Xbox One/PC(Steam)で発売が決定した『アトリエ』シリーズ最新作『ユミアのアトリエ ~追憶の錬金術士と幻創の地~』。

 本作はコンシューマ向けの新作としては、2023年発売の『ライザのアトリエ3 ~終わりの錬金術士と秘密の鍵~(以下ライザ3)』以来となります。

[IMAGE]

 キャラクターデザイン/イラスト制作に人気イラストレーターのべにたま氏を起用し、ゲームプレイにおいては"秘密"シリーズで支持された要素を継承&進化させつつ、オープンフィールドの冒険で新たな体験を用意していることが発表されています。

 そこで今回は第1報の内容を受けて、制作を指揮するプロデューサーの細井順三氏へインタビューを実施。最新作となる『ユミアのアトリエ』にはどんな魅力が詰まっているのか? シリーズファンの目線でいろいろと質問をぶつけているので、ぜひ一字一句お見逃しなく!

[IMAGE]
▲『ユミアのアトリエ ~追憶の錬金術士と幻創の地~』総合プロデューサー、細井順三氏。

※インタビューは8月28日に実施。

『ユミアのアトリエ』細井プロデューサーインタビュー。最新作に込めた想いとは?

2つのナンバリングを同時開発していたからこそ明確な差別化ができた


――本作の制作がスタートしたのは、『ライザ3』の発売直後になるのでしょうか?

細井
 実際に開発がスタートしたのは『ライザ3』の発売から少しあとになりますが、新シリーズの企画原案の立ち上げという部分で言えば、『ライザ3』の制作途中から始まっていました。

――となると、2023年9月からiOS/Android/PC(Steam)で運営がスタートした『レスレリアーナのアトリエ ~忘れられた錬金術と極夜の解放者~(以下レスレリ)』と、制作期間が重なる形ですね。2作品を同時進行というのは大変だったのではないでしょうか?

細井
 一部兼任しているメンバーはいますが、今回はそれぞれ違うチームで制作を進めていますので、『レスレリ』を開発していたから大幅に制作期間が長くなったということはありません。その一方、どちらもナンバリング作品として並列に制作を進めていたからこそ、「このタイトルはこういった部分を目標にしていこう」というような明確に狙いを色分けできたので、その点は同時開発していてよかったと思います。

――ガストブランドの作品は発売後の反響に耳を傾け、次回作に生かしていくというユーザーに寄り添うスタイルで制作を続けられていますが、今回はどういった声に注目されましたか?

細井
 『ライザ3』で好評だった部分は引き続き継続し、より進化させて取り組んでいくことが重要だと感じていました。とくに好評なご意見が多かったのは"シームレスでストレスのない戦闘システム"です。さらに、オープンフィールドとしてマップが広がったことに関しても、グローバルで評価を得られたと感じています。

 『ライザ3』もオープンフィールドでしたが、本作はフィールドでのリアクションにより力を入れています。新しい目的地で何かを手に入れたり何かを実行したりすることで味わえる体験は、今作でより楽しめるようになっていると思います。本作を開発するにあたってRPGとしてこの2点を中心に据えて、しっかり育てていきたいと考えました。

[IMAGE][IMAGE]

 加えてシナリオの設定まわりになりますが、「抽象的な存在が戦う対象だったので、明確な敵となるキャラクターが欲しかった」というご意見もいただいていました。「ここまでスケールの広がる物語にするならば、主人公たちと敵対する勢力が登場し、たとえばどちらも理想論を語るような展開などが見たかった」と。『ユミアのアトリエ』で描きたい世界・物語と、そうした皆さんからのご意見も含めて、本作ではヴィランと言えるキャラクターたちが登場するかたちとなり、彼らとの対立も見どころになっています。

――たしかに物足りなさは自分も感じていたので楽しみです。やはりライバルとの激熱な対決シーンは鉄板かなと。

 そうですね。敵となる勢力が登場することで、物語としても主人公たちの想いだけでなく、敵勢力のバックボーンなども含めて、世界観に関していろいろな視点が存在するようになりました。

――ちなみに、敵対勢力は物語序盤からガンガン顔見せしてくる感じでしょうか?

細井
 序盤からある程度のキャラクターたちは主人公たちの前に登場します。

――「こいつらが敵だぞ!」とすぐにわかる感じですか?

細井
 個性的なキャラクターばかりですので、見ればすぐに把握していただけると思います。先日公開した第1弾のPVで一部は顔見せしていますので、こちらもぜひチェックしてみてください。

テーマが決まるまで二転三転どころではない紆余曲折のドラマがあった


――本作のテーマは"記憶"で、記憶と向き合い迷いながらも信じる道を進むとあります。この記憶はユミアたちの冒険にどんな影響を与えるのでしょうか?

細井
 記憶というものは誰もが持っているものですが、たとえば「Aという事件が起きた」という記憶を人々が共有していても、各々で視点が違うのでけっこう持っている記憶が違ったり、曖昧だったりする部分があると思うんです。

 今回のテーマは、「記憶って、そもそもなんだろう?」というところからスタートして、「記憶によって人が作られるのか?」「そもそも人とは?」「人の人格や人間性は何で形作られるのか?」など数珠つなぎのような感じで考えていきました。たとえばユミアならば「ユミアという思い出や記憶があるからユミアなのか?」「記憶がなくなったらそもそもユミアでなくなるのか?」と。本作ではそうした部分をテーマにフィーチャーしています。

[IMAGE]

――信じる道を進むというワードからは、ゲーム中に選択肢が登場して物語が分岐するような印象も受けました。

細井
 物語中に選択肢が登場して、選択肢の積み重ねで展開が変わることはあります。ただ、大きく枝葉に分かれて展開が変わるものではなく、途中の体験が変わるけれども再び収束する形になり、最終的なストーリーラインは変わりません。たとえばAという場所に先に向かうか、Bという場所に先に向かうかを選んで、最終的にCにたどり着くのは変わらないというイメージです。

――そこまで選択を慎重にする必要はないということですね。"記憶"のテーマもそうですが、ゲームコンセプト(本作のテーマは"記憶"。誰しもある過去や自身の"記憶"と向き合わなければならない瞬間。成功も失敗もすべての記憶が未来への糧となり、その人を形作る)を読ませていただくと、とても強いメッセージ性を感じました。プレイしていると自身を重ねるようなシーンはけっこう多いのでしょうか?

細井
 ユミアを始め、登場するキャラクターたちに共感できる部分はあると思います。

[IMAGE]

――従来のシリーズでは錬金術があって当たり前であり、ほとんどの作品では錬金術があることにより未来が開けるようなポジティブな存在です。ですが、本作では錬金術が"禁忌"とされ、使うことがタブー視される展開となるようで、そういった路線で描く物語の魅力をうかがえますか?

細井
 本作ではユミアが"禁忌"とされる錬金術を学び、それを自分の人生に生かしていく姿が描かれます。"禁忌"であると承知しながらもさまざまな想いを抱きながらも自分の糧にしたいと邁進する展開は、ユミアを形作るうえでの見どころです。ですので、物語の盛り上がりという部分へのご期待には応えられると思います。

――ユミアは錬金術を使うことで、周囲から危険視されているような感じでしょうか?

[IMAGE]
細井
 "禁忌"なものを扱う人物ですので、最初は当然の如く危険視されています。たとえばケガ人の治療のために道具を使ったら、「錬金術で調合したものを、勝手に使うな」といった、心無い反応をされるような表現もあります。

――そんなに辛辣な扱いを受けるんですね。なんだか序盤はユミアを見ていて悲しくなる場面が多そうです。

細井
 序盤はそのように感じてしまうユーザーさんがいらっしゃるかもしれませが、そんな状況からユミアが周囲に認められていく過程をきちんと描きたかったんです。ユミアが"禁忌"たる錬金術をなぜ使おうとしているのかを語るためにも、まずはそういう流れが必要だと判断しました。

 速報のPVを見て「すごくシリアスになったね」というお声もいただいていますが、シリアス一辺倒なドラマではなく、従来の『アトリエ』シリーズらしいほんわか&コミカルな部分もしっかりあります。そこのバランスは我々もうまく取れているのではないかと感じていますし、好意的に捉えていただけるのではないでしょうか。

――ちなみに速報はニンテンドーダイレクトで公開された映像ですよね?

細井
 そうです。

――映像の発表後はSNSでトレンド入りをするなど、コンシューマの新作を待っていたファンが多いんだなと、あらためてシリーズの人気を実感しました。

細井
 『ライザ3』のあとに発売する作品なので、戦々恐々とまではいきませんが、どのような反応があるのか期待半分不安半分でした。とくにキャラクターデザインに関しては、これまでの方向性とは違う形のデザインラインでしたので、好意的な反応を見ることができてうれしかったです。

[IMAGE]

――ちなみにシナリオはシナリオライターの名前などは発表されていませんが、今回はどういったスタンスで制作を進めているのでしょうか?

細井
 本作のシナリオは基本的にメインの柱となる部分は開発内部で制作していて、一部のフレーバーテキストなどは外部の方などにお願いしました。

――シナリオはかなりボリュームがありそうな印象ですが、どんな流れで内容を固めていったのでしょうか?

細井
 じつはシナリオは一度進んでいたものを全部見直すほど難航しました(苦笑)。その影響が今でも少し残っていますが、途中でボツにしたものを含めると10稿以上はあります。

――これまでのシリーズのインタビューでも、そこまで難航したという話はうかがったことがないです。

細井
 最終的に"記憶"をテーマにした物語にすると決まってからは、チームを組んで集まって、本読みするような形で一字一句確認していくという流れで進めました。

――でも、シナリオが固まらないとキャラクターの設定もデザインも進めにくいですよね?

細井
 今回は、キャラクターとシナリオは別進行です。もちろん、途中途中ですり合わせていますが、キャラクターデザインが先行で、「シナリオとしては、きっとこういうキャラクターがいるといいよね」など、べにたまさんと打ち合わせしながら進めていました。ただ、私の中ではキャラクターデザインについて「こうしたい」という考えがありましたので、その考えには寄り添っていただいています。

べにたまさんが描くイラストで"空気感のある世界"を実現させたかった


――本作ではキャラクターデザインをべにたまさんがご担当されています。べにたまさんが描かれるイラストの魅力と、どこに惹かれて今回の依頼に至ったのかという経緯をうかがえますか?

細井
 以前からトリダモノさん("秘密"シリーズのキャラクターデザイン担当)に「べにたまさんといつかお仕事をしたい」とお話ししていたら、べにたまさんとお知り合いだったトリダモノさんから、べにたまさんがフリーランスになったとうかがいました。それをお聞きしてご連絡したところ「ぜひお話を聞きたいです」と快くお返事をいただけました。

 べにたまさんが描くイラストの魅力は、やはり独特のファンタジーの世界を醸し出しつつ、その中でキャラクターがきちんと息をして生きているように表現をされるところだと思っています。『アトリエ』で次のシリーズを作るならばべにたまさんの描く"空気感のある世界"を実現してみたいと考えていましたので、今回お願いすることができてうれしいです。

――『アトリエ』シリーズといえばキャラクターの単体のイラストに加え、店舗特典などいろいろなイラストを描くことになりそうですね。

細井
 この前べにたまさんとスケジュールを確認したところ、ゲーム内のスチル絵を含めてここからも大量の枚数を描くことになっており、道は長い……と話していました。

――想像をはるかに超える枚数で驚きました。でも、トリダモノさんからある程度「『アトリエ』シリーズでキャラクターデザインを担当するというのはこういうことだ」とお聞きしたりて、そのあたりも覚悟されて受けられたのでは?

細井
 覚悟はされていたと思います。最初から厳しいスケジュールになるとはお伝えしていましたが、ご本人ももしかしたら「ここまで大変だったとは……」と思っていらっしゃるかもしれません。9月2日の生放送ではべにたまさんのイラストをかなり公開しますので、「べにたまさん、すごくたくさん描かれているんだな」と、みなさんにもご覧いただいて、応援いただけるとうれしいです。


――「イラストをこんな方向性にしたい」というように、べにたまさんと共有したコンセプトなどがあれば教えてください。

細井
 今回はみずみずしさと、光と影を意識したファンタジーにしたいとお伝えしました。"秘密"シリーズは夏をテーマとしたコントラストが強い世界観でしたので、ビジュアル的にも明確に差別化したいと考えていました。あとは"黄昏"シリーズまでとは言いませんが、淡い色合いというものも表現したいと思っていました。

――たしかにパッケージイラストを見ても、細井さんがお話しされた狙いがすごく伝わってきました。今後公開されるイラストがどんな感じなのか、非常に楽しみです。では、公開されている6人について、個別にべにたまさんとのやり取りでこだわった部分をうかがえますか?

細井
 ユミアは早い段階で「こんな風のデザインラインにしたい」というものは決まっていましたが、そこからかなり最後まで調整をかけていました。原型のデザインは比較的早い段階で固まっていたのに、「この部分はこうしよう」など細かな調整を何度も重ねた結果、だいぶ終盤で完成したキャラクターです。

[IMAGE]

 コンセプトとして"現代感"のあるデザインにしたかったので、どちらかと言えばシルエットをスリムな方向性に寄せました。『アトリエ』シリーズの主人公は服飾にも細かい小物を付け加えるなど、シルエットから受ける印象にこだわって視覚的な情報量を上げているのですが、ユミアに関してはその情報量を上げつつもそぎ落とす、というようなことをずっと続けていました。

――あえて主人公らしからぬデザインを目指した感じでしょうか?

細井
 少しニュアンスが違っていて、主人公のデザインにする必要はありますが、従来の『アトリエ』シリーズらしい主人公を追求するのではなく、"次世代の『アトリエ』"としてグローバルで多くの方に受け入れていただくために、今までとは異なるデザインラインを目指す必要があると考えました。

 ただ我々としては、これまでの主人公のデザインラインも大切にしていますので、従来の『アトリエ』シリーズのデザインラインは『レスレリ』の一方の主人公に踏襲するかたちにして、『ユミアのアトリエ』は現代的でソリッドなデザインラインの方向に調整しています。

――なるほど。たしかに『レスレリ』のレスナと比較するとスタイリッシュなデザインで、羽織っているものを除くと現実世界で着こなしていてもありな衣装だと感じます。ちなみに、ユミアの隣にいるランタンみたいなものは今回のマスコットですか?

細井
 フラミィですね。マスコットと言っていいのかわかりませんが、そう感じていただけるようなキャラクターになったらいいなと(笑)。フラミィはユミアと一緒に旅をしていて、信頼する相棒みたいな存在です。

――ということはしゃべるんですか?

細井
 しゃべります。

――ユミアとどんな掛け合いが見られるのか楽しみです。あとユミアの涙ボクロがすごくチャーミングで印象的なのですが、こちらはどういった経緯でついたのでしょうか?

細井
 これはユミアの情報量をどう上げようかと試行錯誤している最中に生まれました。情報量を上げようとしてパーツを追加すると、どうしても現代的なシルエットにならなかったんです。とはいえ何か目につくもの、キャッチーなものを入れたくてずっと考えていたところ、たどり着いた答えが涙ボクロです。

――動画で初めてユミアの目元がアップになったときに視線が釘付けになったので、見事にその狙いは決まったと思います。では、ヴィクトルについてうかがいますが、正統派の騎士を彷彿させるデザインだなと感じました。

[IMAGE]
細井
 ヴィクトルは自分の正義を貫くタイプで、アラディス調査団に「調査を成功させるんだ」という強い使命感を抱いて参加しています。その中で自分の想いも成し遂げようと奮闘します。彼はゲーム開始時に調査団のリーダーとして、ユミアを監視する形で参加します。

[IMAGE]

――立ち姿も騎士らしい威厳と力強さを感じさせるポーズですよね。

細井
 キャラクターデザインでとくに意識したのは、今までの『アトリエ』シリーズには出てこないような雰囲気や特徴を持つ男性キャラクターを出したいということでした。これはべにたまさんともお話ししていて、ヴィクトルのように熱血漢で騎士というスタイルのキャラクターは、『アトリエ』の中でも新鮮なデザインに感じていただけたのではないでしょうか。そんな彼は若くしてリーダーになったこともあって、ユミアとの出会いを経ていろいろ自分自身にも気付いていくのですが、そこも見どころですね。

――ヴィクトルが持っているのは大剣ですか?

細井
 いえ、盾ですね。

――なるほど。そういった意味でも騎士らしさがあります。では彼の妹であるアイラはいかがですか? 彼女はなんとなく今までの『アトリエ』シリーズっぽいデザインラインですよね。

[IMAGE]
細井
 アイラに関しては、いままでの『アトリエ』シリーズのデザインラインを踏襲した形です。ですので、シリーズファンの方はアイラはすごく親しみやすく感じられると思います。デザインラインの面でも、キャラクターの設定的な面でも、ユミアとのバランスを取ったキャラクターですね。彼女は天真爛漫で非常に明るい性格であり、ユミアとは同年代になります。そんな彼女にユミアも心を開いていき、やがて相棒のような立ち位置になっていきます。

――アイラはいわゆるお兄ちゃんっ子ですか?

細井
 いいえ、普通の兄妹関係です(笑)。険悪とかではなく、仲は良いほうです。

――最近はブラコン系の妹が流行りの作品も多いので、そういうタイプなのかと(笑)。では、かなりセクシーな衣装が印象的なニーナはいかがでしょうか?

[IMAGE]
細井
 ニーナは神出鬼没のキャラクターという設定です。そのため、それを体現できるようにストレートに描いています。いろいろと謎多き女性で、そこを含めて妖艶な雰囲気を持たせました。

――魅せるべきところは見せる"攻めたデザイン"が素晴らしいです。そして次は亜人種というほかの仲間とはひと味違う容姿のレイニャですが、彼女のポイントはやはり耳と尻尾でしょうか?

[IMAGE]
細井
 そうですね。亜人種もどこまで亜人感を出すのかと、べにたまさんとはよく相談しました。本作はいろいろな種族が普通に存在・生活している世界ですので、ほかの種族との違いも含めてバランスを取りながらデザインしていただきました。レイニャは気弱な性格ですので、そこも含めてキャラクターデザインで表現できていると思います。

――たしかに小動物感があって守りたい雰囲気を漂わせて、おもわず頭を撫でたくなる感じがします。では、最後はルトガーですが、彼は特徴的なサングラスやギザ歯など、従来の『アトリエ』シリーズにいなかったひと味違う強烈なインパクトを持つキャラクターですね。

[IMAGE]
細井
 ヴィクトルでもお話ししたように、男性キャラクターは歴代の『アトリエ』作品にいないデザインや特徴などを持つ者を登場させたいという狙いがありました。ルトガーのデザインは早い段階で決定していました。

――ルトガーの武器は鎌ですか?

細井
 そうですね。今回キャラクターを描くうえで意識したのは、可変する要素を入れることでした。たとえばユミアが必殺技を使うとき、スカートのボタンをはずして可動域を広げるなど、「こんな要素があるんだ」と気づいてもらえるような設計をデザインや設定に盛り込んでいます。

――性格の変化や見た目のちょっとした変化もいいアクセントですよね。それぞれの戦闘シーンをじっくり鑑賞できる日が楽しみです。ちなみに、公開された6人はアラディス調査団に属していますが、最初から6人そろった状態でスタートするのでしょうか?

細井
 最初から全員がそろっているわけではありません。みんなアラディス調査団に参加していますが、物語が進むなかで参加していく形で、何かしらの意図を持って加入する者もいます。なお、今回はユミアを入れたこの6人で冒険を行います。

――第1報から全員が公開されているのはけっこうめずらしいですね。では、この6人が描かれているパッケージイラストについてもうかがいますが、ユミアが手前を振り返っていて、ほかのメンバーは前方を向いている構図です。どんな意図が込められているのでしょうか?

[IMAGE]
細井
 6人はいろいろな想いを抱えながら大陸の調査に赴くのですが、ユミア以外は調査に対して前向きという意味を込めて前を向かせました。そしてユミアは亡くした大切な母親への後ろ髪を引かれる想いと、自分だけが"禁忌"である錬金術を使うことへの複雑な感情などを抱いているので、それらをアンニュイな表情で伝えるために振り返らせています。

――最近はダウンロード販売もだいぶ主流になり、店頭でパッケージを手に取る機会も少なくなりました。暗めの色合いだと目立ちにくいのかなと思ったのですが、スムーズに決まった形ですか?

細井
 これまでと比べても、比較的スムーズに決まっていきました。。

スケール感が増したオープンフィールドで待つ新たなゲーム体験


――オープンフィールドを縦横無尽に駆け巡ることを全面に押している本作ですが、こんな要素を追加したからゲーム体験が変わるよというアピールポイントを教えてください。PVでは未来的なデザインのバイクで走行するシーンが印象的でした。

[IMAGE]
細井
 テストプレイ中に楽しいと感じるのは、"秘密"シリーズでは乗り越えられなかったような障害物などを壁ジャンプで登れる点でしょうか。これによりストレスなく開放感が味わえて大きく印象が変わると思います。また、探索できるエリアが広がったことで、新しいアイテムを採取できたり、ダンジョンを発見したりといった体験にもつながり、そこは本作のRPGならではのゲーム体験になりますね。

――たしかに『ライザ3』のオープンフィールドも広さや奥行きを感じられるマップデザインでしたが、本作はマップ自体が広くなって、この高さが加わることでもスケール感が増しています。

[IMAGE]
細井
 『ライザ3』は高所から下りていく行動が多かったと思いますが、本作は壁ジャンプを始め、縦の移動という部分でいろいろなアプローチを用意しています。ユーザーさんの選択でフィールドを闊歩できる形になり、採取行動もさらに楽しくなったと思います。

――ちなみにフィールドをデザインするうえでこだわったのはどんな部分でしょうか?

細井
 "ゲームプレイの鮮度"を失わないようなフィールドデザインですね。本作のオープンフィールドは数個の大きなマップをつなぐかたちで構成されていますが、同じバイオーム(気候帯)で冒険する形ではなく、1つのバイオームの中でもしっかり変化をつけ、そのうえでさらに大きなマップごとに明確な特徴づけをしました。

――新しい場所にたどり着いたときに味わえる感動は、RPGのだいご味でもありますよね。ですが、高さを考えてフィールドをデザインするのはかなり大変だったのでは?

細井
 『ライザ3』での経験があるものの、今回は想定以上にフィールドの制作は苦労しています。まさにいまも鋭意制作中なのですが、「この苦労は『ライザ3』でも……いや『ライザ2』や『ライザ1』でも味わった気がするな……」と、フィールド制作の難しさを実感しました。これはある意味"宿命"だと感じています。

――永遠に向き合う課題ですね(笑)。なお、ゲームサイクルは従来のように戦闘・調合・探索をこなすことで物語を進めるスタイルとのことですが、とくに重要になるのは調合でしょうか?

[IMAGE]
細井
 『アトリエ』シリーズでは調合と戦闘がゲームの柱となると考えています。そのため、調合を中心としたゲームサイクルにはなりますが、本作は調合だけをメインに考えてほしいわけではありません。探索でオープンフィールドを闊歩して楽しむ喜びも追求していますし、その過程の戦闘や採取で得たものを使うことで調合や、"ハウジング"などができるようになります。そのため、一概に調合だけをメインで行うゲームデザインではありません。

――"ハウジング"の話が出ましたが、フィールドではこれと"略式調合"という2つの新要素が体験できます。これらを導入した狙いと、どんなことができるのかをそれぞれうかがえますか?

[IMAGE]
細井
 これまではフィールドを踏破する際、探索に必要なアイテムを調合するためにアトリエに戻るというケースがありました。"略式調合"ではそういったアイテムが必要なときにその場で作ることができるため、ストレスなくフィールドを探索できるようになります。

――「探索が順調なのにアトリエに戻らざるを得ない」なんてジレンマもあったので、それはありがたいですね。ちなみに"略式調合"で作れるものは回復薬などでしょうか?

細井
 そうですね。フィールドで使える回復アイテムのほかにも、ジップラインで移動するための道具や、射撃で障害物を破壊するための銃弾などがあります。

――そして"ハウジング"ですが、こちらはアトリエを自分でカスタマイズできる要素でしょうか?

[IMAGE]
細井
 "ハウジング"はさまざまな場所に拠点を作れるようになるシステムで、自分なりにカスタマイズすることにより、ゲーム内にも多少なりともプラスの恩恵がある仕組みです。ハウジングを入れた一番の理由は、これまでの『アトリエ』シリーズでは探索して得たもののほとんどを調合で使うことが多く、あまりそれ以外の使い道を用意できていなかったと。そしてそこが課題でもあると感じていました。

 そうした考えから"ハウジング"で調合のほかにも採取で得たものの使い道を用意しました。土台や壁などの外観や配置する家具などにこだわって、自分だけの拠点を建てることが可能です。なお"ハウジング"はアトリエの機能を持たせることもできますのでRPGの要素としては必須になります。ですが、重要度は低めに設定しており、プリセットで手軽に建築できる機能も入れています。。

[IMAGE]

――ちなみに"ハウジング"はフィールドで実行できるとのことですが、そうなるとアトリエの機能も建物への出入りがなくシームレスに利用できる感じでしょうか?

細井
 シームレスに利用可能です。ただしフィールドのどんな場所でも自由に"ハウジング"できるわけではなく、ハウジングが可能な場所が用意されている形です。

――アトリエでの調合はこれまでどおり、プレイヤーが試行錯誤してこだわりを反映できるものになるのでしょうか?

細井
 そこはユーザーさんが『アトリエ』シリーズで楽しみにされている部分ですし、きちんとこだわれる調合システムになっています。詳細は続報をお待ちください。

――"秘密"シリーズでもおまかせで調合できる簡易モードがありましたが、調合が苦手な方へのアプローチはありますか?

細井
 もちろんです。おまかせで調合できる機能も用意していますので、苦手な方はこちらを利用していただければと思います。

――あとは調合と並んで重要な戦闘ですが、PVを見ると本作もリアルタイムで進行する感じですか?

[IMAGE]
細井
 はい、戦闘はリアルタイムで進みます。

――とはいえ"秘密"シリーズと同じものではなく、何かしらの進化ポイントがあると思いますが、どういった部分が本作の魅力でしょうか?

細井
 『ライザ3』では攻撃や防御を行ったりアイテムを使ったりする部分で、戦闘のリアルタイム性を演出していました。本作ではそこに移動の要素を入れて、ダメージを軽減できる仕組みを用意しました。ジャスト回避というダメージをゼロにする行動もあります。プレイヤースキルに依存する要素の追加で、さらに戦闘の楽しさも増すのではないかなと思いますが、本作では移動や回避を積極的にしなくとも勝てるバランスにしています。

――アクション性が強くなると、その行動を達成できる人とそうでない人でどちらを基準にバランスを取るのか難しくなりそうですね。

細井
 そうですね。そこは気を付けている部分です。アクション操作に慣れていない方がプレイしても詰まらないことを前提にバランスを取っています。とはいいつつも、移動などの操作はそこまで難しくしていませんので、アクションが苦手な方、手間だと感じる方にも楽しんでいただける設計になっていると思います。

[IMAGE]

――自分もそうですが、アクションは下手だけど自己陶酔できるくらいがちょうどいいバランスですよね(笑)。

細井
 やはりRPGとしてキャラクターやストーリーを見ていただきたいですし、そのなかで「戦闘、めちゃくちゃうまくなってない?」とか「このフィールド、こんなものがあったんだ!」など、いろいろな発見や喜びを感じていただける体験をプラスアルファしたいと考えています。一定以上のプレイヤースキルが必要で、何度も挑戦して乗り越えられたときのカタルシスがたまらない、というのもよいのですが、我々としては『ユミアのアトリエ』はそうした方向性ではなく、喜びを積み重ねていく形のゲームにしたいと思っています。

――それを聞いてファンとして安心しました。では最後にガストブランドは30周年を迎えて、今後も『アトリエ』シリーズは続いていくと思います。その長い歴史の中で『ユミアのアトリエ』はどういったポジションの作品になりそうですか?

細井
 本作はガストの中でも最大規模で開発している作品になります。これはユーザーの皆さんが『アトリエ』シリーズを始め、ガストブランドの作品を応援してくださったおかげです。本当にありがとうございます。皆さんのおかげでこのような大きなタイトルとして、『ユミアのアトリエ』を作ることができています。最高のゲーム体験をお届けできるよう全力を尽くして開発チーム一同努力しておりますので、ぜひご期待いただければ幸いです。

    本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります