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クラウドゲームは無線で4K・60フレームを遊べる遅延レス時代に。最新AI技術がゲームに与える影響など、最新テックをユビタスに聞きました【TGS2024】

文:電撃オンライン

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 クラウドゲームのプラットフォーム、クラウドゲームコンテンツの提供などを行う、クラウドゲームの最先端を走る企業・ユビタス。今年も“東京ゲームショウ2024”に出展するということで、シニア・ディレクター中坪知幸氏にインタビューをする機会をいただきました。

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 この記事では、クラウドゲームの今やAIのゲーム活用についてなどについて伺いました。

最新クラウドゲームは遅延しない! 国内に自社データセンターがあることの強み【ユビタス】


――まず、ユビタスさんと言えば『ドラゴンクエストX』へのクラウドゲーム技術提供など、“ゲーム”、“クラウドストリーミング技術”というイメージが強いと思いのですが、主な事業内容を教えてください。

 弊社は2012年の設立当初からクラウドストリーミング技術を利用したクラウドゲーム事業を中心としており、当時からゲームメーカー様にクラウド技術を提供してきています。

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▲ユビタスはクラウドゲームの先端企業として知られています。(公式サイトより)

 電撃オンラインの読者の方に近しいところですと、『ドラゴンクエストX』をはじめ、『バイオハザード7』や『Aliens: Fireteam Elite』など、任天堂様のNintendo Switchのクラウドゲームに技術提供をしてきました。

――あらためて基本の質問になりますが、クラウドゲームとはどんな技術なのでしょうか?

 ご存じの方も多いと思いますが、クラウドゲームはユーザーがゲームをブラウザで遊べる技術です。この技術には、2つの大きなメリットがあると考えています。

 1つ目は、デバイスの垣根をなくせること。原則論にはなりますが、ブラウザが起動できるデバイスがあれば、誰でも同じゲームをプレイ出来ます。しかも、デバイスのスペックを問わずに。

 2つ目は基本的にブラウザサービスになりますので、リンクから瞬時にゲームを起動出来ることです。パッケージの購入やダウンロードが必要ないので、メーカー様にとっても、ユーザーに届けやすいかなと思っています。

 一方、ストリーミング技術によるプレイ環境の提供となるため、プレイ中はネット接続が必要となります。

――プレイヤーにもゲームメーカーにも、さまざまなメリットがあるんですね。

 はい。数年前にさかのぼると半導体供給がひっ迫し、ゲーム機がなかなか購入できないという時期もありました。それが原因で、好きなゲームを遊べなかったという方もいたと思います。そういったときにブラウザで遊べる環境があれば、困ることも少なくなりますよね。

 また今のゲーム機は高性能化し、ゲームの内容もリッチになっています。高性能のグラフィックで遊べるのは、ユーザーのゲーム体験としてはいいものです。反面、必要となる容量が莫大となってダウンロードに長時間がかかったり、ハイエンドのゲーミングPCでなければ快適に遊べないなどユーザー側の負担も増えてきています。その解決に、弊社のクラウド技術が役立つのではと思っています。

――最近はゲーム専用機だけでなく、スマホ向けタイトルも充実しています。スマホはバージョンが変わると遊べなくなることもありますが、クラウドゲームならその問題も解決しますね。

 そうですね。また、スマホには容量の問題もあります。繰り返しになりますが最近のゲームはリッチに作られているので、64GBくらいのデバイスではいろいろなアプリを入れていると、新たなゲームをインストール出来ない場合があります。ストレージ容量の奪い合いも起きてきているわけですね。

 その点、クラウド技術を使ったブラウザ版なら、そもそもインストールする必要がなく、ストレージを気にすることなく遊べるので、ユーザーさんの利便性が高まると思います。

 メーカーさんとお話していてよく聞くのが、容量の大きさがユーザーの離脱率に繋がっているということです。ストアでせっかくダウンロードしてもらっても、通信環境によってはゲーム起動時に、再度数十分データをダウンロードする必要がある場合もあります。そこで、「めんどくさいよ」と感じてしまう方もいますよね。

 弊社のクラウド技術なら、ダウンロードの負担がなくサクサク遊べるので、そこもメリットかなと思っています。

――クラウドゲームを遊んでいない方のなかには、遅延や通信問題のイメージが今も残っている方もいると思います。この数年で技術開発も進み、プレイ環境もかなり良くなっている印象を受けるのですが、いかがですか?

 それこそ、10年前と比べれば雲泥の差ですし、ここ数年でも飛躍的に技術が進化し続けています。当然、遅延問題も圧倒的に改善されました。

 過去のクラウドゲームに遅延があったのは事実で、その理由の1つが、海外のサーバーにつないでゲームを運用している点でした。そうすると物理的に距離があるので、遅延が発生しやすくなってしまう。

 それを解決するため、弊社はクラウドゲームのサービスを提供するために、自社で国内にデータセンターを設立しました。クラウドゲームを手掛ける会社はたくさんありますが、自前のデータセンターを運用して提供しているのは、弊社ならではだと思っています。

 またデータセンターでは、大量のGPU(リアルタイム画像処理に特化した演算装置あるいはプロセッサ)を利用しており、そのノウハウもたまってきています。

 弊社はクラウドゲームやGPUの仮想化技術でいくつも特許を取得していますし、長年の研究でデータ処理の効率化も進んでいるので、遅延という課題はかなりクリア出来ています。

 実際にゲームを遊んでいて遅れている、カクついていると感じることは、ほぼない状態です。最初にお話したNintendo Switchのクラウドゲームでも、アクション性が高い作品のサービスもしています。クラウドゲームであることがストレスになることなく、遊ぶことが出来る環境をご提供出来ているかなと思いますね。

 Wi-Fi環境や通信インフラの整備も、追い風になっています。弊社の努力だけでなく、社会インフラも含め、オンラインコンテンツを体験するのに有利な状況になってきています。

 ぜひ多くのパブリッシャーの皆さんに弊社の技術を採用いただきたいですし、プレイヤーの方も「どうせ遅延するでしょ?」というイメージを一端リセットして、サービスを体験していただきたいです。

――ゲーマーには嬉しい環境ですね。最近では4K、60フレームも家庭用のWi-Fi環境で遊べるという話をお聞きしました。

 遊べます。社内テストでですが、ある格闘ゲームをプロゲーマーレベルの方に遊んでいただき、クラウドゲームであることがわからないクオリティで対戦していただくことができました。

 もちろん、集合住宅などでの回線状況は制限がかかることもありますし、1フレーム単位の判定をシビアに感じながら遊ぶ際にラグを感じることはあるかもしれませんが、通常の家庭の無線通信環境でもかなり高いクオリティでのプレイを実現できるようになっています。

 ちなみに、現在のクラウドゲーム技術での再現が困難なものは音楽ゲームです。一般的な高難易度レベルは問題なく遊べるのですが、最凶クラスの難易度、いわゆる鬼やSSSレベルの同時に大量の判定が1フレーム以下レベルで同時に行われるような譜面になると、プレイヤーが満足する判定結果を出せない状況です。

 音楽ゲームはそもそも音楽のビットレートをどこまで保持すべきかとか、モニタと入力の体感差の調整を含めて、まだ課題が残っている状況ですが、将来的にはクリアしていきたいですね。

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▲遅延ゼロを目指してクラウドストリーミング技術の研究・開発を続けているとのこと。(公式サイトより)

AI実装で、生き生きとしたNPCと交流出来るようになる!?【ユビタス】


――クラウドゲーム以外には、どのような事業を行われているのでしょうか?

 実は、保有しているGPUを全てクラウドゲームに使い切っているわけではありません。遊ぶプレイヤーが多い夜間はゲーム需要が高いのですが、昼間は計算のリソースが空いていました。

 そこで一昨年くらいから、AIの領域に進出しようと、事業として注力するようになりました。2024年4月からはエヌビディアさんに出資していただき、争奪戦になっているエヌビディア製のGPUも比較的有利に入手できる状態です。

 そんななか、クラウドゲーム以外にもGPUをどのように活用するかが主眼になりつつあります。弊社としても、1つのターニングポイントになっているなと感じますね。

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▲クラウドゲームプラットフォームの提供だけでなく、島根県への画像生成AIツールの提供や、テレビ番組への生成AI技術を利用した宣伝動画提供など、さまざまな活動実績があります。(公式サイトより)

――AI技術をどのように開発、活用をされているかのお話も、ぜひ聞かせてください。

 弊社が持っているGPU計算リソースを、いかにほかの事業に利用するか考えるなかで、AIの領域での事業がスタートしました。

 現在はGPUも最新のものを調達し続けており、クラウドゲームに続くメインの事業として、AIを成長させ続けていきたいと考えています。

 ChatGPTやGeminiなど、海外のLLM(大規模言語モデル)が日本でも広く知られています。ただし、これらは英語の文献や英文が元になっているので、日本語に強いかと言われたら、必ずしもそうとは言えません。

 そこで弊社は、日本語、中国語、韓国語の東アジアの言語に特化した大規模言語モデルの開発を目指しています。

 そこから、どういうサービスと連携して、どういう社会実装を目指していくのか。AIは昨今、ビジネスユースのイメージが強いと思います。弊社としてもその領域の連携、提供はしているのですが、独自の取り組みとしてゲーム・エンターテインメント領域の皆様にプラスになるAIの活用方法を提案したいと思っていますし、ソリューションの開発も力を入れてやっています。

――今のお話にも出ましたが、AIのビジネス活用について気になっている方は多いですよね。その反面、画像生成AIの著作権問題など、リスクの心配もありますが、その辺りはどのようにお考えですか?

 画像生成AIについて、クリエイターの皆様がさまざまな懸念を持たれていることを承知しています。「仕事を奪われるんじゃないか」「著作権はどのように保護されるのか」など、法体系の整備を含め、まだまだ課題が多いのが現状です。

 そのうえで、ゲーム・エンターテインメント業界の方々に活用していただくために、いかに課題を解決できるか考えています。

 通常の画像生成AIは、単語を打ち込んだ際にオープンソースのデータにアクセスして、単語にあったものを持ち帰って合成して1つの制作物を作ります。一方、弊社は独自のデータセンターを持っているので、それを活用すれば他社様の著作権を侵害しない仕組みも構築できます。つまりオープンソースのデータにアクセスしなければ、著作権を侵害する心配もないんですよね。

 あるクリエイターさんの著作物の画像、文章のみをトレーニングさせた環境を構築して、そのデータのみを利用して画像や文章を生成し、その権利者の方が使用すれば、理論的には著作権侵害の恐れがないと考えています。パブリッククラウドで運用することも出来なくはないですが、セキュリティの問題がありますし、かなり高額になってしまいます。

 お忙しくて手が回らない作家さん本人に代わって、画像生成AIがスピンアウトを描く、なんてことも不可能ではありません。

 もちろん、賛否両論あることは認識しています。ただ新しい技術なので、積極的に役立てていきたいですね。

――まだまだ未知の領域ですが、その分さまざまな可能性も秘めていそうです。

 はい。この技術は、ゲームにも生かすことができます。自分たちのデータだけの生成AI環境が整っていれば、キャラクターデザインやマップの量産も効率化が図れると思っています。

 また、これまでNPCは定型文の受け答えしか出来なかったのが、AIと連携することで、自然言語でのコミュニケーションを取ることも可能です。それによって、より没入感の高いユーザー体験を提供できるようになると思います。

 NPCに事前に世界観、設定を学習させておけば、おかしなことは話しませんし、ユーザーのイメージを壊すこともありません。

――今までもNPCとパーティを組める作品がありましたが、AIが加わることで、今まで以上に一緒に遊んでいる感じが体験出来そうです。

 パラメータの割り振りもAIを通すことで、より有機的に出来ると考えています。キャラの成長具合、覚えるものの順番や効果も制御できるようになるので、「(人物像から)想像していた通り!」もあるでしょうし、逆に想像を裏切ることもあるでしょうし、そういうプレイ感も面白いと思います。

――ゲーマー的にはファミコンの『ドラゴンクエストIV』でAIに初めて接した人も多そうです。スーパーファミコンの『ワンダープロジェクトJ 機械の少年ピーノ』、PSの『高機動幻想ガンパレード・マーチ』、Xboxの『N.U.D.E.@ Natural Ultimate Digital Experiment』など、ゲーム業界は昔からキャラが自動的に動くシステムを取り入れた作品が多いので、相性も良さそうです。

 ゲーム業界では、早くからAIを使ったおもしろい試みがされてきましたよね。ちょっと早すぎて時代が追いついていなかった部分もありますが、どんどん技術は進歩しているので、AIを活用した新しい名作も出てくるんじゃないでしょうか。

――システム面でも、さまざまな活用ができそうですね。

 ゲーム業界でのAI活用は、ほかにもいくつかあります。その1つが、ローカライズです。すでに一部で取り入れられていますが、AIを活用することで工数を大幅に削減することが出来ます。

――ゲーム・エンタメ業界は特殊な用語や人名などがあるので、それを学習したAIは需要が高そうです。

 最近は、スマホでもフルボイスの作品がかなり増えています。海外向けに調整する際、字幕がいい場合もあれば、没入感を高めるためにフルボイスでという場合もあると思います。

 弊社の技術を活用していただければテキストだけでなく、約40カ国語に対してボイスを生成することが出来ます。言語ごとに声優さんをブッキングして、スタジオを押さえて収録してというプロセスをなくすことができるわけです。

 またデバッグやバランス調整など、QA(品質保証)の領域でのAI活用も有効だと思っています。

 すでに、ソースコードをAIで見てチェックすることは、さまざまな領域ですでに利用されています。

 デバックにはいくつかの段階がありまして、社内で開発テストする場合は直接データにアクセスして修正しますが、開発終盤になると第三者テストがあります。デバック会社さんにロムを渡して、テスターさんにテストをしてもらう形式ですね。

 AIはどちらにも利用できますが、第三者テストで活用できると思っています。例えば、”正しい映像モデル”を学習させておくことで、プレイ映像をフレームごとにチェックしてイレギュラーを探す、つまりポリゴンの抜けや当たり判定のずれをキャッチすることなども可能です。

 事前に学習させておけば構造物の間違いや、ローカライズのうえで消しておいた方がいいものも教えてくれるようになります。

 と、理論上はさまざまな可能性を秘めているものの、現時点ではまだまだ実用化のハードルが多い状況ではあります。ただ、AI分野は短期間で目覚ましく進化しているので、1年もたてば状況が大きく変わっている可能性があります。

――デバックテストは、通常だと普通に1周通してエンディングまでプレイするだけでも時間がかかりますからね。人間では出来ないような状況もテストできそうです。

 最近の作品はマップも広く、アイテムも豊富です。全数テストは、AIの強みが発揮できる部分だと思っています。

 AIは疲れませんので(笑)、24時間プレイできます。そうすると、総プレイ時間がかなり確保できます。繰り返しプレイする、とにかくやり続けると言うのは得意な部分ですので、ゲームの開発工程のなかに組み込んで一緒に制作していくお手伝いをしていきたいです。

 またチュートリアルにもAIは役立つと思っています。ゲームメーカーさんとしてはわかりやすく、細かく説明しているのですが、それが手間に感じて離脱してしまう方もいるんですよね。

 ユーザーがどこに行くか迷ったとき、その状況を判断して、AIが次の場所を教えてくれるような感じですね。ユーザーごとにわからない部分だけ、必要な情報だけを提供できるようになるので、ストレスを減らせると思っています。

 実際、テスト的に海外のゲームのチュートリアルにAIを組み込んでみたこともありますが、かなり好評でした。



 前編はここまで。後編ではAIを使ったVTuber展開(自分でゲームを遊ぶことも可能!)など、さらなるAI技術の今についてお届けします。

“東京ゲームショウ2024”開催概要とユビタスの出展内容


 ユビタスはホール5(05-C47)のAIテクノロジーパビリオン(ビジネスソリューションコーナー内)、および国際会議場(BM-11)のビジネスミーティングエリアに出展。

 9月26日、27日のビジネスデイのみの出展となり、クラウドゲームのデモのデモ、新しいUbi-Chanや、AIのNPCを実装した恋愛シミュレーションゲームのデモなどを展示予定。

  • 会場:千葉県・幕張メッセ(展示ホール1~11、国際会議場、イベントホール)
  • 2024年9月26日(木):ビジネスデイ10:00~17:00
  • 2024年9月27日(金):ビジネスデイ10:00~17:00
  • 2024年9月28日(土):一般公開日10:00~17:00
  • 2024年9月29日(日):一般公開日9:30~16:30
※一般公開日は、状況により開場時間が30分早まる場合があります。

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