東京ゲームショウ2024(TGS2024)で9月26日に実施された、イベントの趣旨や方針を語る基調講演のレポート記事を掲載します。
基調講演には、PlayStationの生みの親として有名な久夛良木健氏(現在はアセントロボティクス株式会社 代表取締役 CEO/近畿大学 情報学部 学部長 教授)が登壇し、モデレーターとしてKADOKAWA Game Linkega/ファミ通グループ代表の林克彦が参加。TGS2024のテーマでもある「ゲームで世界に先駆けろ。」をテーマに、ゲーム市場の今後の展望についてクロストークが繰り広げられました。
PlayStation開発当初は誰も信じなかった、リアルタイムで3D映像を動かすという技術【TGS2024】
まずは久夛良木氏自ら、PlayStation(PS)開発当時を振り返っての想い出話を語ります。
開発の前年、日本にあるゲームメーカー数十社を巡ったとき、各メーカーからは“塩対応”だったとのこと。それというのも、リアルタイムで3D映像を動かすというコンセプトそのものが、当時の技術では信じられないものであったからだそうです。ソニー社内ですら、誰も成功するとは思っていなかったとのこと。
当時は家庭用ゲーム機に限らず、アーケードゲーム、PCゲームでも名作が生まれた時代。とはいえ、ゲームに関するテクノロジーは20~30年で大きく進化するはずだと予測していたという久夛良木氏。来るべき新しい時代で、それに引っぱられるのではなく、みんなで牽引していこうと考えて作ったのが、PSなのだといいます。
さらに、ただゲームというレベルでなく“コンピューターエンターテインメントを作ろう”というのが目的だったと語る久夛良木氏。ちなみに上記のスライドは、今回の講演のために作ったものではなく、PlayStation開発にあたって、当時の久夛良木氏が用意した当時のプレゼン資料であるとのこと。
当時はゲーム開発者の多くが、コンシューマーであればコンシューマー、アーケードであればアーケードと自分たちのジャンル以外のゲーム開発には興味を示さない時代であり、3Dをリアルタイムに動かすというPSのコンセプトも最初は理解されなかったといいます。
その潮目が変わったのが、アーケードゲームを開発するナムコにPSのプロトタイプの映像を見せたとき。「本当にこれが動くのか!」と驚愕されたといい、そこからはPSの開発に注力するようになったとのこと。同時に、ナムコが当時開発中だった家庭用ゲーム機関連の開発をキャンセルしたらしいです。
それがきっかけで「とんでもないことが起こる」という雰囲気になったというゲーム業界。業種を超えてさまざまな人材がゲーム業界に入ってきたのも、この時期とのこと。こうした流れが、新たなエンターテインメントが作られる土壌となったといいます。
また開発エピソードのひとつとして、PSのプロトタイプでデモンストレーションをしたときのメーカーの反応についても語りました。当時デモをした結果、誰一人としてしゃべらなかったのが印象的だったといいます。その反応からデモが失敗してしまったのか……と落ち込んだものの、翌日から問い合わせが殺到したそうです。
そこから開発者向けに開発キットを配布したり、マニュアルを作ったりして本格的に始まったPSのソフト開発史。ちなみに、セガが『バーチャファイター』を発表した時には「ソニーがやっているのはアレ(『バーチャファイター』と同レベル)なのか!?」というリアクションが増えたそうです。当時の思い出として笑顔とともに振り返っていました。
そうして1994年12月3日に発売日を迎えたPlayStation。久夛良木氏の発売日の心境といえば“ロックコンサートが始まるような心境”だったといいます。
その後、ゲーム業界に革新をもたらしたPSの歴史を振り返る久夛良木氏。家庭でプレイするゲームを経て、大人が遊びたいゲームができていったと振り返ります。
久夛良氏の考えるゲーム業界の未来とは?【TGS2024】
PSの歴史を語ったあと、ゲーム業界の今について語る久夛良木氏。
まずは現在のプレイヤーの平均年齢について。今はプレイヤーの平均年齢は34歳になっていて、かつてよりも幅広いユーザー層がゲームを遊んでいるとのこと。
また映画や音楽を超えて、今や28兆円規模の市場に進化したというゲーム業界を振り返り、改めて今まで業界を支えてきた関係者や、何よりファンに向けて感謝の意を述べる久夛良木氏。
さらに全世界でメガヒットを記録する『黒神話:悟空』を一例として、世界中でゲームが作られる現状に希望を持っているとも語りました。
またこれからのゲーム業界については、AIによりインタラクションできる、計算可能な世界が広がっていく可能性があるとも指摘。AIをどう育てていくかによって、時代によって異なるエンターテインメントが生まれると語ります。
また可能性として、技術の発展によりゲームが別の産業と融合する可能性についても言及。ゲーム業界の未来に向けた希望を語るとともに、「ゲームファンが作り上げていく未来について期待している」というメッセージを送り、基調講演は終了となりました。