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1兆円規模となった“いま”のおもちゃ市場。成長を促した2つのキーワードは?【連載コラム:おもちゃとゲームの100年史】

文:電撃オンライン

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連載コラム“おもちゃとゲームの100年史 創業者たちのエウレカと創業の地と時の謎”第47回

8-4 おもちゃ業界の成長とニュルンベルクの夢

 もう間もなくこの連載を終えようと思うが、その前にアニメ、出版、ゲームのいまに続いて、おもちゃのいまに触れておきたい。

 東京玩具人形協同組合が発行する玩具業界の月刊誌『トイジャーナル』2024年8月号に社団法人日本玩具協会が毎年発表している
“日本国内の玩具市場規模調査委”の最新のデータが掲載されている。

 このデータによると、2023年度の日本国内の玩具市場規模は、1兆193億円となって、初めての1兆円越えを達成したという。
 
 それまでを振り返ると、2006年から2013年まで7,000億円台で推移していたものが、2014年以降8,000億円台にかさ上げされ、2019年以降は連続伸長し、2021年に8,926億円、2022年に9,525億円、2023年1兆193億円と、年々成長していることはうれしい限りだ。

 2023年度に玩具市場が初めて1兆円を超えた最大の要因は、前年より425億円売り上げを伸ばして、いまや2,774億円市場となったカードゲーム・トレーディングカードで、市場全体の27.2%を占めるようになった。『ポケモンカードゲーム』が牽引し、『ONE PIECEカードゲーム』や『遊戯王OCG』などもそれぞれ好調。また、プラモデルとフィギュアが好調だったホビー市場も79億円拡大して1,749億円市場になった。プラモはガンプラ、フィギュアは、インバウンド層のお土産需要としてコレクションミニフィギュアなどが売り上げに貢献した。ハイテク系トレンドトイも前年度に続いて大きく伸ばした。筆頭は『Tamagotchi Uni(たまごっち ユニ)』『Original Tamagotchi』といった『たまごっち』の新機種や、タカラトミーの『ぷにるんず』シリーズなど。

 まとめとしては、カードゲーム、ホビー、ぬいぐるみ、ミニカー、ハイテク系トレンドトイなど、2023年度に伸びが顕著だったのは、いずれもキダルト層(キッズ+アダルト=子ども心を持った大人層)までをターゲットにした商品分野とインバウンド層にも人気の商品が揃った商品分野 だったとする。

 さて、バンダイ、タカラ、トミーの歴史を追ってきた身としては、最新のバンダイナムコホールディングスと、タカラトミーの業績も確認しておきたい。

 バンダイナムコホールディングスは2023年3月期で、売り上げが初めて9,900億円に達した。近年の成長を牽引したのはデジタル事業だが、トイホビーも順調で、この年の売り上げはデジタルを上回った。デジタル同様『ガンダム』シリーズ、『ドラゴンボール』、『ワンピース』の商品がメディアとの相乗効果で人気となった。2024年3月期には売り上げが1兆円を超え、前期同様上記キャラのIP展開が、トイホビーでもデジタルでもIPプロデュースでもアミューズメントでも、全分野で活躍した。まさにIP軸戦略が勝利の方程式となった。

 タカラトミーは2024年3月期で売り上げ2,083億円(前年1,872億円)営業利益は目標であった営業利益率10%にわずか1%足りなかったものの、188億円(前年131億円)を上げまずまずの実績を残した。創業100周年を迎えたこの年の6月に富山幹太郎会長の長男彰夫が社長に就任、社長だった小島一洋は会長に就任した。『トミカ』、『プラレール』、『ベイブレード』、『トランスフォーマー』などの定番商品、タカラトミーアーツが展開するガチャ事業、アミューズメントでは『ポケモンメザスタ』、デジタル事業ではカードゲームアプリ『デュエル・マスターズ プレイス』、Switch用ソフト『人生ゲーム』など、総じて定番商品が強みを発揮した。5月には攻めの中期経営計画を発表し、最新では2025年3月期の第1四半期も順調な成長を見せている。

 バンダイナムコについては、ずばり“IP軸戦略”が開花し、そのデジタルシフト、グローバルシフトが成功していることが背景にある。タカラトミーについても同様なところがあって、『トミカ』、『プラレール』、『ゾイド』、『ベイブレード』、『トランスフォーマー』、『デュエル・マスターズ』のような定番商品においても、マンガ、アニメとのメディアミックスを成功させ、IPとして海外含め育成してきた成果が表れた。

 かつての定番商品がIPに進化した姿がそこにある。これは、富山栄市郎や佐藤安太の時代からすれば劇的な変化だ。これまで見てきたゲーム、アニメ、出版(特にマンガとライトノベル)、おもちゃの業界のこのところの強さの秘密はなんだろう。

 それぞれが良質なコンテンツを生み出し続けてきたから? IP(知的財産)という視点が浸透し、メディアのコンバージョン(メディアミックスと言ってもいいが)が高いレベルで成功しているから? コンテンツがデジタル化され、さまざまなな配信プラットフォームを通じてグローバルに発信できるようになった? どれも当たっている。

 おもちゃに限れば、“キダルト”と“定番”という2つのキーワードが示すのは、日本が世界標準となった証ではないか。ぬいぐるみのようなある意味平凡な商品群でも成長したのは、日本のもののデザインや手触りが、子どもにも大人にも、そして世界の人に愛されるようになったからだ。
【毎週火曜/金曜夜に更新予定です】

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