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『メダリスト』5話感想。現実で見ている感覚に陥った光のスケート。ますますいのりと司を応援したくなる“スタート”の回だった(ネタバレあり)

文:米澤崇史

公開日時:

 放送中のTVアニメ『メダリスト』第5話“名港杯 初級女子FS(後)”の感想記事をお届けします。

【注意】キービジュアルより先のテキストでは、『メダリスト』5話の物語に関する記述が多々あります。そのため本編をご覧になってから読むことをオススメします。 [IMAGE]

笑顔から曇った顔まで、ミケの魅力が満載のスケートシーン【メダリスト】

 大会で見事な演技を披露して現時点の1位の点数を獲得し、母・のぞみとの絆を深めることができたいのり。

 続く5話では、いのりをライバル視するミケの出番となります。ミケは今まで基本的に常にしかめっ面で、周囲を警戒するような態度を常に崩さなかったので、演技が始まった瞬間、表情がこれまで見たことがない晴れやかな笑顔に切り替わるギャップにやられました。

 オンモードとオフモードの切り替えと考えると、プロの意識に近いものを感じます(小学生ではありますが)。


 そこから1回のミスで今度は一気に目から光が消え、完全に死んだ表情に変わってしまいましたが……これはこれでちょっと違った良さを感じてしまったのは、おそらく自分だけではないはず。序盤で着地を失敗しても、そこから持ち直せた前回のいのりとは対照的です。前回の司とのぞみのやり取りの場にいあわせていなかったら、いのりも同じようになっていた可能性は高かったんじゃないかなと感じますね。

 「やり直したい」という想いが強すぎたあまり、一度失敗したジャンプを再び挑んでしまったミケ。級にもよるようですが、同じ技を2回いれると2回目は点数にならないというルールは始めて知りました。

 ミケはフィギュアスケート歴が長いので当然知ってはいたと思いますが、一応物語としては飛べなかったジャンプを飛べたというリベンジには成功しているのに、ルール上は完全に無効になってしまうのが、フィギュアスケートのシビアさみたいなのを感じさせます。

 曲が終わったタイミングでは、自分でもやってしまったことを悟った表情のままの一方、フィニッシュのポーズはしっかりと取っているミケが不憫かわいくて、一気に好感度が爆上がりしました。


 何故ミケが大人を敵視しているかの理由も判明し、ミケの短所を長所として受け入れる那智もなんだかんだいって良い大人しているな……と思いました。

 が、あの対応をミケだけじゃなくほかの生徒たちにもやっていたことも分かり、ミケよりも那智の方がいろいろ反省するべきなんじゃないかとツッコミたくもなりました。口の悪さが原因で生徒がほぼいなくなっているのは、コーチとしてなかなかヤバいのではないでしょうか。

自己肯定感が低いはずの司が、憧れの存在に「勝つ」と断言する面白さ【メダリスト】

 無事いのりと仲直りできたミケでしたが、Bパートの冒頭が完全にだいしゅきホールドの姿勢で爆笑しました。今まで離れていたから起きた禁断症状(?)みたいなものかとも思いつつ、いのりを除いて周囲の子供たちは誰も気にしておらず、ミケも何も言葉を発さないのがシュールさを際立てています。

 そして特に目の前のミケに一切ツッコまず、TVカメラの話を振る総太は将来大物になりそうです。あの気難しそうな理凰と普通に仲良さそうにしているのもなかなかすごい。


 そして今回の目玉ともいえる、光のスケートシーンはまさに圧巻……!

 光の演技と音楽にあわせて時折拍手が起きるだけという客席の反応を最小限にした静かな演出は、本物のフィギュアスケートの中継を実際に見ているよう。あっという間に引き込まれました。

 それぞれの細かい技のすごさまではあとから知ることが多いですが、我々が実際のフィギュアスケートを見る時もそのあたりは同じなんですよね。あの「なんだかよく分からないけど惹き込まれる」空気感が再現されているのがすごかった。

 同じスケートのシーンでも、これまでのいのりやミケの演技とは雰囲気が完全に違っていたのは、会場中が光の演技に釘付けになって言葉も発せないという、実力の差が表現されているからなのかなとも思いました。

 なお、それまでの1位が78.44なのと直前にアナウンスされていたので、光が叩き出した97.23という点数は、約20点近くの大差をつけたということに。いかに光が規格外の位置にいるかが分かります。


 また、いのりと本当の光のコーチである夜鷹純の遭遇は、1話の司との出会いを彷彿とさせる流れ。で、司の時は「死なないで……」だったのが、「死んでる……」と過去形になっていたのに笑いました。いのりの声が本当に殺してしまった時のような迫真っぷりなのも破壊力を増しています。

 階段で下敷きになった夜鷹はともかく、床の麦茶で滑って気絶した司は、アスリートとは思えない鈍臭さで若干心配になりましたが(笑)、そんなところも魅力のひとつですよね。


 しかし、そんな司の現役時代を覚えていた夜鷹純。彼は司にとって、フィギュアスケートを目指すきっかけを生み出した、文字通り人生を変えた存在でもあります。

 そんな憧れの存在に認知してもらっていたというのは、本来めちゃくちゃ嬉しいはずなのに、司の表情からは申し訳なさを含んだ感情しか読み取れなかったのが印象的でした。やっぱりこのあたりに関わっているのが、全日本選手権出場という実績に反した、司の自己肯定感の低さなんでしょうね。

 そんな自己肯定感が低いばずの司が、夜鷹に「君が僕に勝つってことだよ」と指摘された瞬間、「勝ちます」と何の淀みもなく答えられるギャップが面白いし、素敵だと思います。いのりと司は自己肯定感が低い似たもの同士ですが、いのりからの司、司からのいのりの評価が互いにめちゃくちゃ高いので、2人が合わさることで結果ポジティブになれる構造なのだと、今更になって気づきました。

 けど、皮肉にも才能の塊で幼少期から英才教育をされてきた光と、遅くからスケートを始めたいのりという構図は、現役時代の夜鷹と司そっくりなんですよね。現役時代は夜鷹との勝負のステージにも上がれなかった司が、いのりを光に勝たせることができるのか、司自身も過去を乗り越えるというテーマが込められているのも熱いですね。

 母に認めてもらったことで、いのりも本気でスケートに打ち込めるようになり、ある種この回が、本当の意味での『メダリスト』へのスタートを切ったと言えるエピソードだったのかもしれません。



米澤崇史:ロボットアニメとRPG、ギャルゲーを愛するゲームライター。幼少期の勇者シリーズとSDガンダムとの出会いをきっかけに、ロボットアニメにのめり込む。今もっとも欲しいものは、プラモデルとフィギュアを飾るための専用のスペース。

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