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『メダリスト』10話感想。理凰といのりの対照的な描写が記憶に残る回。光という天才を前にした2人が抱くそれぞれの想い(ネタバレあり)

文:米澤崇史

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 放送中のTVアニメ『メダリスト』第10話“夜に吠える”の感想記事をお届けします。

【注意】キービジュアルより先のテキストでは、『メダリスト』10話の物語に関する記述が多々あります。そのため本編をご覧になってから読むことをオススメします。 [IMAGE]

スケート以外の部分からもいのりの成長を感じられる【メダリスト】

 米津玄師さんが歌う主題歌“BOW AND ARROW”のMVに羽生結弦さんが出演したことも、大きな話題になっていた『メダリスト』。

 あまりにも豪華すぎる共演が実現しているので、未視聴の方は要チェックです。


 そんな盛り上がりの中で放送された10話では、京都大会から1年が経過しており、いのりは6年生に。級は5級にまで上がり、前回23点台だった大会の点数は58点台にまで伸びていました。この1年間での成長速度を感じます。

 一方、理凰は夜鷹に対して敵意をむき出しにしながら、なぜ光のコーチをやっているのかという、視聴者としても気になる疑問をぶつけていました。が、「お前のほうが必要ない」とあまりにもキツすぎる言葉で黙らされてしまう結果に。

 実際、夜鷹の言っていることも一理なくはないのですが、いくらなんでも小学生に向ける言葉としては攻撃力が高すぎますよね……。


 そんな理凰でしたが、本人の希望によりしばらくの間ルクス東山FSCでの指導を受けることになりました。

 原因は夜鷹との不仲にあるようで、父の慎一郎もそれとなくそれを察してはいるようですが、身近に高め合うような存在がいないことが伸び悩みの直接的な要因だと考えている様子。男子はフィギュアスケート選手の絶対数が少ないそうなので、子どもの頃からずっとスケートを続けている総太の存在はかなり珍しいのでしょう。

 全日本に出ていたとはいえほぼ無名に近い司に対し、慎一郎が躊躇いなく頭を下げるシーンでいかに真面目で誠実な人物であるかが伝わってきます。完全なマンツーマンならともかく、ほかの子供も指導しないといけないコーチという立場としては、息子を贔屓していると思われてはいけませんし、どのくらいの距離感で指導するべきなのか、結構目に見えない部分の気苦労をいろいろな抱えてそうでもあるなと感じました。

 その後、理凰が来ると聞いて、かつてのトラウマを思い出してビビるいのりには笑いましたが、同じ5級と聞いて仲間意識を感じて自分から勇気を出して話しかけにいくのは、スケート以外の部分でのいのりの成長も感じられました。


 ただ、その結果理凰から返ってきたのが「誰……?」という、無関心の極みだったのが悲しい(10話の冒頭でも、理凰はいのりが表彰台に上がる場面を見ているにも関わらず)。

 よく「好きの反対は嫌いではなく無関心」と言われますが、現時点で理凰は、好き嫌い以前にいのりに対して本当に興味をもってないんだなということがよく分かります。

圧倒体な才能を前に、諦めた理凰と立ち向かういのりの差【メダリスト】


 10話のBパートからは、そんな理凰が抱えている内面のコンプレックスも明らかになってきました。

 司から少し褒められただけでかなり嬉しそうにしていたあたり、銀メダリストの息子である理凰は、ある種「できて当たり前」という期待を常にされていて、周囲から褒められるということがほとんどなかっただろうなと。

 慎一郎もタイプ的にそういう言葉をあまり口にしなそうですし、コーチとして接する時は、ほかの子どもたちよりも厳しくせざるを得なかったという事情もありそうです。


 その上で、光という本物の天才を目の前で見続けてきたことで、「どんなに努力しても敵わない相手がいる」という、一種の諦めの境地に達してしまってもいて、選手としては結構深刻な状態にあるように思えます。この点、光の才能をまざまざと目にしながらも、なおその光に勝つことを本気で目指しているいのりとは実に対照的です。

 我々みたいな一般人からすると、そう思ってしまう理凰にはすごく共感はできるのですが、伸び悩んでいる原因にはその諦めの感情が影響しているということも想像できます。

 一方で、そのいのりが司のことを悪く言われたことに対し、明確に怒りの感情を表にして反発したシーンはかなりのインパクトがありました。

 いのりは感情表現は豊かな子ではありますが、今まで自分以外への“怒り”のような感情を見せたことって一度もなかったんですよね。自分のことは何と言われても怒らなかったいのりが、こと司の話になるとここまで激昂するのは、いかに司のことを深く尊敬しているかが伝わってきます。

 ただ、いのりがここまで激昂したのはおそらくそれだけではなくて、「光に絶対勝つ」という一種の自己暗示が働いた結果のようにも思えました。

 今のいのりは、司と一緒に光と夜鷹に勝つことを目標に頑張り続けているわけですが、上達すればするほど、今の光と自分の実力差を正しく認識できるようにもなっているはずで、諦めの気持ちが芽生えかける瞬間というのは、何度もあったと思うんですよね。

 理凰にあそこまで強く「勝つ」と啖呵を切ったのは、その気持ちに負けないように、必死に自らを奮い立たせようとしている姿にも見えました。


 1話でいのりがスケートを始めるかどうかの話になった時、司はいのりを「スケート選手として一番大切なものをもっている」と評価していましたが、まさにこうした一面がそうなんだろうなと。メンタル的な部分では、いのりは光に匹敵する、唯一無二の才能の持ち主なんじゃないかと思えます。

 また、今回個人的にちょっとツボだったのが、実は瞳だけではなく、いのりまでも司の名字を覚えていなかったこと。

 思い返せばのぞみも「司先生」、加護一家も「司くん」呼びでしたし、作中で司を名字の明浦路(あけうらじ)で呼ぶ人物って現状誰もいないことに今更ながら気づきました。とくに◯◯先生って呼ぶ時は名字で呼ぶのが普通だと思うので、名前で呼びやすくなる親しみやすさが司にあるからこその現象ではあるのかもしれません。

 いよいよ物語もクライマックスに差し掛かり、一気に盛り上がってきた『メダリスト』。いのりは理凰との勝負に勝ち、光と同じステージに立つことができるのか、最終回に向けて目が離せません。



米澤崇史:ロボットアニメとRPG、ギャルゲーを愛するゲームライター。幼少期の勇者シリーズとSDガンダムとの出会いをきっかけに、ロボットアニメにのめり込む。今もっとも欲しいものは、プラモデルとフィギュアを飾るための専用のスペース。

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