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『ガンダム ジークアクス』1話感想:TV版で改めて感じる、高すぎるマチュの行動力とエグザべの不憫さ。TV版だからこそ気づけた設定や、次回予告に度肝を抜かれた(ネタバレあり)

文:米澤崇史

公開日時:

 放送中のTVアニメ『機動戦士Gundam GQuuuuuuX(ガンダム ジークアクス)』第1話“赤いガンダム”の感想記事をお届けします。

【注意】キービジュアルより先のテキストでは、『ガンダム ジークアクス』1話の物語に関する記述が多々あります。そのため本編をご覧になってから読むことをオススメします。[IMAGE]

異なる歴史を辿った、“もしも”の一年戦争から派生した物語【ガンダム ジークアクス】

 いよいよ放送がスタートした『ガンダム』シリーズ最新作『ガンダム ジークアクス』。サンライズと、『エヴァンゲリオン』シリーズのスタジオカラーがタッグを組んだことでも、大きな注目を集めてる作品です。

 筆者は根っからの『ガンダム』ファンでもあるので、劇場先行上映版である『機動戦士Gundam GQuuuuuuX -Beginning-』も視聴して、TV放送が始まるのを今か今かと待ち望んでいました。

 劇場先行上映版はTVよりも少し先の展開まで描いているのですが、1話で描かれた範囲より先の展開については極力言及しませんので、映画を見ていないという方もご安心ください。


 まず、『ガンダム』シリーズに詳しくない方向けに簡単に説明すると、基本的に『ガンダム』のアニメは、シリーズ第1作の『機動戦士ガンダム』から歴史が地続きになっている"宇宙世紀シリーズ”と、完全に異なる世界を描いた"オルタナティブシリーズ”の2つに、大まかにカテゴリわけできるようになっていて、本作はその枠組みでいうと"宇宙世紀シリーズ”に当たる作品です。

 ただ、ちょっと他の宇宙世紀シリーズと事情が違っているのが、基本宇宙世紀シリーズはほぼすべての作品で同じ歴史を共有しているのですが、『ジークアクス』は『機動戦士ガンダム』で起きた地球連邦とジオンの戦いである一年戦争の“もしも”の可能性を描いたパラレル作品であるということ。

 そのため、宇宙世紀が舞台にはなっていながら、他の作品とは歴史を共有していないという、独自の位置付けになっています。

 大元である『機動戦士ガンダム』の一年戦争とはいろいろ違いがあるのですが、一番大きいのは、元の一年戦争で敗北した側であるジオン公国側が勝利していること。『ガンダム』シリーズにはいろんな作品がありますが、ここまで思い切った既存作品のパラレル展開を描いた作品は今までなかったので、初めてその設定を知った時のインパクトは凄まじかったです。


 劇場先行上映版である『機動戦士Gundam GQuuuuuuX -Beginning-』は、その一年戦争のパラレル部分のストーリーから始まるのですが、TV版の1話は、その5年後となる映画の後半パートにあたる部分のエピソードからスタートする形となっていました。

 そのためTV版が初見の人にはちょっとわかりにくい部分もあったと思いますが、冒頭でのシャリア・ブルたちジオンの面々の会話を聞くと「ジオン公国が大きな戦争に勝ったこと」、「シャリア・ブルたちは“赤いガンダム”という存在の行方を追っていること」「サイド6は中立のコロニーであること」という重要な前提情報は明かされています。

 現状は、とりあえずこの3つを押さえておけば、その後の展開を理解しやすくなると思います。

インストールデバイスの開発者は……チラつくあの人の影【ガンダム ジークアクス】

 本作の主人公は、そんなジオンの面々ではなく、中立コロニーに住む女子高生のマチュ(アマテ・ユズリハ)。一年戦争は宇宙全土を巻き込んで行われた大規模な戦争ですが、マチュは戦火に巻き込まれることなく、戦争を遠い世界の出来事として、平穏な暮らしを送っています。


 そんな日常を送っているマチュが手にしてしまったのが、本来禁止されている民間用モビルスーツの武器を使用可能にすることのできるインストールデバイスです。

 ちょっと余談なんですが、このデバイスについてマチュが調べるシーン、映画ではスマホの中身を読むのは切り替わりが早くて不可能だったんですが、TVではコマ送りと一時停止を駆使することでその中身を読むことができました。

 そこに書かれていたのは“一年戦争中に連邦軍が開発してガンダムに試験的に搭載されていた”、”その優位性を見出したジオニック社によって模倣品が作られ、既存のモビルスーツに搭載された”、という驚きの内容。

 このインストールデバイス、『機動戦士ガンダム』にも登場していた、テム・レイという人物が開発した装置と外見が似ていて、初めて見た時は「なぜテム・レイの回路が……? この世界でもサイド6にテム・レイがいるのか……?」とか、いろいろ想像していたのですが、元々連邦で作られたものであれば話が変わってきます。ガンダムに搭載されていたことを考えても、一年戦争時代に本当にテム・レイが存在していて、デバイスを作った可能性もあるんじゃないかなと。

 そんな非合法のデバイスを取り返そうと、マチュを探し出すことに成功したニャアンでしたが、何をやってもマチュのほうが一枚上手で、完全に翻弄されていました。

 難民で違法バイトして生計を立てているニャアンと比べると、戦争に巻き込まれず、親の庇護の元で平和に暮らしているマチュは温室育ちなんですが、温室育ち側の方が優位な関係性ってめちゃくちゃ珍しいです。思っていた10倍増しくらいニャアンがポンコツで、それでいて愛らしい存在になってました。


 一方、シャリア・ブルたちジオン側は、“赤いガンダム”を拿捕するべく、エグザべを新型のモビルスーツであるジークアクス(ガンダム・クアックス)で出撃させるんですが、この時のエグザべ、ジークのオメガ・サイコミュが起動せず、不意打ちで武装もほぼ失っているという、これ以上ないくらい不利な条件の中で、赤いガンダムとそれなりにやりあえてるんですよね(しかも初実戦で)。

 とくに、結果的にライフルを失ったとはいえ初見のビット攻撃に咄嗟に反応して回避できていたり、武装がない状態でもビットを撃墜していたり、フラナガン・スクールの首席は伊達じゃないのがしっかりとわかる描写になっています。

 もしジークアクスではなく、普段から使い慣れている機体に乗っていたら、全然ワンチャンあったんじゃないか……とも思えるのですが、シャリア・ブルが「ジークアクスじゃないと赤いガンダムは止められない」と断言し、独断でオメガ・サイコミュの使用許可を出していたほどだったので、まだ2機には何か隠された秘密があるんでしょう。

 それでも、初実戦でロクに動かせないモビルスーツに乗らされ、しかもその相手がガンダムだったというエグザべは、あまりにもハードモードすぎてかわいそうですが……。

次回予告で流れた、あのパートの映像に度肝を抜かれる【ガンダム ジークアクス】


 コントロールデバイスを依頼主に届けることに成功したマチュとニャアンでしたが、赤いガンダムとエグザべのジークアクスの戦闘と、騒ぎを聞きつけた軍警のザクの横暴な振る舞いを目の当たりにすることに。

 この軍警の暴挙と、ニャアンの悲痛な表情を見たことで、マチュは一気に怒りの感情を爆発させます。そこまでは十分理解できるのですが、その後の迷いなく行動に移せるのがマチュのすごいところ(ニャアンを警察に突き出さず、付き添いでここまで来たこともそうですが)。

 モビルスーツなんて一切動かしたことがないにも関わらず、自分がやっつけると言わんばかりに勝手にデバイスを取り付けるのもすごいですし(MSもデバイスも自分のものでもない)、散々好き勝手やったあとに「こんなポンコツじゃ勝てない」呼ばわりする傍若無人さもまたすごい。

 そして極めつけが、ジークアクスを目にした時の「あっちのほうが強そう!」からの乗り換えですからね。これまでの『ガンダム』シリーズの中でも、ここまで軽いノリでガンダムに乗り込んだ主人公はいなかったのでかなり新鮮でした。


 戦争が遠い世界の出来事だったからこそ、モビルスーツを人殺しのための兵器とは思ってなさそうなことも影響していると思いますが(カッコいい乗り物みたいな感覚なのかなと)、今後この独特のマチュの感覚が肯定的に描かれるのか、それとも何らかの変化をしていくのか、気になるポイントです。

 オメガ・サイコミュによるサポートはあったとはいえ、初めての戦闘、それも慣れてないであろう宇宙空間での戦いにもつれ込んだのもあって、一時はかなりの劣勢にまで追い込まれるものの、マチュが"キラキラ”を感じた瞬間に形勢が逆転しています。

 はたしてこの"キラキラ”がなんだったのか、まだよく分かってないのが正直なところではありますが、ありそうなのはオメガ・サイコミュを通して、何者かの声や意思みたいなものが流れ込み、マチュにモビルスーツでの戦い方を教えてくれた……ということでしょうか。

 オメガ・サイコミュを動かせていることや、"キラキラ”空間に入る直前の、宇宙世紀ガンダムお馴染みのひらめき演出からしても、マチュがニュータイプの素質を持っていることはほぼ間違いないと思うんですよね。

 今回の場合、ちょうどのタイミングで赤いガンダムが現れているので、同じニュータイプである赤いガンダムのパイロットがマチュにアドバイスして、あの空間でマチュがそれを感じ取った……と考えると、「よくわかんないけど……なんかわかった!」からの展開が腑に落ちるのかなと。


 ただ、"キラキラ”空間に入る時に、『機動戦士ガンダム』で、ララァ・スンがエルメスのビットを使う際に流れていた効果音が『ジークアクス』でも使われているのが気になるところ。これはただのファンサービスなのか、はたまた何らかの物語的な意味があるのか……後者だと、いろいろな可能性が考えられてちょっと怖いですね。

 また、ここで流れる米津玄師さんの『Plazma』がまたテンションを爆上げしてくれるわけなんですが、ここぞの場面で主題歌が流れるのって、ロボットアニメの定番ではあるものの『ガンダム』の1話としては結構珍しく、このあたりの演出からは鶴巻監督のテイストも感じます。

 ちょうど「飛び出していけ、宇宙の彼方」の歌詞部分で、宇宙にジークアクスが飛び出していくシーンがシンクロするようになっている演出もなかなかニクくて、この曲を流すことを前提に映像が作られた可能性もありそうです。


 あと個人的に気になったのが、ジークアクスがオメガ・サイコミュを発動した時、シャリア・ブルは「動いた……?」と、元々エグザべが起動させられるは思っていなかった(実際そうだったわけですが)ようなリアクションをしていたこと。

 口では「君ならできますよ」みたいなことを言っていたシャリア・ブルの闇のような部分を感じると同時に、結構ダメもとで出撃させられてそうなエグザべに、さらに同情したくなりました。

 TV放送の尺にあわせて、いくつかカットされたシーンもあったようには感じたものの、基本的な流れは先行上映版と同じで、1話のラストがあのあたりのシーンになりそう……という予想も概ね当たっていたのですが、完全に予想外だったのが最後に流れた次回予告です。

 本編の5年前、一年戦争部分にあたる“ビギニング”パートは、それっぽい出来事があったという形で、完全にカットされたものだと思っていたのですが、どうやら2話でその話が描かれそうな予感。

 映画のままだと結構ボリュームがあるので、1話に圧縮するのか、それとも2話分使うのかどうかなど、ストーリーの構成がどのようになっているかも楽しみです。



米澤崇史:ロボットアニメとRPG、ギャルゲーを愛するゲームライター。幼少期の勇者シリーズとSDガンダムとの出会いをきっかけに、ロボットアニメにのめり込む。今もっとも欲しいものは、プラモデルとフィギュアを飾るための専用のスペース。

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