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『機動戦士ガンダムエイト』敵は人間ではなくクリーチャー!? 滅亡寸前の人類、残された最後のガンダム――絶望感にあふれた第1話がたまらない【米澤崇史のガンダム、次に何見る?】

文:米澤崇史

公開日時:

 ガンダムシリーズファンのライター・米澤崇史がオススメのガンダム作品を紹介する連載【米澤崇史のガンダム、次に何見る?】。第6回は『機動戦士ガンダムエイト』を紹介します。

※記事内では『機動戦士ガンダムエイト』1巻のネタバレに関する記述がありますのでご注意ください。[IMAGE]
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ガンダムエース初のオリジナルオルタナティブシリーズ【機動戦士ガンダムエイト】


 今まで、映像化されたガンダムシリーズ作品を紹介してきた本コラムですが、今回はどうしても語りたくなった漫画『機動戦士ガンダムエイト』について語りたいと思います。

 『ガンダムエイト』は、月刊ガンダムエースにて連載中の漫画で、10月23日に第1巻が発売されました。宇宙世紀を舞台としていない独自の世界観である“オルタナティブシリーズ”に分類される作品ですが、既存の映像作品との繋がりが一切ない、漫画オリジナルの世界観で描かれています。

 ガンダムエースといえば、『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』や『機動戦士クロスボーン・ガンダム』シリーズを始め、数多くのガンダム漫画を掲載しているガンダムファンにとってはお馴染みの雑誌ですが、意外にも、漫画オリジナルのオルタナティブシリーズは本作が初。

 原作を担当するのは、『青春ブタ野郎』シリーズの著者であり、『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』の脚本、アプリ『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ ウルズハント』ではシリーズ構成も担当していた鴨志田一先生。

 作画は『機動戦士ガンダム バトルオペレーションCode Fairy』のコミカライズを手掛けた高木秀栄先生、さらにキャラクターデザインを『アトリエ』シリーズで知られる左先生、メカデザインに『機動戦士ガンダム アーセナルベース』のカードイラストや、『装甲娘』に参加されたカネコツ先生ら、錚々たる面々により制作されています。

衝撃的すぎた第1話の展開。まずは何よりも読んでみて欲しい【機動戦士ガンダムエイト】


 そんな『ガンダムエイト』、何よりも1話のインパクトがすごいんですよね。Webで1話が公開された時、衝撃を受けたガンダムファンは少なくないと思います(現在もカドコミで1話は誰でも無料で読めるので、まずはそちらを読むことをオススメします)。


 一番最初に描かれるのは、恒暦2030年の地球。本作の地球は科学技術やバイオテクノロジーが著しく発展していたようなのですが、1話時点で異形の怪物による侵略を受けており、人類の生存者はわずか258名しか残っていません。さらに地球側に残された戦力は、ガンダム1機のみという、これ以上ないくらい絶望的な状況からスタートします。

 その残された“ガンダムジリウス”のパイロットであるナオミ・スバルは、“エイト”という新しい人類として生み出された一人です。生存者の一人であるマリアネラ・ラサラとは恋仲にあり、マリアネラのお腹の中には子供がいることもほのめかされていました。

 マリアネラたち生存者を宇宙に退避させるための作戦が進められる中、異形の怪物(以降“クリーチャー”)の大群が現れ、ナオミは自らの脱出は諦め、ガンダムジリウスで時間稼ぎのため出撃。

 鬼神のような強さを見せたナオミとジリウスは、無事にシャトルを発進まで守り切ることには成功するも、シャトルを見送ったところで限界を迎え、大量のクリーチャーに囲まれた状態で終わる……という、1話からいきなり最終回のようなシーンが描かれることになります。


 一方、2話以降は、1話のラストシーンの続きではなく、ナオミがマリアネラと出会い、1話に至るまでの流れが描かれていくことになります。

 物語の終盤と思われる展開を最初に見せて、あとからそこに至るまでの流れを書いていくというのは、物語の構成でたまに見られるパターンです(ゲームだと『ファイナルファンタジーⅩ』とかもそうですよね)。

 元々こういった系統の構成の作品は好きなので、この時点で引き込まれることが多いのですが、『ガンダムエイト』の場合、次の項で言及しているガンダムシリーズとしての意外性みたいなのもあわさって、とくにインパクトが強かったです。

『ガンパレ』や『マブラヴ』を思い出すクリーチャーとの戦い【機動戦士ガンダムエイト】


 この1話を読んだ時に連想したのが、『高機動幻想ガンパレード・マーチ』や『マブラヴ オルタネイティヴ』『蒼穹のファフナー』のような、正体不明の侵略生物によって地球が滅亡寸前まで追い込まれている系列の作品です。

 ガンダムシリーズといえば、いわゆる人類同士の戦争がほとんどで、クリーチャーのような人間ではない存在と戦うことはかなり珍しいです。

 前例としては『機動戦士ガンダム00』の続編となる映画『劇場版 機動戦士ガンダム00 -A wakening of the Trailblazer-』に登場するELSがそれにあたり、公開当時「人間同士の戦争を描かないガンダムはアリなのか」と、ファンの中でも議論が巻き起こりました。

 個人的には、主役機であるダブルオークアンタに“ガンダム”の言葉が使われていなかったり、劇場版『ガンダム00』は、人類同士が戦うガンダムシリーズ本編のテーマの先を描くという意味合いも込められた作品だと解釈しているのもあって、驚きはあったものの大いにアリでした。ガンダムファンの中でも、概ね好意的に受け入れられていた印象があります。


 以降、ガンダムシリーズも必ずしも人間同士の戦いに縛られる必要はないと思っていたので、『ガンダムエイト』に関してもほぼ抵抗はなかったです(そもそも、自分が『マブラヴ オルタネイティヴ』系統のロボモノが大好物なのもありますが)。

 ただ1話で登場した『ガンダムエイト』のクリーチャーは、現状まったくの詳細が不明で、どんな敵なのかも分かっていません。

 推測できるところとしては、『ガンダムエイト』の世界には、“マザー・スワン”と呼ばれる外宇宙から飛来したとされる巨大生物の化石が土星の環の中から発見されているという設定があります。クリーチャーも、“マザー・スワン”と同様に外宇宙からやってきた生命体である可能性は高いです。

 また主人公機であるガンダムジリウスにも、マザー・スワンから得た技術が使われているらしいのですが、気がかりなのが、1話にガンダムそっくりの外見をしたクリーチャーの個体が登場していること。

 しかもその個体を相手にする時、ナオミが悲痛な表情を浮かべていて、本当に辛そうに戦っているんですね。

 ナオミからすれば、クリーチャーは多くの同胞の命を奪った憎い存在のはず。にも関わらずあの表情を浮かべるということは、あのクリーチャーの元は味方のガンダムだった……というのが可能性の一つとして浮かびます。

 もしこの推測が当たっていた場合、人類側の最強戦力がどんどん取り込まれて敵になっているわけですから、さらに絶望感が増すことになります。


 劇場版『ガンダム00』のELSも人類側の兵器を取り込んで、その姿や機能を再現して戦力にしていて、あのまま戦えば人類はELSに滅ぼされていた可能性もありました。

 人類が地球から追い出されようとしている『ガンダムエイト』の世界は、ELSとの対話に失敗した場合の『ガンダム00』の世界に近いのかもしれません。

ガンダムジリウスの戦闘力は、ガンダムシリーズの中でも屈指。それでもクリーチャーの大群の前には…【機動戦士ガンダムエイト】


 1話ラストでクリーチャーの圧倒的物量の前に力尽きたガンダムジリウスですが、1話の描写を見る限り、ガンダムシリーズの全モビルスーツの中でも、かなりぶっ飛んだ性能をもった機体であることが分かります。

 ジリウスの特徴といえるのが、背中に多数マウントされている“フェザーエクステンション”という放熱板。サイコミュのように無線操作が可能で、クリーチャーを物理的に切断したり、ボロボロだったジリウスの装甲を瞬時に修復したりと、様々な用途で用いられていました。

 しかも操作できるのは自機に搭載しているものだけではないようで、1話ではクリーチャーやモビルスーツの残骸と一緒に地面に放置されていた大量のフェザーエクステンションをナオミが一人で操っています。

 やっていることを見ると、ガンダムシリーズ禁断の話題である“最強のモビルスーツ議論”をする時に必ずといっていいほど名前が上がる、ターンエーガンダムやELSクアンタのような機体に性質は近いのかなと。

 設定的にも、ジリウスはマザー・スワンから得たオーバーテクノロジーを解析して作られているらしいので、人類科学の域を超えたような性能を持っているのには説得力があります。


 大量のフェザーエクステンションを一度に使った時、ナオミが負荷で血を流しているような描写があるのも気になっていて、『水星の魔女』のGUNDフォーマットのように曰く付きの兵器である可能性もあります。

 ただ、いろんな意味で恐ろしいのが、残骸の中に大量のフェザーエクステンションが放置されていたあたり、ガンダムジリウスは量産されていた可能性があるんですよね(1巻時点でも2号機まで存在していることは確定しています)。

 キャッチコピーにある、「残されたガンダムはあと一機」というフレーズも、元々は多数のガンダムが存在していたことを匂わせます。

 もしこの化け物のようなモビルスーツを量産していても勝てなかったとするなら、クリーチャーたちがどれだけヤバイ存在なのか……という話にもなってきて、本当に絶望感がすごいんですよね。

2話以降は、ナオミが幸せだった頃の時代が描かれる【機動戦士ガンダムエイト】


 ……と、1話の話をずっとしてきたのですが、2話以降の本編は、ナオミが巨大なスペースコロニー型外宇宙探査船“アトランティス”の乗員として、仲間たちと出会い、裏で蠢く陰謀に巻き込まれていくドラマも見どころになっています。

 ナオミは“エイト”と呼ばれる、宇宙環境に適応する遺伝子操作を受けた新しい世代の人類なのですが、その優れた能力からそれまでの人類である第7世代との間には深い溝があり、“七つの誓い”という過激なテログループも存在します(このあたりは『ガンダムSEED』のナチュラルとコーディネイターの関係も彷彿とさせます)。

 アトランティスのクルーには第7世代の人類も多く、人類同士のいざこざという、従来のガンダムシリーズらしいドラマも描かれます。なまじその先の展開を知っていると「人類同士で揉めてる場合じゃないよ!」と教えてあげたくなりますが。

 2話以降、ナオミとマリアネラ以外にも、訓練生の中でトップ成績を誇るクインス・レオン、ナオミに助けられた過去をもつフェデリカ・ナスカら、“エイト”のキャラクターが複数登場していますが、1話時点で彼らがどうなっているのか生死は不明。


 1話でのナオミは、皆が揃っていた頃を懐かしみつつ、「マチアスもクインスも ディアンもフェデリカも……みんな行ってしまったな……」と空を見上げながら呟いていますが、皆宇宙に上がったということなのか、それとも帰らぬ人となっているのか、どちらともとれるんですよね。

 仲間たちと絆を深めていく過程が丁寧に描かれているだけに、皆死んでしまうんじゃないかと、ヒヤヒヤしながら読み進めています。ほぼ全員に死亡フラグが立っているようなものですからね……!


 また、きっとナオミにとっては、アトランティスで仲間たちと一緒に過ごしていた頃が一番幸せな時間だったんだろうな……ということも既に分かっているだけに、なんでもない平和なシーンでもどこか切ない雰囲気があったりもするのも独特で、今までにない感情でガンダムの漫画に触れている感覚があります。

 今後、何が転機となってクリーチャーが現れるのか、外宇宙に探査に出たナオミたちがなぜ地球にいたのかなど、どう1話に繋がっていくのか非常に気になるところ。

 漫画発のオルタナティブシリーズとして作られているだけに、今までのガンダムシリーズがやってこなかった試みが盛り込まれていると感じました。

 予備知識が一切必要ない分、ガンダム初心者でもとっつきやすい作風となっており、まだ1巻しか発売されていないということは、当然最新話に追いつくのも簡単です。

 今のうちに、ぜひとも読んでいただきたい作品で、ゆくゆくは『機動戦士ガンダムUC』のような映像化にも期待したいですね。
 

【米澤崇史のガンダム、次に何見る?】バックナンバー(第3~5回)


米澤崇史:ロボットアニメとRPG、ギャルゲーを愛するゲームライター。幼少期の勇者シリーズとSDガンダムとの出会いをきっかけに、ロボットアニメにのめり込む。今もっとも欲しいものは、プラモデルとフィギュアを飾るための専用のスペース。

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