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『兵站将校は休みたい』しろうるり×『汝、暗君を愛せよ』本条謙太郎対談【前編】。主人公2人は似ていないようで…実は似ている?

文:米澤崇史

公開日時:


 軍隊において、戦闘を支える後方任務・兵站(へいたん)業務に焦点を当てた、しろうるり先生が描く異色のファンタジー小説『兵站将校は休みたい』。2026年5月29日に待望の書籍版1巻が発売されます。

 今回は本作の書籍化を記念して、『汝、暗君を愛せよ』の著者・本条先生との特別対談を実施。“このライトノベルがすごい!2026”の新作単行本・ノベルズ部門でも第1位を獲得した同作は、現代から王に転生した“ぼく”の視点から、緻密な心理描写とリアリティ溢れる政治劇を描き高く評価されています。

 一方は中間管理職、もう一方は国家の最高責任者と、立場は大きく違えど、一般的なファンタジー小説とはまったく違う切り口から物語を描いたお2人に、世界観の構築方法やヒロイン造形の裏話、それぞれのルーツに至るまで、たっぷりと語っていただいた濃厚な対談の前半をお届けします。

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しろうるり先生「ものすごく影響を受けて、戻って来られなくなる予感がした」【兵站将校×汝、暗君を愛せよ 対談】


――お互いの作品への印象や、どんなところに魅力を感じられましたか?

本条
しろうるり先生の作品は前作からすべて拝読していますが、堅牢な土台がしっかりとあり、地に足がついている作品を書かれる方だなという印象です。

 私は文章の形自体に面白さを覚えるタイプなので、たまに文章に引っかかってしまうことがあるのですが、しろうるり先生の文章って綺麗で過不足がないんです。展開も急ではないのですが、徐々にボルテージが上がっていき、最後には大きな山場がしっかり用意されている構成もすごく綺麗だなと感じています。

しろうるり
僕の方は、カクヨムコンの初めの頃、明らかに異質なタイトルとキャッチコピーの作品があって、それで興味を惹かれたのが『汝、暗君を愛せよ』でした。読む前から自分の好きなタイプだというのはすぐにわかったのですが、4、5話くらい読んだところで一度無理やり読むのをやめたんです。

――それはどういった理由で?

しろうるり
このまま読み続けると、ものすごく影響を受けて、戻って来られなくなる予感があったんです。元々僕は人の書いたものに影響を受けやすいタイプで、ストレートな模倣になってしまうのが怖かったのですが、実際には影響は受けていて、『暗君』を読む前と後で文章のスタイルは少し変わっていると思います。

 その後、中盤くらいまで書き進めた頃に、第2部のタイトル回収の回あたりまで読み進めたのですが、うっかり家族の前でボロ泣きして、真面目に心配されたという出来事もありました(笑)。それ以降、自分は「暗君に脳を焼かれた」と称して推させていただいています。

 大きくて難しいテーマを平易に読ませるのがまず凄いですし、緻密な背景世界と登場人物の思惑を無理なく読ませる文章力は、本当に高度なことをされているなと思っていて。

 言ってしまえば、プロテニスのロジャー・フェデラーなんですよね。スキルが高すぎるからこそ、難しいことを簡単そうにやっているように見えてしまう。読者としては魅力ですが、同じ作家としては恐ろしさも感じました。

本条
実は私も『兵站将校は休みたい』を7、8話で一度止めて、数ヶ月後にまた少し読んで止めたんです。

 というのも「これはWebじゃなく、書籍で読まないとダメだ」と確信していたんですね。なのでX上ではいつも「いつ本になるんですか」としろうるり先生に圧をかけ続けていました(笑)。

しろうるり
ずっと言われていましたよね(笑)。「ここまで言ってくださるのなら、推薦文を書いてもらわなきゃダメだ」と思い、結果それが実現した上に、対談までさせていただけて大変満足しています。

本条
本で読めたのがめちゃくちゃ嬉しかったので、こちらこそありがとうございます。推薦文も書かせていただけて光栄でした。

 やっぱり縦書きで、本の形でページをめくるという体験が、Webで見るものとだいぶ違うんですよね。決してWeb版がダメという意味ではなく、本のフォーマットになった時に読み味がたまらないということですが。

――Web版の時点でも、1巻は絶対ここがクライマックスだなという構成がわかりやすく、予め本になることを想定しているかのようにも感じました。最初から書籍化を目指されていたのでしょうか?

しろうるり
そうですね。やっぱり「本になってほしい」と思いながら書いていたので、ある程度は想定していました。ただ、最初はもっとコンパクトにまとめるつもりだったのが、想定以上に文量は膨らみましたね。

 今回はコンテストに出す用の作品でもあったので、編集部の方に「ここまでで本として出すんだ」とわかっていただけるよう、最初の1冊目から白熱する展開を盛り込むことは意識していました。

――本条先生は書籍化は意識されていましたか。

本条
いや、それがまったくしていなくて、ただただ好き放題に書きました(笑)。なので結構ムチャクチャな部分があって、書籍化の作業は大変でしたね。

しろうるり
好きにやった結果、あれが書けるのは本当に羨ましい(笑)。

――書籍化にあたって、ご自身の作品をもう一度読み返されたりしたと思いますが、いかがでしたか?

しろうるり
そうですね……。やっぱり、当時は良かったと思っても、後から読むと録音した自分の声を聞かされるのと同じような恥ずかしさがありますね。自分の中にある欲や妄想を改めて直視させられるというか、一種の羞恥プレイみたいな(笑)。

本条
私も、書籍化する時はめちゃくちゃ読み返しました。横書きのディスプレイで読むための文章を縦書きに直すことになるので、細かく手を入れてリズムを整えたくて、音読を何度も繰り返しました。ただ、本になってからは1回も読み返していないですね。

――本条先生は以前、プロットをほぼ作らずに即興で書かれると話されていたのを耳にしたことがあり、個人的にかなり驚いた記憶があります。

本条
そこについては、意図して作っていないわけではなく、純粋にプロットの作り方がわからないだけかもしれないです。

 まず思いついた展開を書いて、それを後からポツポツと繋げて辻褄を合わせていくという流れでやっていて、最初に全体の構成を決めてからアウトプットする、みたいなことは確かにやっていないですね。

――実際、先の展開は連載しながら考えられていたのでしょうか?

本条
連載しながらですね。だいたいは夜にお酒を飲みながら酔い交じりに書いて、起きて危ないところを直しては放り投げるというのを繰り返していました(笑)。

 ただ、書きたいと思っているラストシーンのイメージだけはずっと頭の中にあったので、そこにだけはなんとか繋げねばと、捏ねくり回した感じです。なのでプロットは作っていませんが、ゴールだけは決めていたと言えるかもしれません。

――しろうるり先生はプロットを緻密に組み立てていかれるタイプですか?

しろうるり
僕は逆に、即興で書くのが苦手で、ある程度設計図を引いた後でないと書けないタイプですね。書いている途中、ちょっと寄り道することはあっても、最終的な着地点はプロットからほぼずれないタイプです。

頭を強打したことが小説を書くきっかけに!?【兵站将校×汝、暗君を愛せよ 対談】


――お二人が小説を書き始めたきっかけは何だったのでしょうか。

しろうるり
今とは別の名義なんですが、最初に書いて公表したのは、6年半~7年ほど前に書いた二次創作の短編でした。

 きっかけとしては、当時仕事のストレスが高じていて、仕事と関係のない文章を書きたくなったことですね。元々はTRPGでそういった欲求を発散していたのですが、あの時はちょうどTRPGから離れていた時期で。

 長編については、TTRPGを遊んでいた頃から「いつか長編を書いてみたい」という願望はあったものの、実際には書ききれていないままだったのが、2年ほど前に「自分が創作できる時間はあとどれくらい残っているのだろう」とふと焦りを覚えて。それで自分の現在地を把握するためにも、「まずは全力で10万字書き切ってみよう」と思い立ったんです。

 ちょうどその頃、作家のヤマモトユウスケ先生が書かれた「小説家になろう」で日刊総合ランキング1位を取った作品の構築経緯と振り返りのエッセイを参考に、自分の中に落とし込んで書き始めたのが前作の『侯爵令嬢アリアレインの追放』でした。

――TRPGが創作の原体験としては大きかったのでしょうか。

しろうるり
大きかったと思います。僕の長くいたグループは、それぞれ自分でシナリオを作ってGM(ゲームマスター)をやれる人が複数いて、GMを持ち回りでやっていたりしていたんですけど。

 TRPGのGMと小説って、シナリオを作るところまでは共通していて、その解決をプレイヤーに投げるのか、自分で登場人物を動かして解決するのかの違いで、自分の中では地続きになっているんです。あの経験は、小説を書く上でも役立っていると感じています。

――本条先生は、何がきっかけだったのでしょうか?

本条
私は大学生くらいまでの頃は、日常的に海外の文学や詩に親しんでいて、自分でも書いていた時期があったんです。

 ただ、その後は何十年も仕事一筋だったのですが、ある時お酒を飲みすぎて意識を失い、家の廊下に顔から突っ込んで前歯を2本折るという出来事がありまして……。

――ええっ!?

本条
その時「自分の人生って、この仕事だけで終わるのか?」と頭のモードが切り替わり、違うことをやってみたいと思うようになったんです。後で小説をネットで公開できるサイトがあることを知り、ポツポツ書き始めました。

――両作品ともコンセプトが明確に絞られている作品だと感じたのですが、そもそものアイデアはどのように生まれたのでしょうか。

しろうるり
まず前提に「普通のサラリーマンの中間管理職が頑張る話を書きたい」という着想があり、どんな主人公がどう活躍するのかがわかる作品として、裏方だとわかるように「兵站将校」、その社畜が欲しい「休み」を組み合わせたタイトルを考えました。

――Web版では「休みたい!」ですが、書籍版は「休みたい」に変わっていますね。

しろうるり
そうですね。最初はコメディっぽく軽い感じを出したくて「!」を入れていたのですが、担当編集さんと話し合って、ない方がいいんじゃないかという話になり、取ることにしました。

本条
「コンセプトが絞られている」という話があったかと思うのですが、作者としてはコンセプトを絞ったつもりは全然なくて。むしろ、いろんなところに触手を伸ばしまくったごった煮を、なんとか形にしたみたいな感じです。

 元々は『暗君』のベースになる前の時代のお話を結構硬めのトーンで書いていたのですが、読者はほぼゼロでした。それでも楽しくは書いていたんですけど、後から“転生”というジャンルがあるのを知り、ある日お酒を飲んでいる時に、ノリで現代人をその世界に放り込んでみようと思いついたのが発想の元ですね。

――ファンタジー小説で、戦闘や魔法を使うシーンがないというのはかなり特徴的だなと。

本条
なるほど、確かにそこもコンセプトと言えるのかもしれないですね。

 実際、“戦闘”と“魔法”そして“食事”の3つについては、『暗君』では絶対に書かないと決めていました。というのも、ファンタジー小説として書くつもりはなかったので、ファンタジー要素を極力無くしたかったんです。

――ファンタジー小説にならないように、という意図で“戦闘”や“魔法”を描かないというのはなんとなくわかりますが、“食事”はなぜなのでしょうか?

本条
『暗君』は表面上ポップに始まりますが、非常に非人間的で無機質な作品として書いているつもりなんです。部分的には、感情が高ぶるような場面も存在はしているんですけれども、人間の“生”の生々しさみたいなものを表現したくなくて。“食事”というのは基本的に生きるためにする行為なので、意図的に描くのを避けていました。

昔のグロワスはレフノールと似ていた?【兵站将校×汝、暗君を愛せよ 対談】


――レフノールとグロワスについて、共通する部分や違いはどこだとお考えですか?

しろうるり
共通点を頑張って探すと、良くない状況であってもそれなりの解決策を考えて出せるところかなと。

 一方で、立場、見えているもの、性格とか違いは多いですね。グロワスは、行動としてはまさにトップ経営者なんですけど、性格的には実はあまりトップ向きではないのかなとも感じています。鋭敏すぎるというか、トップをやるには“鈍さ”が足りないんじゃないかなと。

 レフノールは「ぼくの考えた最強の中間管理職」なので、性格的にも中間管理職向きの、適度な鈍さも持っているキャラクターとして設定しています。

本条
個人的には、実は2人は結構似ているところがあると思っています。

 というのも『暗君』の“ぼく”が日本でプレイヤーをやっていた頃のイメージって、結構レフノールに近いんですよ。段取りを考えて、できる限り準備をして、やれることは全部ちゃんとやるタイプ。

 違うのは、レフノールは突発的な出来事に対しても対応力が高く、最終的にはなんとかできる実務能力がある。対して『暗君』の“ぼく”はそれがすごく苦手で、レフノールのタフさや度胸は持っていない部分ですね。

 ただ一方で、物語的にありえない前提なんですが、もしレフノールが偉くなって国王になったら、案外グロワスみたいになるのかなとも思ったりもしています。あの度胸がどこから出ているのかというと、自分が最高責任者ではない、という後ろ盾があるっていうのが大きいんじゃないかなと。

 先ほどのしろうるり先生の意見と真逆になって申し訳ないんですが(笑)、実は意外と似ているんじゃないかなと、密かにシンパシーを感じていたりもしました。

しろうるり
なるほど……そういえば“ぼく”って広告代理店に勤めいてたんでしたっけ?

本条
はい、そのあたりはスピンオフでも触れていますが、広告代理店で営業をやっていました。

しろうるり
ああー……ものすごい激務な人だった。

 お話を伺いながら、“ぼく”ってブラックなところに勤めた後に社長になったと書かれていたのを思い出しました。確かに、ブラック企業に勤めていた頃はレフノールみたいだったと言われるとすごく納得がいきますし、そう考えると共通点も意外と多いのかもしれないですね。

本条
ただ、個人的にはレフノールには嫉妬を禁じ得ないんですよ。「こんなに皆がうらやむ最強主人公、いないじゃん! 若い美人の部下にも好かれてるし!」って(笑)。

しろうるり
(笑)そこは完全に親父の妄想ですよね。読み返して一番恥ずかしいのはその辺なんです。

――でも読者の側からするとそこがたまらないというか。部下の目線から見ても理想の上司ですよね。

本条
そうなんですよ! あれが気持ちいいんです。だからあれでいいんだと思います。

しろうるり
そうであれば良かったです(笑)。

――もし、グロワスの部下にレフノールがいたら、グロワスはどう使いますか?

本条
そもそも、グロワスとレフノールは階級に差がありすぎるので、直接会って話す機会自体がないだろうなと思います。仮に閣僚クラスにまで昇進しているなら、あれだけの能力があるならもう「全部お任せ!」って感じになると思いますね。

 ただ、ああいうタイプの優秀な人材は、簡単にはなびいてくれないんです。給料を乗っければ済むという話ではないので、レフノールにとって何が自己の根源的な価値なのか、という部分を探ろうとすると思います。そこさえ握ることができれば、役員としてバリバリ働いてもらえる。

 あとは家族仲が良さそうなので、親兄弟をしっかり押さえて、きっちり仲良くしておくということはやると思います。逃げられないように(笑)。

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担当者プロフィール

  • 米澤崇史

    米澤崇史

    ロボットアニメを愛するライター。 フリーランスの専業ライターとして10年以上活動。複数のアニメ・ゲーム系のWebメディアでコラムやインタビュー記事を担当し、書籍では主に攻略本・ムック本のライティングに多数関わる。ゲーム会社在籍時は企画・プランナーとしてゲーム開発にも参加。 幼少期からゲームに触れ、主にRPG・SRPG・アドベンチャーゲームを中心にプレイし、とくに好きなのは『テイルズ オブ』シリーズや『Fate』シリーズ。ガンダム系のゲームも好み、『スーパーロボット大戦』や『ジージェネレーション』シリーズはほぼ全作プレイ済の大のファンで、人生のベストゲームは『スーパーロボット大戦α』と『ジージェネレーションF』。

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