第32回電撃小説大賞《金賞》受賞作『さよならアイリスウィッチ』の作者・森上サナオ先生のインタビューをお届けします。

20年前の災厄と無人兵器群【オルク】の暴走により、大地は割れ、“浮遊島”と化した島々に分断された世界を舞台としたガールズファンタジー『さよならアイリスウィッチ ~二人の魔女が紡いだあの夏の記憶~』。
浮遊島を渡り歩く魔女である“アイリスウィッチ”のアセビと、アセビが旅の途中で不時着した島で暮らしていた、少女の姿をした“オルク”であるピエリスとの出会いと交流を描いた作品です。電撃文庫から7月10日に発売されます。
今回はその作者である森上サナオ先生にインタビュー。実は最初は男性主人公を想定していたことなど、執筆の中で変更されていった驚きの要素の数々や、電撃文庫への思い入れが強いという森上先生がどんな作品から影響を受けてきたのかまで、様々なお話を伺うことができました。
索引
閉じる――まず、電撃小説大賞の金賞を受賞した時の心境というのはいかがでしたか?
「そうか、金なんだ」っていう結構フラットな感じで、「よっしゃ金だ!」っていう感じはあんまりなかったです。
というのも、今回電撃小説大賞には作品を2つ応募させていただいていたのですが、本命のつもりだった作品が落ちてしまっていたんです。
自分としても、まさか『アイリスウィッチ』が通るとは想定していなかったのもあって、最終選考に残っただけでも十分すぎるくらいの気持ちでいたら「金賞です」という話をいただいて。もちろん嬉しいは嬉しいのですが、「本当か?」みたいな半信半疑な状態でしたね。
――気合を入れていた本命は、残念ながら落選してしまったと……。ちなみに、そちらはどういった作品だったんでしょうか。
現代舞台のラブコメで、同人音声作品を作る男の子と女の子の話で、「これで大賞を取ってやるぞ」っていう意気込みで新しく書き上げていたものでした。
『アイリスウィッチ』は自分の趣味丸出しの作品で、しかも5年ぐらい前に書いていたものだったんです。
「応募要項は満たしてるからついでに出しておこう」くらいの感覚で出したのが実際のところで、カクヨムに上げてからは2年ぐらいなんですけど、本当に完全に死蔵されていて。
最終選考に残った時点でも、3人ぐらいしか感想がついてなくて、ほとんど誰にも読まれていない作品だったんです。なので、なおさら評価していただいたのが意外でした。
――『さよならアイリスウィッチ』はどういったコンセプトから書き始めた作品だったんでしょうか。
元々は「ポストアポカリプス世界で、主人公がヒロインを助けるため、遠くの危険な場所に乗り込んで何かをする」というのが最初のコンセプトでした。
構想時点では主人公は男の子で、ヒロインの女の子は人造人間的な全身義体で、メインの電脳が衛星軌道上にある人工衛星にあって、なんとかしてロケットを打ち上げてヒロインを助けに行く、みたいな展開を想定していました。
でも途中で「これは自分には書けないな」と気づいて。
そこから自分でも書ける設定として、浮遊鉱石とかの設定を思いついていった結果、現状の形になりました。
――書けない、というのは具体的にどういった意味でしょうか。
純粋に自分の知識不足です。この話を書くなら、しっかりと宇宙技術、ロケットとか人工衛星について描写したいなっていう気持ちがあって。それをするためには入念に知識をつけないといけないのですが、仮に時間を割いたとしても、果たして自分で理解が及ぶ領域なのか……という懸念がまずありました。
あと、ガガガ文庫の『月とライカと吸血姫』とか、しっかりとした宇宙モノをやっている作品がすでにあるんですよね。あのあたりとの比較に耐えうる作品を書ける自信はなかったので、「だったら自分が好きなものを書くか」と思い、方針を変えました。
――確かに、宇宙工学の専門知識を修得するとなると、かなりハードルが高いですよね……。
あと、『アイリスウィッチ』を書き始めたのって2020年頃で、コロナ禍真っ最中の時期だったんです。
あの状況を目の当たりにして、分断された世界を繋ぎ合わせる、ゲームの『デス・ストランディング』みたいな設定も入れていきたいなという想いも湧いてきて。
浮遊島になって分断された世界で、物や人を届ける“アイリスウィッチ”という魔女がいて、“アイリスリット”という浮遊鉱石が存在する……という設定が固まっていった流れでした。
同時に、この設定なら主人公は魔女にしたほうがいいと考えるようになって、それなら女の子同士のお話にするべきだろうと思い、現在の形に近いものになっていった流れです。
――ジャンル的には、どういったイメージで書かれたのでしょうか。
ジャンルというと少し違うかもしれませんが、僕は時雨沢恵一先生の『アリソン』がすごく好きでして。イメージしていたのは、ああいう冒険とか旅モノですね。まぁ、今回のお話に関しては、あんまり旅みたいなことはしていないんですけど(笑)。
――いえ、分かる気がします。確かに話の中で旅をしているわけではないんですけど、世界観の想像が自然と広がる感じが、旅モノっぽい雰囲気があるなと。
世界観については、考えるのが元々好きなタイプなので、RPGみたいな世界を旅する話を書きたいイメージはあったので、そう言っていただけて嬉しいです。
でも、具体的にはジャンルが何なのか、自分でもちょっと分かってないかもしれないですね(笑)。
SFとか百合とかいくつか要素はありますが、特定のジャンルを書こうという意識はなくて、自分の好きなものを集めたら気づいたらこうなっていた……みたいな形です。
――表紙の書影はどういう風に決まったのでしょうか。読んだ時、かなりシリアスな世界観なので、爽やかな書影とは少しギャップもあるなと。
実はそこについては、担当編集さんとも結構話し合った部分でした。
おっしゃる通り、結構内容がシリアスな作品なので、表紙もそれに寄せる案もあったんです。でも、やっぱり“百合”という要素をしっかりと伝えたかったのもありますし、何より可愛らしい表紙のほうが、手にとっていただくきっかけにはなりやすいのかなと。
実際に中身を読んでみると、結構しっかりハード目のお話だったっていうのも、それはそれでギャップがあって印象に残るという話もあって、きさらぎゆり先生にお願いして現在の表紙になりました。
最終的には、アセビとピエリスの関係性にフォーカスはしつつも、浮遊島やポストアポカリプスの要素も伝わるような形に仕上げていただけたと思っています。
「そうか、金なんだ」っていう結構フラットな感じで、「よっしゃ金だ!」っていう感じはあんまりなかったです。
というのも、今回電撃小説大賞には作品を2つ応募させていただいていたのですが、本命のつもりだった作品が落ちてしまっていたんです。
自分としても、まさか『アイリスウィッチ』が通るとは想定していなかったのもあって、最終選考に残っただけでも十分すぎるくらいの気持ちでいたら「金賞です」という話をいただいて。もちろん嬉しいは嬉しいのですが、「本当か?」みたいな半信半疑な状態でしたね。
――気合を入れていた本命は、残念ながら落選してしまったと……。ちなみに、そちらはどういった作品だったんでしょうか。
現代舞台のラブコメで、同人音声作品を作る男の子と女の子の話で、「これで大賞を取ってやるぞ」っていう意気込みで新しく書き上げていたものでした。
『アイリスウィッチ』は自分の趣味丸出しの作品で、しかも5年ぐらい前に書いていたものだったんです。
「応募要項は満たしてるからついでに出しておこう」くらいの感覚で出したのが実際のところで、カクヨムに上げてからは2年ぐらいなんですけど、本当に完全に死蔵されていて。
最終選考に残った時点でも、3人ぐらいしか感想がついてなくて、ほとんど誰にも読まれていない作品だったんです。なので、なおさら評価していただいたのが意外でした。
――『さよならアイリスウィッチ』はどういったコンセプトから書き始めた作品だったんでしょうか。
元々は「ポストアポカリプス世界で、主人公がヒロインを助けるため、遠くの危険な場所に乗り込んで何かをする」というのが最初のコンセプトでした。
構想時点では主人公は男の子で、ヒロインの女の子は人造人間的な全身義体で、メインの電脳が衛星軌道上にある人工衛星にあって、なんとかしてロケットを打ち上げてヒロインを助けに行く、みたいな展開を想定していました。
でも途中で「これは自分には書けないな」と気づいて。
そこから自分でも書ける設定として、浮遊鉱石とかの設定を思いついていった結果、現状の形になりました。
――書けない、というのは具体的にどういった意味でしょうか。
純粋に自分の知識不足です。この話を書くなら、しっかりと宇宙技術、ロケットとか人工衛星について描写したいなっていう気持ちがあって。それをするためには入念に知識をつけないといけないのですが、仮に時間を割いたとしても、果たして自分で理解が及ぶ領域なのか……という懸念がまずありました。
あと、ガガガ文庫の『月とライカと吸血姫』とか、しっかりとした宇宙モノをやっている作品がすでにあるんですよね。あのあたりとの比較に耐えうる作品を書ける自信はなかったので、「だったら自分が好きなものを書くか」と思い、方針を変えました。
――確かに、宇宙工学の専門知識を修得するとなると、かなりハードルが高いですよね……。
あと、『アイリスウィッチ』を書き始めたのって2020年頃で、コロナ禍真っ最中の時期だったんです。
あの状況を目の当たりにして、分断された世界を繋ぎ合わせる、ゲームの『デス・ストランディング』みたいな設定も入れていきたいなという想いも湧いてきて。
浮遊島になって分断された世界で、物や人を届ける“アイリスウィッチ”という魔女がいて、“アイリスリット”という浮遊鉱石が存在する……という設定が固まっていった流れでした。
同時に、この設定なら主人公は魔女にしたほうがいいと考えるようになって、それなら女の子同士のお話にするべきだろうと思い、現在の形に近いものになっていった流れです。
――ジャンル的には、どういったイメージで書かれたのでしょうか。
ジャンルというと少し違うかもしれませんが、僕は時雨沢恵一先生の『アリソン』がすごく好きでして。イメージしていたのは、ああいう冒険とか旅モノですね。まぁ、今回のお話に関しては、あんまり旅みたいなことはしていないんですけど(笑)。
――いえ、分かる気がします。確かに話の中で旅をしているわけではないんですけど、世界観の想像が自然と広がる感じが、旅モノっぽい雰囲気があるなと。
世界観については、考えるのが元々好きなタイプなので、RPGみたいな世界を旅する話を書きたいイメージはあったので、そう言っていただけて嬉しいです。
でも、具体的にはジャンルが何なのか、自分でもちょっと分かってないかもしれないですね(笑)。
SFとか百合とかいくつか要素はありますが、特定のジャンルを書こうという意識はなくて、自分の好きなものを集めたら気づいたらこうなっていた……みたいな形です。
――表紙の書影はどういう風に決まったのでしょうか。読んだ時、かなりシリアスな世界観なので、爽やかな書影とは少しギャップもあるなと。
実はそこについては、担当編集さんとも結構話し合った部分でした。
おっしゃる通り、結構内容がシリアスな作品なので、表紙もそれに寄せる案もあったんです。でも、やっぱり“百合”という要素をしっかりと伝えたかったのもありますし、何より可愛らしい表紙のほうが、手にとっていただくきっかけにはなりやすいのかなと。
実際に中身を読んでみると、結構しっかりハード目のお話だったっていうのも、それはそれでギャップがあって印象に残るという話もあって、きさらぎゆり先生にお願いして現在の表紙になりました。
最終的には、アセビとピエリスの関係性にフォーカスはしつつも、浮遊島やポストアポカリプスの要素も伝わるような形に仕上げていただけたと思っています。
アセビとピエリスが生まれるまでと、“百合”について
――アセビとピエリスの2人について、どういった風にキャラクターを固めていったのでしょうか。
まず先に決まってたのはピエリスで、サイボーグだったり全身義体の女の子だったりというヒロイン像が最初にありました。
人間的な感情は持ってるけどフラットな感じで、主人公と出会って交流していく間に、どんどん情緒豊かになっていく……というイメージも早めに固まっていて、その展開に合う主人公像として、アセビのキャラクターを決めていきました。
――ピエリスの性格的なところは、どういったところから固めたのでしょうか。
ピエリスの性格は、真面目な委員長キャラみたいなのを想定しながら書いていました。
自分はギャップがあるキャラ同士の組み合わせが好きなのもあって、ピエリスとアセビは、“真面目な委員長と不真面目なギャルの百合”をイメージしているんです。
と言いつつ、融通があまり利かなそうな敬語ヒロインが個人的に好きというのもありますが(笑)。
――ピエリスを最初に読んだ時に感じたのが、いわゆる「おもしれー女系」でもあるなと。真顔で面白いことをやる系のキャラだなという印象があって。
そうですね。その系統は自分も好きなので、「クソ真面目なんだけど、よくよく見ると変なことやっている」みたいな所を作って、アセビにツッコミキャラをやらせよう、というところも含めて考えていました。
―― もっとメカメカしてる存在なのかなとイメージしたので、ほぼ人間に近い見た目だったのは少し意外性もありました。
そこは自分の至らなさでして。他の人に読んでもらった時にも、まったく同じ指摘を受けたことがあったんですよ。自分の中では、「こう書いたら皆そう思うだろう」という思い込みがあったんですね。
人間のDNAを培養して作られた、とちょっとだけ説明は入れているのですが、サイボーグはサイボーグでも、機械系ではなくバイオ系というか、かなり生身の人間に近い存在です。
例えるなら『GUNSLINGER GIRL』の義体のような、皮膚とか骨、内臓は強化されているけど、脳はほぼそのまま……というイメージです。
――主人公のアセビのキャラクターはどのように決まったのでしょうか。
実は、最初は故郷を追放されて、復讐のために行動しているという、結構重い過去を持たせていたんです。
ただ、百合モノに変えた後、ピエリスと絡ませるには何を重視するべきか考えて、変なことをやるピエリスにツッコミを入れられるくらい、心に余裕がある明るいキャラクターのほうが良さそうだと。
あとは、主人公とヒロインの絡みを描く上で、主人公側のバックボーンに、ピエリスを絡ませにくかったという問題もありました。
なので暗いバックボーンはなくして、大好きなお母さんがいなくなっちゃったから後先考えず飛び出しちゃう、ちょっと無鉄砲な感じの主人公像に近づけていった流れでしたね。
――ちなみに男主人公だった時は、どういったイメージだったんでしょうか。
割と早い段階で女の子主人公にしたので、細かく決めていたわけではないのですが、男主人公の時は、すごい昔の作品ですけど『未来少年コナン』の主人公みたいな、わんぱくで元気なタイプを想定していました。そこにロケットを作るためのクラフト能力的なものを持たせて……みたいなイメージですね。
――百合という言葉が何度か出てきましたが、最近の作品はいわゆる“Love”ではなく“Like”くらいのニュアンスに留めるものが多い印象がありますが、本作は結構しっかりと踏み込んでいる印象を受けました。
確かに最近の主流はそっちなのかなと思うのですが、まずこの作品を書いたのって5、6年前頃で、その頃の自分は「百合を書くなら、これくらいはやらないとダメだろ」っていうくらいの強い気持ちがあって(笑)。
とくに書いていくうちにアセビとピエリスの関係が想定してた以上に深くなったのもあって、これははっきりとLoveの方向で書かないといけないなと思いました。
――男性のメインキャラクターがいないのも意図的なものでしょうか。
そうですね、意図はあります。前提として、自分があんまりたくさんキャラを出すのが苦手なタイプでして、基本的に物語は最低限の人数で面白いお話を書こうと心がけているんです。
なので、決して「百合の世界に男はいらねぇ!」……という過激派なわけではなくて、純粋に物語上必要な存在ではないので入れなかったという形です。
もし次も百合をテーマにするのであれば、基本的にはメインキャラクターは女性に絞ると思いますが、『リコリス・リコイル』の先生(ミカ)とか好きなんですよね。ああいうポジション的にハマるキャラクターが思いついた場合は、メインに男性を入れることもあるかと思います。
“アイリスリット”と“アイリスウィッチ”から世界観が広がっていった
――本作の強みであるSFの世界観はどういう風に固めていったんでしょうか。
まず最初に「ポストアポカリプスものを書きたい」という想いがあり、そこから「なんで世界がそうなったのか?」という流れで設定を考えていきました。
それから一番世界観に膨らみが出たのは、やっぱり“アイリスリット”と“アイリスウィッチ”という2つの設定を思いついた時ですね。
そこが固まった後は、「どうせなら世界がバラバラになっちゃった原因もその鉱石が原因になったほうが面白いよな」と思いついて、ならその原因になったのはそれを操る魔女で……と、トントン拍子で設定が決まっていきましたね。
――先生は設定をガチガチに組むタイプですか、それとも書きながら作っていくタイプでしょうか。
ちょうど合いの子みたいな感じですね。話を作る前にはある程度は考えますが、実際に書きながら、その都度変えていくことも多いです。
昔は結構ガチガチに固めてから書き始めることも多かったんですけど、そうすると設定に縛られてしまって、肝心のお話が面白くならないことになりがちだったんです。
なので、話が面白くなるようなら、設定を変えることは躊躇しないように常に意識しています。
――SF系の作品って設定が多いので、一冊中では設定を伝えきれなかったり、逆に設定が多すぎたりのバランスの難しさがあると思いますが、本作は過不足ない絶妙な配分でまとまっているように感じました。
確かに、設定を説明しすぎない点は、自覚して気をつけている部分です。
そもそもとして自分自身が設定を作るのが好きで、「この説明がないと分からないのでは?」ということをすごく気にするタイプなのもあわさって、気を抜くと設定だらけの文章になってしまうんですよ。なので意識して省くという調整はやっていましたね。
――先程の登場人物を無駄に増やさないのもあわせて、引き算の創作を得意とされているのかなという印象も受けました。
いや、どうなんでしょうね。実はコロナ禍の頃、青木健生さんという漫画原作などをされている方が主催の“WCG”という創作グループに入れていただいて、そこで作品や企画書を出して、いろんな方に意見をもらえる機会があったんです。
その時に、物語を理解してもらう上で必要な説明はどのくらいなのか、という肌感が得られたのが大きかったと自分では思っていますね。
――逆に、「もうちょっと書きたかったけど書けなかった」みたいな部分はありますか?
自分はミリタリーが好きなので、世界があの状態になる原因になった“ケートス”っていう巨大戦艦の設定とか、“アイリスリット臨界放射線射出装置”の設定はもっとしっかりと書きたかったんですけど、書いてる途中で「これ全然物語に関係ないよな」と気づいて自重しました(笑)。
――自分もSF的な設定が好きなので、“臨界放射線射出装置”という単語から溢れるロマンで心踊ります。
分かってくれる方がいてよかった(笑)。
あとは作中で、アイリスリットがどういう風に動いているのかとか、詳細な説明を入れてないんですよ。実際にはそこも結構考えていて、個人的には入れたい想いもあったのですが、やっぱり今回はアセビとピエリスの話には関係がないということで、最終的にはカットしました。
『リバーズ・エンド』や『雲のむこう、約束の場所』から影響を受けたエンディング
――本作のあらすじは、ある程度「こういう終わりなのかな」と想像が膨らむものでしたが、いざ読んでみると、その想像とは違った結末になっていました。こういうミスリードは意図されていたのでしょうか?
そうですね。僕は映画が好きなんですが、映画の予告編って、予告から想像していた内容と全然違うことってあるじゃないですか。あれに近いことをやってみたいなと常々思っていたんです。
おそらく「さよなら、アセビ」「またね、ピエリス」の台詞からきっとラストを想像されたと思うのですが、あれは改稿作業をやっている時に「この台詞を入れたらミスリード的なものを誘えるかもしれないな」とふと思いついて入れたものでした。結果的に、上手くハマってくれたのなら良かったです(笑)。
――完全におっしゃる通りで、見事に先生の手のひらの上で踊らされていたようです(笑)。一方で、本作のエンディングは、希望はありつつも切なさもある終わりになっていましたが、先生の“癖”みたいなものが影響していたりするのでしょうか?
たぶん影響してます。
自覚症状はなかったんですが、ふと自分で書いた作品を読み返してみたら、今回とほぼ同じパターンのエンディングがいつもあって、自分で「どんだけ同じパターンで終わらせてるんだ」とツッコミを入れたくらいでした。なのできっと好きなんだと思います(笑)。
エンディングでいうと、橋本紡先生の『リバーズ・エンド』とか、新海誠監督の『雲のむこう、約束の場所』とかの結末が好きだったので、あのあたりの作品から受けた影響が大きかったと思いますね。
――プロットを作った時から、一番大きく変わったところはどこでしょうか?
一番大きかったのはアセビの母親であるシオンを登場させたことです。
当初は本当にアセビとピエリスだけのシンプルな話だったんですけど、どうしてもそれだけだと大きく感情を動かされるような場面が少なくて、ちょっと強引だったんですけど、後からねじ込みました。
――シオンの存在は、むしろ一番最初に決めた要素だったんじゃないかと思うくらい綺麗にハマっていたので、後から追加されたという話は驚きでした。
自分でも頑張ったつもりのところだったので、そう言っていただけると嬉しいです。
あとはアセビの姉弟子であるリナリアの存在もそうですね。中盤から登場するのに、よく分からないキャラを出しても面白くないというところで、アセビの姉弟子という立ち位置に加えて、ちょっとドロドロした要素も担ってもらおうと。
――今までのお話もあわせると、かなり変更部分が多いですよね。プロットに縛られずに書かれているという印象を強く受けました。
本当は、できるだけプロット通りに書けるようになりたいと常々思っているんです。
ただ、結構時間をかけて書いちゃうタイプなのもあって、書いている途中に「これは面白いかも」みたいなネタが湧いてくるんですよね。それでどんどん中身が変わっていくという。
――それでこれだけ綺麗にまとまった作品が出来上がっているのが素晴らしいなと。
いや、今回は何か奇跡的にうまくいったんじゃないかと思っています(笑)。
――書籍化に当たって変更した部分はありますか?
『アイリスウィッチ』は、元々カクヨムで公開していた作品なのですが、カクヨム版にあったとあるキャラクターのパートを全カットしたことですね。
ページ数を減らすためではなく、そのパートがあることによって、アセビとピエリスへの感情移入の邪魔をしてしまっているなと気づいて。
担当編集さんとも話し合って、書籍版ではアセビとピエリスの関係に集中して読んでいただきたいということで、該当パートは全カットしました。
ライトノベルを読み始めたきっかけは、電撃PlayStationを間違って買ったこと!?
――アセビは原付で一人旅をしていますが、先生ご自身も旅がお好きなんでしょうか。
好きですね。正確には、好きなのは旅というよりは現実逃避なんですけど(笑)。
今回の電撃小説大賞の選考期間中って、ちょうど仕事を辞めた頃のタイミングで時間があったので、1ヶ月ぐらい車中泊で日本中を旅してました。
――1ヶ月も!? それはかなり本格的ですね……。
西は確か広島くらいまで行って、そこからフェリーで北海道に行って、北海道をぐるっと一周して……。
確か北海道にいた時、一泊する予定だった駐車場で電撃小説大賞の一次選考の結果が出たんですよ。本当は就職活動しないといけないんですけど、送った作品が2作とも一次選考を通過していたのを確認して「まだやらなくていいか」と現実逃避して旅を続けたことを覚えています(笑)。
それより前にも、スーパーカブに乗って北海道を旅したりもしていたくらいだったので、旅は好きですね。最近はちょっとご無沙汰になってしまっているのですが。
――結構アウトドア派というか、外に出るのがお好きなのでしょうか?
だと思います。大学時代は登山部で、就活するのが嫌すぎて、山小屋に2シーズンくらい籠もっていたこともあるくらいです(笑)。
インドア的な趣味も全然好きなんですけど、しばらく家の中にいると、反動で外に出たくなるタイプですね。
――そこから小説を書くようになったのには、どういったきっかけがあったのでしょうか。
小さい頃から、ジブリ作品とか『ドラえもん』を見て、お話を考えることは好きでした。ただ、いわゆる活字の本は全然読んでいなかったんです。
きっかけになったのは、昔『電撃ゲームキューブ』というゲーム雑誌を買おうとして、間違えて『電撃PlayStation』を買ってきたことがあったんです。そこに『キノの旅』の広告が載っていて、初めて見た黒星紅白先生のイラストがあまりに幻想的で、「すごい。読んでみたい」と思ったんです。
それからライトノベルを読むようになって、元々物語を作るのは好きだったので、小説なら自分でも書けるなと思って。中1か中2くらいから書き始めましたね。
――その頃にはどんな小説を書かれていたか覚えていますか?
当時一番ハマっていたライトノベルが、川上稔先生の『終わりのクロニクル』なのですが、ああいう現代っぽい時代に、異世界や異能力みたいな要素が存在している……みたいな作品を、書こうとして、結局書けなかったですね。
代わりに、自分が夢で見た風景を文章にする、幻想小説みたいなものを書いていたような記憶があります。
――話を聞く限り、影響を受けた作家さんとなると、やはり時雨沢恵一先生の存在が大きいですか。
大きいですね。でも時雨沢恵一先生の他にも、秋山瑞人先生の『イリヤの空、UFOの夏』とか、電撃の作家さんだと杉井光先生の『神様のメモ帳』あたりの作品から受けた影響も大きいと思っています。
――確かに、2000年代の電撃文庫の作品にあった空気感のようなものも感じました。
僕自身があの時代のライトノベルを読んで育ってきた世代なので、実際そうだと思います。
昔から読まれている方には、あの時代のラノベの空気感思い出して、「懐かしい」と思っていただけると嬉しいですし、当時を知らない若い読者さんにも「面白いな」と思っていただけるのが理想だなと思います。
――お話を聞いていると、電撃文庫というレーベルの存在は大きかったのでしょうか。
めちゃくちゃ大きいです! 電撃文庫と出会っていなかったら、間違いなく今の自分はなかったと断言できるくらいですね。
電撃小説大賞にはこれまでにも何度が応募したことはあったのですが、どれも一次選考で落ちていて、自分にとって憧れの賞だったので、まさか自分が電撃文庫からデビューさせていただけることになるとは……という感覚です。
『アイリスウィッチ』に影響を及ぼしたのは、『エースコンバット』シリーズだった!?
――先ほど、電撃PlayStationや電撃ゲームキューブの名前も出ていましたが、普段ゲームは遊ばれますか?
最近はあまり触れられていないのですが、ライトノベルにハマっていた頃は結構やっていました。
とくに好きだったのは、『テイルズ オブ』シリーズや『バイオハザード』シリーズ、あとは『エースコンバット』シリーズで……とくに『エースコンバット』シリーズからは、『アイリスウィッチ』を書くにあたってもかなり影響を受けています。
――具体的には、どういった形で影響が出ているのでしょうか。
まずは戦艦のような巨大兵器が出てくるところですね(笑)。
あとは『エースコンバット』の魅力って、リアルなだけではない、プレイして気持ちいい爽快感が重視されているところにもあると思っていて。本作にもせっかく、アイリスリットという浮遊鉱石があるので、現実にはない爽快感のある空戦みたいなのが書ければ良いなと思っていました。
シリーズの中だと、『エースコンバット5』や『エースコンバット ゼロ』がすごく好きで、とくに『5』のストーリーの冒頭のナレーションとかは、本作でもちょっとだけオマージュさせていただいています。
――先生は「カクヨム」などのWeb上でも執筆されていますが、新人賞に応募する用の作品と、ネットに上げる用の作品で書き分けたりされているのでしょうか?
あまり意識して書き分けてはいないですね。
というのも、『アイリスウィッチ』をカクヨムに上げていたのも、公募でダメだった作品や、ふと思いついた短いお話を「誰にも見られないのは承認欲求が満たされないから、一応出しておくか」という感覚でアップしていただけだったので。
タイプとして、最近の流行りを汲むスタイルが苦手なのもあって、自分の好きなものを書くというスタンスでやってきました。
――普段はどういったジャンルを書かれることが多いのでしょうか?
いわゆる異世界ものはあまり書いてなくて、ファンタジーっぽい世界でも、深掘りすると現実世界と地続きだった、みたいな世界観が好きで、最後は少しほろ苦く終わるような話ばかり書いていました。
――百合的なところはいかがでしょうか?
読むのは昔から好きでしたが、実はしっかりと百合を書いたのは今回が初めてでした。
恋愛描写がメインのものや学園舞台のメインストリームな作品にはあまり触れていなくて、宮澤伊織先生の『裏世界ピクニック』みたいな作品が好きで、もし自分が書くならああいった少し変わり種の百合を描きたいと思っていました。
ただ、今回は「魔女のお話だから、メインは女の子同士だろう」という流れで百合になったので、完全に百合を主題に書いたというわけでもないですね。
――小説を書く上で、大切にされているこだわりはありますか?
登場人物や物語の世界に対して、できるだけ真摯であることを心がけています。
主人公はどうしてそういう人間になったのか、どうしてその行動をとったのかを深く考えて、最終的には面白さを優先するとはいえ、作者都合の骨組みが見えてしまわないように肉付けしてあげるようにしています。
あとは、インタビューの最初でもお話した、できる限り最小限のキャラクター数でお話を面白く転がすことは意識しています。
――読者に「ご都合主義」が見えないよう、納得感のいくものを提供するということですね。
そうですね。ただ、昔はキャラクターを作るのがすごく苦手だったんです。
世界観や設定を作り込むのが好きなタイプなので、AとBを組み合わせてCになる……というロジックで積み上げていくと、そこから外れる行動をとるキャラクターに「おかしいだろ」とツッコミが生じてしまう。
実際に「この人は本当にいるかも、この世界は本当にあるかも」と思ってもらえるようなキャラクターにしたいと思うようになったのは、やはりいろんな人に作品を読んでもらい、「このキャラクターの行動、ちょっとおかしくない?」と意見をもらえた経験が大きかったですね。
――最後に、読者へのメッセージをお願いいたします。
『さよならアイリスウィッチ』は夏にぴったりの作品なので、ぜひ夏の間に読んでいただきたいです。
あるいは、少し寝かせて、夏がそろそろ終わりそうな時期に読むのもエモいかもしれません。
ぜひ手に取って、アセビとピエリスという2人の関係性に“尊さ”を感じていただければ嬉しいなと思います。

『さよならアイリスウィッチ ~二人の魔女が紡いだあの夏の記憶~』作品概要
災厄に沈んだ世界で出会った二人の魔女が紡ぐガールズファンタジー。
「彼女が空から落ちてきたあの夏の日を、はっきりと憶えています」
二十年前の災厄により大地は空に浮かぶ浮遊島と化し、無人兵器群【オルク】の暴走によって、人々は島に閉じ込められ世界は分断された。
そんな孤立した世界で空を駆け、浮遊島を渡り歩く魔女《アイリスウィッチ》のアセビは、失踪した母を捜す旅の途中で不時着した島で少女の姿をしたオルク、ピエリスと出会う。
アセビはピエリスに拘束され奇妙な共同生活が始まるが、やがて二人は惹かれ合いお互いの心と過去に迫っていく……。深まる絆、そして明かされる災厄の真実とは――。
「さよなら、アセビ」
「またね、ピエリス」
終わりゆく世界で出会った魔女が紡ぐひと夏のガールズファンタジー。
著者:森上 サナオ
イラスト:きさらぎ ゆり
発売日:2026年7月10日
定価:902円(本体820円+税)