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『龍が如く8』ネタバレ総括インタビュー。新舞台・ハワイの制作の苦労、そして春日があの人物と戦わなかった理由とは?

文:編集O

文:おしょう

公開日時:

最終更新:

 2024年1月26日に発売された『龍が如く』シリーズ"最新作"の『龍が如く8』。春日一番と桐生一馬のふたりの主人公が織りなすドラマ、新ロケーションであるハワイでの街歩き、やり込み度MAXの"ドンドコ島"をはじめとする各種コンテンツなど、どれもファンが発売前に抱いていた期待値をはるかに上回るクオリティとボリュームを提供。世界中から圧倒的な支持を得て、いまもセールスを伸ばし続けています。

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 そこで今回は、シリーズ最高傑作とも称される『龍が如く8』がいかにして作られたのかを知るために、コアスタッフとなる"龍が如くスタジオ"の6名にインタビュー。約3年にもわたった開発の裏話や、『龍が如く』ファンが気になるポイントなどを、前編・後編の大ボリュームでお届けします。

 なお、記事のタイトルにも記載した通り、
今回の記事は前編・後編ともに『龍が如く8』の物語の重大なネタバレを含みます。本編のメインストーリーをクリアしたうえで読むことを強く推奨しますので、あらかじめご了承ください。

※対応プラットフォームはPlayStation5、PlayStation4、Xbox Series X|S、Xbox One、Windows/PC(Steam)



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▲参加いただいた6人の開発スタッフ。左から千葉弘隆氏(メインプランナー、サブストーリー担当)、竹内一信氏(メインストーリー、キャラクター担当)、阪本寛之氏(チーフプロデューサー)、横山昌義氏(総監督)、堀井亮佑氏(チーフディレクター)、南亮雅氏(バトル系担当)。


開発期間が丸々コロナ禍だった『龍が如く8』


――まずは本格的にお話をうかがう前に、『龍が如く8』で皆さんがどんなお仕事を担当されたのか、それぞれお聞かせください。まずは横山さんと阪本さんからお願いします。

横山
自分はこれまでとあまり変わらないですね。今回は直接的な脚本は担当していませんが、ストーリーのプロット的な部分は手掛けていますし、ホントにいつも通りですよ(笑)。音声や演出のメイン担当は竹内ですが、重要なシーンはモーションや音声収録にも立ち会っています。あとは全体の設計と管理・監督という感じでしょうか。

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阪本
本作はワールドワイドで同時展開したタイトルなので、自分はプロデューサーとして、そのための全体予算やスケジュールの計算などを担当しました。あとは"舞台のハワイをどれぐらいの規模で再現するのか"とか、"バトルをどういう基準でまとめるか"などについてジャッジし、出来上がったものに指示して都度軌道修正していく感じでした。

 振り返ると、これまでプロデューサーとしてタッチした作品のなかでも、『龍が如く8』はいちばん長くて、いちばん大規模なタイトルでした。しかも、コロナ禍での開発環境における各種問題について「それならばどうしようか、こうしてみようか」といったように、常に解決策を求められながらの作業だったのです。いままで『龍が如く』シリーズを作ってきたなかで、間違いなく"最も忍耐力が必要な作品"でしたね(苦笑)。

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横山
じつはこの作品については、立ち上げ時期から新型コロナが本格化していたので、"開発期間がほぼ丸々コロナ禍"だったんですよね。発売時期になってようやく落ち着いてきた、というのが真相です。

阪本
働き方も、それ以前とはまったく変わりましたからね。当時は「こんな体制で、どうやったらゲームとしてまとめられるの?」といった感じでした。

横山
とは言っても、結局はその期間に『LOST JUDGMENT:裁かれざる記憶』(2021年9月24日)と『龍が如く 維新! 極』(2023年2月22日)も発売していますし、そういう意味では"コロナ禍で最もゲームを作ったチーム"と言えるかもしれません。

――つぎは堀井さんと千葉さん、お願いします。

堀井
僕は『龍が如く7 光と闇の行方』から引き続き、今作、そして『龍が如く7外伝 名を消した男』でチーフディレクターを担当しています。ゲーム全体をどんな中身にして、どういう仕様のコンセプトでプレイヤーの方々に楽しんでもらうか、という部分を決めて、現場の制作指揮をする立場です。ゲームをおもしろくする責任者的な立ち位置ですね。。

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千葉
自分はメインプランナーという立ち回りで、ゲーム全体のクオリティコントロールやバランスのチェック周りを担当しています。あとはサブストーリーやパーティチャット全般、絆イベントの会話全般について、テキスト執筆やディレクションを担当しました。

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横山
パーティチャットは100%千葉が担当しているんだっけ?

千葉
一応すべて目を通して調整していますね。

堀井
会話のアイデアについてはスタッフのみんなからも集めていますが、最終的にはそれをもとに千葉がうまくまとめる形で進めています。

千葉
結果的にメチャクチャ膨大な量のセリフを収録させていただきました(笑)。

――あれだけのボリュームの会話がフルボイスだったのは圧巻でした! では最後に竹内さんと南さん、お願いします。

竹内
メインストーリーとキャラクターまわりを担当しています。ストーリーのコンセプトを受けて、"どんなキャラクターたちが出てきて、どういう話にするか"というあらすじの構成からシナリオの執筆・ディレクションを担当しました。また、メインシナリオにおけるモーションキャプチャーや音声収録のディレクションも務めています。

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――メインストーリーにまつわる実作業の大部分を担当されたわけですね。

竹内
そうですね。それとエンディングノートや絆ドラマといった、メインストーリーと距離の近い物語要素全般も、監修と一部執筆を担当しています。

私はバトル担当として、プロデューサーやディレクターが考えたバトルの理想像を、どういう形でゲームに収めるかという部分に注力しました。あとはダンジョンなども担当しています。最終的にはバトル全体のバランス調整・監修も手がけました。

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――南さんは『龍が如く』シリーズでのインタビューは初ということですが、チームにはいつぐらいに入られたのでしょうか?

セガに入社してからは6年目で、チームには『龍が如く7』の開発初期に入った形です。

堀井
"龍が如くスタジオ"でも若い世代になります。今作では南をはじめ、若いスタッフがかなり中心に入って活躍してくれています。

――それで今回のあのバトルを作られたのはスゴイですね。

いろいろと揉まれながら……ではありますが(苦笑)。周りの皆さんの助けもあり、なんとか形にできました。

『龍が如く7』で掴んだ波をどう逃さないかを考え抜いた


――ではここからは、ゲーム全体から細かい部分のお話まで、気になる部分をうかがっていきたいと思います。まず、『龍が如く8』の企画のスタートはいつぐらいだったのでしょうか? ちなみに『龍が如く7』の発売は2020年の1月でした。

横山
じつは『龍が如く7』を発売してから1年くらいは、いろいろあって次回作の制作は動き出していませんでした。理由としては、『龍が如く7』ではアクションからRPGへとジャンルが大きく変化したこともあり、従来のファンのなかに拒否反応もあったことから、発売直後の段階ではシリーズをどうすべきか判断がつかなかったのです。

 しかし、結果的に『龍が如く7』はとてもご好評をいただき、売り上げ的にも新たなファンを生むことになりました。ある意味で劇薬とも言える、"春日一番という新主人公"と"RPGという新ジャンル"のふたつの新要素が効いたわけです。

 ただ"龍が如くスタジオ"としては、そのタイミングでは『LOST JUDGMENT』を開発しており、ほかにもいろいろなチャレンジにスタッフを割いていたので、僕をはじめ阪本や堀井は、「『龍が如く』シリーズに再度来たこの波をどう逃がさずに掴むのか」を、半年~10カ月くらいは悩んでいました。

 そこでまず考えたのが、『龍が如く7』の物語の続きをどう描くのか、ということです。『龍が如く7』では"極道の大解散"が行われたのですが、やはりシリーズものとして地続きの作品を作るには、"大解散のその後"を考えなくてはいけません。「もし日本で極道という存在が許されなくなった場合、彼らはどこに行くのだろう」と。その場合、真っ当に考えれば、彼らの行先は海外なんです。

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――そうやって導き出されたのがハワイという舞台なのですね。

横山
選択肢としてはお隣の韓国などもあったと思いますが、"東洋人がいてもおかしくない、東洋人が目立ちにくい海外"に行くはず……そう考えたときのひとつの候補がハワイでした。ハワイは世界中から観光客が来ますし、昔から日本人や日系人がたくさんいますからね。

 だから日本人の極道がそこに紛れ込んでいたとしても不自然じゃないし、目立たないだとうと。そこで"海外をステージにして、大解散のその後のストーリーを描いていく"ということが決まっていきました。

――桐生一馬をもうひとりの主人公にすることは、どのように決まったのでしょうか。

横山
大解散のその後、つまり極道の末路を描かなければならないとなったときに、桐生一馬というファクターははずせないと考えました。桐生は『龍が如く7』にも少し出演しましたが、言ってしまえばカメオ出演みたいな感じでしたからね。

 でも今度の話を描く場合、「極道の末路を描くにあたり、桐生という男のこれまでの人生にどうケリをつけるのか?」が必要になってくるわけです。単に登場人物のひとりとして登場し、春日一番に「俺はもう極道はいらないと思っている」と話すだけで、問題が片付くわけもなく……。

 ですから彼なりのフィニッシュを『龍が如く6 命の詩。』とは違う形で描かなければいけない。そう考えたときに、春日と桐生のふたりが主人公になるだろうな、と自然に決まりました。ゲーム的に「桐生をRPGのシステムの中に入れていいのか?」という懸念は二の次でしたね。

――ということは、ゲーム中で桐生も語っていますが、"極道の過去を桐生が背負って、極道の未来を春日が担っていく"ことが、初期から物語の大きなテーマとしてあったのでしょうか。

横山
いえ、テーマから決める、ということはあまりやりません。物語を作っていく段階でだんだんと「こういうものがテーマになるのかな……」となっていった感じです。大筋で言えば、『龍が如く7』の大解散後の物語を描く、そのために必要なキャラクターは春日と桐生である、ということだけが出発点でした。

 そして、つぎに考えたのは「解散後の極道は何をシノギ(お金稼ぎ)にするのだろう」ということでした。「やはり彼らはきっと表に出せないことをやるだろう」「誰にもできないことも、彼らならばやるのではないか?」となったときに、ゴミ処理ビジネス、そしてハワイでの核処理の話が固まってきました。

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竹内
ゴミ処理の話で言えば、初期のシナリオ案では春日たちが深夜にゴミ収集をやっているシーンから物語を始めていましたね。

横山
その時点では、春日が横浜・伊勢佐木異人町でゴミ収集事業を立ち上げて、ゴミを横取りする違法な業者とシマ争いになるというプロットでした。その設定は完成版では残っていませんが、考えてみると本作は"ゴミ"が出発点と言っていいかもしれません(笑)。

竹内
ゴミに限らず、"世間の厄介もの"というのはシリーズ共通しての重要なテーマで、今作も自然とそこから始まりましたね。

横山
そのあとは登場人物たちに肉付けしていった感じですね。たとえば「引き続き春日の物語を描くならば、サッちゃん(向田紗栄子)へのプロポーズの話を入れたい」とかね。そうやって徐々にゲームの概要が固まっていきました。それが『龍が如く7』の発売から10カ月後くらいのことでしょうか。開発としての正式スタートは2021年の年明けごろになりますので、開発期間としては約3年くらいですね。

――ちょうど『龍が如く』シリーズの15周年のタイミングですね。

横山
そういえば、そのころ(2020年12月末)に"龍が如く15周年記念生放送"をしましたね。150時間連続で過去シリーズをプレイして、そのあとに1時間くらいの特番を放送したのを覚えています。



"間延び"との戦いだったハワイの街づくり


――実際の『龍が如く8』のボリュームを考えると、3年の開発期間はかなり短く感じます。さらに初の海外ステージということで苦労もあったと思いますが、ディレクターである堀井さんはハワイを舞台にすることが決まったとき、どんな感想を持たれましたか?

堀井
私は大変というよりも、むしろ「それくらい新しい挑戦が入らないとダメだろう」と感じていました。RPGのおもしろさは、作品ごとにマップが違うところにあると思いますので、そういった意味でもハワイは日本の街以上のスケールがあり、むしろ作りやすいんじゃないかと楽しみでした。ただその時点ではまだ具体的なイメージはなく、「ハワイってどんな感じの街なのだろう?」と(笑)。

――実際に開発がスタートして大変だったことは何ですか?

堀井
まず、我々は日本の街を作り慣れているので、無意識に建物の大きさなどが日本っぽくなってしまうんです。ですから「どうしたらハワイっぽくなるのか?」と、背景チームといろいろ試行錯誤しました。

 さらに開発当時はコロナ禍だったこともあり、現地取材に行けなかったのも非常に苦労した点でした。のちに制限が解除されて実際の取材にも行けたのですが、改めて自分たちが作っていたものと照らし合わせたら実物とまったく異なり、作り直すことになった部分も多いです。ただ、最終的には納得のいく形でホノルルシティという街を作ることができて、「"龍が如くスタジオ"は日本以外のステージも作れる!」という自信になりました。

阪本
僕らは日本の繁華街を作ることについては、これまでさまざまな作品で評価されてきました。でも海外を舞台にしたときに一転してデキが悪いものを出したら、その評価も下がってしまうだろうという恐れを、強迫観念として持っていたんです。だから、「絶対に日本の街しか作れないと思われないようにしよう」ということをすごく意識しました。

――海外の街づくりで最も重要視したことは何でしょうか?

堀井
もともと我々のスタイルは、"リアルな街を模写してまったく同じものを作る"ことではありません。実在の街をもとに、さまざまなデフォルメやアイデアを加え、楽しいゲームステージとしてまとめられるのが我々の強みです。なので今回も再現ではなく、歩くだけで「おもしろい!」と思ってもらえるステージを目指しました。

横山
ちなみに開発初期の街を見た僕の感想は「つまんない」でした(苦笑)。広いけれど何もないし「デカイ箱だけど、単にここを歩いていてもおもしろくないな……」と。その時点では『龍が如く』としての"密度"が足りなかったんです。

堀井
ですから今回のプロジェクトは、それを解消するための"間延び"との戦いでもありました。たとえば街中でOKAサーファーに乗れるのも、間延びを解消するためにひねり出したアイデアです。

――広い街を快適に移動するための要素として、でしょうか?

横山
快適さも重要ですが、単に走って移動するだけだと飽きてしまう、ということが大きいですね。これは横浜を作ったときですら感じていて、異人町の北部のエリア(浜北公園方面)は広いのですが密度が足らなかったんです。逆にバラック小屋や風俗街、狭い道のあるエリアはすごく作り慣れています。

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 一方で神内駅の北側になると道も広いし、めちゃくちゃ間延びしてしまうんですよ。そういった場所については、『龍が如く7』ではサブストーリーや変わった敵を置いて埋めていきました。ただ、ハワイの場合は横浜よりももっと広いですし、道路もフットサルコートくらいの幅がありますから、「さてどうしようか……」と。

堀井
開発の中盤から後半にかけては、その間延び感の調整にひたすら時間をかけましたね。「絶対にこれはスカスカになるけど、どうする?」と、何度も人を集めて打ち合わせました。

横山
道が広い場合、反対側にいる敵とエンカウントしないというのも問題でした。それこそ、道と道の間にある中央分離帯が、完全な安全地帯になってしまうんです。そこで車に乗っている敵ともエンカウントするようにしてみたら、今度は中央分離帯にいるとずっと敵とエンカウントし続ける形になってしまい……(笑)。

――たしかにあの道の広さは神室町や異人町にはないので、その調整は難しいですよね。

横山
だから敵の索敵範囲を含めたエリアの調整は、ゲーム作りとして大事な部分でした。さらにその調整に加え、スラム的な第5地区や、アナコンダショッピングセンターのようなエリアを用意できたことで、ようやく『龍が如く』の街として完成したように思えます。

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――それらのエリアは物語中もかなりインパクトがありました。

横山
ちなみに各エリアのビジュアルの完成度については、超優秀な背景班が制作しているので心配はありませんでした。「こういうエリアを作って!」と言ったら作れちゃうんですよね(笑)。ただその一方で、そこにどのようなNPCを配置するかが問題でした。とくに初期段階では、街を歩く人たちがまったく外国人に見えなくて……。

――といいますと?

横山
じつは初期段階では、これまでの作品の日本人NPCにテクスチャを乗せて、外国人に見せるという手法で作っていましたが、それだとなぜか外国人に見えませんでした。その理由は、顔の骨格と腰の位置が日本人とまったく違うからなんです。

 たとえば同じふくよかな人でも、外国人は足が細くて腰の位置が高いなど、日本人とはシルエットがまったく異なります。だから外国人のNPCは骨格からすべて作り直しました。それでようやく「ああ、海外の街になったな」と感じましたね。

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――街を歩くNPCと言えば、彼らとの触れあいであるアロハリンクスも、街の密度を飛躍的にアップさせているように思えます。

千葉
あれはまさに、"街の間延び感を埋める"という課題に対する解決策のひとつですね。定期的にアクセスすることでプレイヤーが気持ちよくなり、さらにゲーム的なメリットにもつながる、といったものを考えた結果がアロハリンクスになります。

堀井
ハワイの街をNPCたちが歩いているなら、彼らになにかオマケをつけることで、間延び感が埋まるのではないか、という発想です。街行く人はシリーズでも常に存在してましたが、遊びとして機能していないのでもったいないな、とずっと感じていたので、今回いい形でまとめられてよかったです。

横山
本当に間延びとの戦いでしたね。それを埋めるために彼らは、パーティチャットを鬼のように作成し、アロハリンクスを用意し、OKAサーファーを作り、エンカウント率も調整し、タクシーでのファストトラベルの使い勝手を改良し……といろいろやってきました。ラジオもそうですね。

――結果的に完成版のハワイの感想は「メチャクチャ密度が高い!」でした(笑)。

堀井
『龍が如く』の街はとにかく密度があってナンボなので、街を歩いていると常に何かが発生するような作りになっています。

密度と言う点では、バトルについても最後の最後まで「やっぱり足りないな……」と、ひたすらエンカウント範囲や強敵の配置を調整していきました。これはプロジェクトが終わる直前まで続きました。

千葉
エンカウントし過ぎるのも問題ですから、索敵範囲の広さにもすごく調整を加えましたね。日本とハワイは道幅が違うので、前作までの設定だと合わない。「半径何メートルならば索敵にちょうどいいだろう」と、トライアルアンドエラーをくり返していきました。

じつは"敵に捕まりすぎる"点は前作でもあった課題でした。狭い道を移動中に何度も敵に出会うのはストレスになるので、その頻度は本当に悩みましたね。それこそ最初は、少し歩くとエンカウントしまくりで……。

横山
そのように最後まで調整をくり返したバトルですが、おもしろさ自体に関して不安はなかったですね。なぜなら『龍が如く7』のバトルは"革新"でしたが、『龍が如く8』のバトルは"改善"なんです。前作で足りないと感じたポイントを全部直したり、やれなかったことを入れたりと、いわゆる"トヨタ方式"で進めました。

 もちろん改善ポイントは山のようにありましたが、そのぶん"おもしろくしかならない"という自信があったのです。前作の『龍が如く7』では「そもそもコマンドバトルにしておもしろいのか?」が出発点でしたから(苦笑)。

――事実、『龍が如く8』のバトルは本当におもしろかったです。

横山
もしつぎの作品が"すごろくゲーム"になるようだったら、またイチからやり直しですけどね。

――ジャンルがすごろくゲームになったら、RPGになったとき以上にビックリしますね(笑)。

横山
わからないですよ。もしかしたらすごろくがいちばん合うストーリーになるかもしれませんし。サイコロの目ですべての人生を決める、なんて主人公が出てきたらね(笑)。

春日一番の生きざまを示した『ありあまる富』


――つぎに本作のサブタイトルについてうかがいます。発売前のインタビューでは「本作はメインタイトルのみで、サブタイトルはプレイヤーそれぞれが付けてほしい」と語られていました。その一方で海外版には『Infinite Wealth』というサブタイトルが付けられています。こちらの理由を教えてください。

横山
『龍が如く7』の日本版は、『光と闇の行方』というサブタイトルを付けました。その際はワールドワイドでの同時発売ではなく、1年後にインターナショナル版を発売したのですが、そちらのメインタイトルには従来の『Yakuza』ではなく『Like a Dragon』と名前を付けたわけです。

 そうなると「その続編のタイトルが『Like a Dragon 8』ではおかしいだろう」となり、海外版のタイトルをどうするか悩みました。『Like a Dragon 2』にした場合、同じ作品なのに日本版の8と海外版の2で数字が異なるのも変ですし……。そこで思いついたのが、本作で僕がどうしても使いたいと考えていた楽曲『ありあまる富』なんです。

――なるほど。発売前は「なぜ『Infinite Wealth』(無限の富)なんだろう?」と疑問に思っていたのですが、やはりあの曲から付けたサブタイトルなんですね。

横山
ですから本来なら日本版でも『ありあまる富』と付けたかったのですが、僕は今回、「誰のどんな曲を使っているのかは、エンディングまでたどり着いた人が初めて知るようにしたい」と考えていました。ですからいろいろあって、発売日に「椎名林檎さんから楽曲を提供していただいています」というリリースだけ出したものの、本当は一切告知するつもりがなかったんです。

 ただ、海外のプレイヤーはあまり馴染みがない人も多いでしょうし、予想できるようなヒントもありません。だから本来は『Abundant Wealth』となるべきところを、直訳ではない『Infinite Wealth』という言葉で、いろいろ感じ取ってほしいと考えて付けました。

――しかもINFINITE=無限(∞)は、8を横にした形でもありますからね。

横山
発表したときから∞に掛けたタイトルを付けたいと考えていましたから、その点でもぴったりハマりましたね。

――実際に本作のエンディングで『ありあまる富』の楽曲が流れたときはとても感動しました。この曲を使うことはどのタイミングで決めていたのでしょうか?



横山
シナリオの概要を決めたタイミングですね。決めてからは、2021年のゴールデンウイークに燃えるようにプロットをまとめていきました(笑)。じつはラストのモーションキャプチャーもあの曲をかけながら収録しています。

 アクターの方に「この曲で演じてください」とお願いしたときは、「え、椎名林檎さんの曲を使えるんですか?」と驚かれたんですが、その時点ではまだ椎名さん側にお話を持っていく前でした(苦笑)。だからオーケーをもらえてよかったです。昔から好きな曲ですし、歌詞も『龍が如く』の世界観にとても近いと感じていました。

――とくに春日一番という人物にリンクする歌詞だと感じました。

横山
僕の中で、春日は"物欲がない人"というイメージなんです。彼は欲しいものがほとんどなくて、「自分の知っている人が死なないでほしい」という想いだけで生きているのかなと。生まれた瞬間に親に捨てられ、母親は死んだと言われて、育ててくれた春日次郎は死んで、その後はおやっさん(荒川真澄)も死に、(荒川)真斗も死んで……大事な人を全部失う人生なんです。

 だから『龍が如く8』では彼の想いに合わせて、彼にとって身近な人を誰も殺しませんでした。春日自身も、人を殺すこと、他人が死を選ぶことに最後まで抗います。だから彼にとって"一番大事な富は人の命"なんだろうと思っています。歌詞にあるように、人が盗んでいくような金品などは、この人にとってはなんの価値もない……というドラマを描きたかったのです。

 ただ、それを言葉で書くと説教臭くなりますし、曲を流せば一発で解決するので、あの曲を使わせていただきました。それがいちばんストレートに伝わるかなと。

――結果、春日と三田村英二とのやりとりは強烈に印象に残りました。一方で「英二とは事件解決前に直接対決したかった」というプレイヤーの声もありましたが、そちらはいかがでしょうか。

横山
じつは英二との最後のやり取りは迷いました。エンディングに至る前に、バトルではない形だとしても、春日との直接対決があったほうがいいのかなと、シナリオ班とも話しました。

 ただ、僕的には今回の描き方がいいと思っていて、"あの交流回数とあのやり取りで、最後の行動ができるのが春日なんだ"と思います。春日は敵であれなんであれ、一度好きになった人間にはあの助け方をするでしょうし、"それができるからこそ春日一番は英雄なんだ"と。

 たしかに、プレイヤーの感情としては、対決や殴り合いをするほうが普通かと思います。でも春日にとってハワイで英二と一緒にすごした時間は本物で、なんの嘘もない時間だからこそ、英二を助ける選択をしたわけです。それが桐生とは違う彼のスゴさです。だから、あの場面はあれでよかったと思っています。

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――なるほど。春日が対峙する人間としてはブライスもいますが、英二とはそこが違うわけですね。

横山
ちなみに今回のストーリーにおけるラスボス戦は、本来想定される対立構図とは違う形になっています。春日がラニを助けるためにブライスを倒し、桐生が春日の異母兄弟である海老名を倒すという。

――プレイヤーの一部でも「戦う相手が逆なのでは?」という意見がありました。

横山
でもこの決着でいいと思っていて、その理由は単純に"海老名は春日と異母兄弟であったことに怒っているわけではない"からです。だから、海老名にとっては自分を苦しめた極道という存在を象徴する人間=桐生と戦うべきだと。そのほうが、海老名自身にとってもスッキリすると思います。

 一方の春日は、人を助けるためにああいう行動を取るのが彼らしいかなと。ただ、春日の中でブライスを倒しただけでは終わりでなく、英二を助けないと終わりではない、というわけですね。

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竹内
『龍が如く』での戦闘には「誰かの野望を止めるため」とか、「因縁の相手との決着をつけるため」といった戦う理由が常にあるんです。ですが、春日と英二が殴り合っても何かが解決するわけではありません。プレイヤーの溜飲は下がりますが。

――たしかに、多々良チャンネルによって職を追われたことへの憤りなどはありますが、戦ったところでそれが解決するわけではないですね……。どちらかというと、春日一番の感情というより、プレイヤーとしての感情のほうが強いかもしれません。

竹内
そうですね。ですから、"憎き英二をバトルで倒す"のがゲームの作法としてはごく真っ当だったと思います。でもそれをやってしまうと、プレイヤーがエンディングでビンを投げつける側の人間になってしまうんです。だから英二とは戦ってはダメだと私は結論づけました。

――なるほど。そのお話をうかがって納得がいきました。

竹内
でも今言った通り、ゲームの作法としては憎たらしい相手を用意して、それをプレイヤーが倒してスッキリする、というのが正着なので「対決したかった」というご意見を持たれるのももっともな話でして。難しいところですね。

――なにせ後半の英二のヒールっぷりが徹底していたので、プレイヤー側の感情はどうしてもそういう方向になりがちかなと。

竹内
ちなみに逆の例として、春日がブライスと戦う直前では、ハン・ジュンギに「これ以上は言葉の無駄です。ぶん殴って黙らせましょう」と言わせています。

一同(笑)

竹内
これはブライスを打ち負かすことで、彼の野望を打ち砕くという解決につながるからですね。そのへんはしっかり線引きしているつもりです。

横山
ブライスを止めないと、あそこは終わらないからね。

竹内
海老名についても同様で、後日談のシーンでも語られていますが、彼は誰かに止めてほしかったのだと思います。桐生との最後の戦いは、自分を止めてもらうための戦いでもあった。ですから殴り合ってそれぞれの想いをぶつけ合うプロセス……要は会話としての戦いだったわけです。

――それは桐生がこれまでたどってきた道とも重なります。つねに想いを通すために殴り合ってきたというか……。

横山
そういった戦いの反面で、今回の桐生には「ただただ謝らせたかった」という思いもありました。正直、海老名に謝っても意味がないのですが、それでも極道を代表して謝らせたかったんです。

――1作目からこれだけの年月が経ったいま、本当は東城会、そして極道を変える立場にあった桐生がそれをしなかったことに対して謝るのは、シリーズとしての大きな区切りを感じました。

横山
実際、彼は自分勝手な生き方をした人間ですからね。伝説の英雄はどうしても美化され、カッコイイところが切り取られますが、その英雄がやってきたことには必ずエゴも入っています。だからそ "死"というものに向き合うことをきっかけとして、そういったエゴも含めた桐生のすべてを考えさせるきっかけにしたかったんです。

 やはり桐生くらいの人間になると、立ち戻って考えさせるには命という制限をかけるというか、"人生が終わってしまうこと"を認識させる必要があるんじゃないかと。そういう意味で、本作では病におかされた桐生を描きました。

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桐生の人生を描くうえで必然だった"病気"


――桐生が癌になって自分自身の死と向き合う展開は、ゲームのストーリーでもこれまでにあまり類がないと感じました。

横山
これまでの『龍が如く』シリーズの多くは桐生の人生を描いた物語ですから、その終わりもしっかりと描きたかったんです。まず彼の人生の転機として、『龍が如く』で極道を辞めました。そしてその後日談として『龍が如く2』があり、ライバル(郷田龍司)と戦いました。つぎに『龍が如く3』で初めて擬似的な家族(児童養護施設アサガオの子どもたち)を持つわけです。

 そして『龍が如く6』では子ども(澤村遥)の出産と子育て(澤村ハルト)に触れ、人生で平均的に起きることを体験してきました。そうなってくると、残りの人生で最後に待つのは"病気"なんですね。

 これは僕が桐生に定めた "宿命"でもあります。ですから制作の当初から、桐生を死と向き合わせることを考えていました。

――結果的に桐生の人生を振り返るエンディングノートという要素が、過去シリーズをも振り返る形になったのは、1作目からのファンとしては感無量でした。

横山
エンディングノートは『俺の家の話』というドラマを見ていて、ゲームの中に取り入れたいと考えたアイデアでした。でも最初は軽いイメージで、たとえば「寿司を100貫食べてみたい」といった、ちょっとしたやり残しをたどるような内容だったんです。

いざ自分を見つめ直してみたら、意外とくだらないことをやり残しているな、と考えるのではないかと。ですから「それをミッション風にすれば、なんとかなるんじゃない?」と言っていたのですが、竹内たちからは一転して重いシナリオが上がってきまして……(笑)。

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堀井
エンディングノートをゲームとして入れ込む、というのを考えたときに、当初は軽いミッションを中心にしたコンテンツにしようと考えていたんですが、向き合えば向き合うほど「本当に桐生のやり残したことはこれなんだろうか?」という感情が強くなっていったんです。またそれと同時に、僕たち自身も桐生に対してやり残していることがあるんじゃないかと思いました。

 ずっとそばにいた桐生というキャラクターが自分の最期に向き合っている。そんな状況で僕らやプレイヤーがしてあげるべきこと、してあげたいことは何だろう。それを考えていった先に、今のエンディングノートの形に行きついた感じです。

「最期になるとするなら、伊達さんや仲間たちの顔を見せてやりたい。じゃあ、誰と会わせる? どうすれば会わせられる?」と、竹内やシナリオチームの古田と相談を重ねて。

竹内
整合性も含めて議論を重ねて、最終的にはかなりのキャラクターを登場させる形になりました。やるならばこのくらいやらないと、やはり納得はできないなと。

横山
ただ、プロデューサー目線で見ると危惧もありました。「新規プレイヤーにも遊んでほしい」と言っているなかで、シリーズファンしか楽しめないのではないかと。でも「桐生を主人公にする以上はそこを描きたい」と言われ、ゴーサインを出したのです。その結果、出来上がってきたのが『龍が如く7外伝』くらい長いシナリオですから、声優さんの演技も含めて想像以上に豪華になりました。

――個人的にはひさびさに狭山薫が出てきたのがうれしかったです。

竹内
これまでもプレイヤーから「あの人どうなっちゃったの?」という声を聞くことが多く、今回はそういう人たちも桐生の人生の中にきちんと存在し続けていることを伝えたかったんです。

横山
ちなみに、エンディングノートを深く描けたのは、竹内がもともと『龍が如く ONLINE』のシナリオをひとりで書き続けるという大変な仕事を担当しており、その礎があったことも大きかったと思います。

『龍が如く ONLINE』には、すでに死んだキャラクターも含め、オリジナルストーリーがたくさん用意されています。例えば峯(義孝)や(堂島)大吾の昔の話なども、その都度過去の設定と齟齬がないように書いており、それをずっとやり続けていたからこそ、エンディングノートのシナリオもいい形でまとめることができたのだと思います。

竹内
登場人物だけでなく、アイテムであるタフネスZなどの話も仕込んでいますが、あれは「プレイヤーの経験も含めて桐生の人生です」と言いたかったんです。

――『龍が如く 見参!』や『龍が如く OF THE END』の回想まで出てくるのはビックリしました(笑)。

竹内
ここまで来たら全部やるしかない、と(笑)。

――そうなると、開発の順番的に難しかったかもしれませんが、『龍が如く7外伝』の赤目も触れてほしかったですね。

横山
さすがにそれは間に合わなかったですね。エンディングノートの制作に着手したあとに『龍が如く7外伝』の開発が始まったので……。

本当のラスボスは"大衆"だった!?


――ストーリーに絡む要素としては、"ネット社会での告発"をフォーカスしていたのも印象的でした。このテーマを取り上げたのには、どんな狙いがあったのでしょうか?

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横山
たとえば『龍が如く2』では郷田龍司という明確なライバルがいましたが、今回はブライスや海老名といった敵こそいるものの、明確なライバルがいるストーリー構成ではありません。そんななかで「では今作の最も大きな敵って何だろう?」と考えたときに思いついたのが、"目には見えない怖い敵"という抽象的なものでした。

 それは何かというと、いわば"ネット社会の向こう側"のような存在です。ひとりずつの強大な悪ではなく、単体では弱いけれども集合体となったときによくわからない強力な逆風が吹くような……。そういう存在と戦うとき、人間はどうしたらいいのだろうと考えました。

 だから最初は、ラスボスを"大衆"というわけのわからない存在、見た目的には『ゴーストバスターズ』のマシュマロマンみたいなデザインにしたらどうかと考えました(笑)。みんなの民意が集まって巨大化した何かと戦う……みたいな。

 まあ、それは採用しませんでしたが、そういう"得体の知れないもの"と戦うというシチュエーションを描きたかったんです。その表現のひとつが、今回の"匿名の配信者による暴露"でした。

――『龍が如く』シリーズはその時代で流行っているものや世相を、うまくゲームのストーリーに取り込んでいる部分が魅力的ですが、今回もかなりハマりましたね。

横山
ただ、それを思いついたのが3年前だったので、「3年後にまだそういったことが続いているんだろうか?」とは悩みました。だからいつも、プロットを考えたあとは「明日発売したい!」と思っちゃうんですよ(笑)。旬だと思っていたものが、そうでなくなっている……なんてことはよくありますし。だから、いまが旬のものを選ぶ一方で、ガチャピンやムックといった"永遠に変わらない普遍のキャラクター"も入れて、そこでバランスを取るようにしています。

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後編に続く>

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    龍が如く8

    • メーカー:セガ
    • 対応機種:Steam・PC
    • ジャンル:RPG
    • 発売日:2024年01月26日
    • 希望小売価格:8,800 円+税

    龍が如く8

    • メーカー:セガ
    • 対応機種:Xbox One
    • ジャンル:RPG
    • 発売日:2024年01月26日
    • 希望小売価格:8,800 円+税

    龍が如く8

    • メーカー:セガ
    • 対応機種:XSX
    • ジャンル:RPG
    • 発売日:2024年01月26日
    • 希望小売価格:8,800 円+税

    龍が如く8

    • メーカー:セガ
    • 対応機種:PS4
    • ジャンル:RPG
    • 発売日:2024年01月26日
    • 希望小売価格:8,800 円+税

    龍が如く8

    • メーカー:セガ
    • 対応機種:PS5
    • ジャンル:RPG
    • 発売日:2024年01月26日
    • 希望小売価格:8,800 円+税