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『龍が如く8』ネタバレ総括インタビュー。キャラクターやバトル、ドンドコ島制作の裏話、そして次回作の方向性は?

文:編集O

文:おしょう

公開日時:

最終更新:

 2024年1月26日に発売された『龍が如く』シリーズ"最新作"の『龍が如く8』。制作スタッフに聞くネタバレ総括インタビューの後編では、新キャラクターたちの生まれた経緯や、深化を遂げたバトルの裏話など、クリアした人が気になる要素を多数うかがっています。また、最後には総監督の横山昌義氏から次回作に向けた言葉も……!?

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 なお
前編と同様に今回の後編についても、『龍が如く8』の物語の重大なネタバレを含みます。ぜひ本編のメインストーリーをクリアしたうえで読むことを強く推奨します。あらかじめご了承ください。

※対応プラットフォームはPlayStation5、PlayStation4、Xbox Series X|S、Xbox One、Windows/PC(Steam)



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▲参加いただいた6人の開発スタッフ。左から千葉弘隆氏(メインプランナー、サブストーリー担当)、竹内一信氏(メインストーリー、キャラクター担当)、阪本寛之氏(チーフプロデューサー)、横山昌義氏(総監督)、堀井亮佑氏(チーフディレクター)、南亮雅氏(バトル系担当)。


『龍が如く8』ネタバレ総括インタビュー。新舞台・ハワイの制作の苦労、そして春日があの人物と戦わなかった理由とは?



配役が見事にハマった新登場キャラクター


――ここからは、おもに新登場キャラクターのコンセプトや、演者の収録時のエピソードなどをうかがっていきます。まずはエリック・トミザワですが、発表時はKing Gnuの井口理さんが担当されることに驚きました。たしか楽曲のPVを見てオファーを決められたとか。

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横山
『Teenager Forever』の楽曲PVですね。とある音楽番組でこの映像を見かけて、「見た目的には彼がトミザワ役にベストなんだけど……」とシナリオ班に相談して、「じゃあ本人に聞いてみるか」となりました。


――一般的なKing Gnuの井口さんのイメージだとトミザワに結び付かないのですが、たしかに『Teenager Forever』のPVのイメージだとバッチリの配役ですね(笑)。

横山
トミザワは若くて小汚い、"ハワイでの難波悠"のようなポジションだったので、あのPVのイメージにピッタリだったんです。そのあとソニー・ミュージックエンタテインメントさんに行き、King Gnuのマネージャーの方に「井口さんにはPVの小汚い格好のイメージで演じてほしい」と伝えました。

 そうしたら「いま演技や芝居をやり始めようとしているんですよ。ちょうどいいですね」となって、タイミングがよかったですね。井口さんの演技については収録が進むたびにどんどんうまくなっていきました。最後までプレイすると、トミザワのことが好きになりません?

――なりました! とても味がありました。

横山
セリフ量も多いし、めちゃくちゃ時間がかかりましたが、ちゃんと井口さんの魅力を引き出せたと思うので、オファーさせていただいてよかったと思います。

――ではつぎは不二宮千歳ですが、伊波杏樹さんのある意味"一人二役"が見どころでした。

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横山
じつは、オーディションの段階で、すでにVTuber役についてもテストをしていたんです。

竹内
さらに言うと、その後 "偽の多々良役"も演じていただきました。

――となると、一人三役だったわけですね。

横山
伊波さんはもともと『龍が如く』シリーズの熱烈なファンだったので、勘どころが相当よかったですね。台本を読んだだけでも、キャラクターの芯や距離感を掴むのがうまかったです。

竹内
すでに紗栄子、ソンヒという同じ年齢層の女性キャラが存在する中で、どう自然な形で声や芝居の住み分けを行うかというのは難しい課題だったと思いますが、伊波さんはこれ以上ない正解を持ち込んでくださって。すごく頭のいい方なのだと感じましたね。

――つぎにソンヒについては前作からの続投ですが、パーティメンバーとして加わることで、解像度がさらに上がった印象です。

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横山
武田華さんも、かなり役作りの準備をしてくださいました。ちなみに龍スタでは月イチで、"龍スタTV"という番組を配信しているのですが、たまにゲームの情報が何もない回があって、そのときにみんなで麻雀をやったんですよ(龍スタTV#10)。そのとき武田さんがソンヒのコスプレをしながら麻雀を打ってくれまして。衣装もご自身で用意してくれて、マネをしながら手袋をはめて麻雀を打つという(笑)。

 ですから相当『龍が如く』を研究して、ここまでやってくれる人なのだと感動しました。たしかその生放送終了後に『龍が如く8』へのご出演のお願いと、ソンヒがパーティメンバーに入るということを武田さんにお伝えしました。非常に驚きながら喜ばれていたことを覚えています。


――ソンヒは"桐生一馬推し"なエピソードが印象的でした。

横山
あれはかわいいですよね(笑)。

竹内
『龍が如く7』では当初敵対関係であり、あくまで外の立場の人間でした。そこから付き合いが長くなり、関係性も変わることで今までとは違う一面が見えてくる、ということですね。

――続いて春日や桐生と敵対する登場人物たちについてうかがいます。まずは海老名を長谷川博己さんが演じられた経緯などをお聞かせください。

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横山
海老名はどこか人間っぽくない生き方をしているじゃないですか。感情がわからないというか。そういった人物を演じることができるのが長谷川さんの魅力だと思うんです。カッコいいだけでなく、どこか"目の前にいるのにいないような雰囲気"を醸し出せる方ですから。

 実際に長谷川さんご自身もそんな雰囲気でしたね。会議室で話しているときも、「目の前で会話を聞いているのは長谷川博己なんだよな……」と、不思議な感覚に(笑)。じつは長谷川さんと僕は同い年で親近感もありまして。

――そうなんですね。

横山
とにかく普通の人とはまったく違う迫力がありました。これって高倉健さんのような昔の役者さんが持つ、"リアルにいる雰囲気を感じさせないオーラ"なんでしょうかね。「画面の中にいるこの人は本当に世の中に存在するのか?」といったような、いまの時代にはめずらしい役者さんだと思います。だから海老名みたいな役を演じるにはバッチリだと考えました。

――今年(2024年)の4月から放映しているドラマの『アンチヒーロー』でも、そういった雰囲気がありますね。

横山
やはりみんなそういう認識ですよね。『小さな巨人』(2017年放送)というドラマを見ていたときにも感じていたし、そのことを長谷川さんにもお伝えしたんです。「あんな感じの役で、しゃべり方も寄せてほしい」と。今回はまさに適役でした。

――あとは成田さんが演じられた三田村英二ですね。

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横山
英二はプロットの序盤から出そうと決めていたキャラクターでした。ただ、ああいう二面性がある人物となると、日本の芸能界でもそう何人も選択肢がないんです。その点成田さんはスゴくて、車いすに乗って白いポロシャツを着ているときの英二って、ちっともカッコよくないんですよ。でも、そのあとバーで黒いシャツを着て出てきた瞬間、急にカッコよく見えるんです。服が変わった瞬間に演技の雰囲気も変わる、みたいな。

――たしかに。急にボス感が出ましたね。

横山
そんな衝撃的な二面性を表現できるのが成田さんです。モデルとしてもすごく活躍されてオシャレだし。ラフな格好で収録に来ているときは、本当にそこらへんにいる兄ちゃんにしか見えないのですが、ブースから出てきて「お疲れ様でした」と言ってシャツを1枚羽織ったら、もうビックリするくらいモデルなわけですよ。超カッコよかったり、超怖かったり、超ダサかったりと。役者としての幅がスゴイです。

――そして最後は山井豊についてうかがいますが、やはり彼は "桐生に対する真島"のようなポジションとして想定されたキャラクターなのでしょうか。

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横山
完全にそうですね。ただ、春日ではなく桐生に執着するようにしたのは、彼が最後に行動する理由付けが欲しかったからです。山井は桐生と同じ親殺しの罪を負いますが、逃げなかった桐生に対して、山井はハワイに逃げました。

 山井はそこに劣等感を抱きながら生きていて、そんな逃げた先のハワイで奇跡的にあこがれていた桐生と出会うわけです。それをきっかけに「いまならば人生を変えられる」と考えたとしたら、あのような形で春日たちを助ける行動に出るのかなと。

 このあたりは、YouTubeの"龍が如くスタジオ 公式チャンネル"のメンバーシップ限定動画でも詳しく語っていますが、山井というキャラクターのシナリオは、"ロジックで生きてきた人間の、ロジックの破綻"を描いた物語なんです。

 山井はハワイにいるとき「俺がこいつを助けるのはこういう理由だ」といったように、全部ロジックで話をするんですね。常に自分のメリットと相手側のデメリットを考えて行動している。でも、姉さんの話だけはすべてが破綻している。そんな破綻していることをやってしまった、"誰よりも感情的なことをしてしまうロジカルな人"が山井なんです。ある意味、竹内が生み出した最高のキャラクターなんじゃないでしょうか。

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竹内
制作初期に私がぼんやりとイメージしていたのは『カウボーイビバップ』のビシャスでした。

横山
そうそう。秋山駿のときは山寺宏一さんにスパイク(『カウボーイビバップ』の主人公)のイメージで演じてほしいとお伝えしました。ビシャスを演じたのは子安武人さんではなく若本規夫さんですが、今度はビシャスをイメージした感じです。

――山井というキャラクターについては、子安さんの演技も素晴らしかったです。

横山
子安さんは本当にすごいです。あの声がなかったら、ここまでのキャラクターにはならなかったと思います。それは間違いないですね。

竹内
山井は新キャラクターなので、制作プロセス上いきなり子安さんで収録するのではなく、イメージを固めるために仮の声優さんでテストを行いました。その段階でも「これが本番でいいのでは?」と思えるくらい素晴らしく演じていただいたのですが、子安さんの収録で第一声を聴いたときに「あ、もうこれだ」と。

横山
「もう 寒くねえ」のセリフがあんなにカッコいい人は見たことがないです。

――あのセリフは本当にグッと来ました。ちなみに子安さんは『龍が如く 極2』の飯渕圭役でご出演されていたので、もう新作への出演はないかと思っていただけに、かなりうれしかったですね。

横山
ああ、そこはもう無視です(笑)。山井は絶対に子安さんしか合わないだろうと考えていました。

ハワイの文化を尊重しながら制作を進めたサブストーリー


――続いて、サブストーリー関連についてお聞きします。今回はハワイが舞台ということで、過去作と比較してサブストーリーの作り方にも違いがあったのでしょうか。

千葉
神室町や横浜といった日本が舞台のサブストーリーでは、「人間がやれることをひと通りやりきった」と言えるくらいネタを出し切ってきました。ですから今回の舞台がハワイになったことで、最初は「やった、ハワイだ! 日本ではできなかったネタをたくさん出そう!」と喜んだのですが、よく考えたら「ハワイの人ってどんなことで悩むのだろう、何を考えているのだろう」となりまして……。

――たしかに、そこはなかなか想像しにくいですね。

千葉
シチュエーションによっては「これが蒲田だったら成り立つ話だけど、ハワイだったらまったく成り立たない」となることも多いですからね。そこで、ハワイに実際行った経験があるスタッフに声をかけて、そういった人たちからいろいろな想い出や失敗談を募って考えていきました。

 たとえば"優しくしてくれた人"というサブストーリーは募金詐欺の話ですが、あの中に出てくるオウムの記念撮影の押し売りは、実際にスタッフが被害にあったケースだったりします(苦笑)。

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――あれは現地で本当にあったことなんですね!

千葉
そういうエピソードから着想を得て、いろいろ考えていきました。あとは日本とは異なる土地柄だから描ける影の要素を、"愛と罰"というサブストーリーなどに盛り込んでいます。日本ではひとり親の家庭に対する福祉が用意されていますが、そういった部分になかなかスポットが当てられていない地域があるなど、そういったことを調べながら作りました。

 それ以外も"なんとなくのイメージ"で作ると間違った表現になってしまうものが多く、かなり注意しましたね。キャラクター班や倫理チームとかなり議論を重ねて、「文化を尊重しながら絶対に誤解を与えずに、でも表現したいところは絶対に変えない」という信念で作っています。

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――ちなみに、千葉さんがお気に入りのサブストーリーはなんでしょうか?

千葉
今回のメイン&サブストーリーの演出は、どれも過去一のクオリティじゃないかと自負しているのですが、そのなかでもがんばったのは"スノースマイル"というサブストーリーです。こちらはラストのシーンの表現がすごく大変でした。

 最後の時間を迎えようとしている老夫婦に対し、屋根ではおむつ姿で雪を降らせようとしている権田原組長たちがいるシーンですが、物語中に2つのシーンがパパっと切り替わるんですね。そのタイミングや時間配分を間違えると全部台無しになってしまうので、じつはフレーム単位で最後の最後まで微調整しています。

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阪本
あのサブストーリーはメチャクチャ長いし、超大作ですね。

――ショッピングカートで街中を走行する場面があるなど、かなりのインパクトがありました。

千葉
いろいろなセクションに頭を下げながら「すみません、絶対におもしろくなるんで、この特殊ギミックをやらせてください!」とお願いしました。

堀井
千葉から「おむつで雪を降らせる話を入れてもいいですか?」と言われたときは、いいか悪いか以前に、どんな内容の話なのかまったくわからなくて(苦笑)。「千葉は疲れているのかな、少し休ませたほうがいいかな」と思いました(笑)

一同(笑)

堀井
ちなみに過去作ではサブストーリーを100個くらい用意した作品もありましたが、最近ではひとつひとつのサブストーリーを内容・演出含めより凝ったものにする方向で制作しているため、一時期に比べればそこまで数は多くはありません。ただそのぶんキャラクターの立ち位置を含め、どんな感動を与えたいのかをしっかり精査しています。

 そのなかでも"スノースマイル"はとくに『龍が如く』らしい、感動と笑いが混ざり合ったものになっていると僕も思います。

――ほかにゲーム性として印象的だったのが、スタントマンのサブストーリー"リアリズムの追求"でした。車を避けるミニゲームにけっこう手こずりまして……。

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阪本
じつはあのサブストーリーについては、専用の特殊ステージを作っています。たしかに「難しい」というご意見もけっこう見受けられましたね。

千葉
企画の段階でスタッフ全員にプレイしてもらい、いちおう全員クリアはできたので最後にディレクターチェックで堀井にプレイしてもらいました。そのとき3回目のトライでクリアできたので「じゃあ大丈夫だろう」と、いまの難易度でリリースしたんです。

堀井
基本的に僕はアクションがすごく下手なので、僕がクリアできるものはみんなクリアできるだろう、というのがバランス調整の一つの指針になっているんです(笑)。

――ちなみに一度失敗すると難易度を下げることもできますね。

千葉
一応そういう救済措置も入れたのですが、それでも人によっては焼け石に水で、難しかったかもしれません(苦笑)。

堀井
まぁでも、あれは難しさがバカバカしさや面白味に繋がっているので、あれくらいがベストだと思いますよ。みんなトラックにバンバン轢かれてもらえないとつまらないですもん(笑)

おもしろくなることを確信していた『龍が如く8』のバトル


――つぎに本作のバトルについてうかがいます。今回のバトルは『龍が如く7』から格段に進化し、「遊びやすく、かつおもしろくなった」と非常に好評ですが、制作するうえでいちばん重視された点はなんでしょうか。

堀井
前作のバトルで改善すべき点はもう見えていましたから、『龍が如く7』の発売後からすぐにその研究を続けていました。とくに"テンポの悪さをどう改善するか"などは、南をはじめとしたバトル担当者を中心にかなり議論しています。

前作で作り上げたライブコマンドRPGのバトルは、場所によって物理計算などが影響し、戦うたびに違うことが起こるのが特徴で、それがおもしろい要素だという点はスタッフ間の共通認識でした。ですが開発期間的に成しえなかった部分も多く、そこは悔しい想いを抱いていたのです。

 たとえばバトル中はプレイヤーが意図して有利な状況を狙えるようにしたかったのですが、『龍が如く7』のバトルはランダム要素が強くてRPGとして戦略的に立ち回りにくいものでした。ですから本作では「どうしたらプレイヤーが有利な状況を狙えるように移動できるのか」を徹底的に考えて改良を加えることにこだわりました。それさえ達成できれば、おもしろくなるのはわかっていました。

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――たしかに移動によって「この位置でこのコマンドを行えば、気持ちよく敵を一掃できる」ということがプレイを重ねるとわかってきて、バトルで何度も試したくなる気持ちよさがありました。

阪本
いろいろな調整をたくさん試したよね。

堀井
どこまで移動できるようにすべきかも試行錯誤でした。

阪本
一度、無制限に移動できるようにしてみたこともありました。ただ、そうすると移動するだけで戦闘時間がムチャクチャ長くなってしまって……。逆に一度ギュッと移動範囲を縮めたこともあったよね。

堀井
そうしたら今度は「これだったら移動する意味がないよ」となりました(苦笑)。そのあたりは、トライアルアンドエラーの繰り返しですね。単に動けても戦略に関係しないなら意味がないので、物が拾えるなどの要素も取り入れました。あとはバックアタックについても、最初は入れるか入れないかけっこう議論しました。

 最終的にはバックアタックも入れて、ある程度自由に移動できて……という、いまのバトルの形に落ち着きました。結果、「なぜ俺はここで動けないんだろう」「なぜここで看板を拾えないんだろう」というような理不尽さは、前作より感じにくくなったのではないでしょうか。自分が戦略的に動くことでストレスを減らせられる、イイ感じの落としどころになったと思います。

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――ちなみにオートでもプレイもできますが、自分で操作したほうが結果的に有利に戦えますね。

堀井
そこは意識していて、「全部オートプレイでいいじゃん」という形にはしたくなかったんです。自分で操作したほうが有利なことが起こりやすくなるなど、「オートよりも動かしたほうが楽しいんだ」と思わせるような作りをすごく意識しました。

――範囲技の判定などもシビアすぎず、ある程度感覚的に遊びやすいと感じました。そこはやはり意識されていたのでしょうか?

はい。ただ味方だけでなく敵も動きまわるため、そちらの調整もかなり苦心しました。全員の動きを完全に止めて、もっとシミュレーション寄りに遊ぶこともできたのですが、敵がリアルタイムに動いていることは、"世界が生きている"という表現として魅力的です。ですから敵が動いたとしても、できるだけプレイヤーの狙った方向に敵を吹き飛ばせるよう調整していきました。

阪本
リアルさで考えると、ずっと敵が棒立ちなのはおかしいですし、かといって常に敵がこちらの正面に回り込んできてもおもしろくないんですね。だからそれは「ゲーム的なチューニングはここ!」と割り切って、根気強く線引きのラインを決めていくしかないのです。

――ちょっと嘘が入ったとしても、ゲームとしておもしろい要素を入れていこうと。

阪本
おもしろくなる要素という意味では、今回は極技もかなり増やしました。いろいろな状況が起こりうるように、バトルチームが技の特性や種類などを豊富に用意してくれたおかげで、想定以上にプレイ中の驚きを作ってくれたように思います。

――今回は継承技を自由に付けられるため、その試行錯誤がまた楽しさでもありました。ですが、そのぶんバランス調整が大変だったのでは?

単体の強い技があること自体はそれほど気にしていませんでした。どちらかといえば「どの技とどの技を組み合わせたら、相乗効果でよりおもしろくなるのか」という点に力を入れています。

 たとえばマリンマスターには熱気系の極技がないから、このジョブのこの技を持ってくればカバーできる、とかですね。ですから個々の極技よりも、ジョブの設計や、技をバランスよく各ジョブに散りばめることのほうが大変でした。

阪本
本作はパーティバトルですから、できるだけひとりで完結するのではなく、"デバフ役がステータス異常を与えると、このジョブの特技が生きる"というような方向を意識しています。『龍が如く7』のときは単発で技を使うだけでしたが、今回はそれを組み合わせることで、多彩な戦術を試せるようにしました。たとえば水をかけた後だと電気属性の攻撃が効きやすくなる、などですね。

――ちなみに『龍が如く7』では技のショートカットが設定できましたが、本作ではそれがなくなっていました。これには何か理由があるのでしょうか?

堀井
前作ではあまりキャラクターを動かせなかった関係で、"この技を使えば間違いない"というパターンがありました。そのためショートカットを採用していたのですが、今回はシチュエーションによって、同じ技でも効果がかなり変わってしまいます。

 だから同じ範囲技ばかりを使っていると、場合によっては想定した効果になりません。つまり、同じ技を出すことを推奨するゲーム設計ではなくなったため、ショートカットをはずした形になります。

阪本
そのぶんクイックバトルを用意して、「ショートカットでテンポよく遊びたい」という要望はそちらでフォローしています。

――クイックバトルはメチャクチャ便利ですよね。素材集めなどで重宝しました。

阪本
じつはクイックバトルは最後になって入れた要素だったりします。単に暗転して終わる形だと味気ないですし、どのような形で実装するかかなり悩みました。

ぶっちぎりの制作時間をかけたドンドコ島


――つぎに、巨大プレイスポットとしてものすごいボリュームのドンドコ島ですが、こちらの企画が立ち上がった経緯や、制作してみて大変だった部分を教えてください。

堀井
今回の舞台がハワイになると決まったときに、前作の会社経営のような"メインストーリー以外でコアとなる遊び"が必要だと考え、そこから生まれたのがドンドコ島でした。ハワイといえばリゾート地のイメージですが、ワイキキビーチ周りはリゾートというより街っぽさが強く、リゾートらしさをどこかで表現したかった、というのも理由の一つです。

 そこで大自然が味わえるリゾート要素に加え、さらに"島のカスタマイズ"を軸にしようと考えました。ただ、単に島づくりや村づくりをするだけでは同様のゲームが山ほどあります。そこでバットで木やゴミを壊したり、敵と戦う要素を入れたりと味付けをして、最終的にいまの形になりました。

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――まずはリゾートとしての島づくりが前提にあって、そこからストーリーやキャラクターが肉付けされていったのですね。

堀井
はい。ただ、僕らも島づくりゲームを作ったことがなかったので、まずはいったん島を作って、そこにキャバクラを配置してみることから始めました。

――いきなりキャバクラですか(笑)。

堀井
そして"どれくらいの広さがあれば、どれくらいの規模の建物が置けるのか"を確認したのですが、最初はキャバクラを置くだけで、ほぼ島が埋まってしまいまして(苦笑)。そういったテストを重ねて、最終的にあの島の大きさになっています。

阪本
『龍が如く8』のコンテンツの中でも、ドンドコ島がいちばん時間をかけて作っていたよね。

堀井
ぶっちぎりでそうですね(笑)。

――ドンドコ島は、ほかのプレイヤーが作った島を訪れることができるのも楽しかったです。プレイヤーが作った島で、印象深かったものはありますか?

堀井
小野ミチオの立て看板を島中に立てて、島の中に小野ミチオの小さいフィギュアが何個か隠れているので見つけてください、といった島が記憶に残っています。

横山
見つけられた?(笑)

堀井
ダメでしたね(笑)。あとは迷路のような形にして、脱出ゲームを作っている方もいました。「なるほど、こういうおもしろいやり方もあるのか」と参考になりましたね。このように、プレイヤーの皆さんが作った島を僕らも楽しむ、といったネットワーク要素はこれまでのシリーズではなかったので新鮮でした。

横山
過去には麻雀などをネット対戦で遊べるくらいだけだったからね。シリーズが続いていくなかで時代も変わったなと思います。PS3時代の『龍が如く』シリーズのプレイヤーは、スタンドアローンでプレイしている人ばかりだったんです。PS4になり、ようやくアップデートや無償DLCをダウンロードする人が増えてきた感じですね。昔はオンライン接続率が10%を切っていたこともありました(笑)。でもいまはほぼ100%になり、こういう遊びができるようになったわけです。

――ドンドコ島ではほかのプレイヤーの島でスジモンバトルも楽しめますからね。ちなみにスジモン自体は前作から登場していましたが、今回バトルができるように遊びを広げた理由をうかがえますか?

堀井
スジモンは前作でも特徴的な要素でしたし、やはり「集めるだけではなく仲間にしたい」という声がありました。RPGで敵を仲間にするというのは、ひとつのカタルシスですから。そこで『龍が如く8』の企画段階から、そこに挑戦しようと考えていたのです。

 ですが、ストーリーが中心となるゲームで、かつパーティメンバーが決まっているなか、仲間にしたスジモンがメインストーリーでいっしょに戦うとドラマのノイズになってしまいます。ですので「これは別のコンテンツで管理しよう」という方向に寄せました。それがスジモンバトルの発端ですね。

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――仲間にするときにお歳暮を渡すのが『龍が如く』らしくて大爆笑しました(笑)。

阪本
ちなみに英語版ですと、普通に"ギフト"(Suji Gift)になっています。

横山
お歳暮文化がないからね。というか、常夏のハワイなら暑中見舞いじゃないのかと(笑)。

――ほかにもハワイのアクティビティでは、クレイジーデリバリーも『サバイバル缶拾い』+『クレイジータクシー』風でかなり楽しめました。

堀井
こちらも企画の初期から予定していたアクティビティですね。開発当時、コロナ禍で宅配サービスが流行っていたのもありまして、あのようなアイデアを考えました。ちなみにスタッフにも宅配バイト経験者がいたので、いろいろと宅配ならではのエピソードを聞いて参考にしています。

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横山
その経験者というのが、フリーランスでイベントチームの制作協力をお願いしている人で、なんて言うかおもしろい子なんですよ。映画監督としても活動しているのですが、『龍が如く』では結構な頻度でスポット参戦してもらっています。開発プロジェクトの途中にやって来て、終わるまでに去っていくという。

――なんと! 風のような方ですね(笑)。

横山
それで彼に「今回のプロジェクトの前は何をしていたの?」と聞いたら、宅配のバイトをやっていましたと。

――そのバイト経験がクレイジーデリバリーにも生かされたわけですね。

横山
しかも、彼が語るエピソードがどれもおもしろいんですよ。彼のやっていた宅配バイトでは配達人の名前がアプリに出るのですが、とある富裕層エリアの子どもに呼び出されて「おーい、●●。こっちこっち」と窓から大声で名前を呼ばれて、「なぜ俺はこんな子どもに呼び捨てにされなきゃいけないんだ」と憤るとか……。そういったエピソードがおもしろくて(笑)。

――それだけでもサブストーリーがひとつ作れそうですね(笑)。ほかのアクティビティとしては、マッチングアプリが最後の展開も含めて、インパクトがありました。

横山
マッチングアプリはキャバクラ的な遊びで、いまのご時世に合ったものを……と考えたときに出てきたアイデアです。ただ、ネタは決まったものの、「マッチングアプリをどうやってゲームにするんだ?」と(笑)。

――最初のプレイでは実際に相手に会ったときにオチがついた形だったので、「あ、これはギャグ展開なのか」と思っていたら、女の子と普通に会えるパターンもあってビックリしました。

阪本
最初から両パターンを入れようと考えていました。とくに悦子(過去作の大阪・蒼天堀で登場したおばちゃん)が出てくるネタは絶対にやろうと決めていました。だって、マッチングアプリってそういうものだろうと(笑)。

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堀井
実際のところ、プロフィール写真や経歴で嘘をつかれたという話もよく聞くじゃないですか。なので"いかに嘘をついてマッチングさせるか"という部分を軸にゲームにできないかと考えて、内容を詰めていきました。マッチングアプリをやったことのない人でも「なんかマッチングアプリっぽいね」と思ってもらえるような形にうまく落とし込めたと思います。

横山
振り返ると、1988年が舞台の『龍が如く0』ではテレクラをネタにしましたが、それからもう35年くらい経っているわけですよ。そう考えると人間って、時代が変わってもやることは変わっていないんだなと(笑)。

――たしかに、人間がその方面にかける情熱は変わらないですね(笑)。あとはアクティビティ関連ですと、カラオケに『Honolulu City Lights』などの名曲がたくさん追加されたのも印象深いです。

堀井
あの曲はとくに人気ですね。制作時にシティ・ポップの楽曲が世界的に流行っていたこともあり、そういった曲を入れてみました。ハワイとかビーチの雰囲気にも合いますし。

阪本
わかりやすい理由でね(笑)。

横山
この曲だけでなく、今回は"狙ってやったこと"が好評でうれしいですね。いつもは"狙った以外のもの"が受けることが多いのですが(苦笑)。

『龍が如く』シリーズの潮目が変わったストーリートレーラー


――最後におひとりずつ、『龍が如く8』でのお気に入りのシーンや、コンテンツなどをうかがえますか?

自分は山井とのバトルですね。バトル班ではストーリーが決まったあと、どんなバトルにするのかを相談して決めていくのですが、「山井戦はすごくカッコよくなる!」と、チーム全員が思いをひとつにしながら作り上げました。最終的に5回戦うことになるのですが、実際のバトル内容もいいものになったと満足しています。

横山
5回も戦ったんだ! 久瀬(久瀬大作。『龍が如く0』のボス)を超えたな(笑)。

それだけに、各バトルでどう変化をつけるのかを考えるのが、楽しかったし苦労した部分でもあります。

竹内
お気に入りと言うと軽すぎる気もしますが、私はラストシーンですね。私はあの桐生が桐生史上、いちばん強くていちばんカッコいいと信じて書きました。それがプレイヤーの皆さんにも伝わったらうれしいです。

千葉
自分の脚本担当箇所ではありますが、やはりお気に入りは絆ビンゴやパーティチャットですね。従来のサイドコンテンツでは、あまり主要キャラクターのパーソナリティに踏み込むことがなかったのですが、今回はそれに真正面から向き合って、いろいろと好きなワードを推しました。

 ちなみに絆ビンゴのラストは、"絆さんぽフィナーレ"という、相手によっては"おっさんがおっさんを口説く謎のギャルゲー"みたいな展開になるのですが(笑)、あのシーンは新たな絆イベントの到達点になったと思います。

――写真が最後に残るのもいいですよね。

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千葉
写真は絶対に撮ろうと考えていて、最後のモーションキャプチャー収録の際にねじ込んで録りました(笑)。

――パーティチャットは音声収録量がスゴかったと思います。

千葉
そうですね。演者の皆さんには、メインの収録が終わったあとに絆関連の台本をお渡しして「すみません……こんな要素もあるのでお願いします」とお願いしました。結果的にキャラクターを深堀りすることができ、キャラ同士の距離感も縮めることができたのでよかったです。

堀井
僕はディレクターですからゲーム全体がお気に入りなので、なにかひとつを選ぶのが難しいですね……。ただ、いちばん泣いたシーンを挙げるならば、エンディングノートにあるポケサーファイターのエピソードでしょうか。あれは自分でシナリオを書いたのですが、いまだに泣けちゃいます。

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――ポケサーファイター関連のシナリオは、どの作品でも感動的ですよね。

堀井
僕はこれまでの作品でサブストーリー周りを長年担当してきたので、サブストーリーのキャラクターにはメインストーリーキャラと同じくらい思い入れがあるんです。サブのキャラはどうしようもない奴とか、うだつのあがらない失敗ばかりの奴がたくさんいます。でも、そんな彼らだからこそ描けるドラマがあるとも思っています。

 ポケサーファイターはその象徴的存在というか。かつてはただのバイトで、子どもにも馬鹿にされる存在だった彼が、桐生との出会いをきっかけに前を向いてがんばって……最終的には逆に桐生に希望を与えてくれる。

 サブストーリーだからこそ。桐生一馬を伝説の龍ではなく、ただのポケサー友達だと思っている彼だからこそ胸を打つ、いいドラマが描けたと思っています。

 同じ理由で、エンディングノートの追憶ダイアリーは全部好きですね。いままで登場した端役のような人物たちにもそれぞれ人生があって、桐生との出会いの後に前を向いて生きてきたことがわかりますし、そんな彼らとの再会が、今度は逆に人生を諦めかけている桐生の力になり、桐生がまた前を向き、強くなっていく。我ながら「なんて美しいゲームシステムなんだ!」と思いますよ(笑)。

――阪本さんはいかがですか?

阪本
自分はゲームそのものではないですが、発表会で10分にもわたるストーリートレーラーを公開したときのことが印象深いですね。「いままでの『龍が如く』とは違うぞ」と、世の中の見る目が変わったのをすごく感じました。『龍が如く』のチームに僕が入って以降、最も大きく「潮目が変わった」と思った瞬間でした。



横山
やっぱりそこなんだ。僕もストーリートレーラーとオープニングが印象深いです。もちろんゲーム自体はちゃんと従来通りの『龍が如く』なのですが、ストーリートレーラーを公開したときは、その『龍が如く』という作品を変えられた瞬間だと感じました。

 オープニングについても、若いスタッフたちの作り方を含めて「ああ、変わったんだな。『龍が如く』は」と感じましたね。曲も演出も若い才能が爆発しているんですよ。だから心を揺さぶられたいちばんのポイントは、ロングトレーラーとオープニングと言っていいかもしれません。

――では最後に、今後のシリーズの展望をうかがえますか?

横山
新作は現在制作中で、オーディションを行います。ちなみに、オーディションは"「龍が如く」最新作 ミナト区系女子オーディション"という名前ですが、そこからはゲーム内容をまったく想像できないと思います(笑)。まあ、いま言えるのは「いっぱい作っています!」ということだけでしょうか。

『龍が如く』ファンの方からは、『龍が如く 極3』や過去作のリメイクを作ってほしいという声もいただいていますが、つぎの僕らはまず、"みなさんが思いもつかない新作"をお届けしますので、そこを期待してお待ちください!

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    本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります

    龍が如く8

    • メーカー:セガ
    • 対応機種:Steam・PC
    • ジャンル:RPG
    • 発売日:2024年01月26日
    • 希望小売価格:8,800 円+税

    龍が如く8

    • メーカー:セガ
    • 対応機種:Xbox One
    • ジャンル:RPG
    • 発売日:2024年01月26日
    • 希望小売価格:8,800 円+税

    龍が如く8

    • メーカー:セガ
    • 対応機種:XSX
    • ジャンル:RPG
    • 発売日:2024年01月26日
    • 希望小売価格:8,800 円+税

    龍が如く8

    • メーカー:セガ
    • 対応機種:PS4
    • ジャンル:RPG
    • 発売日:2024年01月26日
    • 希望小売価格:8,800 円+税

    龍が如く8

    • メーカー:セガ
    • 対応機種:PS5
    • ジャンル:RPG
    • 発売日:2024年01月26日
    • 希望小売価格:8,800 円+税