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『終末トレインどこへいく?』最終回(12話)感想。葉香にすべてを打ち明ける静留の成長に胸が熱くなる。2人の和解に“変わらないものはない”というテーマを描ききった素晴らしいラストだった(ネタバレあり)

文:米澤崇史

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 2024年6月24日(月)に放送されたTVアニメ『終末トレインどこへいく?』最終話(12話)“いつもって何だっけ”の感想記事をお届けします。

【注意】キービジュアルより先のテキストでは、『終末トレインどこへいく?』12話の物語に関する記述が多々あります。そのため本編をご覧になってから読むことを強くオススメします。[IMAGE]

最終回でMVP級の活躍をしていたゾンビたち【終末トレインどこへいく? 12話感想】


 11話では、7Gを停止するためのボタンを押すも何も起きませんでしたが、やはりボタンは葉香が押さないと意味がなかったことが判明。何も起きなかったので、役に立たないと判断してボタンを置いてきてしまったのはまぁ仕方ないですが、ゾンビたちのファインプレーによって再び静留たちの手に。

 逃げようとするポンタローたちを追いかけるため、何も言わずに即アポジー号から身を乗り出し、分岐器を正確に撃ち抜く撫子がイメケンすぎて胸キュン。このシーン、風を受けてなびくスカートや体勢を固定しようとする静留の動きも細かくてめちゃくちゃカッコよかったですね……。


 しかし、ポンタローたちが乗っている電車はまさかの重火器を搭載していました。これまでも、ミニチュアサイズになった戦車が出てきたりはしていましたが、本当に人間を殺傷できる威力の武器があまりにもさらっと出てきたことに驚き。砲撃を受けて横転しかかったアポジー号をとっさにゾンビたちが戻すシーンはかなりの迫力で、時には線路の代わりになったり、今回のMVPはゾンビたちといっても過言ではないくらいの大活躍でした。

 渾沌やボスも再登場したものの、静留と玲実の前にアッサリと退場。まぁ二人の身体能力がおかしいのは今更言うまでもないところではあるんですけど、走行中の電車の上という不安定な足場の上でジャンプしたり銃弾をかわしたり、あまりにもさらっとやっているのでスルーしそうになりますが、今回も割ととんでもないことをやっています。


 ポンタローの元に辿り着いたあとも、銃を持っているポンタローに対して一切躊躇せず、玲実が棒を投げて怯ませる→撫子が弓で殴る→静留の投げ技(プロレスのDDTっぽいですがおそらく吾野柔術の技の一つでしょう)の連携もすごい。ただ投げられたあと、背中から落ちたのに跳ね返るように起き上がって晶を人質にするポンタローも人間離れしていて、この世界の登場人物は全体的に身体能力がインフレしている感があります。

 しかしそのポンタローも、葉香の意思を無視して利用し続けていることが露見し、ポチによってあっさりと取り押さえられ、底が見えない空間にポイっと。ボスや渾沌も倒されたときに落ちて行きましたけど、あの空間の下って一体どうなっているのか気になります(一応、後のシーンでポンタローが地力で這い上がってきたので、無限に落下し続けるとか地面にあたって骨折とかはせずに済みそうですけど)。

すべてが変わっていくことを受け入れた静留。ついに葉香の前ですべての感情をぶちまける【終末トレインどこへいく? 12話感想】


 そのあとの静留と葉香との対面からは、まさにクライマックスというべき怒涛の展開。とにかく回りくどいことは言わず、自分が葉香を傷つけてしまったことを謝罪する……今まで、とにかく素直になれなかった静留の口から、「ごめん」の一言を聞くことができたのはめちゃくちゃ感慨深いです。


 静留があの言葉を発した裏に、「葉香にどこかに言ってほしくなかったから」という感情があったこともまで明かしたのは驚きましたが、それでも葉香には届かない。撫子たちへの反論で「頼んでないし関係ない」と拒絶する葉香は、以前の静留そのもの。9話ではスワン仙人に「変わらないものはある」と反論していた静留が、変化を受け入れられるように成長していたのと、綺麗に対比になっていたのも良かったです。

 この時の失敗するのを怖がる葉香の反応をみて感じたのは、葉香って頭は良さそうだし楽天家タイプでもなさそうなので、宇宙を目指す自分の夢がどれだけ困難で現実味がないか分かっていたと思うんですよね。静留の言葉には一種の図星をつかれた面もあって、それで一層自分の夢に対して「叶うわけがない」と後ろ向きに思うようになってしまったのかなと。

 しかし葉香に対する静留の複雑な感情は、これまでじっくりと描かれてきたので完全に解釈一致って感じだったんですが、実は葉香の側も静留を下に見ていたという告白は結構衝撃的でした。ただこれも納得できる部分で、一番仲がいい友達であっても嫉妬とか対抗心とかいろんな感情が湧くのが人間なんですよね。

 あの時に葉香が壮大な夢を打ち明けたのは、夢を諦めている静留に対してちょっとマウントを取りたかった気持ちもあったのかなと推測できたり、100%静留が悪いわけではなく、どちらにも喧嘩の原因があり、互いに歩み寄る必要があったことが分かります。


 葉香によって7Gのボタンが押され、明らかな異常こそ消えたものの、以前の池袋とは少し違っている様子。動物になった吾野の人たちや善治郎はそのまま(善治郎は7Gではなくうにゃうにゃ手術でああなっているので仕方ないですが)と、7Gを止めたからといって、世界が完全に元に戻ることはありませんでした。そもそもとして、7G事件から2年が経過しているわけですから、このあたりは「変わらないものはない」という本作のテーマに沿った形でもあるんでしょう。

 なお池袋が戻っていくシーンでは、捕まったポンタローが溶けていくちょっとグロテスクな光景も一瞬映っていましたが、その後一瞬映された茶碗蒸しが元ポンタローだと思われます。茶碗蒸しになった人間を食べるという異常な行動をしていたので、まさに因果応報という言葉が相応しい結末かなと(その茶碗蒸しに変えられた人は、人間に戻って池袋を歩いているような描写もありました)。

 一方、はっきりと明言はされなかったものの、池袋が戻った際に飛び去り、最後にアポジー号を見送っていたカラスの正体はおそらくポチです。1話冒頭の葉香がボタンを押すシーンを見直すと、葉香の後ろに一羽のカラスが映っていて、この時のカラスが7Gの影響で人間になったのがポチだったんでしょうね。

 ポチは静留たちに協力して、葉香のために7Gで変わった世界を元に戻す選択をしましたが、自分がカラスに戻って葉香のそばにいられなくなることを分かっていて協力したと考えると、なかなか切ないです。


 完全に世界が元に戻ったわけではないので、ちょっとモヤっとした感情を抱いた人もいるかもしれませんが、やっぱり本作で一番重要だったのは、静留と葉香が成長して、本音を明かして仲直りする点だったと思います。その点はこれ以上ないほど達成されているので、非常に良い最終回だったのではないかなと。静留を攻撃する葉香の髪の毛の動きとかポンタローの動きとか、アクションシーンの作画も見応えがありました。

 色々な意味で尖った部分が多かったので、万人が楽しめるという作品とはちょっと違ったかもしれませんが、ぶっとんだファンタジー的な世界観の中に混じったリアリティ、ほんわかした雰囲気の中にエゲつない毒が混ざっていたり、いろんな要素からギャップを感じることも多くて、本作でしか味わえない独特の魅力に溢れた作品だったと改めて思います。

 吾野に戻るまでの静留たちの旅もまた一波乱ありそうで、いろいろ展開できる可能性も残されているはず。水島監督も気になるポストをされていますし、今後何らかの形で描かれるといいなと期待しています。



米澤崇史:ロボットアニメとRPG、ギャルゲーを愛するゲームライター。幼少期の勇者シリーズとSDガンダムとの出会いをきっかけに、ロボットアニメにのめり込む。今もっとも欲しいものは、プラモデルとフィギュアを飾るための専用のスペース。

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