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『メダリスト』6話感想。アスリートが直面する厳しい現実まで描く物語の“良さ”を実感&司の過去を一気に明かす構成の上手さに唸る(ネタバレあり)

文:米澤崇史

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 放送中のTVアニメ『メダリスト』第6話“初戦の夜”の感想記事をお届けします。

【注意】キービジュアルより先のテキストでは、『メダリスト』6話の物語に関する記述が多々あります。そのため本編をご覧になってから読むことをオススメします。 [IMAGE]

夜鷹純と対峙した後に明かされる司の原点【メダリスト】


 早いものでもう6話目となったアニメ『メダリスト』。今回の話は、初めての大会となる名港杯で見事優勝を決めたいのりと司が、光のコーチを務める元金メダリスト・夜鷹純に対してある種の挑戦状を突きつけるような形となっていました。

 そのできごとがあったからか、優勝の喜びに浸ることなく、いのりは早くも次の大会に向けて切り替えています。人間ってどうしても怠けてしまいがちな生き物なので、短期的な目標を次々と立て続けることって重要なんですよね。

 この優勝で満足してしまうと、しばらくの間自分が停滞してしまう……と考えて、次の大会に向けての猛練習をする意欲を持ち、できないことは何か、と考え、壁にぶつかりたいという意識がある。いのり、小学生なのにあまりにも立派すぎます! 将来に期待したくなりますね。


 年齢によるハンデを誰よりも知る司だからこそ、それに賛成するわけですが……ここに来ていのりが、司がスケートを始めた年齢が遅いことを知って驚いているリアクションを見て、そういえば司ってまだ自分の過去をいのりに伝えていなかったんだと、今更ながら気づきました。

 視聴者側からするとその前提でずっと司を見てきたので、ちょっと盲点でした。

 そこから司が自分の過去を伝えていく流れで、原作だと結構小出しになっていた司の過去が一つのエピソードとしてまとまっていて、「アニメだとどうなっているんだろう?」と疑問に思っていたところが一気に解消されて気持ち良かったです。


 アニメでも回想シーンで一瞬映っていましたが、司が夜鷹に憧れてスケートを始めたことが、夜鷹に啖呵を切ったあとに明言された形になったのが構成として上手いなと。序盤の司のエピソードを一気に飛ばしていたのに、しっかりと意味がある構成になっていると感心していました。

 しかし20歳までほぼ独学で、それからいきなりのアイスダンス転向から全日本選手権で4位って、知れば知るほど司の経歴のすごさが分かってきますね。

 これでもし早めにフィギュアスケートを始めていれば、それこそ金メダルを取れるくらいの選手になったんじゃないか……とも想像してしまいますが、司がここまで来られたのは「遅く始めたからこそ、ほかの人以上に頑張らないといけない」というところも影響していそう。必ずしも良い結果になっていた、とは言えない気がします。

アスリートを続けるには、お金がかかることも描くリアルさ……【メダリスト】

 赤の他人である司を、家族同然のようにサポートしてくれた加護一家と再会した司。

 司にとっては大恩人とも言える人たちであるはずなのですが、一緒に回転寿司に行って何も手をつけずに帰って来るのは、さすがに遠慮してるとかのレベルではありません。司としては、お金に困っていないアピールをしたいんでしょうけど、逆に心配になりそうですよね。


 ただ、そんな司が加護一家を避けようとしていた理由が、“期待に答えられなかった気まずさ”だったというのはすごく納得がいきました。

 自分もフリーランスのライターで長年やっていると、育ててくれた親の期待に答えられる生き方はしてないかもしれない……という引け目を感じる時があるのですが、血の繋がった親に対してすらそうなので、他人である加護一家に対する司の引け目というのは比較にならないくらい大きかったんだろうなと。

 もっとも、司の場合は全日本選手権4位という立派な結果を残しているわけで、はたから見たら十分期待に答えたようにも思えます。ただ、司にとって、亡くなる前の芽衣子と交わした「表彰台に上がって会社の宣伝をする」約束が大事で、唯一自分にできる恩返しだと思っていたんでしょうね。

 そこから芽衣子が抱いていた想いが、今自分がいのりに対して抱いていた想いと同じようなものだった、と理解する展開はグッと来ました。

 加護一家にとって司が救いであったのと同じように、ずっとスケートをすることへの理解を周囲から得られなかった司にとっても、加護一家存在は大きな救いになっていたんでしょう。それだけに、司を一番応援してくれていたであろう芽衣子が亡くなったショックは大きかったに違いありません……。


 今回の話で改めて『メダリスト』がすごいなと思うのは、最終的に司が援助されることのを再び受け入れたこと。物語の流れとしては、主人公が自立していくのがよくあるパターンだと思うのですが、今回のお話はそれとは逆で、司は庇護の元に戻ってるんですよね。

 今の司はコーチの仕事こそやっていますが、スケートクラブは1日中やっているわけでもないので給料は限られるでしょうし、かけ持ちのアルバイトらしきものをやっていた描写からみても、スケートだけで食べていくのは今は無理でしょう。

 いのりの話でも「フィギュアスケートを続けるにはお金がかかる」ということは何度も語られていました。親族のサポートか、加護一家のような後見人がいないと、アスリートがスポーツを続けるのはかなり難しいこと、引退した時のセカンドライフの難しさといった、アスリートが向き合うことになる"現実”にしっかりと向き合っているのがすごいなと。

 華やかな面の裏側の部分にもスポットを当てつつ、必ずしもそれを否定的に描いていない(加護一家がいたから司も頑張れたように)のが、本作ならではの良さだなと改めて感じられました。



米澤崇史:ロボットアニメとRPG、ギャルゲーを愛するゲームライター。幼少期の勇者シリーズとSDガンダムとの出会いをきっかけに、ロボットアニメにのめり込む。今もっとも欲しいものは、プラモデルとフィギュアを飾るための専用のスペース。

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