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『空の軌跡 the 1st』で“RPGの初心者を増やしたい”。『空の軌跡SC』以降の『軌跡』シリーズのリメイク予定についても聞く【近藤社長インタビュー:後編】

文:アツゴロウ

公開日時:

 Nintendo Switch 2/Nintendo Switch/PS5/Steamで好評発売中のストーリーRPG『空の軌跡 the 1st(ザ・ファースト)』について、日本ファルコムの近藤季洋社長に行ったインタビューの内容をお届けします。

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 『空の軌跡 the 1st』は、2004年に発売された『英雄伝説VI 空の軌跡』のフルリメイク作品。美しいグラフィックと豪華な声優陣、そして現代的な操作性を備えつつも、原作の魅力をしっかりと受け継いだ内容で多くのファンから高い評価を得ています。

 今回は日本ファルコム代表取締役社長の近藤季洋氏に、本作の開発秘話や反響、そして今後の展望などについてインタビュー。20年の時を経て新たに描かれた『空の軌跡』の世界はどのように作られ、ユーザーに何をもたらしたのか――その全容に迫ります。

 なお、今回の記事はインタビュー後半になります。前半の記事は以下のリンクからどうぞ!


※記事中にはエンディングなど本作のネタバレ要素が一部含まれています。未プレイの方はご注意ください!

ゲームの歯ごたえは残したい――難易度調整の裏側


――バトルシステムについてお聞きします。今作ではコマンドバトルとアクションバトルを使い分けている印象ですが、これは最初から計画されていたのでしょうか?

近藤
 実はスタッフは、最初に完全なターンバトルにしようとしていたんです。それで、私が出した指示の一つが「バトルはシンプルにすればいいだけなんだよ」ということでした。それで十分新鮮になるし、気持ちの良いものになるはずだからと。

 「ターンバトルは今やると面白くするのが難しいから、『黎の軌跡』の方面に舵を切ったのに、なぜ元に戻すんだ」とも言いました。

 バトル中のリズムであるとか、やはり時間がかかってしまうところとか、何もしない時間が多いとか、色々問題があるじゃないですか。

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 そういったいろんな考えを経て、『黎の軌跡』のバトルに集約されたのですが、現状はちょっと要素が多くて難しいから、あれをシンプルにするだけで良いイメージが浮かぶ気がしたんですよね。

 そこに関しては唯一、私が完全にひっくり返したところです。

――今回は難易度調整もかなり丁寧にされていますね。普通にノーマルでもなかなか歯ごたえがある印象でした。

近藤
 私が『the 1st』で出した指示はいくつかあって、「元気にやって」とか「歯ごたえみたいなところ残しましょう」とか「とにかく初心者向けの内容にしましょう」ということを徹底して欲しい、と伝えました。

 難易度に関しての指示は主に2番目、「歯ごたえみたいなところは残しましょう」です。

 オリジナル版をプレイしてみると、『the 1st』よりももっと敵は強いんですよ。本当にちゃんと装備を買い替えて、回復薬をお金がなくなるぐらいまで買い込んで行かないと死んでしまうんですね。

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 それぐらいの難易度だったんですが、それをどこまで再現するかという時に、やはりゲームの歯ごたえみたいなものは残したいと。

 ただ、当時のものをそのまま今持ち込むと、それはちょっと時代に沿わないものになってしまうので、そこを意識した落とし所だったんじゃないかと思います。

――オリジナル版ですと、ロレントで最初の魔獣宝箱を開けて全滅したりという話も有名でした。

近藤
 魔獣宝箱もそうですが、序盤のクエストで戦う畑荒らしで全滅している方も見かけますね。

 私の次男も「難しくない?」と言いながらそこで全滅していました(笑)。

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 でも、ちょっとした苦労を乗り越えた先に得られる達成感みたいなものが、昨今のゲームからは少し失われてきているように感じます。あえてそこは残したいなと。

 ただ、そのぶんちゃんと親切に誘導をしたり、チュートリアルを充実させたりというところには気を使っています。

――クラフトのほうもブラッシュアップされていましたよね。各キャラクターの習得技なども変わっていました。

近藤
 オリジナル版では、キャラクターによって最初にパーティーに参加した時に、極端に使えるクラフトが少なかったんです。今回はそちらに調整を加えています。

 元々は後半の章とか、グランセルに入ってからしれっと増えていますが、それも最終ダンジョンでそのキャラを選択しないとそのクラフトすら知らないで終わってしまうバランスになっていました。

 それはちょっともったいないよねということで、クラフトの習得タイミングはキャラによっては前倒しするという話が出まして。

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 そのうえで、使えるのか使えないのかというところから、各クラフトの性能の調整に入りました。

 ティータなんかは元々もっと強かったのですが、“スモークカノン”に調整を入れることもありましたね。逆にクローゼはクラフトが少なすぎたので増やしています。

――クローゼはバフ付与と、防御を下げられるクラフトが追加されてましたね。使い勝手のいい“ケンプファー”も、単体攻撃だったのが直線範囲攻撃になっていたり。

近藤
 バトルも少し変わっていますので、そのあたりの使い勝手はそれに合わせた部分もあります。

 『界の軌跡』はちょっと複雑だと思うんですよね。やはりシリーズを積み上げてきて作っていますし、シリーズを熟知している人向けのものになってきています。子供の保護者会で「難しすぎませんか?」と言われたこともありました(笑)。

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 そういった流れを経て出したのが、さっき言った3つ目の指示の「とにかく初心者向けの内容にしましょう」というものです。

 昨今はRPGのタイトル数が減ってきていて、ジャンルとして勢いが落ちているような気がするんですよね。『the 1st』自体は目を引く形になりそうだったので、これはチャンスだと思いました。

 『軌跡』シリーズの初心者はもちろん、RPGの初心者を増やしたいというのがありましたし、我々もこの先食っていけなくなるかもしれないわけですから、そういうところを意識したかったんです。

 以前、漫画の編集者の方と話す機会があったのですが、彼らはクリエイティブな部分は作家が担当するので、自分たちの仕事としては「クリエイティブをいろんな人間に届けること」だと考えているようでした。

 たとえば連載途中でも、途中から読み始めた人たちがどう受け取るのかといったことを徹底分析していると。『軌跡』シリーズはそういうことが少し意識できなくなってきているような気がしました。

 ゲームを初心者の人でも楽しめるようにするには、チュートリアルを充実させたり、ゲーム自体もシンプルにしつつも面白くするといった方向に傾けていかないと、どんどんニッチになってしまう。

 とくに『軌跡』シリーズで活動しているスタッフたちに、そこを見つめ直してもらいたかったんです。ですので、チュートリアルだけは何度もチェックしました。

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 オーブメント(術の装備システム)のところは、当時もシリーズの中では一番シンプルなシステムだったんですが、ちゃんと理解しきれていなくて属性値とかなんとなくでやっていたという人もたくさんいたんです。うちの創業者もそうでした。「よく分からないからずっと適当にやってた」と言って(笑)。

 そういうところもプレイヤーが理解できるようになって、なおかつなんとなくいじれば分かるようになっているといいですよね。

 ですから、クオーツのセット段階で隣にアーツ(魔法)の表記が出るようにして。セリフで表示するよりも絵を1枚表示した方がいいでしょう、と伝えました。

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世界観を知ってもらうための、サブクエストの追加とキャラの掘り下げ


――サブクエストがかなり充実していて、既存のキャラクターがより掘り下げられていました。これはどういった方針で追加されたのでしょうか?

近藤
 基本的には、今回オリジナル版のシナリオライターは私も含めて関わっていないんです。私たちの後に入ったライターたちが「こうしたい」という案を出してくれている形ですね。

 やはり今プレイしてみると、ちょっとシンプルすぎるところがあるなというところと、あとはその後の反響を受けて形作られていったアネラスのようなキャラクターもいますので、そういうところを拾ってわかりやすくしてみたい、ということがありました。

――最初はエステルの幼なじみのエリッサとティオ、パーゼル農園と居酒屋アーベントにまつわるサブクエストがありましたね。あそこでは居酒屋アーベントの食材はパーゼル農園から取り寄せているという新設定も見られました。

近藤
 そのあたりは若手が提案してくれて、ほとんど私たちが見ても違和感がなかったですね。

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――アネラスとスティングのサブクエストでも、スティングがボース支部のエースだという設定や、アネラスの視点の鋭さみたいなものも見られました。

近藤
 オリジナル版ではあまり触れられていなかったり、のちの作品を踏まえて追加された設定があります。

 そこをきちんと最初から織り込んでいくとこういう形になるだろう、というところでの判断だったと思います。

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――先輩遊撃士たちは、かなりキャラが掘り下げられていましたね。

近藤
 オリジナル版ではNPCだったという理由もありましたが、アネラスは《八葉一刀流》の使い手だし、続編の『空の軌跡SC』では冒頭からクローズアップされるキャラクターなので、もう少し格を上げようという話にはなりました。

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――オリジナル版の頃から最初にシェラザードがタロット占いをするシーンがありますが、それが暗示するものは何かゲーム内の出来事と関連しているという認識でよいでしょうか?

近藤
 しっかりと意味を持って作られています。その後起きることを示唆していますね。カシウスの失踪とか、そのあたりはきちんと織り込んでやっています。

 エステル自身のことについても示唆されていますし。『空の軌跡SC』になってからも出てきますよね、タロット占いは。

 といった感じで、シェラザード周りの伏線はちゃんと張られています。2周目に「あ、これだ!」と気づける形になっているものが多い気がします。

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リメイク作品ならではの悩みも?


――イベントシーンについてお聞きしますが、《白き花のマドリガル》の演劇はセリフ送りができないようになっていましたね。意図的な演出だったのでしょうか?

近藤
 緻密さを求めるということと、あとは単純に、スキップをするとイベントシーンが壊れてしまうという技術的な面もあります。初回でうっかりスキップしてしまうと後で見返せなくなってしまう場合もあって、現場のスタッフも悩んだみたいです。

 最終的には少し長いですが、演出の意図通り見て欲しいというところで、ああいう形に落ち着いたと聞いています。

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――昔のゲーム会社的なこだわりを感じました。今はほとんどのゲームがスキップできますから。

近藤
 結局、声も入っていると全部スキップ機能を完璧に作るのは難しかったのかもしれません。

 それで中途半端なものになるくらいなら、スキップなしにするというのも一つの選択肢かなと思っています。

――ちなみにあのイベント、どれくらいの時間がかかるものなのでしょうか?

近藤
 だいたい30分くらいだと思います。

 途中で中断しづらいので、なんとか30分、時間のある時に一気に見ていただければと。

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 そういえば私が子どものころ、家でゲームは1日1時間しかできなかったのですが……『ファイナルファンタジーIII』のラストダンジョンが、結構長かったですよね。あれは3時間くらいかかったので、親がいない時にクリアしました(笑)。

――今回のリメイクでは、3Dになったことでフィールドマップのギミックも印象的でした。近藤さんがとくに気に入った場所はありますか?

近藤
 街はよく形にしてくれたなと思います。『空の軌跡FC』の時に、5大都市に必ずランドマークを1つ作ろうというところで、街の設定をしていったんですよ。ロレントなら時計台、ボースならボースマーケット、ルーアンならラングランド大橋ですね。

 その景観が3Dになるとこういう風になるんだ、と感じられるように、スタッフがよく頑張って自然に表現してくれました。

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 個人的にはフィールドが「こうなってたんだ」と思うことが多かったです。

 クローネ山道なんかは、はしごに登ったりとか、当時思い描かなかったことがいろいろありました。あのあたりの地形は新鮮でしたね。

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 トラップがあったり、トロッコに乗ったり、昔のゲームにはいっぱいありましたよね。それが『空の軌跡』ではほぼそのまま移植されていて、ちゃんと3Dにもなっています。

 そういうところは我々にとっては懐かしいですし、逆にここ10年、20年のゲームをやってきた方たちには新鮮だったんじゃないかと思います。

 オリジナル版をやったことのある人からも「街道ってこんなに長かったの?」といった声もありました。フィールドのだだっ広いところがただ繋がっているわけじゃなくて、いろんな地形があって、いろんなマップギミックが配置されているので飽きないんです。

 実際に3Dにした時に、フィールドを歩いている時間は長くなってしまっているんですよ、オリジナル版よりもプレイ時間が実際に長くなっていますが、それでも楽しめるというのは我々にとっても収穫でした。

――まさに“遊撃士になるための修行の旅”という感じですね。

近藤
 昔はドットでキャラクターの特徴を立たせるために、極端なことをやっていました。それが今回3Dで落とし込めたというのはあります。ですが、やはり3Dになったことでなくなってしまった面白さもあって。

 昔のゲームなんかでは、街の黒い部分に入り込めたりしましたよね。それを見つけた時の嬉しさや喜びはひとしおなのですが、ああいうのは3Dだと唐突で「どういうこと? バグ?」となってしまいますので……そういったところは少々寂しく感じますね。

――今回は、目的地マーカーなども導入されていましたね。

近藤
 今のゲーム表現では、昔と同じことはできないのは分かっています。

 でも逆に、今に合わせて、そういった楽しさを取り入れていくことはできるはずです。それを『the 1st』で少し感じました。

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 それで今後、新しいタイプのゲームとか考えられないかな、ということにもしかしたら結びついていくかもしれないですし、『空の軌跡SC』をリメイクする時に、そういうものが存分に反映されるかもしれません。

 またゲーム作りが面白くなってきたな、と感じられる内容だったと思います。

――やはり『空の軌跡SC』のリメイク『the 2nd』の発売が待たれるところですが、いつくらいになりそうですか?

近藤
 なるべく早めにお届けしたいと思います。

 やはりいい流れができているので、また何年も待たせるとかになったら怒られそうですから。

[IMAGE]※インタビュー実施後、決算短信にて来期の情報が公開。ここに『空の軌跡 the 2nd』の名前がある、ということは……?

――プラットフォームに関しては今回を引き継ぐ形ですか? それともNintendo Switch 2などを予定されてますか?

近藤
 Nintendo Switch 2は、今後ちゃんとやっていくことになります。同時発売するかどうかは別として、今取り組んでいるプラットフォームは引き続き継続していきたいと思います。

 どうしてもかけられる人数などの都合で、プラットフォームによって発売時期が前後してしまったりすることはあるかもしれませんが、最終的には今のプラットフォームで行きたいですね。

 とはいえ、もし2年後とかだったらNintendo Switch(現行機)ではさすがにないかもしれません。PS4がもうここに来てちょっと落ち着いてきていますので、今回はPS4版は出していませんし。

 『軌跡』シリーズですと『界の軌跡』の続編もお待ちいただいていますが、こちらはPS4でプレイされている方も多く、どうするか悩み中です。

――今回セーブデータの引き継ぎなどを考えると、ハードをまたぐのは難しそうですね。

近藤
 そこはちょっと考えないといけないな、と思います。

 Switch 2でもやりたいですが、タイミング的にどうなるか。せっかく『the 1st』でお客さんが広がっているので、そこから続編が遠すぎてもよくないでしょうから。

――『空の軌跡SC』の次の『空の軌跡 the 3rd』以降のリメイクについてはいかがでしょうか?

近藤
 『the 3rd』にするか、『零の軌跡』にするかは我々の中でも意見が分かれています。

 『the 3rd』より『零』のほうがいいんじゃないかという意見もありますね。

――でも、『the 3rd』をやらないと色々繋がらない部分もありますよね。

近藤
 レンの話とか大事ですよね。ケビンの話もそうですし、クロスベルの名前が出てくるのも『3rd』からですし。

 エレボニア帝国の《鉄血宰相》こと、オズボーンが出てくるのもこの作品からです。

――今回『the 1st』では、オズボーンも登場していましたね。

近藤
 当時は影も形もなかったですが、オリビエのセリフの中に出てきましたからね。

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 『the 3rd』のリメイクもどこかでやらないといけないと思いますけど、それがどういう形になるのかは色々考えられると思います。

――『零』と『碧』のリメイクはもちろん、『閃の軌跡』なら『I』と『II』の合体版みたいな話も期待されていそうです。

近藤
 『閃の軌跡』は制作時に「もう何をやってもいい」と言われて、ともかくいろいろ詰め込んだので、リメイクとなると大変でしょうね。

 『I』と『II』をまとめるというのも、ボリューム的にもかなり厳しいと思います。とりあえず現状では未定ですね。

――最後に、本作並びに『軌跡』シリーズに注目するユーザーの皆さんにメッセージをお願いします。

近藤
 初めて触れた方は、これが長いシリーズの最初のタイトルなので、お届けできたことが私としては本当に嬉しいことです。

 当然、最後までプレイすると続きがあるという内容になっていますので、気に入っていただいた方は、続編が出た時にはぜひそちらも楽しんでいただければと思います。

 それからずっと『軌跡』シリーズで遊んでくださっている方たちは、長い年月遊んでくださってありがとうございます。もう20年以上プレイされている方もいらっしゃると思いますが、『界の軌跡』もあと少しだけ続きますし、その後も、もうちょっとだけ続きます。

 時には『the 1st』のような過去を振り返りながら楽しめるようなものも用意していますし、飽きさせないよう工夫を一生懸命していこうと思っていますので、注目していただければと思います。

――本日はありがとうございました。

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 『空の軌跡 the 1st』は2004年のPC版から20年の時を経て、最新のプラットフォームで蘇りました。元気な少年少女が世界を旅する物語は、グラフィックやサウンドの進化によってより魅力を増し、新規層にも響く内容になっています。

 複雑化する現代のゲームの中で、シンプルながらも奥深いゲーム体験は新鮮な魅力に溢れています。そしてこの成功が意味するものは、単なる一作のリメイク以上のもの。『軌跡』シリーズの未来、そして日本ファルコムのゲーム開発の在り方にも大きな影響を与えそうです。

 続編『the 2nd(仮)』はもちろん、今後の展開にも大きな期待が寄せられます。あなたも『空の軌跡 the 1st』で、エステルとヨシュアの冒険を体験してみてはいかがでしょうか?

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