ガンダムシリーズファンのライター・米澤崇史がオススメのガンダム作品を紹介する連載【米澤崇史のガンダム、次に何見る?】。第7回は『新機動戦記ガンダムW Endless Waltz』を紹介します。
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『新機動戦記ガンダムW Endless Waltz』とは
『新機動戦記ガンダムW Endless Waltz』(以下、EW)は、TVアニメ『新機動戦記ガンダムW』の続編として1997年に発売されたOVAシリーズ。
1998年には、映像を再編集して新規カットを加えた映画『新機動戦記ガンダムW Endless Waltz 特別篇』も劇場公開されています。
TVシリーズの最終決戦から1年後、平和が訪れた地球圏において、トレーズ・クシュリナーダの娘を名乗るマリーメイアが率いるマリーメイア軍の蜂起と、それを食い止めようとするガンダムパイロットたちの戦いを描いた作品です。
クリスマスに見るガンダムといえば、クリスマス当日の出来事が最終話で印象的に描かれるOVA『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』(以下、ポケ戦)が有名なのですが、『EW』はクリスマス・イブに起こった出来事を描いています。
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『ポケ戦』に登場するサンタ型バルーンほど直接的にクリスマスを連想させるような描写はないのですが、デュオ・マックスウェルがヒイロ・ユイに向かって「世間はクリスマスだってのに、働き者はいるもんだ」というセリフを発するシーンが冒頭に存在するのもあって、初めて見たときからクリスマスのお話としての印象は強めでした。
ガンダムシリーズにおけるクリスマスネタといえば、だいたい『ポケ戦』か『EW』……というのがファンの間での定番となっていますね。
実はTVシリーズ『ガンダムW』最終決戦にあたる“EVE WAR”と呼ばれる戦いも、その名の通りクリスマス・イブ当日の出来事。
『EW』はそのちょうど1年後という形になっていて、実は『ガンダムW』自体クリスマスとの関わりが深いシリーズになっています。
カトキハジメ氏による斬新なモビルスーツデザインが人気に【ガンダムW Endless Waltz】
TV版『ガンダムW』の続編にあたる『EW』ですが、登場するモビルスーツのデザインが、メカデザイナーのカトキハジメ氏の手で一新されているのが特徴的なポイントです。
とくに主人公機であるウイングガンダムゼロは違いが分かりやすく、機械的なパーツだったバックパックの翼が、天使の羽根のような外見に変わっています。
工業製品であるはずのモビルスーツに、どうみても有機物にしか見えない羽根がついているデザインは、当時のガンダムファンに凄まじい衝撃を与えました。
他にも、布マントを装着したサンドロック改、ピエロのマスクをつけたヘビーアームズ改、どこに収納してるんだとツッコミたくなるくらい腕(ドラゴンハング)が伸びるガンダムナタクと、斬新なデザインやギミックを搭載したモビルスーツが登場しています。
『ガンダムW』では、主人公のヒイロ・ユイを筆頭に、クセの強い美少年ガンダムパイロットたちが人気を集めていましたが、『EW』版のモビルスーツは、それに負けず劣らずクセの強いデザインをしています。
しかし結果的に、このモビルスーツデザインが多くのファンを魅了する形となり、とくに主役機であるウイングガンダムゼロは、今もなお絶大な人気を誇るガンダムの1機となっています。
ちょっとややこしいのが、見た目が違っているのは、TVから『EW』の間に改修されていたわけではなく、『EW』の世界では、TV版にあたる時代から『EW』版のデザインでモビルスーツが存在していたということ。
実際『EW』の冒頭では、TVシリーズの最終決戦にあたる“EVE WAR”が描かれているシーンもあるのですが、その時も5機のガンダムは『EW』版の外見で戦闘を行っています。
これを踏まえると、実は『EW』をTVシリーズの直接の続編と表現するのは微妙に正確ではなく、TV版の『ガンダムW』とそっくりな出来事が起こった、パラレル的な世界観での続編……と表現するのが正しいところなのかなと思います。
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これはちょっと余談になるのですが、一時期『EW』版のモビルスーツは、“ウイングガンダムゼロカスタム”など“カスタム”つきの名称で区別されており、一部のゲーム作品などでは、TV版のウイングゼロとは完全に別の機体として登場することもありました。
一方で現在は、どちらも“ウイングガンダムゼロ”という同一機体であり、機体名のあとに(EW版)がつくという表記で扱いが統一されています。
ただ、“カスタム”時代が長かったのもあって、未だに『EW』版のウイングゼロを見ると、“ウイングガンダムゼロカスタム”として一度認識してしまうのが正直なところ。
その後で「いや、これは“ウイングガンダムゼロ(EW版)”だ」と置き換えるんですが、これは自分だけではなく、当時からのファンの方々は、脳内で同じような処理をしている人が多いんじゃないかと思っていたりします。
新しい“癖”に目覚めさせてくれた、リーオーの活躍【ガンダムW Endless Waltz】
とにかく作画のクオリティが高く、アニメーションとして見応えがあるのが『EW』の大きな魅力の一つ。
とくにこれまでにも語ってきたモビルスーツに関しては、ウイングゼロを筆頭に、どれも非常に複雑で情報量も多いデザインなのですが、これがほぼそのままアニメとして動くんですね。
戦闘シーン自体は限られているものの、その分一つ一つのクオリティが凄まじく、映像部分の見応えはかなりのもの。
本コラムでも紹介した『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』と並んで、セル時代のガンダムシリーズのメカ作画の最高峰だと個人的に思っています。
とくに『EW』の戦闘シーンで好きなのが、TV版では基本やられメカだったリーオーの活躍でして、『EW』版の序盤ではガンダムに代わるヒイロとデュオの乗機として登場します。
リーオーは宇宙世紀におけるザクやジムに相当する名機ではあるものの、この頃には完全に性能が旧式化しているんですが、ヒイロとデュオが乗ってると「見た目が同じだけで中身は別物なんじゃないのか」と疑いそうになるくらい強くなるんですよね。
モビルドールが操縦する同じリーオーはほぼ相手にならないレベルで、張五飛が乗ったガンダムナタク、トロワ・バートンが乗る最新鋭機であるマリーメイア軍のサーペントとある程度まともに戦えています。
とくにナタクとビームサーベルでやりあうシーンは必見で、『EW』を見てリーオーのカッコ良さに気づいた人はきっと少なくないはず。
ロボットアニメに対する自分の“癖”の一つとして、「主人公が本来の乗機ではない代替機に一時的に乗って、性能を技量でカバーして戦う」シチュエーションがめちゃくちゃ好きなんですが、おそらく元を辿ると『EW』のリーオーが初めての出会いだったと思います。
ガンダムの活躍シーンは多いのですが、こういう量産機が明確に輝くシーンって、意外とガンダムシリーズで貴重だったりもするので、一層印象に残っています。
ライバルとの共闘、5人の過去などキャラクタードラマも見どころ満載【ガンダムW Endless Waltz】
『ガンダムW』といえば、個性豊かなキャラクターが大きな魅力。もちろん『EW』でも、このあたりの描写は充実しています。
まず、TVシリーズではライバルでありラスボスだったゼクス・マーキスが、“プリベンター・ウインド”として味方として再登場してくれたのは個人的に嬉しかったポイント。
ガンダムエピオンも良いんですが、個人的にゼクスはトールギスに乗っていた頃が一番好きだったので、その後継機であるトールギスⅢに乗って再登場してくれたのはテンションが上がりました。
「平和になじめない男も、少しは役に立つということだ」とか「トレーズの亡霊がさまよっている以上、大人しく棺桶で眠っているわけにはいかんのでな」など、口にするセリフすべてが名言といっても過言じゃないくらいカッコいいんですよね。人生で一度はこんな台詞を言ってみたいところ。
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レディ・アンの執務室にいきなり入ってきて、開口一番に「私にもコードネームをいただきたいのです」と言い始めるのはなかなか不審者だったり、ゼクスとして正体がバレバレすぎて、結局誰からも“プリベンター・ウインド”と呼ばれなかったりなど、ツッコミどころもありますが、それも含めての『ガンダムW』の味が詰まっていました。
加えて、『EW』がすごいのは、TVシリーズよりも後の時系列で、なおかつ尺もかなり限られているにも関わらず、5人のガンダムパイロットの過去も掘り下げながら物語が進行していくこと。
とくに印象的だったのがトロワ周りのエピソードで、我々の知るトロワは本来のガンダムヘビーアームズのパイロットのトロワではなく、その死を隠蔽するためにトロワに成り代わっていた……という衝撃の過去が明かされる一方、マリーメイア軍にスパイとして潜入したりと、かなりの存在感を見せていました。
もちろん、主人公であるヒイロの過去も掘り下げられていて、ヒイロがリリーナとの出会いを経て、どうしてああも変わっていたのか、納得できるようなバックボーンが明かされたのも非常に良かったです。
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TVシリーズでは、確かに世界こそ救われたものの、最終決戦を経てもヒイロ自身が救われていない問題が残っていたのですが、『EW』ではヒイロ自身の精神的な救済もなされて、これで本当に『ガンダムW』のストーリーが完結したんだな、というスッキリとした感覚が得られました。
もっとも、そのあとに『新機動戦記ガンダムW Frozen Teardrop』や『新機動戦記ガンダムW 0.5POINT HALF プリベンター7』といった続編も作られているのですが……一旦それは置いておきましょう(皆続きが見たいんだから仕方ないですよね!)。
このあたりの掘り下げがしっかりしているのもあって、5人のガンダムパイロットたちがどんなキャラクターなのか、TVシリーズを見ていなくてもなんとなく分かるようになっているので、いきなり『EW』から入っても楽しめるんじゃないかと。
尺が短いので比較的気軽に見れますし、作画が素晴らしい分純粋にアニメとしての見応えもあるので、ガンダム初心者にもオススメできる作品と言えると思います。
もう一度見たという方も、クリスマス・イブにあらためて見返してみるのも良いのではないでしょうか。
【米澤崇史のガンダム、次に何見る?】バックナンバー(第4~6回)
米澤崇史:ロボットアニメとRPG、ギャルゲーを愛するゲームライター。幼少期の勇者シリーズとSDガンダムとの出会いをきっかけに、ロボットアニメにのめり込む。今もっとも欲しいものは、プラモデルとフィギュアを飾るための専用のスペース。