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『ハンドレッドライン』小高和剛さん&打越鋼太郎さんインタビュー。採算度外視の膨大なボリュームのシナリオを手がけた理由は、どこかで狂っていなければ勝てないから【ハンドラ】

文:カワチ

公開日時:

 4月24日発売予定のNintendo Switch/PC(Steam)用ソフト『HUNDRED LINE -最終防衛学園-(以下、ハンドラ)』。ここでは本作のディレクションとシナリオを手がける、小高和剛さんと打越鋼太郎さんのインタビューをお届けします。

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▲打越鋼太郎さん(写真左)、小高和剛さん(写真右)。

『ハンドラ』開発者 小高和剛さん&打越鋼太郎さんインタビュー

ひとつのエンディングを迎えてからが本番!?

――2018年9月のトゥーキョーゲームス設立発表会で、TooKyo Gamesコンセプトアート1/キャッチコピー:小高&打越共同シナリオ作品! “極限”ד絶望”というイラストを公開してから、ここまで長い道のりだったのではないでしょうか?

小高
実は制作発表会で公開したイラストはまったくの別作品です。僕と打越の共同制作作品を作るという発表だったのですが、そのプロジェクト自体はなくなってしまいました。ただ、僕と打越の共同作品を楽しみにしていた人も多かっただろうと思い、改めて2020年ぐらいから企画をスタートさせました。

 そのタイミングに自社IPで作ることを決意して、メディア・ビジョンさんと組んで制作を開始しました。はじめて自分たちでお金を出して制作を開始し、かなり資金的に追いつめられながらも、アニプレックスさんにも協力してもらい、なんとか完成まで辿り着いたという形です。

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――設立発表会で、“極限”ד絶望”というキャッチコピーを掲げていましたが、『ハンドラ』のものではなかったんですね。

小高
もともとは僕と打越のコラボ作品であることを指している部分が多く、そのときは違うものを指していたのですが、『ハンドラ』でも取り入れることにしました。

――過去のコンセプトアートは中央に女性のキャラクターがいて、これが澄野拓海の原型だったのかなと思ったのですが、まったく別のキャラクターなのでしょうか?

小高
完全に別のゲームで、このときはアクションゲームの企画だったんです。この企画は白紙になったのですが、一部の魂のようなところは引っ張ってきていて、まったく別の作品に切り替えた形ですね。

 イラストに描かれていた政治家やタヌキは完全に影も形もなくなりました。タヌキはマスコットのポジションということでSIREIやNIGOUに受け継がれている部分もあるかもしれませんが……。プロットはありましたが具体的なシナリオにはなっていなかったので、あまり関係ありませんね。

――なるほど。打越さんはいかがですか?

打越
トゥーキョーゲームスを立ち上げたいちばんの目的がIPを自分たちで作るということでした。設立から8年、コツコツ、コツコツとスタッフが頑張ってきたのが、ようやく結実したという感じなので、本当に感無量という一言につきますね。

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小高
『ハンドラ』発売の100日後である8月2日がトゥーキョーゲームスの創立記念日なんです。そのときに会社が潰れるか潰れないかの発表をしたいと思います。

――存続されることを願っています(笑)。体験版の反響に関してはいかがでしょうか? トゥーキョーゲームスらしい尖った作品でありながら、Steamでは圧倒的好評になっていますよね。

小高
作品を発表したときから僕や打越のゲームが好きな人は注目してくれていましたが、僕らが作ったことがないシミュレーションRPGというジャンルなので、「大丈夫なのか?」「地雷なんじゃないか?」という不安もあったと思います。

 ただ、実際にプレイいただくことで、シミュレーションRPGパートもシナリオに負けず劣らず個性的で、骨太でおもしろいことが伝わったのではないかと思います。

 キャラクターに関しても、すでに推しを作って応援してくれているファンが増えてくれたので、体験版を配信してよかったと思いますね。

――これまでのメディア・ビジョンさんの作品は歯ごたえのあるものが多かったので、救済処置があることに安心したアドベンチャーゲーム好きは多かったのかもしれません。

小高
もとからシミュレーションRPGが苦手な人もやってみてほしいという呼びかけはおこなっていましたが、実際にプレイして安心してくれたのかなと。

打越
自分も最初から自信はあったのですが、蓋を開けてみないとわからないので不安ではありました。結果的にはシミュレーションRPG部分を含めて高い評価をいただいてすごく安心しています。

 ただ、デモ版のシナリオは小高が手がけた部分なので、むちゃくちゃジェラシーの炎を燃やしていました。夜中にシーツを噛みながら「俺も早く評価されたい~」と泣いていました。

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――(笑)。今回のシナリオは小高さん、打越さんを含めて複数のライターで手がけているそうですね。

小高
そうです。僕らふたりと残り9人、合計11人で書いています。自分が最初にシナリオを書き、その後にほかのライターに書いてもらっているので、ほかのライターの味が出てくるのは後半からですね。

――かなり長期の開発期間でしたが、開発を進めるなかで明確に自信が生まれたポイントはどこですか?

小高
前提として、新規IPを作るにあたり、なにかひとつこのゲームは狂っているというポイントがなければ勝負にならないと思いました。

 そこで100個のエンディングを作ることを考えたのですが、その100個の分岐というのもありきたりのバッドエンドではなく、それぞれがしっかりとしたシナリオの存在するうえでのエンディングにするということを打越に伝えました。100個のエンディングというのは現実的ではないですが、ここまでやらないと狂っているとわかってもらえないと考えました。

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――YouTubeチャンネル“The Anime Man”に出演されたときに『新世紀エヴァンゲリオン』のような広がり方ができる作品を目指したと語っていましたね。

小高
そうです。『新世紀エヴァンゲリオン』の庵野秀明さんは作り続けて、ユーザーが飽きたときが作品が終わるときだと思っていたので、そういった作品を自分のゲームでも作りたいと思いました。

 この作品には僕が書いたルートもあれば打越が書いたルートもありますが、ユーザーさん的に「このエンドが俺のなかでのピークだ」と思うルートがあれば、そこでやめてもらっても構わないと思っています。そういった唯一無二の物語体験を作ろうと思って制作を開始しましたが、やはりとても大変でした。

 文字量だけでも半端なかったですし、10人以上のライターで作業しなければいけない。さらにスクリプト作業というシナリオに表情を当てたりBGMを流したりするといった作業も基本的にライターが全部書いてやっているので、作業量がとんでもないことになっていました。その完成の目途が立ったのが去年の秋ぐらいで、それまでは本当にどうなるんだろうと思っていました。

打越
本当は夏には作業が終わってなければいけなかったのですが、ぜんぜん終わらなかったです。

小高
〆切を延ばして延ばしてようやく完成に導くことができました。

――みじかくコンパクトに収める作品が今の世の中に求められることも多いと思うのですが、逆のものを作りたいという発想はおふたりにあったのでしょうか?

打越
そこは完全に小高の発想ですね。凡人の僕にはない発想でした。

小高
やはりどこかで狂っている部分がないと大手のメーカーが作るものには勝てないと思いました。

 これだけの分量のシナリオがあり、しかもアドベンチャーゲームではなくシミュレーションRPGとしても成り立たせる作品だと、大手に企画書を持って行ったところで、作るのが大変だし、予算もかかるので弾かれていたと思います。そういった、ほかでは作れないものを自分たちでお金を出して作ろうと思ったのが本作になります。

――制作に関してはシミュレーションRPGよりも100通りのエンディングがあるアドベンチャーゲームを作るほうが大変だったのでしょうか?

小高
いや、シミュレーションRPGパートも大変でした。APで稼働回数が決まるとか、死ねば死ぬほど有利になるといったベースとなるシステムが固まりきらずにシナリオパートよりも遅れが出てきてしまいました。そのため、一時期はシナリオがおもしろくなるのであればゲーム部分はある程度は捨ててもいいのかなと考えたりもしました。

 ただ、ほかのスタッフたちがシミュレーションRPGも絶対におもしろくしたいという熱を持っていたので、最後まで粘りましたね

――ストーリーでのキャラクターの立ち回りと戦闘での役回りが同じところが素晴らしいなと感じました。銀崎がロボットで仲間を守る展開をはじめ、キャラクターが最初に加入するバトルはとくにストーリーとシステムの一体感がありました。

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小高
そうですね。そういったところは完全にストーリードリブン(ストーリー主導)で作っています。シナリオでこういう役回りなので、こういう武器にしたいといった要望をメディア・ビジョンさんに渡して、こういう状況や条件でバトルを作ってほしいというお願いをした形です。

――キャラクターの武器は小松崎さんが描く前にメディア・ビジョンさんに作ってもらったんですね。

小高
まず大まかな攻撃タイプである近接距離か遠距離かをお伝えして、場合によってはロボに乗ってほしいとかバイク乗ってほしいといったこまかい発注をしました。そのうえでシミュレーションRPGパートの試作品を作ってもらい、大体のサイズ感がわかったところで、小松崎にデザインを描いてもらった形です。

――シミュレーションRPG部分はAPを回収して何度も行動したり、まとめて敵を葬れる技も多くあったりで爽快感があってよかったです。

小高
『無双』シリーズのような爽快なバトルと詰将棋のおもしろさが出せればいいなと思いました。シミュレーションRPGは後半にいくほど盛り上がりに欠けてしまうことが多く、自軍だけが優勢になったり、逆に極端に不利になったりしてしまうことがあります。そこで、1発逆転が起こりやすいシステムを入れてほしいとメディア・ビジョンさんにお願いしました。

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――本作はアニプレックスさんがパブリッシングを担当していますが、組んだことによるメリットはどのようなものがありましたか?

小高
なんといってもゴールできたことですね。当初は僕らだけの資金で動き始めて、ムービーをジェットスタジオさんにお願いして、メディア・ビジョンさんもすでに動いていました。

 このままだとあと半年ももたないところになっていて、なんとかパブリッシャーを見つけなければいけなかったので、アニプレックスさんとスムーズに組むことができたことは本当に奇跡です。また、アニプレックスさんは旧来のゲーム会社ではなくアニメやスマートフォンゲームの市場の方々なので自分たちでは思いつかないような新しい宣伝をしてくれますね。

――クリエイティブ面についてお聞かせください。小高さんも打越さんも海外のファンが増えてきていると思うのですが、本作の制作にあたって作り方などで変えた部分はありますか?

打越
今まで通りですね。今回は“スパイダーバース”のような“ハンドラバース”を再現することが重要だったので、国内・国外への意識よりも、いかに小高節の世界観に近づけるかを意識しました。

小高
ぜんぜん打越節だったけど(笑)。

打越
節は違うか(笑)。でも、世界観を壊さないよう、違うことをしないように意識しました。ただ、小高が物語の設定を結構変えたりするので、そのたびにムカつきながら書き直していました(笑)。

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――本作ではおふたりともディレクターという立場ですが、目指すものの違いなどからケンカになることもあったのでしょうか?

打越
めちゃくちゃバトりました。……といったほうが記事的には盛り上がりますよね?

――そうですね。そこを見出しにさせていただきます。

小高
じゃあそうしましょう。

打越
(笑)。ただ、実際はそんなこともなく分業制がしっかりできていました。まず、小高がひとつのルートを書き、僕らはそれをお手本にしてほかのシナリオを書いていくというプロセスでした。また、今回、小高とバトらなかった理由には僕自身がディレクターを経験しているということもあると思っています。

 ディレクターをやっていると言葉で説明できないことがたくさんあり、出来上がったものをプレイして、「なるほど、こういうことだったのか」とわかることも多いんです。そのため、シナリオを書きながら疑問に思った部分も「小高のなかでなにか考えがあるんだろうな」と思いながら進めることができたので、そこは彼への信頼はあったと思います。

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――小高さんはシナリオディレクター的な立ち位置でもあったのでしょうか?

小高
そうです。まず僕が先行してプロジェクトをスタートさせて自分の担当である全体の半分のシナリオを書き上げて、小松崎にキャラクターデザインを発注したり、打越に100ルートに分岐させてくれというお願いをしました。

 その後に打越にはフローチャートを作ってもらい、どこでどういう風にお話を展開させていくのか考えてもらいつつ、僕は自分の残ったルートのシナリオを書いたり、ゲームシステムやムービーのディレクションをやっていました。

 逆にいうと自分が書いているルート以外のことはなにも知りませんでした。ほかのライターたちは共通言語のように新しい設定の話をしていても自分だけは知らない状況が続いて、自分のところのスクリプト作業も完成したタイミングで怖かったけどプレイしてみました。

 そこで、いい意味で「こんなことになってるんだ」、「ここまでやるんだ」と感心することになりました。打越のルートも打越作品でしかないというか、プレイすれば絶対に打越のシナリオだとわかるものになっています。

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――普通は途中でシナリオをチェックしたくなると思いますが、そこは完成まで打越さんにお任せしていたんですね。たとえば物語全体に潜む共通の謎などについてはライター全員に共有していたのでしょうか?

小高
そうですね。謎を明かすルート関しては自分が書いて、そのほかのルートでどこまで明かすのかどうかは打越たちのほうで考えてもらいました。

打越
小高のルートで明かすネタバレはほかのルートでは極力伏せるようにしています。

小高
僕が書いたルートは真相解明ルートと呼んでいて、真相は解明されるけど、ほかのルートでもハッピーエンドだったり全員が生存するエンドもあります。ユーザーの目的によって求めるエンドも違いますし、いろいろなIFが用意されています。

――いろいろなエンディングを観たい場合は周回プレイをおこなう形なのでしょうか?

小高
フローチャートがあるので、そこからシーンに飛ぶことができます。そのため、チャートを埋めていく楽しみもあると思います。ただ、ルートによって内容もガラリと変わり、ちょっとだけエンディングが変化するといった分岐はないので楽しみにしてもらいたいです。

――大きく分岐するということは、あるルートではすごくいい性格だった人物が、別のルートでも凶悪になったりもするのでしょうか?

打越
そういう場合は理由をしっかり作っています。たとえば仲のいい仲間が死んでしまったとか、豹変する理由はしっかり作っており、意味がなく性格が変わったりすることはないです。執筆担当のライターだけでなく、ほかのライターもチェックしているので違和感はないと思います。

――全体のゲームのボリュームはどのぐらいなのでしょうか?

小高
もともと100時間だと思っていたのですが、100時間では足りないことに気付きました。

打越
自由行動などをスキップすることはできますが、いろいろなエンディングを見ようと思ったら100時間では足りないと思います。

――複数のライターさんが参加しているということですが、どなたが執筆したパートなのかはゲームをプレイしていてわかるのでしょうか?

小高
各エンディングを迎えたあとのクレジットに記載されています。また、エンディングを迎えると“○○編”という表記が出てきて、自分がプレイしていたシナリオの内容が分かります。ただ、先入観なくプレイしてもらうため、○○編というのはクリアするまで明かさない仕組みにしています。

バトルの性能からキャラクターの設定を作り出す

――キャラクターに関してもお聞かせください。小高さんの『ダンガンロンパ』シリーズは超高校級の才能というわかりやすい個性が付けられていましたが、本作はどのようにキャラクターを作っていったのでしょうか?

小高
今回はバトル面での性能と合わせてキャラクターの性能を考えていきました。ロボットに乗る銀崎であればロボット自体が恰好いいし、性能も高いからキャラクターはナヨナヨしているほうがおもしろいかなと思いました。

 丸子なども同じパターンで情けないヤツだけどバトルでは使い勝手がよくて強いというギャップを狙いました。逆に雫原のように強いことがシナリオ中に言及されるようなキャラクターに関しては、性能も強くするようにメディア・ビジョンさんにお願いしています。

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――銀崎に関しては、修行後に某コミックの某シーンのように変貌するのがおもしろかったです。

小高
小松崎からずっとアレにしてほしいというふうに言われていました。ずっとあのままの恰好でいてほしいと言われたのですが無理でした。どう考えても気持ち悪いので彼の言うことを聞かなくてよかったと思っています。

――もうひとつお聞きしたいのは川奈つばさです。死に神ちゃんに続いて吐くキャラクターですが、小高さんがこういうキャラクターがお好きなのでしょうか?

小高
別に好きではないです(笑)。むしろ、夜にお酒を飲んで吐く人は嫌いですが、フィクションだとおもしろいしかわいいかなと。直接的に吐くものを映さないので嫌悪感がないのもいいかなと思います。川奈に関しては全編通してほぼほぼ我慢するけど、1、2回は本当に吐いてしまうシーンがあるかな。

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――くららに関してはいかがでしょうか? インパクトのある外見でビジュアル優先で作られたキャラクターだと思ったのですが。

小高
もともと、あとから合流するキャラクターたちに関しては個性的な感じにしたいと思っていました。逆に最初から学園にいるメンバーは等身大のキャラクターにしたいと思っていたんですよね。結果的にはならなかったんですけど。

――確かに全員が個性的ですね(笑)。

小高
そんなわけでくららも個性的にしようと思い、財閥でマスクを付けたキャラクターにしました。ただ、性能に関しても特殊な工作系にしようと考えていました。また、声優が小倉唯さんなのでイベントで小倉さんにマスクを被って出てもらいたいという狙いもありました。最後まで顔を出さずに本物かどうかわからなかったらおもしろいのかなと。

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――キャスティングに関してはいかがでしょうか? マスコットであるSIREIやNIGOUは小高さんの提案で決まったのでしょうか?

小高
SIREIはモノクマや死に神ちゃんとポジションが近いので、どう差別しようか考えて一人称が本官の司令官になりました。

 声優さんもダンディにしたらおもしろいのじゃないかと思って、アニプレックスさんと音響会社にセレクトしてもらって大塚芳忠さんに決定したのですが、一気に違うムードになってよかったなと思っています。逆にNIGOUに関してはかわいい感じにしたいという小松崎の要望もあり、大谷育江さんにお願いすることになりました。

――ふたりのデザインは小松崎さんのアイデアでしょうか?

小高
そうですね。最初に透けているデザインにしたいというアイデアがあり、透けているように見せるために脳みそや心臓が描かれたという形でしたね。

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――キャラクターの表情や一枚絵グラフィックの量もとても多いですが、作りながら増えていったのでしょうか?

小高
一枚絵はいちどは減らしたけど増えた感じですね。最初は800枚ぐらいの予定でしたが、結果的には600ぐらいに落ち着きました。キャラクターの立ち絵は1キャラあたり100~200の間ですね。

打越
最初に試算したときは一枚絵が1000枚以上で到底終わる物量ではなかったですね。

小高
外注の予算もものすごくかかることになってしまい、頑張って減らそうと思ったのですが、結局増えてしまったりして今の数に落ち着きました。

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――ギャグシーンの一枚絵も好きですが、やはり侵校生の部隊長にトドメを刺したときの演出が印象に残っています。その前の一連の流れも含めて小高さんのアイデアでしょうか?

小高
シナリオの段階で書いていましたね。ただ、部隊長の目線にしたのは人型の3Dモデルを作っていないからという理由もあります。ムービーなどでは登場しますが、モデルを作ってアドベンチャーパートに登場させるとなると予算がだいぶ上がってしまうので、敵側の目線という演出にしました。ただ、試作でひとつ作ってみたら背徳的で怖い感じが出ていたので、これはこれでいいなと思いました。

――トドメを刺した後に笑うキャラクターがいたり悲しそうな顔をするキャラクターがいたりと、キャラクターごとに個性がでているのがよかったです。

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小高
人型のなにかを殺すことに対する恐怖であったり悦びであったり、訳のわからなさだったりと、キャラクターの差が出るので、プレイヤー的には「今度はアイツでとどめを刺してみよう」という背徳的な楽しみが生まれると思います。

――部隊長の正体がわからないからこそのハラハラもありますね。

小高
謎はしっかり明かされますし、ルートによっては敵側にフィーチャーしたストーリーもあり、幅の広い作品になっているので楽しみにしてほしいですね。

――シミュレーションRPGパートに関して、改めてお聞かせください。メディア・ビジョンさんにはどのような要望を出されたのでしょうか?

小高
まず前提として僕と打越が作るゲームなので、シナリオがいちばんの売りでなくてはならず、そのシナリオを邪魔するようなシミュレーションRPGは作らないというコンセプトがありました。

 そのなかで、『進撃の巨人』のような敵が襲ってくる絶望感を描くことを最優先にしたいということをお伝えしました。そういう制限があるなかで、結果的にその制限が今までのシミュレーションRPGにはないプレイ体験を生んでくれたと思っています。

――プレイしていて、このシミュレーションRPGパートが想像以上にしっかり作られていることが分かって驚きました。

小高
本作を制作していくなかで、いちばん心が折れかかっているときはシミュレーションRPGはおもしろくなくてもしょうがないかな、シナリオの質だけは死守しようと考えたこともありました。おもしろくなくても商品としてゴールだけはしようと。

 ただ、結果的にシナリオが遅れて発売日が延びてしまったときに、ゲーム部分もちゃんとやりきろうという意識に変わりました。また、トゥーキョーゲームスにアトラスでプランナーをしていた登川(編注:登川晶弘さん)が入社してくれて、メディア・ビジョンさんと密にやり取りできるようになったので、ゲームのおもしろさがどんどん増していきました。

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――登川さんがシミュレーションRPGパートにおけるキーマンだったんですね。

小高
そうですね。最初のほうはシナリオやスクリプトをやってもらっていたのですが、開発が延びたこともあり、バトル部分も見てもらうことになりました。

 去年の東京ゲームショウぐらいのときは自分もシミュレーションRPG部分に関しては諦めモードだったのですが、彼がメディア・ビジョンさんとしっかり打ち合わせをしてガッツリと作り直してくれました。そのおかげでクオリティが高いものが生まれて、体験版をプレイしたユーザーからも好評でした。

――誰でもクリアできる難易度があるのもうれしかったです。

小高
自分が最近プレイしたゲームのなかにボスで詰まってしまう作品がいくつかありました。何度か挑戦して勝てなかったときは難易度を下げられるようにしてほしいと思い、本作に取り入れようと考えました。ただ、そのシステムを実装できたのも去年の秋ぐらいになります。ゲームが得意な人とそうではない人が両立できる作品は難しいので、イージーモードを搭載できることが決まったことは大きかったですね。

――チュートリアルの部分で「どんどん死んでも構わない」というメッセージがありますが、実際に戦闘中に死んでもペナルティはないのでしょうか? たとえば死んだ回数で物語が分岐するのではないかと思っているのですが……。

打越
少しネタバレになってしまいますが、安心してもらうために言ってしまうと、シミュレーションRPG部分は物語の分岐に関わりません。難易度なども関係ないので気にせず遊んでほしいです。

小高
本作でゲームオーバーになるときは、ほぼ防衛タワーが守れないパターンだと思うのですが、コンティニューすると防衛タワーのHPが回復するので問題なくクリアできると思います、また、難易度はいつでも切り替えることができるので、無理だったら簡単なモードで遊んでみてもらいたいですね。

マーケティングなど気にせずにモノづくりができる環境になってほしい

――小高さんは本作に関して自作の最後の作品になってもいいと発言されていますが、改めて完成までこぎつけていかがですか?

小高
今までの作品と比べてとんでもない量のシナリオを書きましたし、僕はもともと文字だけのアドベンチャーゲームよりもシナリオとゲーム体験が絡み合う物語ドリブンの作品が作りたいという思いがあったので、今までのなかでいちばん理想に近いゲームを作ることができました。こういった作品を作ってしまうと、もう今までの作り方のゲームは物足りなくて作れなくなってしまうのではないかと思っています。

 願わくば『ハンドラ』が成功して自分が作りたいものだけに集中できるような環境になればうれしいなと思います。そうすればマーケティングや世の中の動向を気にせずに作りたいものを作れるようになるし、そういった作品作りが日本のゲームのよさでもあったと思うんですよね。いろいろな会社が自分たちのスタジオの個性を出した作品を作れるような環境になっていってくれればうれしいですね。ゲーム好きの人は日本のゲームの未来のためにも応援してくれるとうれしいです。

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――普通だったら分割して発売したりするような内容が採算度外視でひとつのゲームに全部詰め込まれているのもファンとしてはうれしいポイントなのではないかと思います。

小高
そうですね。そういうところも含めてビジネスライクなことは考えていなくて、このシナリオラビリンスにユーザーを迷わせることこそが、このゲームの醍醐味だという気持ちがあったので、最初からすべて入れてしまおうと思いました。

打越
ゲームのなかには100種類のエンディングがありますが、発売されたあとにファンの間で101個、102個、103個めのストーリーが作られていくとおもしろいですね。クトゥルフ神話のような巨大なバースになってくれるとうれしいです。

――『高機動幻想ガンパレード・マーチ』や『十三機兵防衛圏』が似たような盛り上がりを見せましたが、同じように発売後に長く愛されてほしいですね。

小高
まさにそうですね。本来であればシミュレーションRPGも参戦するキャラクターがちょっと変わったり、アドベンチャーパートもちょっと人物が変わるとか、そういう変化でいいものを本作はすべて大きく変わるという手法を取っていて、作る労力を考えれば誰もが想像して嫌になるようなことをあえて踏み込んでいます。真似しようとしても真似できないものを作ったので、ぜひ遊んでみてほしいです。

 また、今回は全パートを配信OKにしているので、配信を見ることでやったことのないルートを見つけて、自分もプレイしたくなることもあると思います。配信をきっかけにどんどん作品が広がって、いろいろな作品が生まれればいいなと思っています。

打越
配信者さんは投げ銭で儲かったらゲームをもう1本買ってください!

小高
グッズも出るのでいっぱい買ってくださいね!!

――ここまでとてもアツい話をしていたのに最後はお金の話に(笑)。最高です。ありがとうございました!

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製品情報

タイトル:HUNDRED LINE -最終防衛学園-
発売時期:2025年4月24日(木)
価格
  • 通常版:7,700円(税込)
  • デジタルデラックスエディション:9,900円(税込)
ジャンル:“極限”と“絶望”のADV
対応機種:Nintendo Switch/Steam
対応言語
  • Nintendo Switch;テキスト 日本語/ボイス 日本語
  • Steam:テキスト 日本語、英語、繁体字、簡体字/ボイス 日本語、英語
企画:トゥーキョーゲームス株式会社
開発:メディア・ビジョン株式会社
販売:株式会社アニプレックス
CERO:D(17才以上対象)

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